ふやけてとろける。 | ナノ


「えっちの回数減らそう」

 深夜。お互い風呂上がりの着流し。二組並べられた布団の上にて。
 向かい合いながらの唐突な言葉だった。大きな瞳でこちらを見る審神者の表情はいつになく真剣に見える。

 審神者と大倶利伽羅は、いわゆる毎日致す関係だ。通じ合ってから二ヶ月、こうして体を重ねるようになってから一ヶ月ほど。ほぼ毎日審神者の体を暴いては大倶利伽羅を覚えさせてきた。
 だというのに突然のその言葉。不服と言えば不服だが、大倶利伽羅には審神者が突然そう言ってきた理由に心当たりがあった。
 単純に審神者の体力が持っていないのだ。朝起きれない事さえある。審神者としてゆゆしき事態に、いい加減善処せねばならなくなっただけの事だろう。

 言われずとも理解して、大倶利伽羅は頷いた。

「断る」
「いやいやいや今のは断る流れじゃなかったでしょ」
「断る断らないは俺が決める。あんたじゃない」
「いや断らないで欲しい、これ私の問題でもあるから」

 審神者は呆れたようにしながら肩を落とした。珍しく弱々しい姿に、他の刀達に何か言われたのだろうと察する。
 情事を指摘された羞恥と、昨日も遅くまで致していた疲労といったところか。大倶利伽羅は仕方なしの息を吐き出した。

「…なら、どう減らしたいんだ」

 大倶利伽羅の言葉に、喜色を滲ませた審神者の顔が持ち上がる。

「一日二日置くとか…せめて翌日に残らないようにしたいの」
「…分かった」
「……ほんと?」
「嘘をついてどうする」

 疑い半分喜び半分だった表情が、大倶利伽羅の言葉に安堵したようなものに変わる。

「嬉しい、ありがとう。ごめんね」

 言葉通り、審神者は随分と嬉しそうだ。
 ここまではっきりと態度に出されてしまえば何も言えないが、多少、いや、かなり面白くない。

 審神者の体調の事は分かっている。決して人の身が強くないということも。最近、自身の理性の歯止めが効かなくなってきていることにも不本意ながら自覚があった。
 今回、頻度を落とすというのは間違いのない選択だろう。

 それでも、やはり面白くはない。

 大倶利伽羅としては毎日しても足りないくらいなのだ。
 何なら、檻に閉じ込めて三日三晩抱き潰しても良い。審神者が望まないうちはやらないしやるつもりもないが。

「………、…」

 大倶利伽羅は少しだけ考えてから静かに立ち上がり、審神者の肩を押した。予想だにしていなかった事に、審神者の体は容易く布団に倒れ込む。
 深い夜の時間、恋仲の二人。「頻度を減らせ」と言われたところで、やることはひとつだろう。審神者も察したのか、瞳の奥に熱を見せた。

「えっと、するの…?」
「あぁ」

 審神者を見下ろすように覆いかぶさり頬を撫でると、熱を灯した表情が擦り寄ってくる。それに口角を上げながら、もう片方の手で着流しの隙間から太腿をなぞる。
 するすると手を下げ、やがて足の間、大倶利伽羅しか触れられない箇所に指を掠めると審神者の体が微かに震えた。

「……もう濡れているのか」
「そんなこと、ん」
「布越しでこれか…?随分と、感じやすくなったものだな」
「や、だって、ぅん」

 隔てるものがあるにも関わらず、もう水音がしそうなほどに濡れているそこは、大倶利伽羅が触れただけで審神者の体を面白いほどに敏感にさせていく。
 大倶利伽羅が手を出すまで自慰すら知らなかった娘がこうも変わったのかと思うと、えも言われぬものがぞくぞくと下腹部に集まる。
 この娘を変えたのは大倶利伽羅だ。大倶利伽羅ただ一振り。酷い独占欲に満ちた心が、大倶利伽羅の口角を自然と上げさせた。
 頬にあった手を胸に当てると、審神者の視線と交錯する。この後することを思ったのか、そこには隠すことのない情欲を交えた熱が見えた。

「…そう、期待した目をするな」

 宥めるように体を屈め、舌を絡める。

「ん、ふ、っぅ、あ」

 口腔を犯すようにぐちゅぐちゅと唾液を溶かしながら、胸を柔くゆする。その間に下着を脱がせ、顕になった芽を直接指の腹で触れる。
 先程までとは段違いに強くなった刺激に、審神者の声が途端に甘さを増す。声が聞きたくて離した口から、ぷつんといやらしい銀の糸が切れた。

「ぅ、ふぁ、あっ、そこっ」
「あんたは本当にここが好きだな……」
「あ、やっ、言わない、ん、」

 呆れたように囁けば、審神者は一気に体の熱を高くする。
 その熱を逃さぬよう胸を少しだけ強めに撫で、芽から秘部へと指を移す。既に我慢出来ない白濁液がとろりと溢れ出ているそこは、いつものようにすんなりと大倶利伽羅の指を咥え、ぎゅうぎゅうと締め付けた。

「は、随分と、寂しそうだな、ココが」
「んっ、ちが、ぁ、あ」
「何も違わないだろう」

 アナの中をくにくにと指で動かし広げると、審神者は身を捩るようにうっすらと涙を浮かべる。
 常ならばそろそろ一度気をやっている頃だ。行き過ぎた快楽は時に暴力になる。そうならぬよういつもなら丁寧に解しながら、先に達するようにさせる、のだが。

 大倶利伽羅はここで手を止めた。

 ずちゅん、と指を抜くと、目を瞬かせた審神者がこちらを向いた。

「……え?」
「明日も早い。ここまでにするぞ」
「え、え? えぇっ?」

 困惑した審神者を他所に、乱れかけた体と服を整えそっと布団に寝かせた。
 審神者の表情は困惑と不安、それからおかしな期待が少しだけというのが見て取れる。それらを覆い隠すように、優しく頭を撫でた。

「…あんたの体のためだ。今まで無理をさせて悪かった。…次、二日後にまた来る」

 瞼に小さなキスを落として、大倶利伽羅は審神者の寝室をあとにした。いつもは審神者と共に寝るのだが、それは全てを終えている場合だ。たまには自室で寝てもいいだろう。

 なにより、こうして離れて寝ることに大きな意味がある。

 部屋を出てすぐ、小さく鼻を鳴らして大倶利伽羅は足早に自室に戻った。



:::



「ぜったい怒ってた…」

 大倶利伽羅が出ていった部屋。審神者は一人、呆然としたまま閉じられた襖を見つめた。衣服は先程大倶利伽羅に整えられたお陰で綺麗だし、髪だっていつもみたいに乱れてない。
 だというのに、気持ちは今までで一番最低だ。
 こんな風に大倶利伽羅が途中で止めることは一度も無かった。審神者が言わずともそれとなく察し、優しく触れながら最後までしてくれていたから。

「謝りに行った方がいい、のかな……」

 しかし、自分が間違った事を言ったとは思わない。本当に毎日体が辛いのだ。頻度は減らしてもらいたい。確実に。それなのにここで謝りに行ってしまったらズルズルと毎日抱かれてしまうのは明白。
 審神者としては大倶利伽羅に毎日求められ抱かれるのは、そりゃあ、わ…、悪くは、ない、のだが。
 それでも女である前に審神者である。仕事に支障を来すのはよろしく無い。故に今回の事は謝らないし、謝れない。

「というかそもそも喧嘩じゃないし…たぶん…」

 何より大倶利伽羅は「二日後にまた来る」と言ってくれていた。という事は怒っている訳では無いのだろう。きっとそうだ。
 もや、とする自分の心に無理矢理ケリをつけて、審神者は一人布団の中に潜り込んだ。



 しかしそんな気持ちとは裏腹に、かなしいかな体とは正直なものである。

「信じられない」

 深い深いため息を吐いて、頭を抱えた。
 昨日から一晩経った朝のこと。見てしまったのだ、夢を。大倶利伽羅にぐちゃぐちゃに抱かれる夢を。それもとてもはっきりとしたものを。

「んんんん、もう…」

 昨日最後まで抱かれなかったからというのが原因なのはもう分かりきっている。
 目を閉じればすぐに夢の中の大倶利伽羅の言葉が思い出せてしまう。
 彼はこうして布団に蹲る審神者を押し倒し、口の中を犯し、下も奥の方まで一気に突き上げ、て…。

「っあ〜〜〜!だめだめ!」

 夢の大倶利伽羅が触れてきた場所が熱を持ち出した気がして、慌てて首を振る。

「しっ、仕事しなきゃ! そう、仕事!」

 必死に煩悩を吐き出して、布団を後にした。



 さりとて、やはり現実とは無情である。一晩で抜けきらない情欲が消えるわけもなく。
 執務中も昼飯時も、何しても体の奥がむず痒く、集中せねばと思えば思うほど熱が上がる気すらした。

 それでも何とか色々抑えて夕方。いつもなら出陣も遠征も粗方終わり、後は夕餉を待つのみの穏やかな時間、なのだが、
 残念ながら、今日はいつも通りではなかった。

「ん、ふぅ、あ」

 夕餉まで寝てくると皆に話し、一人で寝たいからと無理矢理人払いまでしてもらって、今。
 審神者は一人、寝室に籠っていた。していることなんて唯一つ。体の中にあり続けた熱を放つことだった。

「う、ぁ、っあ」

 胸を自分で揉み下し、早々に下の芽に触れる。
 昨日、大倶利伽羅はここを触ってくれはしたけれど、達する事が出来た訳では無い。体の中で熱は燻り、膨れ上がり、今にも爆発しそうだった。
 少し強めに触れながら、漏れる声を必死に抑える。
 くちゅ、と溢れてきた蜜を感じて、秘部に指を伸ばす。自分自身でシた事はそう多くない。特に穴を使ってなんて。いつも大倶利伽羅が触れてくれる場所。どうにか穴に触れ、指を入れる。

「、ん、っ」

 大倶利伽羅はここをどう触ってくれてたっけ。ぼやけた頭でそれを思い出し、それをなぞるように動かす。
 ぐちゅぐちゅとかき混ぜるようにしてくれる時もあった。優しく進むようにしてくれた日もあった。記憶の紐を解きながら、動きを早めにし、指を増やす。

「ふ、ん、あ、大倶利伽、あぁっ」

 愛する刀の名を呼ぶと、体の熱が上がるのが分かる。水音と自分の吐息だけが響く部屋の中、頭の中では大倶利伽羅の手が審神者に触れていた。

「ん、おおく、か、」

 あ、イキそう。そんな事を思った時、襖が開く音がした。

「…寝ていると、聞いて来たんだが」

 息が止まるとは、このことか。
 そこに立っていた刀を見て、体温が五度下がった。

「…随分と、楽しそうだな」

 音もなく閉められた襖が、やけに遠くに思えた。
 審神者が何か言うよりも早く、大倶利伽羅は覆いかぶさった。冷や汗は止まらないまま、大倶利伽羅は絶対零度の視線を見せる。

「あ、あの…」
「昨日触れないだけで、欲求不満か」
「ちがっ」
「違わない」

 ぐちゅっ、と勢いよく指を入れられ、咄嗟に体が跳ねた。
 自分のとは比べ物にならない、容赦のない動き。今、全身が敏感になっている審神者にとっては苦しいほどの快感が襲う。

「っ、あ、だめ、や、あ」
「こんなになっているというのに、何がダメなんだ」
「だっ、て、んんっ、イッちゃ、」
「イケばいい。気持ちがいいんだろう」

 耳元で囁かれれば、足元からぞくぞくと電気が走り出し、脳裏が弾け出す。明滅する視界と、溢れ出す快楽に無意識に涙が零れた。

「イク、ほんとにいっちゃ、から、あ、っ」

 もうあと少し、何か刺激が来た瞬間に達してしまうと思った瞬間指を抜かれた。しかし呆然としたのも束の間。息を吐く暇すら無く、ずちゅん! と勢いよくそれが挿入された。

「っ、え、はいっ、あ、ぁあ、あぁああ!」

 そう、大倶利伽羅のを挿れられたのだ。大して解されてもいないのに、容易に彼を受け入れた体は一瞬で達した。

「まさか、いれただけでイッたのか?」

 信じられないというような声に何も反論出来ない。信じられないのは審神者も同じだ。まさかこんな、一瞬出いってしまうだなんて。

 しかし体に残る疲れと妙な気持ち良さを確かに感じて、大きく息を吐き出した。
 体の中に溜まっていた熱を出せたからか、この倦怠感すら心地良い、波のような気持ちにこのまま眠りたくなる。うと、と瞼が下がりかけたその瞬間、腰を捕まれた。

「まだ終わってない、ぞ、っ」
「ひっ! ん、あっ!」

 言葉と共に、ガツ! と奥を突かれる。突然すぎる快楽に体を仰け反らせ、甘い声が溢れた。さっきイッたばかりだというのに。大倶利伽羅はそんな事知らないとばかりに、気持ちいい所を攻めてくる。

「や、も、いった、ばっか、なのに」
「俺はまだだと、っ、言っただろう」
「ん、も、やだぁ」

 いやいやと首を振っても大倶利伽羅の動きは容赦がない。ゴツ、と壁奥を突かれ、脳が沸騰した。

「あっ、や、くる、んっ」
「ふ、随分、イキやすい体、だな」

 大倶利伽羅の動きが早くなる。彼もイきそうなのか。しかし、どちらからというと何かに怒っているかのような動きに、生理的なものと共に気持ちの涙が溢れた。

「ん、ね、ひとり、で、したから、ぁ、おこってる、の」
「そう、じゃない」
「なら、んっ、あ、なんっ、で」

 必死に聞いても、いい所ばかりをピンポイントで狙ってくる快楽は濁流のようにとめどなくこちらの思考を溶かしていく。
 ぐちゅん、ばちゅん、といやらしい水音すらも審神者の足元をぐちゃぐちゃにしていくようだった。

「あっ、また、いっちゃ、ぅ、あ」

 体中の熱が高まってきている。すぐにイってしまう。そんな事を思った折、大倶利伽羅の声が耳元で聞こえた。

「…欲しいか」

 何を、と考えることすら溶けかけた瞬間、ぴたりと彼の動きが止まった。

「俺が欲しいか」
「っ、え……」

 こちらを見下ろす目には未だに深い熱が宿っている。だが大倶利伽羅は動かない。あと少しでイけると分かっている筈なのに。

「そ、なこと」
「…言わないなら、終わりだ」

 終わりだと言いながら、大倶利伽羅は昨日と同じように優しく頭を撫でた。
 ひぐ、と喉が鳴る。
 これは本当にまた終わらされてしまう。この熱を燻ったまま、また放置されてしまう。また大倶利伽羅に触れてもらえないまま、一日を悶々と過ごさなくてはならなくなる。

「っ、う、や、やだ」

 大倶利伽羅の頭を撫でる手が止まる。彼の口角がうっすらと上がった。

「なにが嫌なんだ?」

 分かってるくせに!!!
 エロ本でよく見る言葉を内心爆発させながら、必死に羞恥心と戦う。言うだけで良いのだからさっさと言葉にしてしまえ、と囁く悪魔と、まだ理性を保ちなさいと律する天使が脳内をぐるぐるしている。
 それでもなんとか天使が勝ちそうになった、その瞬間だった。

「随分と、強情だな」
「っあ!」

 突然だった。下の芽を擦られ、体を大きく仰け反らせる。そこを、きゅ、と摘むようにされたまま、胸も齧られる。吸うようにしてから乳首に歯を立てられれば、快感が上からも下からもやってきてどろどろと思考が溶かされていく。

「ふ、ん、おおくりか、やだ、それ、やだぁ」

 舐めてほしいのはそこじゃない。触ってほしいのはそこじゃない。
 精一杯の想いを込めて言っても、大倶利伽羅はやめてくれない。どころか、先程よりも乳首を吸うのを強くした。それだというのに、肝心の所は止まったままだ。あと少しなのに。この熱がすぐそこまで来ているのに。

「おおくりからって、ば、」
「…言わないと、分からないが」

 睨むように大倶利伽羅を見たところで、相手はどこか楽しげにするだけだ。

「…さっさと言えばいい、素直になれ」
「大倶利伽羅、に、いわれたく、なっ、あ」
「ならやめてもいいのか」
「やぅ、やだ、やだ」
「我侭な主様だな……」

 だって、と続く言葉は全て喘ぎに変わっていく。胸も下の芽も気持ちよすぎて嫌になる。でもやはり、足りない。繋がってるのにそこが足りなかった。
 欲しくて欲しくて堪らない。はやく、なんでもいいから、大倶利伽羅が欲しかった。

「ほし、はやく、ほし…っ」
「…なにが欲しい?」

 そんな事を考えている段階で、理性はもう、全てが溶けていっていた。

「っ、も、やだぁ、おおくりか、がほし、奥、はやく、大倶利伽羅がほしっ、あっあぁあ!」

 言葉は最早叫びに消えた。大倶利伽羅が、突然腰を突いたのだ。
 がつがつと今までで一番容赦なく奥を攻められれば、ぐちゃぐちゃになった体液があちこちから溢れ出る。

「あっ、ん、きもちい、ぁ、すき、それ、おおく、か、すき、すき、っ」
「すこし、黙っていろ、っ、く」

 噛み付くようなキスをされ、ぐちゅ、と口内も犯される。頭の芯から指の先まで大倶利伽羅に溶かされていくようだった。
 熱くて、苦しくて、きもちいい。それらが全て、好きの一言に昇華されていく。

「すき、あっ、くりから、すき」
「あぁ、っ、ぐ、」

 肉と肉がぶつかる音が大きくなるにつれて、大倶利伽羅のくぐもった声も聞こえやすくなる。

「あっ、いく、いっちゃ」
「そうだ、な、俺も、もう、っ、う」
「あ、あぁっ、あぁあっ」

 ぎゅう、と強く抱き締められ大倶利伽羅の体温を全て感じながら、びゅる、と奥に出された瞬間、脳裏が再び白く染まる。
 お腹の中に熱いものが溜まっていく感覚と、自分の体が最高にまでいったのだと分かる感覚。両方が脳と体を揺さぶり、おかしくなりそうだった。

「……すきだ…………」

 審神者を抱きしめたまま、大倶利伽羅は余韻の残る声で囁いた。
 まだ繋がったまま、金の目は未だ熱を持ち、静かに審神者を見下ろす。

「…好きだ……」

 うん、とも、私もだよ、とも言えずに審神者はただ静かに降り注ぐキスを目を瞑って受け入れた。未だ審神者を抱きしめる彼の熱が、ただひたすらに愛おしかった。




:::



「怒ってたでしょ」
「…怒ってはいない」

 結局夕餉になんて到底間に合わない時間まで盛り上がってしまった審神者と大倶利伽羅は、今皆とずれた時間に執務室にてご飯を食べていた。

「大倶利伽羅いつもはもっと優しいもん」
「…酷いことはしていない」
「う、確かに今日も優しかったけど…。いやそれはその、ありがとう、嬉しかった」
「当たり前のことだ」

 ずず、と味噌汁を啜りながら大倶利伽羅は目を伏せる。サラッと言っているが、彼のその当たり前の優しさを享受できる事がどれ程嬉しいか。まぁそれを語るのは一旦割愛させてもらうが。

「…でも、確かに昨日の話は急だったよね。ごめん、勝手に決めちゃってたし」
「……納得はしている」
「でもそれが原因じゃないの?」

 てっきりセックスの回数を減らしたいと言ったから、色々言わせてきたのだと思ったが。どうやら違っていたらしい。
 しかしそうなると原因はなんだろうか。わからず終いで首を捻ると、大倶利伽羅は静かに味噌汁の椀を置いた。

「…ひとりよがりなのかと思っただけだ」

 それだけ告げて、彼は魚に手を付ける。丁寧に骨を取り解されていく魚を、暫し呆然と見ていた。
 ひとりよがり。今大倶利伽羅はそう言ったか。ひとりよがり、と。
 …もしかすると、私は彼に酷いことをさせてきたのかもしれない。そろりと腕を上げた。

「えっと、その、ひとりよがりって、いうのは…」
「…求めているのは俺だけなのだと」
「ちっ、ちがう」

 必死に首を振る。が、自分でも心当たりがあった。
 いつも夜に来てくれるのは大倶利伽羅。触ってくれるのも、キスしてくれるのも大倶利伽羅だ。彼が審神者の気持ちいいことを全てしてくれてしまうから、ついそれに甘えてしまっていた。
 そんな折回数を減らそうと言われれば、嫌な思いをして当然だろう。彼の今日の態度にも納得が言って項垂れた。

「ごめん、私最低…」
「別にいい」
「良くない…」
「恥ずかしがるあんたを暴くのも悪くなかった」
「そこは悪い……」

 ううん、と唸りながら相手を見る。
 ひとりよがり。ガツンと胸に来た気がした。いつだって求めてくれるのは大倶利伽羅ばかり。審神者はそれで良かったかもしれないが、大倶利伽羅はそんなわけない。そんなの、誰だって嫌になる。
 ふー、とひとつ息を吐いてから白米の椀を置く。姿勢を正して、相手をまっすぐ見据えた。

「あの、大倶利伽羅」
「…なんだ」

 柔らかな声に、喉の奥に突っかかっていたものがとろけていく。普段から言葉少ない彼がこんなにも音にしてくれたのだ。審神者もしっかり言葉を伝えるべきだろう。
 きゅ、と手のひらを握り相手をまっすぐ見据えた。

「あ、明日の夜、おひま、ですか」

 ぱちくり。大倶利伽羅の瞳が少しだけ開かれ、すぐに細められる。
 言ってしまった、言ってやった。大倶利伽羅はひとりよがりなんかでは無いと、そう言って見せた。
 しかし彼は表情を変えないまま、持っていた椀を置き、審神者の隣に座った。一気に近くなった距離に、ごくりと唾を飲み込む。

「……良いのか」

 優しい声だった。それだけで、緊張も何もかもがとろけていく。そ、と彼の指が頬に触れた。それに自分の指を重ねて、小さく笑った。

「…私が大倶利伽羅と、したいの」

 審神者が言い終わるよりも先に彼の唇が触れ、すぐに離れる。深い熱を持った金が審神者を捉え、逃さぬように見据えた。

「…明日でいいのか?」
「……き、今日がいい」



 結局、その後審神者と大倶利伽羅の行為の回数が減ったのかどうかは、聞くまでもないだろう。

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