あの世まで探しに | ナノ
きらきら。きらきらと、破片が瞬いては散っていく。審神者はぺたりと座り込みながらその欠片に触れて、小さく息を吐いた。
鉄の欠片に、もう魂は宿っていない。ただの物。長き歴史を生き、愛され、慈しまれた刀はもう居ない。審神者が愛した魂は、もう、いなかった。
「伽羅坊に会いたいかい」
白い刀の声を聞き、のろのろと顔を上げる。彼もまた、ひどい顔をしていた。笑いたいのか泣きたいのか分からない。血に濡れた全身は、最早鶴では無かった。
「伽羅坊に、会いたいか」
刀は再度問うた。審神者は音もなく、首を縦に揺らす。
会いたい。会いたいに決まっている。だって居なくなってしまったのだ。目の前で、愛しい彼は、あっけなくこの世界から居なくなってしまった。
「なら、星の欠片を探すといい。星の欠片と月の涙、瑠璃の炎を見つけるんだ」
そうしたら伽羅坊に会える。君ならきっと会える。
パキパキ。白い刀にひびが入っていくのを、審神者は呆然と見ていた。何が起きているのか分からない。だというのに彼はそっと私の頭を撫でると、酷く美しく笑った。
「大丈夫だ。君なら、大丈夫」
すとん、と心臓の奥に何かが落ちた。
あぁ、私は大丈夫なのか。私なら大丈夫なのか。
周りを見ると、他の刀達もこちらを柔らかく見ていた。慈しむように、愛おしいものを見るように。折れかけの体を、引きずりながら。
あぁ、私は大丈夫なのか。皆がいなくとも、彼がいなくとも、大丈夫なのか。
「どうか、幸せに」
ぱきん。
呆気ない音が審神者の世界を包んだ。散っていく鉄の欠片。ひとの温もり。彼らの、彼らの持つべき全てが、散っていく。
「…あぁ……」
自分の息が言葉となって漏れた。熱い空気だった。泣きたいのか苦しいのか、笑いたいのかなんなのかもう、何も分からなかった。
「大倶利伽羅、大倶利伽羅」
立ち上がり、近侍の名を呼ぶ。探さなくては。彼の欠片を探して、彼に会わなくては。
「大倶利伽羅、大倶利伽羅…っ」
星の欠片と、月の涙、瑠璃の炎。探さなくては。探さなくては。この世に無いそれを、どうにかして見つけなくては。
「大倶利伽羅…っ!!!」
きっとこれを見つける頃には、みんなにも、彼にも会えるはずだから。だから。
だから。