迷子審神者3 | ナノ


「主よ、手紙が届いておるぞ」

執務の最中のこと。ひょっこりと顔を覗かせた三日月が持ってきたのは送り主の書いていない手紙だった。

「誰だろう…」

裏表真っ白な手紙には、やはりどこにも名前が書かれていない。不思議に思いながら、ゆっくりと手紙を開けた。
中から半分に折られた手紙が出てくる。そこに書かれた文字を読んで、あ、と声を漏らした。

「……なるほど。主の花だったか」

手紙を持つ手が震える。まさかこんな形で会えるなんて思ってなかった。嬉しさが溢れて止まらなくて、一瞬で熱を持った体が嫌になるくらいだ。

拝啓、から始まる達筆な字は私でも読みやすい。突然手紙を書いてすまないという事。最近こっちの本丸は毎日春で宴会の日々だと言うこと。新しい戦場は血が滾るという事。それらがつらつらと書かれた後、『今度会った時は、触れたい』と。
その旨と共に、送り主の名前の大倶利伽羅の字が添えられていた。

「手紙では饒舌なのだな。流石は伊達といったところか」
「み、三日月…」
「うん?」
「…これ、なんて返事したらいいのかな……」

胸が余りにも苦しい。大きく高鳴りすぎて、ぐちゃぐちゃになりそうだ。だというのに、三日月はいつものように笑って、私の頭を撫でた。

「何も難しい事を考える必要は無い。主はその手紙を貰ってどう思った?」

言葉を受けて、再度手紙に視線を落とす。
まさか彼からの手紙だとは思わなかった。驚いたし、心臓も飛び跳ねた。でもそれよりも、何よりも。

「…嬉しかった。すごい、すっごい嬉しかったよ」
「なら、それをそのまま書けば良いだろう」

主なら大丈夫だ。そう言うように三日月は頭を撫でる。こちらを見る視線が余りにも優しくて、こそばゆくなりながらありがとうとつげた。

「…お手紙って、こんなに嬉しいものだったんだね。これ、私の宝物だ」

きゅ、と胸元で手紙を抱く。
早く返事を書いて、そしたらまた、お返事が欲しい。そんな事を思った、昼の麗かな時だった。


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