明日の夜に | ナノ

※大倶利伽羅君がとてもしゃべります。


「明日、アンタを抱く」

穏やかな夏の夜。心室にてさて寝るか、と布団の準備をしている最中に掛けられた言葉に、体が固まった。

「な、なに、なんて?」
「明日、アンタを抱く」
「ごめんやっぱり待って」

両手で相手の言葉を止める。明らかに不満げな雰囲気が伝わってきたが、許して欲しい。
抱く?抱くと言ったのか目の前の刀は。
ここで説明するが、私と大倶利伽羅は恋仲にある。だが、大倶利伽羅という刀の性質なのか、手を繋いだこともなければキスもない。ただ話す頻度が多くなったかな、程度だった。

そんな彼が、私を、抱く、と。
大倶利伽羅は冗談を言う刀ではない。だから、この「抱く」の意味がただ抱きしめるという事だけでは無いのは明白だった。じわじわと足元から熱が集まってきて、思わず俯いてしまう。

「…この時間、ここで俺を待っていろ」

まるで秘密の約束を交わすように、彼は柔らかく耳元で囁いた。

「必ず、会いに来る」

ヒウン、と弱々しく喉がなる。
彼は、こんなにも、饒舌だったか。
心の中を言い表しきれない熱ともどかしさが埋めてくる。未だに顔を上げることが出来ない。もし、顔を上げて彼と目が合ったら。もし、彼の表情がこの声と同じくらい、柔らかいものだったら。

「…顔を見せろ」

頬に、彼の指先が触れた。
その指に触発されたように、のろのろと顔を上げる。

「…酷い顔だな」

誰のせいだと!
感情が爆発しても、それを口に出せない。なにせ、案の定、彼が見た事が無いほどに柔らかい表情をしていたからだ。そんな顔をされたら、何も言えなくなってしまう。

息遣いが感じられるほどに彼の顔が近づいた。
それから、すぐに触れる柔らかな唇の感触。目を閉じる暇すらなく、金の目が緩く瞬く。

「…ようやくアンタに触れられる」

放心状態になっている審神者に、口角を少しだけ上げて彼は再び囁いた。

「明日が楽しみだな」

名残惜しいように審神者の唇に触れてから、彼は部屋を後にしたのだった。

「な、なんだったの」

残された審神者はひとり、呆然と呟いた。その答えを知る刀は今頃自室で寝ているのだろうが。

「だく、って…」

言葉の全てが頭の中で反響しては、再び体に熱を集めてしまう。

「うっ、ううぅ」

逃げるように布団を頭から被ってみても、じわりじわりと芯から熱くなってくる。

「大倶利伽羅の馬鹿、トンチンカン、ばか、こんなの、緊張して寝れるわけ無いじゃん……!!」

明日の朝、どんな顔して会ったら良いんだろう。そもそも、明日丸一日、どう過ごせばいいんだろう。
考え始めたら尽きなくなってしまった悩みに、結局審神者は一晩中魘されたのだった。


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