夜の庭にて | ナノ

※すごくすごく雰囲気小説です。すみません。


「この歴史はなにを基準にして正しいと言っていると思う?」

唐突な疑問の言葉だった。
夜の庭の中。ちゃぷん、と穏やかに揺れる池は暗く見えない。それを覗き込むようにしゃがみこんでいる審神者からの、唐突な言葉。
隣に立っていた大倶利伽羅は、目を数度瞬かせた。

「さぁな」
「……大倶利伽羅にも分からない?」
「アンタの方が詳しいんじゃないのか」

この戦争の、一責任者だろうに。
そう言いたいのが伝わったのか、審神者は首をこちらへと向けた。

「詳しいよって言いたいんだけど。私にも分からなくて。だって、この歴史が正しいって誰も証明出来ないんだもの」
「……」
「確かに過去に行く方法は出来た。出来てしまった。何事にも始めはあるから。じゃあその「初めて過去に遡った人」が歴史を変えていないって、誰が証明できるの」

大倶利伽羅は眉を寄せる。それを見て、審神者は肩を竦めてから再び池の方へと顔を向けた。

「だって、私達が正しいと信じて守っている歴史がまだ改変されていないなんて、誰も断言できないでしょう」
「…それは、俺達への侮辱か」

刀剣男士がこの世に顕現された理由は、この戦が「正義である」と確信しているからだ。
だが、それを違うと目の前の審神者は言う。こちらの覚悟と誇りを曲げたという事か。
しかし、審神者はこちらを見もせず「違う」とはっきり言った。

「あぁ、言い方が悪かった。私はね、信じるに値するものを守りたいの」
「…信じるもの?」
「例えば…そう。貴方とか」

審神者は立ち上がって、大倶利伽羅の胸元に手を重ねた。途端に意識される、己の心臓の音。

「大倶利伽羅が大倶利伽羅たるもの。それを、守りたい」

はっきりとした口調で審神者は告げた。

「こういうと、やたら傲慢に聞こえるから嫌なのだけれど…。あなた達は、人という語り部がいるから存在している。そうでしょ?」
「…間違ってはいないな」
「うん。ずっとずっと昔から人が貴方の事を語って、笑って、大事にしてきた。だからこそ、今のあなたがいる。私はそれを守りたい」
「……アンタが守るべきは歴史じゃないのか」
「歴史だよ。大倶利伽羅っていう」

手を離して、一歩下がる。審神者はその場で両手を広げながらくるりと回った。巫女装束が、月明かりに照らされて揺れる。

「見て、ここ。綺麗でしょう。神様達の為の本丸。神様達の為の戦場」

ふわふわくるくる。審神者はまだ回る。まるで舞のように。

「貴方のための語り部。貴方のための、私」
「…それこそ、傲慢だな」
「そう。人ってね、傲慢なの。誰かの為って言わなきゃ生きていけないの。酷いでしょう」

ぴたりと、審神者がこちらを向いて足を止めた。重力に任せて、髪が穏やかに揺れた。

「私の生きる意味は貴方なの。大倶利伽羅を生かし続ける為に私はいる。大倶利伽羅がいるなら、それが私にとって正しい歴史になるから」
「……」
「あ、愛が重いって顔してる。いいのいいの。これ、私の自己満足だから。大倶利伽羅は気にしないで」

にっ、と審神者はいつもの笑顔を見せる。

「ふふふ…なんだか真面目な話しちゃったね。戻ろうか」

大倶利伽羅の手を引いて審神者は歩き出す。それに反するように、足に力を込めて相手の動きを止めた。不思議な顔をした審神者が振り返る。

「……大倶利伽羅?」
「『大倶利伽羅』を語ってきた人間は、皆、死んだ」

ゆっくりと、審神者の目が開かれていく。大きな黒い目に、常通りの表情の大倶利伽羅が映る。

「…だが、その死んだ人間の先に俺はいる」
「……」
「俺の歴史を信じるとは、そういうことだ」

長い長い大倶利伽羅の歴史の中。大倶利伽羅を語り、守り、伝えてきた人間は全て等しく死んでいった。その事を誇りに思いこそすれ、悲しいとは思わない。
大倶利伽羅の歴史を信じるとは、その死んだ人間への敬意と、尊敬に違いないだろう。

「…アンタの信じる歴史は間違っていない」
「うん……」

どこか呆然とした声が届く。

「俺を、信じていればいい」
「うん、うん…。ずっと、ずっと信じてるよ」
「あぁ。それでいい」
「……ありがとう、大倶利伽羅」

ゆるりとこちらを向いて、審神者はくしゃりと泣きそうな笑顔を向けた。


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5/4の紅一点ありがとうございました!
沢山の差し入れとお言葉嬉しすぎて死んでおります…。次のイベントは一応8月のさにわ日和に出れたら、と思っておりますがまた確定次第ご連絡させて頂きます。
最近刀ミュで死んでおりますが元気です。みほとせが見たいです。これからもくりさにばかりやっていきますが、当サイトをよろしくお願い致します。
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