せめて穏やかな終わりであれ、と。 | ナノ


「あなたの、子供を産みたい」

ふわりと零された言葉に、大倶利伽羅は視線だけを審神者に向ける。
時刻は深夜2時。いいものもわるいものも寝静まる時間に、審神者は縁側で酒を煽りながら呟いた。

「きっと、猫っ毛でちょっとだけ色黒で、でもすごくすごく心優しい子になる」

審神者の、大倶利伽羅に対する認識は改めた方が良いのではないだろうか。そんな大倶利伽羅の空気を感じたのか、審神者はくつくつと笑った。

「…大倶利伽羅は優しいよ。こうして、私の話を聞いてくれるくらいに」
「アンタがなかなか寝ないからだ」
「そうかも」

それでもやっぱり優しい。
そう続けられた言葉は、殆ど形を成していなかった。審神者の、嗚咽に紛れたからだ。

「…わたし、わたしね」

ぼたぼたと落ちる雫を拭うことすらせず、審神者はまっすぐに大倶利伽羅を見据える。

「大倶利伽羅の子供を産みたいの」
「……」
「でも、私は、人間だから」

一言一言、噛み締めるような言葉だった。形にした言葉を、自らの足で踏み潰すような。自らの首を自分で締めるような、苦しさがあった。

「あなたの、子供は出来ない……」

大倶利伽羅は目を細めた。
審神者はれっきとした人間だ。いくら眠っている魂を励起する力があれど、その根底は人間だ。大倶利伽羅も、変わらない。どれほど人らしくあろうとも、大倶利伽羅は、刀だ。

「でも、どうしても、欲しかったの」

へら、と審神者は笑う。いつもの、どこか気の抜けた笑顔。

「あなたと、家族になりたかった」

馬鹿だよねぇ。そう、落ちた言葉を拾ってやるほど、大倶利伽羅は親切ではない。が、それを踏むほど、人の機微に疎いわけでもなかった。

「…始まりは別だっただろう」
「……え?」

刀としての大倶利伽羅を、審神者は知らない。
審神者になる前のことを、大倶利伽羅は知らない。
それが、大倶利伽羅にとっては酷く、ひどく。

「……終わりが同じなら、良い」

終わりが同じならば、次の始まりは同じ事もあるだろう。大倶利伽羅はゆるりと、審神者の頬を撫でる。大倶利伽羅は持ち得ない、暖かさを持つその体。

「……アンタと、同じ終わりを寄越せ。それでいい」

同じなど、不可能だ。大倶利伽羅は刀で、審神者は人なのだから。それでも、同じ終わりくらい、求めても良いだろう。

「…それでは不満か?」
「……ううん、そんな訳ない。すごい、すごい嬉しいよ」

最後のひと粒を流しきって、審神者は穏やかに笑った。
いつか来る、同じ終わりを夢に見て。


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私事で恐縮ですが、5月のスパコミ紅一点スペース頂けました。
5/4東1ス59b「あみぐるみ」になります。新刊1冊出せたら持っていこうと思っております。またおいおい連絡させて頂きます。よろしくお願い致します。
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