あたまわるいくりさに | ナノ
「大倶利伽羅ヤバイ聞いて」
昼下がり。部屋でゲームをしている大倶利伽羅の元へ突撃すれば、こちらを見ることすらなく「断る」と言った。
「早いぃ…お願い一言で良いのせめて聞いてあげてお願いします」
「必死さが気持ち悪いな」
「辛辣すぎて何も言えない。まぁいいや聞いてくれよあのね」
「話すのか……」
大倶利伽羅の目の前に座っても、大倶利伽羅はゲームをしたままだ。いや良いのだけれど。
「あのね、まず大倶利伽羅ってパンツ履いてるじゃん」
「…聞くのやめていいか」
「せめて最後まで聞いて。それでパンツ履いてるじゃん。それって、それってさぁ」
ごくり。喉を鳴らす。
「すごくエッチじゃない……?」
「………………」
「ねぇごめんせめて返事して」
「悪いな何も聞いていなかった」
「素直かよ」
圧倒的いい子じゃん、怒るに怒れないよこんなの。そういう所大好き。そうなんだよ大倶利伽羅って素直ないい子なんだよ。馴れ合う気がないとか云々置いといていい刀なんだよ。話がそれた。
「いやそれでね、もっかい聞いて。大倶利伽羅のパンツがね」
「聞いてなかった」
「聞く気ないだろ」
だから聞いてくれって。聞いてくれないと収まらない。この衝撃と驚きと悶えが。
「いやだってさ、『大倶利伽羅がパンツ履いてる』って。なにそれすごい今世紀最大のパワーワードじゃんすごい。本当にすごく、えっちじゃん……」
自分で言いながらそのえっちさに震える。なんだ大倶利伽羅のパンツって。えっちかよ。歩く十八禁かよ。買わせてくれ頼む。
「ところで今日の大倶利伽羅のパンツは何柄?」
「教えると思うのか?」
「昨日は赤の無地で、一昨日は黒。ということは消去法的にはあと紺色と黒(version2)ですかね?あっ、一応ブリーフもありますね」
「心底気持ちが悪いなアンタ」
「初めに君らのパンツ買ってきたの誰だと思ってるのさ」
「………………少なくともアンタではないな」
「………………大倶利伽羅のは光忠だね……」
「……………………そうか」
それ以上の追求をやめてくれる大倶利伽羅くん本当に優しい大好き愛してる。
でも大倶利伽羅くんの下着事情気になるじゃん。ついこう、色々なことを覗きたくなるじゃん。魔が差したとはあの事だよね。うんうん仕方がないね。一人納得して頷いていると、重々しく大倶利伽羅の口が開く。
「最近、俺の下着が一着無くなったんだが」
「私ですらタンス覗きしかしてないのに盗んだの!?!くそ、あの時やっておけばよかった!」
「嘘だ」
「はい、今の全部冗談でーす」
そんな大倶利伽羅くんのタンス覗くなんてそんな事しないよマジマジ。ほんとだよ信じて頼むよ、アッアッそのゴミを見る目やめてアッ…………。
「すみません、タンス覗きました」
土下座である。地面に頭がめり込んでいる。
無理だった。大倶利伽羅の屑(ゴミならまだマシ)を見る目耐えられない。新しい扉開きそう。
「大倶利伽羅がどんなパンツ履いてるのか気になりすぎて遠征の間にチェックしてましたすみません」
「他には」
「えぇ?他には何もやってないよぉ流石に」
「…………」
視線が痛い。こんなにも大倶利伽羅に見つめられたことあっただろうか、いやない(反語)。照れる。心臓は死を悟ってめちゃくちゃ早く動いてるけど。
「…ほかには」
「あー…えっ、とぉ…………」
だらだらと嫌な汗が全身に垂れる。視線をうろうろとさ迷わせるうちに、大倶利伽羅の大きな大きなため息が聞こえた。
「…アンタ、俺に言えない事があるのか。…酷いな」
「ちょっと靴下の匂い嗅ぎましたごめんなさい!!!」
むりむりむり、あんなこと言われたら無理。心折れた。ガラスのハートはごりごりに砕けてます。やばい。しんどい。
大倶利伽羅にしがみつくように必死に声をかける。やめて、大倶利伽羅に酷いとか言われたら色んな意味で無理。ちょっと興奮してきてるのがより無理。最高。
「ごめん、ごめんって、あの時は魔が差してたんだよ、ハイトクカンってやつに溺れてたんだよ」
「背徳感の意味は」
「分かりません…!」
くっ、バカがバレた…!もうダメだ、心がしんどい。
「大倶利伽羅のバカぁ…もうお嫁にいけない……」
「アンタには関係ないだろう」
「靴下の匂い嗅ぐ嫁ってどうよ…正直に言ってみ……?」
「俺の所に来るんだ。関係ないだろう」
「うっせぇ靴下の匂い嗅いで何が悪、い…………ん?」
……………………ん?
「んっ!?!」
あれ、待って聞き間違いか?えっ?再度聞きなおそうとするよりも先に、大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出ようとしていた。
「まっ、お、大倶利伽羅!」
今の、今の言い方、まるで。まって、ほんと待って、だめだ何も言葉が出てこない。引き止めたのに、意味もない。それを分かってるのかわかってないのか、大倶利伽羅はこちらを向いてほんの少しだけ口角を上げた。
「…タンスを覗くのはやめろ」
くらっ、と、目眩がするほどの衝撃。かろうじて意識を飛ばすことを踏み止まりながら、私の心は歓喜で溢れていた。
「くっ、靴下はセーフ…!!」
そっちじゃない。とは、誰も教えてくれなかった。