かみかくしとかやめてください | ナノ
「最近神隠しが流行ってる、らしい」
「…流行り病か?」
「神隠しだってば」
政府から来た書類を大倶利伽羅に渡しながら、私は凝り固まった体を伸ばしながらお茶を飲む。
紙に書かれていたのは、端的に言ってしまえば「最近神隠し多いからお前らちゃんと仕事しろ」という内容だ。私達は歴史修正主義者と戦っているし、それが使命だ。それを放ってまで色恋沙汰に現を抜かすなと、しっかり戦えと。
当然すぎる。大倶利伽羅もそれは同じだったようで、読み進めれば進めるほど、眉間にシワが寄るのが見えた。
「…同じ刀として信じられないな」
「だよねぇ。私もびっくりしちゃっ」
「俺ならそもそも神隠しだと分からせない」
「ン゛ッ」
思わずお茶を喉に詰まらせる。優しく大倶利伽羅が背中を撫でてくれるが、待って。待ってほしい今目の前の刀はなんて言った。いや待って、逆に聞きたくない。現実を受け入れたくない。
「えっと、ごめん、今の聞き流して良い?」
「俺なら、アンタを神隠ししたとすら悟らせない」
「聞き流させてよ!」
なんで言っちゃうの!信じられない!肩を震わせるが、相手は何を叫んでいるのかと不思議そうにこちらを見つめるだけだ。
「神隠しというものは、その神が持つ折に相手を入れる。だが、そもそもその空間が檻だと気づくことの方がまれだ」
「へ、へぇ…いや別に聞きたくないよう…」
「…隠した刀の練度は」
「えっ、えーっと、カンストしてる刀もいたみたい?だよ?」
「……」
「ねぇなんで黙るの?貴方もカンストしてるけど今の何か関係あるの?待って怖い」
何かを考えるように押し黙った大倶利伽羅に不安しかない。なんでや。ぼそりと「力がまだ足りないか」っていうのは聞かなかったことにさせてほしい。頼む。
「…ねぇ、大倶利伽羅。貴方、神隠ししたいの?」
「…したい、と告げれば、アンタは許可するのか」
「しません」
なら聞くな。
ぴしゃりと言い放たれたところで、そって結局したいってこと?ん?私頭悪いからわからぬと、何度か首を捻ってしまう。
「…さっきも言ったが、神隠しとは周囲にも、本人にも悟らせないようにするものだ」
「うん、ほんと怖い神様」
「……アンタ、いつから自分が神隠しされてない、と思った?」
するりと、大倶利伽羅が私の頬を撫でる。
「……………………えっ?」
金の目が、柔らかく光った。