さいごのゆめ | ナノ

刀が折れています。雰囲気です。

夢を見る。
ゆらゆら、ゆらゆらと。紫と黄色のグラデーションで出来た空には魚が舞い、西と東には太陽が2つ昇り、向日葵と彼岸花が咲き乱れる。そんな中に一人、ぽつんと自分が立つ。
それはそれは美しく、なんとも現実味の無い夢を見る。

「……」

試しに一歩踏み出してみたが、下手に歩くとちゃぽんとその場に沈み込んでしまいそうだ。どうやら私がたっている場所は水の上の様だ。

「大倶利伽羅ー?」

近侍の名前を呼んでも当然返事は無い。しかし夢ならいつか覚めるだろう、と、呑気に構えた。

空を舞う魚が、地面にぼちゃんぼちゃんと落ちていく。試しに水の中を覗いて見た。が、透明に見えるのにその先は何も見えない。自分の顔が鏡みたいに映るだけだ。今度は腕を突っ込んでみた。しかし腕は虚しくも空を掻き、やはり水の中には何も無いのかと思った直後、誰かが私の腕を引っ張った。

「おぉ?」

ぐいっとすごい力で引かれ、そのまま水の中に吸い込まれる。咄嗟に息を止めて目も閉じたが、暫くすると息も出来るし目も開けられる事がわかった。私を引っ張った腕はまだ手首を持っていて、さっきと同じ力で引っ張るものだから歩くしかない。しかし手首しか見えないものだから、全く判別が付かない。これは一体誰だろうか。
水の中を優雅に泳ぐ。鶴丸が聞いたら驚きそうな体験をしているなぁ。上を見上げると、光を反射して水面がきらきらと揺らめいている。

「いつまで歩くの?」

試しに腕に聞いてみた。夢の中だから疲れるなんて事は無いが、そろそろこの綺麗すぎる光景にも飽きてきた。

「私、そろそろ本丸に帰りたいんだけど」

手首は何も言わない。それどころか、段々と辺りが暗くなってきている気がして、おやおやと首をかしげた。

「これって私の夢じゃないの?」

夢ならもう覚めてもいい筈だ。だって、もう結構長い事ここにいる。しかし手首は止まらない。

「ねぇ、離して」

手首に負けない力を込めて、足を止めようとするが、それよりも強い力で引っ張られてしまう。

「離してってば」

振り返った先にもう光は無い。ここに来て、私は初めて焦りというものを覚えた。

「離して!」

ドス。そんな音だったと思う。それから「え」という間抜けな声。それが自分のものだと気付いたのは、腹から刺さる刀を見たからだった。

「っ、あ」

ごぽりと汚い音を皮切れに、口から血が止まらない。突き刺さった刀が抜かれれば、今度はそこからも血が止まらなくなる。ふらりと、膝をついた。

「や、だ、やだ、よ」

地面に倒れ込むと、ずぶずぶと吸い込まれていく。ここより下にいったらダメだと、わかっているのにもう体が動かない。先程まで掴まれていた手首は、もうとっくに居なくなっていた。

「お、くり、ら、おおく、から…」

近侍の名前を、無意識に呼ぶ。
どこにいるの、いつもみたいに隣に来て、手を繋いで、頭を撫でて。アンタは仕方ないなって言って、ほんの少しだけ笑って。私はその笑顔が好きなの。大倶利伽羅、大倶利伽羅、大倶利伽羅。

「…どこ…………」

重たくなった瞼を閉じる頃、誰かが私の頭を撫でた気がした。


主様、主、主殿、主、あるじ。
そんな声が口々に聞こえて、目を開けた。ぼやけた視界の中にはたくさんの見慣れた顔。あれ。何があったんだっけ。はっきりしない思考の中で、これまた聞き慣れた声が聞こえた。

「主!どっか痛いとこない!?主、主!」
「きよみつ…?」

ぼろぼろと涙を流すのは私の初期刀だ。彼は喉をしゃくりあげながら、必死に言葉を紡ぐ。

「主、呪いを受けてたんだよ、それでもう1週間目覚めなくて…!」

ようやく脳の端がはっきりしてきて、そうだそうだと思い出してきた。撃たれた所までは覚えている。そうだ、本丸が襲撃されて撃たれて、それで、それで……。

「…大倶利伽羅は……?」

部屋の空気が変わるのが分かった。ある刀は唇を噛み、ある刀は悔しそうに顔を背ける。その意味を、頭の遠くの方で理解した。

「大倶利伽羅は……」

夢を思い出す。暖かな掌と、優しく触れる指先。涙を拭ってくれた、あの感覚を、思い出す。

「大倶利伽羅は、折れたのね…………」

沈黙が、何よりの答えだった。
あぁ、そうか。彼は、私を庇って折れたのか。そして、呪いで死にかける私をわざわざ助けに来てくれたのか。あぁ、そうか。

「そう……」

夢を見た。
ゆらゆら、ゆらゆらと。紫と黄色のグラデーションで出来た空には魚が舞い、西と東には太陽が2つ昇り、向日葵と彼岸花が咲き乱れる。そんな中に一人、ぽつんと自分が立つ。
それはそれは美しく、なんとも現実味の無い夢を、彼は、見させてくれた。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -