君を探して | ナノ


春が終わり、夏がじわじわと足を忍ばせて近寄ってくる。そんな季節の時だった。

「大倶利伽羅、大倶利伽羅ー!!」

バタバタと廊下を駆けながら相手を探す。ひょっこりと顔を覗かせた誰かを見つけて、足を止めた。

「あっ!御手杵!大倶利伽羅見なかった?」

部屋から出てる顔は御手杵で、「おー?」と間延びした声を出しながら瞬いていた。

「どうだっかなぁ、厨にでもいるんじゃねえか」
「わかった!ありがと!」

後ろから「コケんなよ〜」と聞こえた声にお礼を言いながら厨へと走り出す。大倶利伽羅はいるだろうか。

「大倶利伽羅いるー?」

厨の暖簾を押したけれど、中には誰もいなかった。外れかと、振り返ったところで誰かの胸板に顔が埋まる。

「う゛っ」
「あっ、ごめん主!大丈夫かい?」
「みっちゃん…いい胸板だね」
「ありがとう。これでも実践刀だからね」

距離を置きながら見上げれば、光忠は金の瞳を柔らかくさせて首を傾げた。

「みっちゃん、大倶利伽羅知らない?」
「大倶利伽羅?庭とかにいないかい?」
「庭かぁ!行ってみる」
「何か用事?見つけたら伝えておくよ」
「あー、いや、大丈夫。ありがとう」

少しだけ照れくさく、手の中に持つものを見せれば光忠は納得してくれたように「あぁ」と言った。

「いいね。きっと彼も喜んでくれる」
「かなぁ?邪魔だって言われたらどうしよう」
「彼は言わないよ」
「うん。私もそう思う!」

じゃあね!と光忠と別れて今度は庭に向かう。果たして大倶利伽羅はどこに行ってしまったのか。

「大倶利伽羅ー?大倶利伽羅いるー?」

この本丸の庭は広い。なにせ50振り以上の刀がいるし、それらはもれなくいい体格をしている。自給自足しなければ食費が持たない。
お陰でのびのびと育った野菜や果物がたくさん花を咲かせ、茎を伸ばしている。中には審神者よりも背の高いものもあり、短刀達はよくここで隠れんぼをしているという。

「大倶利伽羅?」
「あっ!主君」
「秋田!どうしたのここで。隠れんぼ?」

ぴょんこと跳ねながらこちらに手を振るのは秋田藤四郎で、聞けば素敵な笑顔でこちらを向いた。

「空を見ていたんです!」
「そら」
「はい。こんなにいいお天気ならお外はもっと素敵だと思って!」
「…そっか」

頭を撫でれば嬉しそうに笑う。太陽の光が、目に染みた。

「主君はどうかしたんですか?」
「あっ、そうそう。大倶利伽羅見なかった?」
「大倶利伽羅さん…見てないです」

ここにもいないかぁ。うーん、と腕を組んで考える。本丸の中には居ないのだろうか。街の方にでも行ったのかな。悩んだところで答えは出ない。

「まぁいっか。また探してみる!ありがとう!」

庭を抜けて走り出せば、秋田くんの声が聞こえた。

「主君ー!!お外って、楽しいですね!!」

くるりと振り返って、手を振り返す。

「そうだよ!そんでもって、すっごくきらきらしてるんだ!!」

「はい!」と、明るい声が空に響き渡った。



:::


「はー…ほんとどこに行ったのさ……」

あれからかなり広い範囲を走り回ったけれど、大倶利伽羅は見つからなかった。木に背を預け地面に座る。日陰に入ればとても涼しく、穏やかな風がふわりと体を抜けた。

「……眠くなってきたな…………」

とろんと瞼を閉じれば、ゆっくりと時が流れ始める。手の中にもつ物を離して、眠りに身を委ねた。

「…おい」

ーーー委ねた、のだけれど。

「……えっ、大倶利伽羅?」

ぱちりと目を開ければ、目の前にいるのは探し回ったその相手で。ぎょっとしたのも束の間、大倶利伽羅は隣に座ってきた。

「…どこ行ってたの?」
「別に。縁側だ」
「うそだぁ。走り回ったけれど見つからなかったもん」
「探し方が下手なんだろう」
「はぁ〜?そんな事ないですぅ〜!!」

べっ、と下を出せば鼻で笑われる。くそ、馬鹿にしまくってる。確かに馬鹿だけどさ。

「…で?」
「うん?」
「探してたんだろう」

俺を。
そう言われてあぁ!と思い出す。手の中に持っていた物を差し出せば首を傾げながら、大倶利伽羅は受け取ってくれた。

「ひまわりか…?」
「うんそう!はやいでしょ」

まだ梅雨にもなってない季節だが、向日葵が咲いていた。理由なんてわからないけれど、たくさん咲いていた。それを見た瞬間に、大倶利伽羅にあげたいなぁ、と思ったのだ。できれば一緒に見たかったけれど、また次にあの花畑に行けるかわからなかった。

「だからね、ごめんなさいって言って1本貰ってきちゃった!」

大きく凛として咲くひまわり。なんだかその姿が、大倶利伽羅と被った気がしてその場で笑ってしまった。

「あっ、邪魔だったら捨てちゃってね」
「あぁ」
「……やっぱり邪魔だった?」

隣を見れば、つ、と視線だけがこちらを向いた。それから掴まれる頭、触れる唇。吐息が、鼻にかかった。

「…邪魔なわけ、無いだろう」
「よかった!」

大倶利伽羅の部屋に大きな1輪の向日葵が飾られるようになり、季節ごとにたくさんの花が増えるのは、もう少しだけ後の話。



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向日葵の花畑は時空の歪みで一部だけ夏になってしまった空間があった…とかといった感じです。本丸の中が、季節が少しあべこべでもいいなぁと思って書いたネタでした!
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