馴れ合ってもいいじゃない! | ナノ


褐色の肌、金の双眸、龍を伴う腕。
彼を形作るどれもこれもに目を奪われ、離せなかった。胸がどうしようもなく高鳴るのがわかる。これはまさしくあれ。漫画や小説でよく見る、アレ。ゆっくりと彼がこちらを見つめる。途端に早まる心臓と湧き出る汗に、私はこの想いを自覚した。

「大倶利伽羅だ。馴れ合うつもりは無いからな」
「えっ、無理だよ」

自覚した瞬間、砂に埋もれたけど。



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「いい加減にして!そんなんで近侍出来るわけ無いじゃん!!」
「誰がやると言った」
「命令でやれって言ってんの!」

大倶利伽羅が来て早1週間。来た当日から、審神者と大倶利伽羅は毎日喧嘩、喧嘩、喧嘩の三拍子で成り立っていた。
理由は単純で「大倶利伽羅が馴れ合わない」から。馴れ合わないと言っても、ほんとのほんとに馴れ合わないとかではなく、任せた仕事はキチンとやるし頼んだ事もやってくれる。戦も行ってくれるし遠征内番だってそう。
ただひたすらに馴れ合わないというだけで。

「私と出掛けるのそんなに嫌?近侍の間だけでいいって言ってんじゃん。来週には変われるんだよ?」
「着いていかないと行ったろう」
「近侍と行くのがうちのルールって言った」
「撤廃しろ」
「はぁ!?」

そうこの刀。どこまでも"私とだけ"馴れ合わなかった。買い物は行かない、余計な会話はしない(喧嘩はする)、どこまでもビジネスライクな関係。いやまあべつにいいけど?審神者気にしてないけど?…うそうそ、本当は結構気にしてます。だってさ、周りの刀とは普通に話すんだよ。審神者にだけだよこんなに厳しいの。寂しすぎかよ。

「まぁもうね、慣れましたよ1週間もすれば…。じゃあ今回は、あ、間違えた。今回"も"別の刀と行くさ…」

じゃあな!なんて男気溢れさせながら大倶利伽羅へ背中を向ける。べつに審神者は泣いてない。苦しくない。泣いてないもん!!!

「おい」

唐突に背中にかけられた声に思わず足を止める。これはまさか…!?歓びが足から湧いてくるのがわかる。いやでも、期待するのは仕方ないだろう。だって大倶利伽羅の声が聞いたことないくらいに優しいものだったんだから!

「なっ、なに」

思わず声が裏返ったのは許して欲しい。ドキドキと期待に昂った体をそのままに振り返れば、そこにいたのはまっすぐにこちらを見つめる大倶利伽羅でーーーー!

「光忠、眼帯忘れてるぞ」

はなかった!!!!光忠かーーい!!!何でだよ光忠!!!眼帯忘れるなよお前のアイデンティティだろおい!!!!!「あぁごめん」じゃないよ!!!なんで気付かないんだそうだ私の光忠うっかりものだった仕方ないこないだもダシとダニを間違えてたもんね仕方ない。

「じゃなくて!!!」
「…なんださっきから」
「っ〜〜〜〜〜うぅううう!!!お前なんか大ッ嫌いだーー!!!アホボケデカナスビ明日の朝になったらうつ伏せで寝て鼻潰れてろぶぁーーーか!!!!」

うわーーーー!!!って叫びながら逃げる。それはそれは遠くへと、涙を流しながら隠れ家へと逃げる。うっうっ馬鹿にしやがって!
自室の押し入れに入って、スパンと戸を占める。天の岩戸ならぬ押し入れの岩戸。岩じゃないけど。簡単に開くけど。それでも気持ち的には恥ずかしさとショックさと苦しさで涙が止まらなかった。

「うううぅ、なんでこうなっちゃうんだろう…」

大倶利伽羅と明日こそは普通に話そうと思って1週間。まともに話せた日なんてあっただろうか。きっともう、嫌われてしまっている。ズキズキと痛む胸を抑えて、ボロボロと泣く。

ただ普通に話したいだけなのに。おはようって言ってお休みって言いたいだけなのに。顔を合わせたら「糞が」から始まってしまう。朝一番に誰かに「糞」という憂鬱感がわかるだろうか。言わば、言ってからトイレに行きたくなくなる感じ。あーあー糞だなって口癖になってしまってる黒歴史を掘り返してる感じ。どれもこれも嫌。
「糞が」で始まり「糞して寝ろ」で終わる生活はもう嫌だ。もっと爽やかに行きたい。

「せめて糞から出たい…」
「出てくれば良いだろう」

音を立てることも無く押し入れが開いた。声を出す余裕も無く、驚きに目を見張る。
何でここが、とか、どこから聞いてたの、とか、色々聞きたい事はあったのに私の頭はなかなか働かない。働かないものだから「糞は今出ないです…」なんて答えてしまった。どういうことだ。

「なら出すんだな」

ここから出てこい、大倶利伽羅の言葉に思わず首を振った。

「も、もうちょっとここにいる」
「………」
「少ししたら絶対出る、出るから腕を引っ張らないで痛い痛い痛い」

私の言い分を一切聞かずに、大倶利伽羅は問答無用で腕を引っ張った。当然ながら相手は刀剣男士、敵うわけもなく一瞬で外へと引っ張り出される。

「うううう、主に酷いことしたよぉ、信じられない、傷ついた……」
「知るか」

その場に蹲って丸くなるが、私を押し入れから出したことで彼の仕事は終わったらしく、部屋から出ていく気配がした。足音も完全に遠ざかった所で、顔を上げて畳の上に寝っ転がる。両手両足広げて長く長く息を吐き出した。ここで仕事をしなくてはならないのはわかるけれど、気持ちがそうはいかない。やる気はあるけど気持ちがない。嗚呼、日本語とは難しきかな。

「……でも、迎えに来てくれたなぁ………」

どうせ誰かに言われたりしてここまで来たのだろうけれど、それでも彼は来て押し入れの戸を開けてくれた。
結局私は構ってちゃんなので誰かに戸を開けて欲しかっただけだったのかもしれない。
例え私の浅ましい考えに彼が乗ってくれただけでも喜びを感じるこの馬鹿で単純な自分。

「でも仕方ないじゃん!!嬉しいんだもん好きなんだもん!!」
「何がだ」
「大倶利伽羅だよ!狡いよねぇ!一目惚れだもん勝てないわ!……………って、あれ?」

今の声、誰の?

今私の視界に写ってるのは木目の天井。決して部屋の入口に立っている相手がもしかするともしかするだなんて思ってない、思いたくない。いやだってもしあの、その、想像通りの人物だったら私、その人に、なんて言った?

「好きなのか」
「ぎゃー!!」

がっつーーーん!!!と頭が揺れる感覚がした。どうやら寝っ転がってる私を覗き込んできた相手のおでこに私のおでこがクリティカルヒット。二人揃っておでこを抑えながら苦悶の声を出す。

「お、大倶利伽羅……ごめん、大丈夫……?」
「っ…………」
「ううぅ、頭硬すぎるよ…」

なんだこれ石頭か。痛すぎか。
来世はもう少し柔軟で痛くない頭になりたい。スライムみたいな。ぶつかっても抱きしめてくれる優しさが欲しい。

「…おい……」
「ひっ、まるで蛇が地を這うような声。怒ってるこれ完全に怒ってる、ごめんってばぁ」

痛みと苦しみとで半分泣きかけになる。ついでに言うとさっき言ってしまった失言だって忘れちゃいない。詰まるところ、逃げ出したい。

「ほんとごめんだよ…私の頭が石頭なばっかりに…ちょっと薬研とか呼んでくるから」
「待て」

立ち上がりかけた体が止まる。うん?と思うよりも早く、相手が腕を引っ張った。

「えっ、な、」

ぐいっと引っ張られた瞬間、相手の顔が近付いた。目を見開いた所で、何が起きたのかなんて理解できるわけがない。
ふに、と柔らかい感触が唇から離れるのを飛んだ頭でぼんやりと理解した。

「…………………………え、何事?」

固まる私を他所に、大倶利伽羅は立ち上がってこちらを見下げた。まるでいたずらっ子のようなその顔に、唐突に心臓が音を上げる。

「悪くないな」

それだけ言って、相手は部屋を出ていった。へなへなとその場にへたり込むと、体中に熱が集まった。

「なっ、なんなの……」

その後、お昼の時間で呼ばれるまで、私は立ち上がることが出来なかった。



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とってもどうでもいいんですが、最近上げてる単発小説のタイトルが全部ビックリマークついてて笑ってしまいました…。
単純で申し訳ないです……
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