おう まい ダーリン! | ナノ



どこかの歴史修正主義の本拠地。見た目は豪華な屋敷だが、中にいるのは欲に塗れた人間ばかり。そんな屋敷の地下深く、大倶利伽羅は捕まっていた。

なぜ捕まったかは、また後述させてもらうが、厳重な警備の元で大倶利伽羅は柱にぐるぐると鎖で巻かれている。ここで目を覚ましてから感覚でいうところの1時間。いい加減、大倶利伽羅を興味深そうに、それでいて憎悪の塊を見るようにする視線には飽き飽きしていた。

そうして数え切れない程のため息を空気に溶かした頃、大倶利伽羅を囲む屈強な男どもが騒がしいことに気付く。
だがそれすらもどうでもいいため、くぁ、と欠伸をした、その瞬間だった。

ドゴン、と扉が爆破された。

「お待たせダーリン!迎えに来たわよ!浮気の覚悟はできてるかしら!」
「遅いぞハニー。それからまずは銃を置け」

あらやだ、などと普段とは似つかわしくない言葉を発しながら入ってきた女は、手に持つマシンガンを大倶利伽羅の手前に向けてぶちかます。短めの苦しむ声と、倒れ込む音がする頃にはもう女以外の人間は残っていなかった。

「もう、心配しちゃった。連絡つかないんだもん」

カツカツとヒールを鳴らしながら、大倶利伽羅の前まで立つと手を差しのべてくる。体に巻き付けられた鎖。、難無く壊しその手を取れば、暖かな体温が指先へと伝わってくる。

「地下だからな。通じなくて当然だろう」
「それもそっか。もう制圧は終わってるから。屈強な男どもを引き連れていてくれてありがとう。帰ろ」

まだ息のある男どもを見ながら、殺さなかったのかと聞けば、殺すと面倒だと返ってくる。人間とは、常に規則に守られるものだから、当然と言えば当然だろう。
扉を爆破したからか、部屋のあちこちには多くの破片が拡がっている。それを避けながら歩く女を見て、とうとう数えることもやめた息を、再び吐き出した。

「遅い」

隣を歩く女の膝裏と両肩を持ち、体ごと持ち上げる。女の歩幅に合わせていたら日が暮れてしまう。

「やだダーリン、今日積極的!」
「死んでくれハニー」
「そんな所も好き!」
「そうか」

いつも通り返答したが、女の首が不思議そうに揺れる。階段に差し掛かりながらも、相手の視線は外されることなく、ひたりと大倶利伽羅の瞳の奥を捉えていた。

「なんか怒ってない?」
「……」

沈黙を肯定と受け取ったのか、女が「やっぱり!」と声を上げる。

「えっ、どこで?これでも超特急で助けに来たんだけど」
「…」
「ダーリン呼び?」
「…」
「うーんと、浮気って疑ったこと?」
「……」
「えぇ、これも違う?じゃあ、」
「おい」

ん?とこちらを向いた顔に、己の唇を寄せる。大きく見開いた目を見ながら、抵抗もなく開放された口の中を蹂躙する。奥へと引っ込みかける舌を追いかけ、歯茎を舐め、ぐちゅりと唾液と唾液が絡まる音を聞く。

この作戦を考えたのは目の前の女、つまり大倶利伽羅の主だ。
他の本丸も協力しているが、ここが主体となっている。その為、ここ数ヶ月が非常の忙しく正しく怒涛の日々と言って間違いないだろう。お陰で、こちらの方は暫くぶりになる。どこか熱を持ち出した体だというのに、相手は胸板を押そうとする。
ぷつりと唾液の糸を切らしながら離れれば、相手は肩で息をしながら恐ろしくない視線で睨んだ。

「こ、ここは、ダメ!」
「何故だ」
「まだ敵の本陣だよここ!?当然でしょ!!」
「ならその手に持つ銃を捨てるんだな」

「へ」と相手がポカンとした顔を曝け出す。
半分だけ開かれた口に、今度は触れるだけのキスを落とせば、ジワジワと向こうの頬が赤くなるのがわかった。

「先程銃を使っていたな」
「えっ、あ、うん」

確かに女として使うならば最上の武器だろう。何せ、引き金を引くだけていい。必要なのは指の筋肉と、少々の勢いといったところか。
だが、それでも道具という立ち位置ならば大倶利伽羅とて同じだ。歴史で言えば大倶利伽羅のが古い。寧ろ、付喪神が宿っている時点で比べ物にもならないのかもしれないが。それでも。

「浮気はどちらだ?ハニー」

笑ってやれば、女から混乱する声が上がった。



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大倶利伽羅さんに「ハニー」って呼んでもらいだけの人生でした…_:( _ ́ω`):_


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