馴れ合ってるけど2 | ナノ



よう、驚いたか?俺は鶴丸国永だ。
ここの本丸に顕現されている、刀剣男士と呼ばれるものだ。ここに呼ばれて以来、遊びガチ勢と呼ばれる面子の筆頭に立ちながら、皆に驚きを提供しつつ、毎日を楽しんで遊んでるぜ。

まぁ今日聴いて欲しいのは驚きとは別の話…いや、俺にとっては驚きだな。好奇心をくすぐり、暫く飽きないような驚きだ。そうさ、俺にとって驚きと楽しみはほぼ同一だ。驚いた表情の後に、すぐに笑いが起こる。それが連鎖を引き起こしてさらに笑う。未知のものに出会ったように、好奇心がやまなくてな。これが楽しくて楽しくて仕方がない。あぁ、話が逸れた。この本丸の驚きの話だ。

ここの本丸の主は、近侍を大倶利伽羅にしている。昔、刀である時に交流があった俺としては、それだけで大分驚いたものだ。人と深く付き合わず、自ら距離を置く。大倶利伽羅はそんな刀だったと記憶していたが、ここに来た時、主は俺を見て即座に「めっちゃ白!」と叫んだ末に大倶利伽羅に手刀をくらっていた。いや、あれは驚いた。叫ばれたことにって?違うさ。驚いたのは、手刀を浴びせつつ、来てくれてよかったな、と頭を撫でる大倶利伽羅にさ。
どうやら俺はこの本丸ではなかなか遅くに来た方のようで、なかなか来ないから、本物の鶴捕まえてそれを鶴丸にきようかと思っていた、と主から告げられた。悪かった。

そんなわけで、俺が来た瞬間から既に主から信頼と信用を受けていた大倶利伽羅は、今も当然近侍である。

だが、ここからが本番だ。
どうやらあの二人が喧嘩した、らしい。
らしいというのは、俺自身確証になかなか至らないからだ。

事の発端はおよそ一週間前。一番隊が戦に行こうとする時だ。
主は必ず見送りと出迎えをするから、その時も当然の様に一人一人に声を掛けつつ、見送りをしていた。
一番隊の隊長である大倶利伽羅がいなくなるので、その間だけ俺が近侍をやることになっていたため、そのやりとりを隣で見ていたのだが。

『行ってらっしゃい』
『………、……』
『行 っ て ら っ し ゃ い』
『…あぁ』

真顔。他の者には笑顔で優しく声をかけていたというのに、最後に大倶利伽羅に向き合った瞬間、ひたすら真顔で行ってらっしゃいを言っていた。予想以上にこれには驚いた。なんたって、誰に対しても笑顔で向かっていく主だ、正直真顔など滅多に拝めるものじゃない。

そうして一番隊が門を開き戦場に行ったのを見送ると、すぐにこちらを向いていつもの笑顔になったわけだ。あれは見間違いだったのか?と思ってしまうほどには、一瞬の表情の変化だった。

しかし、結果としてやはり見間違いではなかったと思うのは、帰ってきた一番隊に行きと同じ対応だったからだ。つまり、大倶利伽羅にのみ無表情。
淡々とおかえりなさい、を言う主に、最早面白さが込み上げてきたものだ。
とはいえ、これだけで喧嘩だとか考えるわけではない。いや、大分面白い驚きではあったが。幾分、俺はまだここに来て日が浅い。もしかしたら普段から大倶利伽羅には無表情なのかもしれないし、何よりその戦場に行く時と帰ってきたとき、必ず一言話すのだ。喧嘩とはもう口も聞きたくなくなるのだろう?
しかしそれでも、やはりこれは喧嘩だろうと思ったのが、その次の日、今日から六日前だな。

昼過ぎ、どうにも小腹が減ったので、なにかつまめるものを求めて厨へ行った時だ。

『主、これくりちゃんに届けてもらっていい?』

そんな声を聞いて、思わず俺は厨の入口付近で隠れた。なんでかって?明らかに面白そうな驚きの感じがしたからだ。
バレないように覗けば、どうやら八つ時の菓子作りを、燭台切と主でやっているようだった。
そして出来た菓子を大倶利伽羅に届けて欲しい。と燭台切が頼んだ。
恐らくは二人の仲の良さを見越してのことだろう。積極的に仲間と馴れ合わない大倶利伽羅は、八つ時に広間に来ることは少ない。
特段おかしいこともない、いつも通りの会話だった。だが。

『ごめん、ちょっと今大倶利伽羅と話しづらい…』

こりゃ驚いた。
俺の勘がおおよそ当たりだと告げている。燭台切はその一言で全てわかったように優しく笑いながら『オーケー、わかったよ』と答えていた。

そんなわけで、一週間。
ほぼほぼ喧嘩してるのだろうな、とは思っちゃいるが未だに確信に至らない。なんたって、皆の前ではごく普通に話すからだ。無表情だが。ただ、個人的に一対一では話そうとしない、お互いに避けている。それは最早明白だ。なんといっても、あれほど常に主にベッタリくっついていた大倶利伽羅が、今じゃどうだ。必要最低限の事しか話していない。これはもうあれだ、喧嘩しかない。むしろこれで喧嘩じゃなかったら、君たちの仲を疑いたくなる。

さて、喧嘩だとわかったところで、今俺のいる状況を確認しようか。
俺は今、執務室にいる。正確にいうと執務室の屋根裏だな!こないだ驚きを求めていたら、偶然発見した。埃がすごくてな、屋根裏から出たら鶴というよりもネズミだと笑われたものだ。…おっと、また話がそれたな。
屋根裏の隙間から、主の様子が見える。今は執務中のようだ。基本執務中はおやつや、遊びに誘いに来ない限り誰も来ないから、主は今一人という事になる。いや、普段ならここに大倶利伽羅が必ずいるのだがな。これならだれにも邪魔されず話ができるだろう、ということでこの時間帯を狙ってきたわけだ。
ん、何を話すのかって?まぁ、見ててくれ。最高の驚きを君にもたらそう。



:::



すた、と背中の方で音がした。それが何の音なのかもわからず、後ろを振り向いた。瞬間だった。

「わっ」
「んおぉ!?」

あれ何もない、と思った瞬間、飛び上がるような声。驚かない方がおかしい。正直何が起きたのか理解できなかった。どうやらびっくいじじいが、どこからか現れた瞬間に身をかがめて、私の視界よりも下に行き、更に勢いよく飛び上がって声を上げたということらしい。普段からその機動をもっと別の所に活かせよ、とは常々思っちゃいるが、彼のもたらす遊びや驚きはこちらの好奇心や面白さをくすぐりまくる。そのせいでどうにも寛容になってしまうのだ。
いや、でも待て。天井が開いている。いつの間にあんなものが。あそこから降りてきやがったな。

「君なぁ。俺はもっと女性らしい可愛い反応を期待したんだぜ?」

やれやれ、といった風に首を振られ、即座に手刀を頭に落とす。
痛いじゃないか、なんてまるで思ってないような言葉を聞きながらも、やっぱり、まぁ天井位いいかと思ってしまう。というよりも、私は刀剣男士達がやること全て、まぁいいか、で済ましてしまう事がある。どんなに大変な事でも、ついつい可愛い彼らのやったことならば尻拭いぐらいなんでもしてやろうと常々思ってはいる。甘い自覚はある。仕方ない、皆可愛くて可愛くてたまらないんだ。

「それで?用事は何?」
「あぁ、そうだった。君、大倶利伽羅と喧嘩してるな?」

ばきり。執務中だったということで、手に持っていたボールペンが折れた。
思わず折れた手の中のボールペンを見ていると、目の前の鶴丸から、うわあ、という声が上がった。

「いや、だって、なんか口論になったら止まらなくなっちゃって」
「そうか…。原因はなんなんだ?」
「それがなんかもう覚えてなくて」

数日前に大倶利伽羅とひどい口喧嘩をした。原因はなんだったか、色々あるとは思うが、確かひどくくだらない内容だったと思う。それから数日間、必要最低限な会話以外はしないようにしている。
最初の方、こっちも言いすぎたなと思った事があったから、謝罪しようと思っても向こうが私を避けたのだ。それはもう、ひょいひょいと。そんな事を繰り返されていれば、もうこっちだって「はぁ!?」となるだろう。実際なった。だからもう、向こうから謝らない限りこっちも何も言わないことにした。絶対謝ってやらない。そんな子供のような決め事をしてから、はや一週間だ。そろそろ皆にばれそうだとは思っていた。

「ごめん、空気重くなっちゃったりしてるよね。こんなんダメだってわかっちゃいるんだけど」
「いや、別にあれだけ毎日近くにいたんだ。喧嘩の一つや二つ、あって然るべきだろうに」

そう言ってもらえると大分助かるが、それでもやはりどうにかしなくては。ただの喧嘩だ。どちらかが折れれば終わる、子供のような喧嘩。だというのに。

「なかなか謝れなくて…」

こんなんじゃだめだねぇ、と軽く笑えば、ボールペンを握りつぶした方の腕を掴まれる。どうしたのかと思えば、強くボールペンを握っていた掌を優しく触られ、その強張りをといていく。開かれた掌には、強く握りすぎたボールペンの跡が、赤くくっきりと残っていた。これは大倶利伽羅に見られたら怒られるやつだ。そんなことを考えていると、その手の上に鶴丸の白い手が重なる。まるでいつくしむように握られては、どこかこそばゆさを覚える。

「君は、俺たちの大切な主だ。人の身になって初めて本物の気持ちとはこれほどにままならないものかと思った…驚いたぜ、人はこんなにも重たいものを持っていたのだとな」
「鶴丸…」

突然良いこと言いだすものだからさっきの手刀のせいで頭おかしくなったのかと思ったが、ちらりとこちらを見る視線が、ただひたすらにこちらを心配しているものだから、ついつい何も言えなくなった。
握った手を上へと持っていき、私の首筋に、頭をぽすん、とのせた。少しくすぐったかったが、それよりもそこから感じる暖かさに目を細める。この白い刀はこうして時々酷く優しく私を扱う。それこそどこの誰よりも。それは恋慕や愛籠といったものではなく、ただひたすらに無条件にそそがれる、親のような優しさだ。

「だからどうか、君のその重たい心をこちらに少しくらい分けてくれ。あぁ、決して普段が足りないという意味では無くてな。ただ今日のように、少しでも悩んでいるのならこちらに話してくれというだけだ。話すという行為は不思議だな。刀の身ではできなかったこれが、こんなにも楽しいとは思ってもみなかった」

じんわりと広がる優しい言葉に浸かっていると、ここ数日、大倶利伽羅の事を考えてあまり眠れてないんだよな、と気づいた。トロトロとあふれ出した眠気に、瞼を落とそうとすると、耳元で鶴丸が囁いた。

「大倶利伽羅も、随分君と話したがっているからな」

え?聞き返すよりも早く、スパンと襖が勢いよく空いた。主の許可なしに勝手に襖を開けるような子は、この本丸にはいない。たった一人を除いては。

「…何をしている」

どうやら手合せでもしてきたらしい。本丸自体が休息日であるにも関わらず戦装束で大倶利伽羅はそこに立っていた。
でもそんな風に冷静に向こうの状況を分析している場合ではなく、どちらかというとこちらが弁解をしなくてはならないだろう。しかし、はく、と開きかけた唇が動き出すよりも前に、腰を引いて抱きしめられる。誰にって、鶴丸に。

「おいおい、大倶利伽羅。そんなに睨んだら主が可哀そうだろう?今良いところだったんだ。野暮はよしてくれ」

よすのはお前だ!!何を言っているんだこのじじい!さっきまでの優しいお前はどこに行った!普段からいたずらする度に鶴丸のせいにしてたからか!?遊びに突き合せて窓割ったりするたびに鶴丸を生贄に長谷部から逃げてたからか!?だからそんな掌返すのか!
色々な考えが頭の中に浮かんでは消えて、結果的に何も言えないでいると向こうに立っていた大倶利伽羅が、不機嫌さを微塵も隠さずに踏み込んでくる。そして鶴丸を私から引き剥がすと、廊下にぺいっと捨てた。

「主〜〜さっき言ってたこと忘れるなよ〜」

外から聞こえる鶴丸の声に返事する暇もなく、大倶利伽羅が襖を閉める。別に荒々しく占めるわけでもないのに、大倶利伽羅の機嫌が悪いのがわかった気がした。

「大倶利伽羅、聞いて。鶴丸はたまたま来て話を聞いてくれてただけ。さっきの体勢にもいつも通りというだけだしって…」

近い。話している最中に徐々に近づいてるなとは思ったけど、近すぎる。大倶利伽羅の長い足が目の前に来ていて、見上げるのにも一苦労だ。そう思っていたとたんに、すとん、と大倶利伽羅が目の前で座った。思わずびっくりして目を見開いたけど、大倶利伽羅はそんなの知ったことではないとまっすぐに見つめてくる。

「お、大倶利伽羅…」
「…………」

あぐらをかいて、少しだけ目を伏せてしまった。何も言葉を発さない向こうにどうしたものかと思ったが、途端、腕を引かれて体の中に座らされる。何というか、胡坐の上でお姫様抱っこをしてもらっている感じ。普段からこれくらいの距離感、大倶利伽羅なら普通なのだけれどどうにも喧嘩中ということも相まって、何となく居心地が悪い。
それでも腰から支えられて、逃げることもできない。というより、少しでも身を動かそうとすると支えられている手が、激しく強くなる。

(なんだかなぁ…)

段々とどうでもよくなってきてしまった。結局お互いに頑固なだけだし、こうして大倶利伽羅はアクションを起こしてくれた。それが何気に結構嬉しいことがアレなんだけど、結局のところ言ってしまえば、寂しかった。この一週間、必要最低限の事以外は話さず、近くにも行かない。そんな事今までなかったものだから、余計に寂しさを感じた。そもそも最初のうちに避けられていると思った時点で、まず思ったのはショックだ。怒りよりもそれが先に来ていたのを怒りだと誤魔化して、うやむやにしてきただけ。
今、こうして触れることができただけで、胸の中が満たされていく上に、バカみたいに嬉しい。

「…大倶利伽羅」

彼の肩口に額を乗せて、表情を隠す。どうにもこうして謝る時って恥ずかしさが溢れ出るものなのだ。

「ごめんね」

するりと出た言葉は、心臓を少しだけ高ぶらせた。もし、許してもらえなかったら。知らずのうちに大倶利伽羅の裾を掴む。嫌な音を立てて、徐々に心臓が動くのがわかる。

「…いや、こちらも悪かった」

少しだけ間を空けて返された言葉に、一気に胸が落ち着いた。喜びと、安堵感と、そういった感情が埋め尽くす。
顔を上げて、額同士をくっつけると、大倶利伽羅の目の下に隈が見える。彼もあんまり寝れなかったのかな、なんて思って笑ってしまった。

あぁ、よかった。本当によかった。久しぶりに聞く彼の声が、こんなにも心地いいものだと、改めて知った。



:::



やあ、先ほどぶりだな、驚いたか?…さすがにもう驚かないか。次からはもっと良い驚きを提供したいものだ。
さて、どうやら無事に仲直りしたらしい主と大倶利伽羅だが、今回の功労者はなんといっても俺だろう。二人のためにわざわざ執務室の天井に穴を開けたんだ。結構大変だったんだ、何がって、見つからないように穴をあけるのがな。

あの後大変だったんだぜ、鬼の形相した大倶利伽羅に問つめられるし、天井の穴を閉じろと言われるしで、俺は二人のために働いたというのに。驚きだぜ。
まぁ、あの二人が仲直りしたならいいんだがな。俺はあの二人を見えいるのが中々に好きらしい。孫でも見ているようだ、いや、どちらかというと手間のかかる妹と弟か。
え?兄弟同士では恋仲になれないからその例えはよくないって?結構お堅いなぁ、君は。いや、確かにそうかもしれないが、言っておくがこの例えは何も問題ないぞ、なんてったって、あの二人、恋仲じゃないからな。

な?最高の驚きだろう!!


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