亡霊が思うには


 15

 酔いも収まり、恐る恐る目を開いた瞬間、そこには先程までの車内とは違う景色が広がった。
 どこかのオフィスのような部屋の中、黒の本革のソファーに座った俺と南波、そして向かい側には考次郎――親父さんがいた。
 辺りには人はいない。俺達と親父さんの間には足の短いテーブルが置かれてて、そこには親父さんのコーヒーカップが置かれてるだけだ。
 珍しく緊張した面持ちの南波に対し、親父さんはどこか優しい目をしていた。そして、仕方ないというかのように目を細める。

「宗親、お前もそろそろ車の運転ばかりしてるのも飽きて来たんじゃないか」
「そんなことは……ないっす」
「嘘をつくな。あんだけ血盛んだったガキがずっと大人しくしてんだ。借金の取り立てやシマで暴れるチンピラの始末させていた頃のがまだ楽しそうだったしな」
「……親父」
「おい、親父っていうのはよせと言ってるだろう」
「すみません、考次郎さん、でも俺は……」
「そこでだ宗親、お前に頼みたいことがある」

 珍しく迷いを見せる南波の声をわざと遮るように、親父さんはパン、と膝を叩いた。
 そして、「おい、入ってこい」と奥の扉に向かって声をかける。そのときだ。静かに扉が開いた。
 そして、そこから現れたそいつの姿に目を疑った。
 まだ女好きしそうな甘い顔に明るい髪。スーツを着ればヤクザよりもホストの方が似合うだろう。髪型は違えど、浮かべた笑顔は変わらない。
 あの男だ。
 南波を連れて逃げ出そうと思うが、縫い付けられたように身体が動かない。歯を食いしばる俺を無視して、目の前の光景は進んでいく。

「こいつは剣崎辰爾。……元々は俺の知り合いの店のボーイやってたんだがこいつが中々頭がキレるやつでな。宗親、お前こいつに組の仕事を教えてやれ」
「な……何言ってんすか。俺が、このガキの世話を?」
「あー難しく考えんな。まあ、いきなり経営のイロハを叩き込めって言うんじゃない。最初俺がお前に教えてきたようにすりゃいいんだよ」
「俺が……?」

 これが南波の記憶の追体験だからか、だから勝手な真似ができないのか。まるで結末を知ってる映画のワンシーンを見せられてるような歯がゆさにどうにかなりそうだった。
 だから、南波以外は俺がいることを気に留めない。俺はここではただの亡霊なのだ。

「よろしくお願いします、宗親さん」

 礼儀正しく頭を下げる剣崎。頭を上げるとき、ほんの一瞬、確かにこいつは南波の隣に居た俺を見たのだ。そして。

「それと、準一さん」

 浮かぶ笑みに、全身が凍りつく。なんの変哲のない事務所の一角にノイズが走る。

 こいつ。
 ただの追体験じゃない。これは、ここにいる俺の目的は――この男の好き勝手にさせないことだ。
 それを理解した瞬間、身体に電流が流れるようだった。

「それじゃあ、後は頼んだぞ宗親」
「……うす」

 これが、南波と剣崎の初めての出会い。そして全ての始まりだった。
 俺の知ってる結末を阻止する。それをしてどうなるかわからない。けれど、俺にできることはそれくらいしかない。


 暗転。
 親父さんがいなくなった事務所の中、決していいとは言えないような空気が流れていた。
 というのもそれは南波の周囲にだけで、剣崎は全く気にした様子もなく興味深そうに辺りを見渡す。

「いやーそれにしてもヤクザの事務所って言うからもっと壁に任侠って書かれた掛け軸とか刀とか飾られてると思ったら……案外普通のオフィスなんすね」
「……」
「あれ、無視ですか?もしかして、なんか怒ってます?」
「怒ってねえよ」
「宗親さん……あっ、兄貴って呼んだ方がいいですか?俺のこと面倒だったら断ってくれてもいいんですよ。俺も、テキトーにやっていくんで」

 ソファーに腰を下ろしたままの南波に対し、あちらこちらを見渡していた剣崎はそうヘラヘラと笑いながら手を振った。そんないい加減な態度が南波の逆鱗に触れたらしい。

「おい……考次郎さんの言ってたこと聞いてたのかよテメェは……っ!!」

 ドン、とテーブルを叩いて立ち上がる南波にぎょっとする。何事かと目で追えば、南波が剣崎の胸倉を掴もうとしていたところだった。
「南波さん」と慌てて止めようとしたとき、剣崎は怯むわけでもなくただ困ったように笑った。

「おお……びっくりした。話では聞いてましたけど兄貴って本当に考次郎さんのこと慕ってるんですね」

 言いながらやんわりと南波の手を離す剣崎。
 親父さんの名前を出され、南波の表情がより一層険しいものになる。
 そんな表情の変化に気付いてるのかいないのか、剣崎は黙らない。

「確かヤクザに喧嘩売った友達を助けるために事務所に乗り込んで大暴れして、そのときまだ幹部だった考次郎さんに返り討ちにあってそのときスカウトされたってって聞きましたけど……あれ、本当なんですか?」

 ……この南波を前にここまで足を突っ込めるやつも早々いないだろう。他人の過去にも土足で上がるような剣崎の立ち振る舞いに慄いた。
 けれど、そうだったのか。俺自身親父さんと南波の関係をよく知らなかっただけに驚く。南波らしいといえばらしいが……昔から無茶するタイプだったようだ。

 過去の話を持ち出された南波は面白くなさそうだった。返事の代わりに舌打ちをする南波に、剣崎は「あ、やっぱ本当なんですね」と嬉しそうに笑った。

「勝手に話進めんじゃねえ、なんも言ってねーだろ」
「言わなくてもわかりますよ。兄貴みたいななんでもはっきりいう人が否定しないなんて、肯定と同じようなものじゃないですか」
「……っ」
「職業柄顔色伺って機嫌取りするのは得意なんですよ、俺。喧嘩とかそういう手荒なことは苦手なんで宗親さんには敵わないと思いますけど、体力としつこさには自信あるんでどうぞ扱き使ってやってください」

「俺も、考次郎さんに世話になった分は返したいと思ってるので」先程までの営業スマイルとは違う、優しい笑顔だった。目の前の男があの殺人鬼と同じだと思えない。
 目の前の剣崎は調子がよく、よく舌の回る若者だ。あのとき俺の額を撃ち抜いたあの男とは髪型も違えば雰囲気もまだ柔らかい。
 剣崎の性格に慣れてきたのか、それでもまだ不服そうな南波だったが諦めたらしい。

「なった分だけじゃねえ、倍にして返せよ。……あと言っとくけど、俺は優しくねえぞ」
「大丈夫ですよ。生理中の嬢の扱いならナンバーワンだって店長からお墨付きだったんで」
「誰が生理だっ!!」

 ブチ切れる南波に、おかしそうに笑う剣崎。和気藹々とまではいかないが、印象はよくないものの決して悪くない関係だったということがわかった。
 友達とはいかないがいい関係の先輩後輩のような、少し剣崎が南波で遊んでいる感もあったが、それでも嫌い合ってるわけではない。……はずだ。

 けれど、俺はこの二人の未来を、結末を知ってる。響く剣崎の笑い声にノイズが走る、そして、世界が歪んだ。

 場面が切り替わる。
 暗転するとき決まって目眩を覚えるらしい。自分が座ってるのか立っているのかわからなくなるほどの強い目眩の中、音が消えた。そして頭の奥で何かが弾ける音がした。

 空気が変わる。先程までとは違う、笑い一つないその静まり返った重い空気の中ゆっくりと目を開いた俺は息を飲んだ。

 そこは、先程の事務室よりも広い部屋の中だった。
 カーテンが締め切られたそこには数人の男たちがずらりと並んでいる様は圧巻だ。
 初めて見る顔ばかりだ。けれど共通して誰一人サラリーマンには見えないような独特の圧のようなものを醸し出していた。
 妙齢の男たちに混ざって見慣れた人物がいた、南波だ。いつもの派手なシャツではない、ちゃんと白シャツにスーツを羽織った南波もやはりサラリーマンには見えない。
 そして俺はそんな南波の隣に立っていた。わけもわからずこの男たちの中に混ざっていたのだ。男たちの視線の先。そこにはソファーに腰を掛けるのは険しい顔をした親父さんがいた。

「……十河(そごう)のやつは何を考えてるんだ」

 静まり返った部屋の中に響く親父さんの声はよく通った。

「あいつがやろうとしてることは戦争仕掛け出るようなものだ。あそこは鴻(オオトリ)組のシマだ。ただでさえ鴻組は潔癖だ、おまけに血盛んな連中が多いと聞く」
「……しかし鴻組の組長は身内には手厚い。考次郎さんの言う通り今後のことを考えるならば手を組むべき相手でしょう」
「しかしあいつはそれを分かっていない。受け入れようとしない。組の存続のため目先の利益だけを掠め取るつもりでいる。……現状兵力もあちらさんのが上だ、こちらから吹っ掛けたところで取って食われるのが関の山だというのにあいつは認めんのだ」
「十河の若造らしいな。現実が見えてない」
「……組長、それで東泉会長はなんと仰られて」
「会長は『まだ動くときではない』と。……一先ずは俺の意見を聞き入れてくれたが、十河がどう出るか……」

 会議というには物々しい雰囲気だった。
 親父さんと周りの男たちの会話からして十河という男と揉めていることだけはわかった。
 周りの男たちは親父さん派なのだろう、親父さんに肯定的な言葉を口にするのに対し、十河という男は批判している。親父さんがこの組の組長なのだから南波のように親父さんに付き従うと決めたものしかいないとわかっていたが、異様なのだ。
 この場所での敵味方がハッキリしてるからか、その奇妙な一体感が恐ろしく感じた。

 そんなときだった。いきなり扉がノックされる。
 全員が口を閉じ、その目が一点に向けられる。そして側に居た南波が扉を開いたとき、青い顔をした男が飛び込んできた。

「話の途中申し訳ないです、すぐに組長の耳に入れるべきかと」
「……何事だ」
「あの、どうやら中央通りで輩が集団で暴れてるようです。人的被害は今のところないが何件か建物も破壊されてると……っ」

「どうやら、連中はただの酔っ払いでもないみたいです」そう矢継ぎ早に続ける男に、部屋全体がざわつくのを感じた。
 親父さんの表情も険しさを増す。ざわつく空気の中、南波が親父さんに目配せをした。そして、親父さんがその視線を受け止める。

「……頼んだぞ宗親」

 それが合図だった。部屋を飛び出す南波に、慌てて俺もその後を追いかけた。その途中、事務所の客室のソファーで漫画読んでくつろいでいた剣崎を見つけて南波は足を止める。

「タツミ!お前も来い!」
「へ?飯っすか?」
「お前の嫌いな喧嘩だよ」

 行くぞ、と一言。剣崎もその一言で察したらしい。
「今いいところだったのになぁ」なんて言いながら漫画雑誌を机に置いた剣崎はさっさと歩き出す南波の後についていく。

 そろそろ暗転するのだろうか、と思ったが今回は切り替わらなかった。南波の車に乗り込んで問題の中央通りへと信号無視して突っ込む南波に途中ヒヤヒヤしながらも到着したときはひどい有り様だった。
 チンピラの殴り合いは一般人を巻き込んで更に輪をかけて騒ぎを大きくしてた。
 止めに入ろうとしたのだろう。件のチンピラらしき集団にどうみても一般人の店主が囲まれてる。それを見つけた瞬間、車ごとチンピラ連中に突っ込もうとする南波だったが流石に本気で轢き殺すことはなかった。
 一層ざわつく大通りの中、車から降りた南波は店主に掴みかかっていた大柄な男を殴りかかった。殴って、殴って、蹴り上げて、止めに入る人間掴んでそれで投げ飛ばす。無茶苦茶だった。

「テメェらクソども誰のシマで勝手してんのかわかってんだろうな!!」

 恫喝。近くにあった電光看板片手に怒鳴り散らす南波に、その気迫に、先程まで暴れていたやつらも一瞬たじろいだ。
「あいつだ、天恩会のやつだ」と誰かが口にした。
 瞬間、先程まで呆気取られていたチンピラ連中は一丸となって南波に襲いかかる。
 ――火蓋は切って落とされた。

 それからはもう酷い乱闘騒ぎだった。
 障害、殺人未遂、器物損壊、営業妨害。俺の知り得る色んな単語が頭の中に浮かんでは掻き消される。
 あっという間の出来事だった。
 チンピラを一人残らず戦意喪失させとっ捕まえた南波は駆け付けた部下にチンピラたちを車で運ばせる。
 ヤクザ絡みだと分かれば周りの一般人も関わろうとしない。被害を受けた店主と何やら話していた剣崎は南波と合流し、車に乗り込んだ。
 結局止めることも加勢することも出来ず唖然としてる間に騒ぎは表向き沈静化することに成功した。あの様子から被害は甚大だが……六割くらいは南波が暴れたときに壊したような気がしないでもないが敢えて触れないことにしておく。

 車内。剣崎と南波がなにか難しい顔をして話し合っていたがその声が次第に遠くなる。ああ、来たか。と目を閉じた。
 珍しく長い間見させられていた気がする、なんて思いながら俺は強い目眩に身を委ねた。

 そして、バチンと音が弾けた。

 この感覚は何度やっても慣れないな。次に目を開いたとき、そこは初めてみる景色が広がっていた。
 コンクリート剥き出しになった天井。至るところにヒビが入り、全体的に湿っぽく黴臭いその空間の中央に、先程南波にタコ殴りにされていたリーダー格らしき男が柱に括りつけられていた。そして、その側には南波が立っている。
 俺はというと部屋の隅っこでその光景を突っ立って眺めていて、隣には剣崎もいた。
 すぐに、ここがどのような場所なのか、何をするつもりなのか直感してしまう。感情の失せた南波の表情は見たことのないもので、その冷たい目に背筋が凍りつく。

「で?どこの組の使いだ。……言え」

 ゾッとするような冷え切った声。……俺の知らない南波がそこにいた。
 縛られた男は、あくまでも強気だった。殴られ、腫れ上がった顔で尚も目の前の南波を睨みつける。
 そして、血の混じったツバを南波のスーツに吐きかけた。
「あちゃー」と笑う剣崎、その隣で俺は息を飲んだ。明らかに南波の纏う空気が変わるのがわかったからだ。それに気付かず男は威嚇を続ける。

「……っ、誰がいうかよこの金髪野郎」
「……テメェ、まだ立場がわかってねえみたいだな」

 南波が何かを取り出したときにはもう遅かった。南波が腕を振ったと同時に男の顔面が赤く染まる。ぎゃっと短い悲鳴を上げ、肩を跳ね上がらせる男。俯いたそこからぼたぼたと溢れる赤。スーツが汚れることも構わず男の前髪を掴み、無理矢理顔を上げさせる南波に、その男の顔に、俺は思わず目を逸した。

「なあ知ってるかおい人ってのは鼻がなくても喋れんだよ、顔の形二度と戻んねえようにしてやろうか?あぁ?!」
「っ、ひ、ぎ……っ」
「次は目ん玉だ。口が動けばいいんだよ俺は。……テメェが見えなくなろうが何も感じなくなろうがな」
「……っ」
「おい豚、もう一回聞いてやる。……どこの組の使いだ?」

 開いてるのか閉じてるのかわからないくらい腫れたその目にナイフの先端をつきつけた南波はそう顔を寄せ、静かに尋ねる。頬から鼻筋を一文字に切りつけられた男の顔は最早表情すらわからないほど汚れていた。
 けれど、震えてるのがわかった。当たり前だ、痛くないはずがないのだ。わかっててわざと苦痛を与えてるのだ、この男は。

「っ、ぅ、知らねえよ……っ俺らはただ、頼まれただけで……」
「だーかーらぁ!誰に頼まれたかを聞いてんだよタコッ!日本語わかんねえのかテメェ馬鹿か?!その舌も切り取られてぇのか?!」
「っ、ひ、ほ、本当に知らないんだ……っ俺は……!」
「使えねえクソが……っ!!」

「南波さん……っ」

 ナイフの柄で男の顔面を殴りつける南波に血の気が引いた。先程よりも大量の血が溢れ、男が悲鳴を漏らす。
 止めなければ。そう、動こうとしたとき、剣崎に軽くいなされる。「俺に任せてください」そう、言うかのようにこちらを一瞥した剣崎は南波に歩み寄り、肩を叩いた。

「ちょっとちょっと宗親さん、ちょーっと俺いいっすか」
「タツミ……お前は引っ込んでろ」
「いいから、ね。俺に任せてください」

 そうにこりと笑う剣崎に南波は面白くなさそうだったが、大した情報を持っていないとわかった時点で興味が失せていたのだろう。最早ストレスの捌け口にしか値しないと判断した南波はどうでも良さそうに剣崎に場所を変わった。
 そして、男の前に並ぶ剣崎は視線を合わせるように腰を落とすのだ。

「お兄さんお兄さん、知らないってことはもしかして直接依頼されたわけじゃないってこと?」
「っ、あ、あぁ……俺らは下請けみたいなもんだ。上からここで暴れてこいって指示されただけで……」
「それで?その上っていうのはお兄さんたちの仕事先で間違いないんだよね?」

 まるでぐずる子供を相手にしてるかのような優しい声だった。けれどここに子供はいない。居るのは血まみれの男とヤクザだけだ。
 剣崎の方が話が通じると判断したらしい。男は涙で濡れた顔を何度も頷かせた。
 それを確認し、「教えてくれてありがと」と剣崎は男から視線を外し、南波へと歩み寄る。そして着ていたスーツから何かを取り出し、南波へと差し出す。

「宗親さん、これ」
「……これは」
「『三納ファイナンス』……これ、あいつの仲間が持ってた名刺ですけどこれって鴻組の傘下の神鷹組系列の子会社じゃないっすか」
「鴻組だと?なんであいつらが……」

 いつの間に盗んだのか。
 一枚の名刺を手にした剣崎に、南波は先程事務所での会話を思い出したようだ。
 青褪める南波に、剣崎は小さく頷き返す。

「多分こいつらは本当に何も知らないチンピラですよ。このままこいつらの相手したところで時間の無駄です。叩くならこっち、神鷹組に話付けた方が早いでしょう」

 いつものヘラヘラした顔ではない、笑顔がないだけでここまで印象が変わるものなのか。一種の冷たさすら感じるその鋭い目に、横顔に、胸の奥がざわついた。

「……親父に連絡してくる。後片付けは頼んだ」

 一刻も惜しい、そんな様子で部屋を出る南波。そんな後ろ姿を見送りながら、剣崎は「了解」と微笑んだ。そのとき、剣崎の姿に一瞬ノイズが走る。……見間違えではない、はずだ。けれど瞬きをした瞬間、世界は闇に包まれた。

 南波の中で生じた剣崎という男に対しての違和感。それがこうして視覚化されているというのなら、もしかすると。
 そこまで考えて、俺は花鶏の言葉を思い出した。剣崎が単独で遺棄した死体はどれも玩具にされていたと。
 ……まさかな。
 しかし、とうとう俺が先程の男がこのあとどうなったか知ることなく次の舞台が幕を開けた。


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