アダルトな大人


 カナちゃんと笹山君※【ブルマ/顔騎/セクハラ】

 あまりにも眠た過ぎたので休憩室のソファーでちょっとだけ仮眠を取っていたのだが、どうやら寝過ぎていたようだ。

「カナちゃん、すごい似合うね!やっぱり僕の見込み通りだ!」
「なにが見込み通りだ!ふざけんじゃねえ!人が寝てるときに着替えさせるのやめろっつってんだろ!」
「だってカナちゃん普通にお願いしても着てくれないじゃん」
「当たり前だ!誰が、こんな…こんな…っ!」

 目を覚ませば目の前にはニコニコと上機嫌な翔太。
 怒りと呆れでわなわなと震えながら、俺は自分の服装に目を向けた。
 パンツ見えるんじゃねえのってくらい短いプリーツのスカートに、だぼっとしたニットのカーディガン。白いワイシャツの襟には、ご丁寧に真っ赤なリボンまでつけられている。
 膝上までのハイソックスにはどこのものかわからない校章までついているではないか。
 嫌なくらい徹底した女子制服だった。

「いやーでもこれで安心した。これならイベントに間に合うよ」

 うんうんと頷く翔太。
 どうやらこれはなにかの漫画だかアニメのキャラのらしい。サイズ合わせに俺を使うのはやめてもらいたい。
 というか女装で参加するつもりなのかこいつ。

「どういうイベントだよ…くそ…っ」
「あれ?もう着替えちゃうの?」
「当たり前だ!」
「せめて鏡で見ておけば?せっかく似合ってるんだから。ほら、僕は今から用事あるから帰るけど、返すのなら明日でいいから」

「な……っ」

 なにを勝手な気遣いを。
 いらんわ!と脱ぎ捨ててやりたかったが、翔太に止められる。
 そっと、翔太は耳元に唇を寄せた。

「知ってる?最近、女の子たちの間で女装した男の子が流行ってるんだって」
「まじで?!」
「親近感沸くんだってよ。女子高生にでも話しかけてみなよ」
「は、流行ってるのか…」

 いや、そんなわけがあるか。ありえない。
 頭の隅ではわかっていたが、どちらかと言えば翔太の方が世間に(とはいってもアンダーグラウンドの方だが)疎通しているのは事実で。
 馬鹿にされてる、誂われていると理解しつつも、もしそれが事実ならばこれはチャンスではなかろうかと揺らぐ。

「じゃ、またあとでね」

 悶々と夢を広げる俺に、くすくすと笑う翔太は軽く俺の肩を叩き、そのまま休憩室を出ていった。

「……」

 一人になった休憩室内。
 辺りに人がいないのを確認し、休憩室内に設置された店長が愛用している全身鏡の前に移動する。そして、恐る恐る鏡の中をのぞき込んだ俺は固まった。

 やべえ、俺いけんじゃねーの。

 まあな!確かに元は悪くないしな!はは!と照れ隠しに開き直りつつ、俺は鏡の前でポーズを取ってみる。
 これはやばい。そこら辺の女子高生に勝つぞこれ。
 変身願望があるわけではないが、やはりコスプレというのは自分が自分ではないような錯覚を起こし、大胆にするようだ。
 このあとあまりの虚しさ諸々で憤死するのは目に見えていたがやはり、楽しいものは楽しいのだからしょうがない。
 こりゃ翔太もハマるわけだ。
 なんだかテンションが上がって、ちょっとだけ髪もいじってみた。

「おぉ!」

 女特有の狭い肩幅やらなめらかな曲線とは無縁の体付きではあるが、カーディガンのお陰で体の線は隠れているので大分カバーされてる。
 これなら、まじでいけるんじゃないか。
 どきどきと高鳴る鼓動。
 鏡に触れ、なんとなく自分がとんでもなく悪いことをしているような背徳感にぞくぞくと背筋が震えた。

 どうせなら、下着も女物の方が決まるかもしれない。
 なんて血迷った思考を働かせながら、俺は乾いた唇を舐め、スカートの裾に触れた。
 そのままゆっくりと裾を摘み上げようとしたときだった。

 ガチャリと小さな音を立て、休憩室の扉が開く。

「っ!?」

 はっと我に返った俺は慌てて鏡から離れたが、服を脱ぎ捨てるまでは間に合わなかった。
 全身から血の気が引く。
 慌ててスカートの裾を抑え、開いた扉に目を向ければ、そこには同様目を丸くした笹山がいて。

「……原田さん?」

 笹山なら、適当に女のふりをしてたらなんとか誤魔化せるかもしれない。と思った矢先さっそくバレて憤死。

「原田さん、どうしたんですか、その服……」

 呆然とする笹山にバクバクと心臓は跳ね上がり、緊張と動揺で嫌な汗が滲む。
 このままでは女装して鏡を眺め一人興奮している変態女装野郎というレッテルを貼られてしまう。あながち間違いではないだけに、それだけは避けたい。

「ちっ、違…!あの、その、これは…っ翔太が……っ」
「中谷さん?」

 元はといえばあいつのせいだ。
 こくこくと頷けば、少しだけ笹山の表情が硬くなったような気がしないでもしない。
 笹山は小さく息をついた。

「まあ、確かにあの人が好きそうな服ですもんね」

 そして、狼狽え、硬直する俺の目の前までやってきた笹山は品定めでもするかのように俺の全身に目を向ける。

「あ……っ」

 見られてる。
 それだけでも相手がなにを考えてるのかわからず不安と恐怖と羞恥で頭ん中がごちゃごちゃになり、顔から火を噴きそうだったのに、やつは有ろうことか俺のスカートに手を伸ばす。
 そして、

「でも、スカートの丈、短すぎますよ。パンツ見えてますし」

 言いながら、当たり前のように裾を持ち上げてくる笹山に俺は思考停止する。
 剥き出しになった下着に、太腿。別に、パンツ見られたくらいどうってことないはずなのに、何故だろうか。
 女の格好をしているせいか、見られてはいけない場所を見られたみたいな錯覚に襲われる。
 そして、女装に毒されつつある自分の思考に二重の意味で恥ずかしさでのた打ち回りそうになった。
 しかし、現実は恐ろしいほど体が動かなくて。

「あっ、す……すみません。つい」
「…っ」
「原田さん?」

 笹山も無礼だと思ったようだ。
 俯き、押し黙る俺に、申し訳なさそうな顔をして笹山は俺の顔を覗き込む。
 目があって、頭の中でなにかが弾けるように俺は笹山から飛び退いた。

「きっ、着替えてくる!」

 そして、そう震える声で張り上げた俺はそのまま脱兎の如く笹山から逃げようとして、慌てた笹山に「原田さんっ」と呼び止められる。

「走ったら危ないですよ!」

 その声に驚いて、思わず振り返ろうとした時。
 ずるりと、足が滑る。

「え?」

 暗転する視界。ぐらりと崩れる体。
 なにもないところで転ぶってどいういうことなの。

 やべえ、転ぶ。そう覚悟し、ぎゅっと硬く瞑ったとき、伸びてきた笹山の手に腕を引っ張られる。
 大きく傾く体。「うっ」と小さなうめき声が聞こえ、慌てて目を開けば下には笹山がいて。

「あいたたた…」

 どうやら、バランスを崩した反動で笹山まで巻き込んでしまったようだ。
 俺を庇う代わりに背中を打ったのか、苦笑を浮かべながらも起き上がる笹山の腹の上。
 跨るように乗っていた俺は慌てて笹山の顔を覗き込む。

「ご、ごめん…痛かっただろ?大丈夫か?」
「俺は、大丈夫ですけど…あの」

 ゆっくりと笹山の視線が下り、下腹部に向けられる。
 口籠る笹山に疑問を覚え、「あ?」とつられて視線を下げれば大きく捲れ上がったスカートと剥き出しになった自分の腿が映り込んだ。
 全身から血の気が引き、声にならない悲鳴が漏れる。

「ごっ、ぁ、うそ、ごっごめん!そういうつもりじゃっ」

 いや、どういうつもりだよ、と自分で突っ込みを入れたくなるくらい動揺した俺は取り敢えず笹山から飛び降りれば、苦笑を浮かべた笹山はそのままゆっくりと立ち上がった。

「そんなに慌てなくても…別に、パンツくらい自分の見てるんで大丈夫ですよ」
「そ、そうだけど…。つか、本当に大丈夫か?重かっただろ?怪我とか…」
「大丈夫です。心配して下さってありがとうございます」

 狼狽える俺に、笹山は嬉しそうに微笑んだ。
 そして、なにか思いついたようだ。ふと、表情を引き締めた笹山は「あの」と口を開く。

「着替え、どこにあるんですか?」
「多分、どっかに…」
「多分?」
「翔太がどっか隠したみたいで…」
「……本当、やってくれますね。あの人」

 ごにょごにょと口籠る俺に、笹山は小さく息を吐く。
 そして、鬱陶しそうに長い前髪を掻き上げた。

「取り敢えず、俺、他に着れそうなのないか探してみてくるので。お願いなのでここから出歩かないで下さいね」

 心配しそうに念を押してくる笹山。
 そこまでしてくれることに感謝の念を抱く反面、その言葉にぎょっとせずにはいられない。

「こっ、こんなんで出歩けるわけないだろ…っ」

 流石の俺でもそんなアホな真似はしない。
 コスプレ強化週間ならともかく、他の店員も私服の今一人こんな姿で働けるわけがない。

「わかってますよ、わかってますけど…一応ね」

 赤くなりながらも必死に否定する俺に、笹山は苦笑を浮かべる。
 そして、そのまま休憩室から出ていこうとするその背中に、咄嗟に俺は「あ、おい」と呼び止めた。

「どうしました?」
「あの……ごめんな、色々迷惑掛けて」

 元はと言えばあのヲタク眼鏡野郎がしなければならないことをわざわざ自分から名乗り出てくれる笹山に申し訳なさでいっぱいになる。
 どういう顔をしたらいいのかわからず、項垂れる俺に笹山は「気にしないで下さい」とはにかみ、そのまま休憩室を後にした。


 笹山がいなくなって俺は言われたとおりに大人しくしていた。
 勿論、いつ誰が来るかわからない休憩室だ。
 適当なタオルケットと膝にかけ、下半身ごとスカートを隠してしまえばなんとかなる。
 これであとは笹山が帰ってきたら楽勝だな。
 なんて他力本願に怠けつつ、ごろごろしながらテレビを眺めていた時だ。
 休憩室の扉が開く。

「あ、かなたん発見ー」
「っぁ、き、紀平さん」
「なにやってんの?こんなところで。店長探してたよー?サボり?」

 開いた扉から現れたのは紀平さんだった。
 よりによってこんな時にと内心冷や汗を滲ませつつ、俺は「いや、その、具合悪くて…」と顔を引き攣らせながらじりじりと後ずさる。
 座るソファーに近付いてきた紀平さんは「ふぅん」となんでもないように呟き、そして、そのまま隣に腰を掛けてきた。

 そして、

「で、なに隠してんの?」

 誤魔化せただろうか、と安堵した矢先のことだった。
 言いながら、タオルケットを紀平さんに奪われる。
 瞬間、外気に触れた下半身に嫌な寒気が走った。

 一瞬の出来事に対応に遅れ、「あっ」と慌ててスカートを隠そうとした時にはもう全て手遅れで。

「ああ、なるほどね。…そりゃ、店内行けないねーこんなんじゃ」

 俺の足に目を向けた紀平さんは寧ろどこか楽しそうににやにやと笑う。
 見られてる。
 ねっとりと絡みつく視線に耐え切れず、真っ赤になった俺は紀平さんの持つタオルケットを取り返そうとする。
 しかし、間一髪のところで避けられ、バランスを崩した俺はそのまま紀平さんの上に倒れ込んだ。慌てて離れようとしたけど、腰を掴まれ、紀平さんの上から動くことが出来ない。

「かっ、返してください」
「えー?どうしよっかなぁ」

 相変わらず、にこにこと爽やかな笑みを浮かべた紀平さんは言いながらスカートの中、内腿を撫で上げる。
 ぞぞぞと嫌なものが背筋に走り、つい内股になってしまった。
 紀平さんは更に目を細める。

「せっかくこんな面白いもん見付けたのに、引っ込ませてんのも勿体無いよねえ?」
「なに…」

 言ってるんですか。
 そう、揶揄するような紀平さんの言葉に眉間を寄せた時、腿の付け根まで這い上がってきた紀平さんの指が薄地の下着に触れ、そのまま摘むようにそれをずり降ろしてくる。

「ぁっ、や、なに、紀平さん、やめてくださいい…っ」
「だって、ほら、こんなのかなたんには要らないでしょ?」
「っや」

 スカートの上から下着を抑えようとするが、片方の手で手首を取られてしまい、そのまま強引に下着を足首まで脱がされた。

「ちょ、やめ、ダメですってば…っ!」

 ただでさえこんな格好で変態じみているのに、パンツまで盗られたらなんとか保っていたギリギリのラインをぶっ超えてしまうじゃないか。
 すーすーと風通しが良くなる下半身に、とうとうスカートを押さえ付ける手が離せなくなってしまう。
 これじゃ、変態みたいじゃないか!女子高生と交流を測るためとはいえ、うっかりポロリなんて笑えないぞ!
 言いたいことはあったのに、少しでも動いてしまえば中が見えてしまいそうで、俺はソファーの上、縮こまる。

「あはは、すごい真っ赤だね。さっきよりも、こっちのが色気あっていいよ」
「……っ」
「返して欲しかったら、店内まで取りにおいで」

 そう言って、俺の足からパンツを引き抜いた紀平さんは笑いながらそれを仕舞う。
 ちょっと待って、普通にはみ出てるからポケットだけはやめてくれ。せめて人目につかないところで保存していてくれ。

「きっ、紀平さんの、馬鹿…っ」

 下半身が寒すぎてちんこひゅんひゅんするしスリル満点とかそんな次元じゃなくて、切羽詰まって焦れば焦るほど頭がぐちゃぐちゃになって、結果、言葉が拙くなってしまう。
 こればかりはどうしようもない。
 しかし、そんな俺の反抗的態度は紀平さんのお気には召さなかったようです。

「そんな口聞いちゃうなら、これ、燃やしちゃおうかな」
「ご、ごめんなさい…っ燃やさないで下さい…!」

 満面の笑みでライターを取り出し、小首傾げる紀平さんに青褪め、慌てて懇願する。
 紀平さんはにっこりと微笑み、そして、ソファーから立ち上がった。

「じゃ、頑張ってね」

 それだけを言い残し、紀平さんは人のパンツを持ち去った。





 紀平さんがどういう人かは概ね分かっている。
 パンツを持ち去ったのも、罠だと。
 だけど、やっぱり、パンツがないというだけで酷く不安になってしまい。
 焦りと困惑で思考力が低下した俺はよろよろとスカートを抑えながら立ち上がり、そのまま休憩室を出た。

 笹山に見つかったら怒られるだろう。
 それでも、やはりなくてはならないものであるわけで。
 笹山と鉢合わせになる前にパンツを取り戻し、
 休憩室に戻ればなんとかなるだろう。

 そう、思っていた。
 思っていたが、現実はやっぱり俺にとって甘くはない。

 人気のない通路を抜け、店内へと繋がる扉を開けば一気に辺りの空気が変わる。
 人の声、ざわめく空気。いつもと変わりなく色んな層のお客がいる中、全身の血の気が引いていく。

 こんな中を歩き回って紀平さんを探し出すなんて、無理だ。いや、それでもなんとか頑張ればどうにかなるかもしれない。
 どきどきと高鳴る胸を抑えながら俺は一歩、また一歩と足を進める。
 大丈夫、俺は空気だ、ノーパン女装なんて当たり前だ。そう言い聞かせながら歩くが、やはり、無理だった。
 客から逃げるように棚に隠れ、縮こまる。
 見ちゃいないとわかっていても、誰かに見られてる気がしてならない。
 気がつけば全身から嫌な汗が流れ、なんか多分俺は更にやばいことになってるだろう。
 職質にでもあったら即アウトだ。やっぱり、パンツは諦めよう。そう断念し、そのまま踵を返したときだ。

「原田さん?!」
「っ!!」

 いきなり肩を掴まれ、慌てて振り返ればそこには慌てた笹山がいた。
 一瞬口から心臓が飛び出したかと思うほど驚く。

「なんでこんなところに…出ないようにと言ったじゃないですか!」

 怒ったような、困ったような顔。
 強い口調で叱られ、びくっと震えた俺はそのまま笹山を見上げ、そして、安心したのか全身の緊張が解ける。

「さっ、ささやまぁ……っ」

 安心のあまり、縋りつくように俺は笹山に抱きついた。

「えっ、ちょ、どうしたんですか」
「パンツ…」

 小声で呟く俺に、「パンツ?」と小首を傾げた笹山だったが、ふと腰に回した手がスカートに触れる。
 そして、その下の異変に気付いたようだ。
 ハッとした笹山に顔を押し付け、俺は呻いた。

「パンツ、取られた……っ」



 笹山に連れられ、休憩室へと戻ってきた笹山と俺(ノーパン)。
「なにがあったか説明してください」と怖い顔した笹山に問い詰められ、しどろもどろとたまに噛みながらもひと通りの事情を伝えれば、大体を把握した笹山はこめかみを抑えた。

「…また、あの人ですか」
「ご…ごめんな、せっかく探してもらったのに」
「別にそんなことはいいんですよ、気にしなくても」

 項垂れる俺に、苦笑しながら笹山は首を横に振る。
 よかった、いつもの優しい笹山だ。
 そうほっとしたのも束の間、笹山の目が細められる。

「…それより、俺が言っているのは何故ちゃんとここで待っててくれなかったことです」

 トーンが落ちたその低い声には明らかな怒気が含まれていて。
 やべえ、やっぱり怒ってる。
 内心冷や汗を滲ませた俺が「だって、パンツ」と口籠ったとき。

「パンツくらい、俺がなんとかします。……そんなに俺のこと、信じれませんか?」

 どうやら、笹山は俺が出ていったのが自分を信じれなかったのもあると思っているらしい。
 悲しそうな顔をする笹山に慌てて俺は首を横に振った。

「ご、ごめん…そういうつもりじゃなかったんだ」
「いや…俺の方こそ、すみません。誰かが来た時のこと、ちゃんと考えてなかったんで」

「紀平さんに対する認識が足りませんでした」と、悔しそうに舌打ちをする笹山。
 本当に心配してくれてるのだろう。
 嬉しく思う反面、一瞬笹山の背後に黒いものが見えたような気がしたが気のせいだろう。そう思うことにしよう。

「そ、それで…あの、服は…」

 いつまでもこの格好というのも締まらない。
 短いスカートの裾を抑えつつ、もじもじと笹山に尋ねれば、「あぁ」と笹山は思い出したように声を上げた。
 そして、にこりと微笑む。

「ありましたよ。少し、サイズが小さいかもしれませんが」
「なら、それを早くくれ」
「構いませんが、文句は言わないで下さいね。一番ましなのがこれだったんで」

 やけに意味ありげな言葉だったが、今はこの格好をどうにかすることが最優先だ。
「わかった!言わない!」と力強く頷けば、安心したように息を吐いた笹山は持っていた衣類一式を俺に手渡した。

「では、どうぞ」

 そう笑顔の笹山に見送られ、意気揚々と部屋の隅で着替える俺だったが、それも短い間のことだった。

 そして、早速笹山から拝借した服に着替えたわけだけども……。

 下腹部のみを覆う締め付けるような紺の布。
 パンツ同様きつめの半袖の体操着。
 ご丁寧に赤いジャージの上着までついたそれはどう見てもAVで見るような王道ブルマだ。
 そう、ブルマだ。

「ってなんじゃこりゃ……!!」

 女装が嫌だから笹山に頼んだのに更に女装衣装がやってくるとはどういうことだ。
 あれか、悪質なジョークだ。
 しかも、今度はサイズが小さめなせいで腕とか股間とかがやばいんだけども。視覚的にも。
 そう、笹山の良心であるジャージの裾をグイグイ伸ばしブルマを隠そうとする俺に、笹山はへらりと笑った。

「ノーパンでスカートひらひらさせるよりはましじゃないですか?」
「た…確かに…」

 言われてみれば堂々と女装です!って感じの制服よりかはましだろうが…。

「って違う、これも女装じゃねえか!」
「大丈夫です、パンツです」

 しかも即答。
 スカートじゃないんですから大丈夫ですよ、と云いたいのだろうが俺からしてみればなんかこっちのが犯罪臭が増したような気がしてならないわけだけども。
「でも…っでも…っ」と口籠りながら、俺は改めて自分の服装に目を向ける。
 上はともかく、ジャージの裾から覗くブルマがきつすぎて股間がやばい。ノーパンということもあってか、締め付けがちょっとこうなんかやらしくて勃起しそうになって更に大変なことになるし。
 つーかこれ、まじの女物じゃないのか。
 なんて思いながら「うぅ」って唸ったとき、笹山にぽんと肩を叩かれる。

「薄目で見たら女装に見えませんから」
「見るなぁ!見るなぁー!」

 しかもそんないい笑顔で!
 やっぱり怒ってんじゃないのかと疑いたくなったけど、今はもう隠すのが精一杯だった。
 制服ならまだポピュラーだしネタでもいけるが、ブルマって、よりによってブルマって…!

「なんで、もっと他にあっただろ…っ!」
「まあ、そうですね。スクール水着やボンテージ、穴空き下着にスチュワーデスまで取り揃えてありましたが俺は一番それが原田さんに似合うと思いまして」

「ですが」と、笹山の手が裾を引っ張る俺の手に触れる。
 そのまま裾に隠れたブルマ越しに臀部の輪郭をなぞられ、不意打ちにぞくぞくと背筋が震えた。

「っ、ぁっ?なに…」
「やっぱり、ちょっと小さかったみたいですね。お尻に食い込んでるじゃないですか」

 そう言って、笹山の指先は薄い布越しに割れ目を探る。
 下着がない今、その指の感触はやけに鮮明に感じてしまい、酷く生々しい。

「おま、どこ触って…っ」
「どこって、直してるだけですよ。ほら、ここも裾が短くてお腹が出てしまってます」

 言いながら、片方の手でジャージの裾を托し上げられる。
 むき出しになる腹部に思わず「ひっ」と息を飲み、俺は腰を引いた。
 しかし、腰を抱かれた今、やつから逃げられない。

「やっぱりスクール水着の方がよかったですかね」
「そ……それはやだ……」
「なら、これでよろしいですか?」
「やだ、やだけど……水着もやだ」

 小さく首を横に振り、やんわりと笹山の胸を押し返せば笹山は眉を下げた。

「それは困りましたね」

 腹部を弄る指先が腹筋をなぞる。
 触れるか触れないかのもどかしい感触にぞわぞわと身の毛がよだった。
 びくっと跳ね上がり、後ずさるが腰を抱き寄せられ、離れられない。

「っ、おい、笹山…っ」
「でも、やっぱりこれが一番いいと思いますよ。原田さんには」

 そう言って、笹山はブルマに触れる。
 広げられた掌が丁度尻の辺りにきて、なんか揉まれているような錯覚に……っていうかこれ確実に揉んでないか、なあ、おい。

「っ馬鹿、手…っ…やめろ……っ」

 手が滑ったとかちゃんと履かせようと思ったとかそんな言い訳が出来ないような艶かしいその手の動きに、体が竦む。
 思い切った抵抗が出来ないのはこの格好のせいだろうか、恥ずかしさのあまりに強く出れない。
 でもだからといってされるがままになるのは嫌だ。
 すりすりとブルマを撫で、薄いそれ越しに大きく円を描くように揉み扱いてくる笹山の手を振り払うけど、しつこい。

「あぁ…小さめを選んでよかったです。こんなに締め付けて、形がくっきりと浮かび上がるなんて……最高ですね」
「ばか…っ笹山のばかぁ…っ!」
「その通りです。反論はしません。寧ろ、もっと罵って頂いても構いませんよ」

 冗談か本気かわからない柔らかい声。
 耳元に荒い息が吹き掛かり、全身が熱くなる。
 散々掌でブルマの感触を楽しんだ笹山は満足したのか、ブルマから手を離した。

「しかし」

 ほっとするのも束の間。
 締まったブルマのウエストを掴んだ笹山はそのまま乱暴にそれを上に引っ張った。
 つまり、ただでさえ食い込んでうざったいブルマがケツに食い込むわけで。

「っひぁっ?!」

 ケツどころかちんこの方まで思いっきり締め上げられ、あまりの不意打ちに口から素っ頓狂な声が出てしまう。
 しかし、そんなことで恥らっている暇なんてなくて。

「原田さんも無防備過ぎるんですよ。……一応、俺も男なんですからあんまり隙を見せないでください」

 笹山、それは男相手に言う言葉じゃないぞ。言うなら人妻か未亡人にしてくれ。
 吐息混じり、声そのものはかなり切なそうだが、顔が思いっきり笑ってるぞ笹山。
 ぐいぐいと引っ張られ、下半身に直接ブルマが擦れ、正直まじでやばい。
 伸縮性のお陰で潰れすぎず良い感じに押さえつけられて、もう、本当、絵面的にやばい!

「ぁ…っ、だめ、それっ、やだ……っ!」

 笹山の胸を強く押し、必死に腕から逃げ出そうとするけど動く度に股間が締め付けられ、四肢から力が抜ける。
 全身の熱が下半身に集中し、まさに悪循環というやつだろうか。
 蹌踉めきそうになるところを笹山に支えられ、なんとか転ばずに済んだがそれがいいことなのかどうかはわからない。

「これは…すごい染みですね、見て下さい、原田さん。ここ、こんなに濡れてますよ」

 そう言うなり、笹山は股間に手を伸ばす。
 不自然に濡れたそこに触れた笹山の指はくちゅりと音を立て、粘着質なその染みとの糸をつくった。
「原田さんにも喜んでいただけたみたいで嬉しいです」と嬉しそうに微笑む笹山に耳まで熱くなるのがわかった。
 締め付けられたせいで余計、くっきりと勃起したそれの形を強調するように浮かび上がらせる染み付きブルマ。言葉にするだけで切腹ものだ。

「っうそ、やだ、笹山…っ、やめろってばぁ……っ!」

 これ以上は、やばい。
 あまりの羞恥で涙が滲み、声が震えた。
 ブルマを前にしたこいつは正気ではない。どうにかして逃げなければ。
 そう思って、下半身の締め付けを必死に堪えた俺は思いっきり笹山を突き飛ばした。
 突き飛ばしたはずなのに、なぜか俺の方がバランス崩すという失態。筋力の差は大きかった。

「っつぅ……」

 笹山の腕から逃げ出せた代わりに、その反動で派手に尻餅をついてしまった俺。
 あまりにも派手に転んだのでケツ割れる、と思ったのだが思ったよりも痛くない。
 どうやらクッションの上に落ちたお陰でいくらかショックを和らげたようだ。助かった。
 というか、ん?こんなところにクッションなんかあったか?
 そこまで考えた時だった。体の下のクッションがもぞりと動く。

「もしかして、誘ってるんですか?」

 下方から聞こえてきたのは、呆れたような甘い声。
 その声に反応した俺は、慌てて目を見開き、視線を落とした。

「原田さんって、結構重いですね」

 何故か俺の下には笹山がいた。
 え、ほんとになんで。お前転んだタイミングで滑り込んだのか。いや、ただ助けてくれたんだよな。そう言ってくれ。なあ。

「ちっちげえよっ!って、待っ、ぁあっ?!」

 どうしてそうなるんだ、と慌てて立ち上がろうと腰を浮かせた時。
 太腿を掴まれ、強引に引っ張られる。

「すみません、冗談ですよ。…本当は、このくらいの重量感が一番好きなんです」

 言いながら微笑む笹山はそのまま俺の下腹部に唇を寄せる。というより、下半身を笹山の顔の上へと無理やり引っ張り込まれたといった方が適切なのかもしれない。
 自ら顔面騎乗を実行してくる笹山にぎょっと目を見開いた俺は慌てて立ち上がろうとするが、開くように太腿を引っ張られれば腰が落ちてしまうわけで。

「っやだ、うそ、おい…っ、やめろって!手ぇ離せってば…っ!」
「っ、そんな…何故ですか?」
「だって、こんな、えっAVみたいなはしたない真似…っ!」
「女装はよくて、顔騎は恥ずかしいんですか」

 ぐぐぐ、と脚力を駆使してなんとしてでも笹山の顔に落ちないよう踏ん張る。
 正直、鍛えていない腿の筋肉と関節が痛くてたまらないが笹山の顔面にずるっといくことを考えたら意地でも我慢しなければならない。
 笹山からどう見えてるとか最早そんなこと気にする段ではない。
 腰を動かし、笹山から退こうとしたとき、するりと腿を撫でていた笹山の手がケツに移動する。

「安心してください。どちらも、恥ずかしいことには変わりないですから」

 そう目を細め、笹山が柔らかく微笑んだ時だ。
 腰を撫でていた笹山の骨張った指先がブルマの裾をなぞり、そして中へと滑り込んでくる。
 勿論、下着はつけていないのでブルマの中は素肌になっているわけで。

「ひぃ…っ!」

 ブルマが吸い付いた臀部に無理やり指を捩じ込み、強引に中をまさぐってくるその指先の動きに全身が強張る。
 そして、一瞬。その時俺は隙を見せた。それが、命取りだった。

「あ…………っ?」

 力が抜けたその瞬間、片手で腰を掴まれそのまま強引に腰を下ろされる。
 その下には小さく口を開いた笹山がいて。
 しまった。そう、目を固く瞑ったとき。

「ッぅ、んんんっ!」

 薄いブルマの生地越しに嫌な感触が押し付けられ、恥ずかしさや申し訳なさ、焦りや怒り諸々で頭が真っ白になった。

「あっ、ぁ…あぁ……っ」

 人の顔の上に、乗ってしまった。
 その事実だけで顔面蒼白モノなのに、慌てて退こうとすれば腰と腿を掴まれ更に股ぐらに顔面を押し付けられる。
 それどころか、布越しに湿った感触が押し当てられ、グリグリと股間を刺激されれば全身から血の気が引いた。

「っあ、や、どこ…舐め…っ!」

 吹きかかる息が、押し付けられる舌が、腿に食い込む指が、ただでさえなれない格好に敏感になっていた全身の神経を掻き乱され、あまりの羞恥に死にそうになる。

「んっ、ぅう…っやぁ…っ!だめだってばぁ…っ!」

 それ用のブルマの生地というだけあっては厚くはない。
 濡れた舌に抑えられたそこは次第に染みになり、下着を身につけてないそこまで舌の動きが鮮明に伝わってきた。

「もっ、ほんと……信じらんねえ……っばか、笹山のばかっ!」

 泣きそうになって、それでも人の顔の上に乗ることに耐え切れない俺はもぞもぞと腰を動かし、なんとか笹山へ負担を掛けないようにするが、当の笹山はというと人の腰を掴まえ更に顔を寄せる始末で。

「原田さん、腰、動いてますよ」

 くぐもった声。熱の篭った吐息が吹き掛かり、ぞくりと背筋が震える。
 逃げようとする俺の腰を掴まえたまま、ブルマ越しに肛門を親指で押さえつけられれば「ひっ」と小さく声が漏れてしまう。

「そんなにお尻を押し付けて来るなんて、原田さんがこんなにはしたない方とは思いもしませんでした」

 俺もお前がこんなにはしたないやつとは思わなかった。
 グリグリグリと親指で穿られれば、中途半端に弄られ熱を持ち始めた体は疼き始める。
 布越しのもどかしい指の感触に息が乱れ、鼓動が加速し始めた。

「やめろ…っぉ、も……っ」
「目の前にこんなに可愛いお尻があって、何もしないほうが失礼じゃないですか」
「かっ、……」

 可愛い。
 こんな状況でその単語に反応してしまう自分が情けなくなって恥ずかしくて狼狽えた時。
 腰を掴んでい笹山の手がケツへと降り、ブルマの裾をぐっと捲る。
 下着を身に着けていないことを思い出し、慌てて隠そうとする俺。
 しかし、その手は呆気なく封じられる。

「ひっ」

 強引に曝け出された穴に直接舌を押し当てられ、全身の筋肉が強張った。
 舐められてる。
 濡れた音が下腹部から響く。熱く湿った舌が剥き出しになった窄みをなぞるように触れ、あまりの恥ずかしさに顔から火が吹き出しそうになった。

「あっ、ぁ、うそ、っや…っ」

 逃げようと腰を動かす度に舌が中へと入り込んで、動けなくなる。
 尖らせられた先端にぐちゅぐちゅと入口を解されれば、喉がひくつき声が震えた。

 有り得ない。こんなの、有り得ない。

「やっ、やだ、ささやまっ、やめろっ!」

 たっぷりと唾液を含んだ舌が内壁を摩擦する度に舐められた箇所が蕩けるように疼き始め、無意識のうちに腰が震え始めた。
 笹山の髪を引っ張り、なんとか止めようとするが寧ろ舌の動きは大胆になるばかりで。
 大きくなった自分のもので大きく張り詰めたブルマが笹山の目の前にあると思うと、余計恥ずかしくて、申し訳なくて。

「っやぁ、ささやまぁ…っ」

 やめろ、と懇願するように必死に腰を浮かそうとするが、思うように腰が立たない。
 それどころか、舌を抜き差しされ奥部と入口と内壁をぐちゃぐちゃに掻き回されれば腰がガクガク震え始め、ブルマの中が先走りで濡れ始めるのがわかった。

「はっ、ぁっ、あぁ…っ!」

 やばい、やばい、こんなの、全然嫌なのに。
 恥ずかしくて嫌で屈辱的なのに、乱暴に丁寧に舌で嫐られればきゅんきゅんと奥が疼き、そして、限界まで張り詰めた性器はブルマに締め付けられたまま中に精子をぶち撒けた。
 お漏らししたみたいに広がる熱に、顔が熱くなって、なんかもう、お嫁にいけなくなるくらいに汚された気がしてならない。物理的に。

 前を触られてもいないのに、イッてしまった。
 ケツ舐められただけなのに、イッてしまった。
 その事実は思ったよりも俺にショックを与えるが、それも束の間。
 きゅっと締まったそこに這わされた舌にぐりっと内壁を擦り上げられ、腰はびくりと揺れる。

「っ、も、いいってば、なぁっ!」

 呂律がまともに回らない。
 流れ落ちる汗を拭い取る暇もなく、どろどろに蕩けたそこを掻き回され、腹の中から徐々に熱が湧き上がってくる。
 やばい、このままじゃ、また。
 舌に犯され、嬲られ、イッたばかりの体は特に敏感で。些細な刺激すら濃厚な快感になって襲い掛かってくる。

「これ以上は、まじっ、やばいって、ほんと…っ!おれ、おれ…っ!」

 やめてくれ、と涙目になって懇願するが舌の動きは激しさを増すばかりで。
 ぐちゅぐちゅと円を描くように中を大きく掻き回されたときだ。

「〜〜〜ッ!!」

 加速する鼓動。
 背筋に電流が流れるような甘い快感が走り、まるで自分の体じゃないみたいに腰が痙攣した。
 瞬間、ドクンと大きく脈打ち、あっという間にガチガチに勃起していた性器は既にぐちゃぐちゃに汚れたブルマの中に精子をぶち撒ける。

「っは、ぁ…っ、は……っ」

 また、イッてしまった。
 しかも、三擦り半とかそんなレベルじゃなくて。

 さっきの射精に比べ、やってきた爽快感よりも疲労感のが大きかった。
 しかし、それよりも強すぎる快感の余韻に脳髄が甘く痺れ、筋肉までもが蕩けたように全身に力が入れない。
 くったりと脱力する俺に、ようやく下半身から顔を離した笹山は俺の腰を掴む。

「こちらの方も、すっかり出来上がったみたいですね」
「あ……?」

 笹山の言葉の意味が一瞬理解できず、頭上にクエスチョンマークを浮かべたとき。
 腰を掴まれ、強引にその場に四つん這いにさせられる。
 まるで犬のような体勢にハッとした俺だったが、時既に遅し。

「ちょっ、待って、なに」
「なにって…なにがですか?」
「なっ、なにしてんの、お前!」
「何して欲しいですか?」

 うっとりと目を細め、ブルマの裾を大きく捲り、濡れたそこをなぞってくる笹山に俺は「なにもすんなっ!」と声を荒げる。
 あまりの恥ずかしさで声が裏返ったが、それどころではない。

「そんな殺生なことを言わないでください…大丈夫です、原田さんに手間は掛けませんから」

 どの口でものを言うか。
 熱っぽい吐息混じりに囁かれ、一瞬絆されてしまいそうになったがケツの穴を指で拡げられ、中からとろりと溢れた液体の感触に正気に戻される。

「あっ、だめ、笹山っ、動かすなっ!だめだってば!」
「動かさないと、入らないじゃないですか」

 まあ、確かにそうだけど。そうだけど。
 わかってはいるが、正直ケツが疼いて仕方ないが、だからって、こんなに簡単にヤラせていいのか。今更とかそんなツッコミはやめてくれ。
 必死に理性を保とうとすると俺の気なんか知らず、笹山はジッパーを下ろす。
 え、つかこのまま突っ込むのかよ。せめて脱がせろよ。なんで履いたままなんだよ。どろどろに汚れたせいですげー気持ち悪いんだけど。

 まさかこいつ、それが狙いか。

「あっ、ひっ、嘘、やだ……っ、ささやま…っ!」
「……そんなに可愛い声で名前を呼ばないでください」

「優しくしてほしいんでしょう」と、伸びてきた指に髪を撫でられ、ピクリと肩が震える。
 さっきまで涼しい顔して人のケツの穴しゃぶっていた変態野郎と知らなければうっかり堕ちてしまいそうな甘い声だが、しゃぶられた俺としてはなんかもう泣きたくて仕方がない。
 ぐちょぐちょに舌で嬲られたそこに硬い熱を押し当てられる。
 勿論、必死に括約筋に力を入れたところで丁寧に解されたそこは簡単に笹山のものを受け入れるわけで。

「ぁあ……ッ?!」

 ズズッと濡れそぼった内壁を押し広げ入り込んでくる太く硬いその感触に、全身が反応するように泡立つ。
 ちょっと待って、息ができない。

「っぁっ、やっ、しゃっ、ささやまぁ……っ!」

 背後からのし掛かってくる笹山の体重とともに深く入り込んでくるそれを必死に受け止めようと四肢に力を入れるが、腰の方が先に限界を迎えた。
 ガクガクと震える下半身に笹山の手が絡みつき、ぐっと体を抱き寄せられる。

「あっ、は…ぁ…っ!」
「っ……ほら、言ったじゃないですか。奥までぐっぽりと入りましたよ…っ」
「っあぁ!」

 狭い内壁を無理矢理押し拡げるように摩擦され、慣らすようにゆるく腰を打ち付けられればぐちゅぐちゅと濡れた音を立て中を掻き混ぜられる。
 その都度だらしなく開いた口から涎と嬌声が漏れ、恥ずかしがる暇もなく捩じ込まれる性器を受け止めることだけが精一杯で。

「うそっ、やっ、こんなのぉ…っ!」
「残念がら、嘘じゃないです」

 顔は見えないが、笹山が微笑んでいるのが安易に想像ついた。

 散々嬲られ熱を孕んでいた内壁は、まるで笹山のを、待ち望んでいたかのように絡み付き、意思とは反対に腰が揺れ始める。
 こんなの、こんな格好でケツに突っ込まれて嬉しいはずないのに、楽しくないはずなのに、なんでだ。みるで自分の体じゃないみたいにいつも異常に高揚した鼓動は加速するばかりで。

「ひっ、んんっ!」

 そんな最中、伸びてきた笹山の手に胸を触られ、驚きのあまりに仰け反った。
 丁度乳首の辺りを布の上からなぞられ、たまたまかと思えば開いたジャージから手を滑り込ませ、体操着の上をまさぐるその手は明らかな意思を持っているように勘繰らずにはいられない。
 矢先に、体操着で擦れ、薄い布越しに主張をする尖った突起を抓られる。

「っあ、やっ、だっ、ぁ、ささやまぁっ!」

 ただでさえ数回目の射精で全身の神経が尖ってる中、ケツの穴だけではなく乳首まで弄られたらちょっと待ったまじで冗談抜きでやばいんだけど。ちんこが。

「あっ、ぁ、そこっ、いじるなぁ…っ!」
「そう言われても、こんなに触ってほしそうに勃起させてるのを見過ごすわけにはいかないでしょう」

 いつもの優しい声でぽんぽんとセクハラ染みたことを発言する笹山になんだかもう突っ込んでくるこいつが笹山だと思いたくない。
 指でこりこりと突起を転がされ、笹山の腕の中で身を捩らせる。
 そんな俺を捕まえたまま、バックから大きく突き上げられられば乳首同様張り詰めた性器が大きく腹にぶつかった。

「っく、ぁっ、ァあ…っ!」

 もともとそういう目的で造られた見掛けだけの体操着は衣類越しからでも指の感触を直に伝えてくれる優れもので、汗ばじんだ項を舐められ、両胸の両乳首を引っ張られながらピストンされると出し抜きの度に乳首を引っ張る指先に力が入り鋭い電流が胸から全身へと走る。

「っだめ、イッちゃう、しゃしゃやまっ、動くなっ、うごくなってばぁっ!」
「何を言ってるんですか、動いてるのは原田さんですよ」

「自分がどんなにいやらしい腰つきで俺のことを誘ってるのがわかりませんか?」そう、吐息混じりに笑う笹山は言いながら腰を擦り寄せてくる。
 その声、動きに背後の笹山の存在を意識せずに入られなくなり、余計、体内で渦巻く熱が破裂しそうなほど膨らむのがわかった。

「はぁ…、ぁあ……っ!」

 俺の言葉を素直に聞き入れるいつもの笹山はいまここには居ない。
 当たり前のように性行為を続行させる笹山よりも先に、虫の息の俺の方が先に果てるのは目に見えていて。
 寧ろ、そう仕向けている。
 徐々に激しさを増す腰の動きに、いやらしい手付きで乳首をシコる指に、既に限界が近い俺自身に、そう思わずにはいられなくて。

「っふ、ああ……っ!」

 とか思ってる内にブルマの中にまた射精。
 受け止め切れずに捲れ上がった裾から腿を伝い流れていく自分の精液の感触に、俺は自分がいつの間にかに泣いていたことに気付く。
 怒りが悔しさか恥ずかしさか喜びかはたまた別の何かか、止まらないピストンを全身で受け止めながらそれを判断できるほど俺は図太くない。

「っふふ、また…出ちゃいましたね」

 ちゅっ、ちゅっと音を立てて項に唇を寄せられる。
 耳元で笑われ、カッと全身の血液が熱くなった。
 バカにされそうで、咄嗟に濡れた腿を隠すように足を閉じようとするが笹山に無理矢理開かされる。
 それどころか、

「こんなに汚して…これじゃ、お客さんの前に出られませんよ」
「ぃっ、あっ、あ、あぁっ!」

 誰のせいだと思ってるんだ。そう涙目で睨み付けようとするけど、膨張したそれで何度も擦られ腫れた内壁の感度は増すばかりで。
 そこに獣じみたピストンを打ち込まれれば思考回路は白紙になり、何がなんだからわからなくなる。
 ただ、もっと、激しくして欲しい。なんて言うかのように、下半身は笹山を求めるように勝手に揺れ始めていて。

「すごい、いい眺めです…っ、もっと腰を振ってください、早く終わりたいんですよね」
「んっ、ぅ、ふっ、ぁあ…もっと、もっとッ!」

 抉られる度に脳味噌が蕩けそうなくらい甘い快感が襲い掛かってきて、体から力が抜けそうなる。
 床の上。捲れ上がったジャージの裾を直す暇もなく床に這い蹲る俺を支えるのは腰に回された笹山の手だけで、殆ど崩れ落ちているようなものだった。
 半ばヤケクソになったのか、俺の頭は思考を諦め笹山を受け入れることとこの快感を愉しむことに徹底し始めたようだ。うわ言のように「もっと」と自分の口から出たことに最早驚きもない。悲しきことかな。

「…っ流石、原田さん」
「あっ、ぁっ、ああっ!」

 何度も腰を叩き付けられ、耐え切れず床に突っ伏した俺。
 その上に覆いかぶさるように伸し掛かってきた笹山はそのまま奥まで挿入し、息を吐き出す。

「すみません、ちょっと…もう、無理です」

 なにが、と聞く前に、ズッと音を立て中のそれが抜かれていくと思った瞬間、そのまま奥深くまで一気に貫かれ、その重量に呼吸器官がきゅっと潰される。
 それも束の間。

「さっ、ささやま、やっ、もっと、ゆっ…く、ぅ、あぁ…っ!」

 藻掻くように必死に懇願するが、笹山の耳に届いているのか否か激しい動作で性器を挿入され、ぞくぞくと骨の髄まで甘く痺れ始める。
 締め付けられるブルマにまた自分が勃起しているとかそんなことはもう今更どうでもいいけど性急か挿入にまるで自分まで動物になったみたいで一方的に犯されているというのに、笹山の体重が、熱が、中に捩じ込まれた性器が、全ての笹山の存在に酷く満たされる。
 そして、砕けそうになる腰を笹山にぐっと引き寄せられたとき、そのまま根本奥深くまで咥え込んだガチガチに勃起した笹山のものが大きく脈を打つ。

「んあぁ…っ!」

 瞬間、腹部の中で広がるねっとりとした熱にぶるりと全身が震えた。
 どぷりと音を立て注がれる大量のそれに腹の中が満たされていくのを感じながら、俺は惚けたように目を細める。
 長い射精を終え、小さく息を吐いた笹山はゆっくりとした動作で萎えた性器を引き抜いた。
 塞ぐものを無くしたそこからとろりと大量の精液が流れ出る。それを拭う気力も隠す気力も今の俺には残されていない。

「あの…先ほど何か言っていましたが…すみません、よく聞こえませんでした」
「ゆ…ゆっくり、して……って……ッ」
「ああ、ごめんなさい」

 嗚咽を堪えることもできずに声を震わせる俺に、一発抜いてようやく落ち着きを取り戻したらしい笹山は申し訳なさそうに「今度は気をつけますので」と言い足す。

 そう、ぜひ気を付けてもらわなければ…………え?今度?

 妙な言い回しが気になって、恐る恐る笹山を振り返る俺。
 そして、出したばかりだというのに勃起した笑顔の笹山に全身から血の気が引いていく。

 おい、誰か助けてくれ。

「も、やだ、やめろってば!」
「ですが、中に出してしまったのをそのままにしておくのは…」
「いい、いいってば、自分でするからっ」
「自分で?」
「……ぅ」

 なんで拒否られてんのにそんなに嬉しそうなんだよ、こいつは。

 散々犯され、腰に力が入らずぐったりとなる俺とは対照的にどこか活き活きとしだした笹山になんだかもう俺は抵抗する元気もなく、後処理を自ら率先する笹山に抱かれたままもうどうにでもなれと開き直ろうと思うが、やはり、状況が状況なだけに落ち着かない。

「では、失礼します」

 ソファーの上、座る笹山の上に向かい合うように跨らされた俺は臀部に伸びてくるその手にぴくりと反応する。

「…早く、しろよ」

 まだ情事の熱が冷めきっていない今、下手に焦らされたらたまったもんではない。
 笹山の指をぎゅっと握れば、笹山は少しだけ笑った。
 そして、応えるようにブルマのウエストを掴み、そのままゆっくりと下ろしていく。
 ぬちゃり、と音を立て精液が零れた。
 この生々しさによる羞恥は最早拷問レベルではないだろうか。着せられた時よりも脱がされる時のが恥ずかしいってどういうことだよ。

「せっかく用意したんですが、これはもう洗った方がよさそうですね。…すごい汚れてます」
「だっ、誰のせいだと……!」
「そうですね、すみません。俺が原田さんの中に…」
「いっ、いいから!言わなくていいからっ!」

 なんて言い合いながらも、するりとブルマを脱がされる。
 ぬちゃぬちゃしたままよりは遥かにマシだが、元より下着を身に着けていない俺は下裸になってしまうわけで。

 ……すーすーする。
 必死になってジャージの裾を引っ張り、せめて笹山には見えないようにと隠すがその代わりにケツがはみ出て大変なことになっているに違いない。
 なんて思うと今更になっていいしれない気恥ずかしさがこみ上げてきた。

「うぅ……っ」
「そんなに隠さなくても大丈夫ですよ。俺しかいないんですから」
「お前がいるから隠してんだよ…!」
「それは…お気遣いありがとうございます。確かに、隠された方が無理矢理暴きたくなりますしね」

 な、なにを言ってんだこいつは。さすがの俺もドンびくぞ。

 さらりととんでもないことを口にする笹山。本人にしては冗談のつもりなのだろうが笑えない。リアルすぎて笑えない。
 青ざめ、笹山と心の距離を置こうとした時、「あ、原田さん」と思い出したように笹山は俺を見上げた。

「こんなこともあろうかとついでにスク水も持ってきてたんですがよろしければ」
「ああ…悪い……っておい!いらねえよ!どさくさに紛れてなに渡してんだよ!つーかどこに隠してたんだよ!」
「念のためと思いましてポケットに」


 笹山お前…店に笹山の汚れのない笑顔目当てで来ている女客がポケットからスク水はみ出した笑顔のお前を見てどんな顔をするか考えてもみろよ…流石に同情するぞ俺も…。
 突っ込むのが馬鹿馬鹿しくなって、「着ない」とそっぽ向けば、笹山は困ったように眉を寄せる。

「原田さん、背に腹は変えられないと言うじゃないですか」
「そ、そうだけど…流石にこう、越えちゃいけないラインというものがあってだな…」
「そうですか、それなら仕方ないですね。じゃあまたの機会ということで」

 よろしくねえよ。

「それじゃあ、シャワーで汗でも流しましょうか。お互いドロドロですしね」

 気を取り直した笹山の提案に、なんとなく気は進まなかったがまあ確かにこのままでいるよりかはひとっ風呂浴びたい気分だ。
「あぁ」と頷き返し、まともに立てない俺は笹山に支えられるように簡易のシャワールームへ向かったわけだけども…。

「いやーさっぱりしましたね」
「ああ、やっぱり一汗掻いたあとのシャワーは最高だよな!」

 なんて汗と精子とともに数十分前のことを水に流した俺達。
 笹山に手渡されたタオルを受け取り、ほくほくとしながら体を拭いている俺の横、同様ほくほくとした笹山はどこからか取り出した綺麗なパンツに履き替える。
 そう、綺麗なパンツに。
 ボクサータイプの、ちょっと悪趣味な柄の綺麗なパンツに。

 ………………………………パンツ?

「……おい!おいおいおい!」
「どうしたんですか?」
「どっ、そのパンツ……」
「ああ、夏場はよくシャワー浴びるんでこっちにいくつか置いてたんですよ」
「なっなんで、それ、渡してくれなかったんだよ…っ」
「え?もしかして、原田さん俺のパンツ履きたいんですか?」

 わなわなと震える俺に、笹山は驚いたように目を丸くする。
 ……なんかその言い方は語弊があるような気がしてならない。

「や、履きたいっていうか、スク水とかブルマよりは」
「嬉しいです、原田さんの方からそう言っていただけるなんて」

 ぱああと目を輝かせる笹山に、ぞくりと寒気が走る。いつもなら癒される嬉しそうな笹山の笑顔が、今はただひたすら恐ろしい。

「あっ、や、やっぱいい…」
「では、俺の方から履かせますよ。足、出して下さい」
「いいっ、いいから!」

 そう強く拒否れば、びくりと笹山の肩が跳ね、みるみるうちに笹山の表情から笑みが消えていく。

「……やっぱり、嫌なんですか?」

 ショックを受け、しょんぼりと眉尻を下げる笹山は不安そうな目で俺を見上げた。
 あまりの項垂れようにないはずの犬耳としっぽががだらーんと垂れている幻覚が視界に現れる。

「えっ、あ……………………お願いします」
「流石、原田さん」

 固まる俺に、さっきまでの落ち込みは嘘のようににっこりと微笑む笹山になんだかもう俺は笹山の嬉しそうな笑顔を見れたらそれでいいと思う。現実逃避。

 おしまい

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