アダルトな大人


 チャイナ娘♂の災難※ 【四川×チャイナ原田/女装(攻めも少しあります)/セクハラ/隠姦/羞恥】

「なあ、四川」
「見んじゃねえ」
「なあってば」
「うるせぇ。消えろ」
「いい加減こっち向けよ」
「…嫌だ」
「大丈夫だって、お前、わりとそれ似合って……ブフッ!」

 休憩室内。
 ソファーに腰を下ろしたまま頑なにこちらを向こうとしない四川の正面に回り込むが、限界だった。
 コスプレ強化週間、二日目。
 接客担当の店員全員強制コスプレという名の罰ゲームが店ぐるみで行われている真っ只中。
 深いスリットが入った真っ赤な生地と金の刺繍が派手なチャイナドレス(膝上15センチのミニ)を身に纏った四川は不機嫌な顔を更にしかめ、俺を睨む。
 しかし、そんな姿で見上げられたところで笑いしか込み上げてこない。

「っふひゃ、やべ、まじ、ひぃッ!お前、似合いすぎ!ぶはははッ!」
「……」
「あっはっはっはっはっ!なんだよその格好!まじやべえって!やべえ、ははっ!」

 微動だにしない四川がまた更に不気味で俺は腹をよじらせる。
 ひいひいと軽い呼吸困難に陥りつつ忍ばせていた携帯電話で青筋を浮かべるチャイナを写メったとき、チャイナは動いた。

「って、あ」

 ぱしゃりとシャッターが切られると同時に立ち上がった四川に携帯を取り上げられる。
 なにすんだよ、と目の前の長身を見上げた俺は体の線がはっきりとした服を着た四川にまたふふっと笑みを溢した。その都度四川の額に青筋が浮かぶ。

「お前、あんま舐めた真似してんじゃねえよ」

 真っ正面から見据えられ、底冷えするような低い声に鼓膜が静かに震えた。
 言い表せれないほどの威圧感に一瞬笑みが引っ込み、背筋が震える。

「……ん、なにまじ切れして……くひっ」

 そして視線を泳がせやつの全身に目を向けた俺は我慢できず噴き出した。

「ごっ、ごめ……ふふッ、だって、お前がそんな格好してるから……っ!」

 笑いすぎて熱くなる俺とは対照的に四川の纏う空気が冷えていくのを感じたがやはり止まらない。
 そう口を押さえ、笑いを堪えながら続けたときだった。
 仏頂面の四川はいきなりチャイナ服を脱ぎ出す。その場で。俺の目の前で。

「あ、お前なに脱いで…っ!ってなんで下なんも着てないんだよ変態かよ」
「暑いんだよ、これ。人を露出狂みたいに言うんじゃねえよ、パンツ穿いてんだろうが、パンツ。ほら見ろ」
「見せんな、ばか」
「女装するより露出狂のがましだっての」

 そういって脱いだチャイナを拾い上げるパンツ一枚の四川。
 同性相手だし何度か見たこともあったがやはり目のやり場に困ってしまいソファーの影に逃げようとしたらがしっと肩を掴まれた。

「な…なんだよ」
「お前、ずいぶんとこれが気に入っているみたいだな」

 満面の笑みを浮かべた四川はいいながら俺の腰を抱き抱え、その丸めたチャイナを俺の頬に押し付けてくる。
 爽やかな香水の匂い。
 その鼻孔を擽る爽やかさは逆に俺の不安を煽り立ててくる。
 嫌な予感。

「え、や、別に」

 がしがしと押し付けられるそれにどっと全身から汗が吹き出す。
 しどろもどろ否定する俺に構わず四川は悪魔のような言葉を口にした。

「そんなに好きならさ、お前が着ればいいじゃん」

 口は災いの元。
 今さら、そんな言葉を思い出す。

 ◆ ◆ ◆

 男子便所の鏡の前。そこに映り込んだ自分の姿に、俺はわなわなと震えた。

 肌に吸い付くように、体のラインを浮かび上がらせる作りの鮮やかな薄手の布地。
 膝上10センチ越えの最早目に毒レベルのショート丈。
 唯一の救いといえば、全面に掛けて施された派手な金糸の刺繍が露出した肌よりも目立つということだろうか。

 体に凹凸のある女が着たらそれこそもう堪らないのだけれど、それが自分となると萎えるどころか心に大きなダメージを負うレベルで。

「な、なんで俺がこんな格好……」
「なんでってそりゃ、コスプレデーだからだろ。別になんもおかしくねえよね」

 そう、確かに今この店ではコスプレ強化週間という名のコスプレ衣装の在庫一掃セールなるものがあっている。
 そのため、店員たちが各々コスプレしているのでまあ俺がチャイナ着てようがなにもおかしくないしそれはなんとかの摂理というわけで…………。

「って、んなわけあるか!第一なんでお前普通に着替えてるんだよ!」

 本来ならば店長にお前はそのままでいいと言われていたのに、こいつ、目の前でにやにやと笑っている四川に無理矢理着せられたのだった。そして当の本人はどこから持ってきたのか私服に着替えてるし。

「いいんだよ、これ、うちの店員のコスプレだから」

 無茶苦茶な!

「それなら俺だって………」
「あ?新入りの下っ端にそんな権限があると思ってんのかよ」
「く……ッ!」

 同じバイトのくせにどうしたらこの上から目線な態度を取れるんだ。年齢だって変わんねーし、寧ろこいつのが下なのに、なによりなにも言い返せない自分が悔しい。

 うぐぐと歯を食い縛っていると、こちらをじろじろと眺めていた四川はふっと鼻で笑う。

「それにしても、ほんと似合わねえな。ここまで色気ねえコスプレも初めて見たぞ」
「お、お前に言われたくねえから!だ…第一、四川よりかは似合ってるし…!」
「そんな格好似合いたくもねえよ」
「うぐっ」

 ごもっともです。
 自分から墓穴掘ってしまい、なにも言えなくなる俺に四川は「つうかさ」とまだこちらを攻め立ててくる。

「そんなに言うんならさっさとその自慢の女装、他の連中に見せてこいよ」
「〜〜……ッ」

「自信あるんだろ?」と嫌らしく笑う四川に腰を撫でられ、全身が泡立つ。
 元よりそういうプレイ用のこの服は服の上からでも感触が伝わる仕様のようで。
 慌ててやつの手をたたき落とした俺はそのまま四川を睨んだ。

「別に、お前に言われなくてもそうするっ!」

 こうなったら、やけくそだ。こいつに馬鹿にされ続けるくらいなら他のコスプレした店員たちに紛れてさらし者になった方がましだ。
 そう開き直った俺は、四川から逃げるように男子便所を飛び出した。
 四川への怒りでいっぱいになった俺の頭にあとのことなんて考える余裕なんて残されていないわけで。


「ほんっと、馬鹿だよなぁ…?…………あー、面白」

 ◆ ◆ ◆

 四川から逃げるため、勢いのまま店に出てきたはいいが……。

「あれ?原田さん、結局着替えたんですか?」
「え、あ、あぁ…まあな」

 店へ出るなり、レジの笹山とばったり鉢合わせしてしまったが、当の笹山はというと「似合ってますよ」と微笑むばかりで。
 どこかの誰かさんのように鼻で笑ったりしないだけいいのだろうが、なんだろうか、こう、フォローされてる感が余計居た堪れなくなる。
 まあ、かくいう笹山も男前台無しになるようなメイド服を身に纏っているのでこの場合はイーブンなのだろうが。

「あれ、でも確かチャイナ服って確かア……」
「あー!じゃ、俺、そろそろ行くわ。ご奉仕頑張ってな!」
「ありがとうございます。原田さんも頑張ってくださいね。少しの辛抱ですから」

 こういうとき笹山の言葉は身に沁みる。
 もう少し一緒に居たかったが、下手にボロ出して四川から無理矢理着替えさせられたことを勘繰られては堪らない。
 颯爽とレジを離れた俺は日課である便所掃除を行うため客用便所へと向かった。

 こう、改めて見るとなんというかシュールだ。
 モップにバケツにミニスカチャイナ。…………うん、何も言うまい。

 とにかく、さっさと終わらせよう。平常心平常心と呟きながら両手でしっかりとモップを構えた俺は、腰に力を入れる。
 そのままタイルの上を擦り上げようとしたとき。ピロピロリン、となんとも可愛らしい音が響いた。

「!!」
「おい原田、お前は着替えなくていいって言ったはずだがどういうことだ?」
「て、店長…!ってなに撮ってんすか!」
「ハッ!手が勝手に……」

 白々しい!

 慌てて背後から現れた店長に備えるようモップを構える俺。
 表に清掃中の看板出してたから誰もこないものだと油断していただけに、現れた店長に心臓が煩くなる。

「…そう構えるな。仕事中の相手を邪魔するほど俺も阿呆ではない。しかしまあ、まさかお前がそんなに着たかったがっていたとはな。俺なりに配慮をしてやったのだが、余計なお世話だったか?」

 まさか四川から無理矢理着せられたなんて言う気にはなれなくて、意外そうな店長に俺は口籠る。
 かなり誤解されているが、弱みと受け取られるよりかは開き直った方がいいだろう。そう判断した俺は自分なりに精一杯ニヒルな笑みを浮かべてみる。

「そうですよ、べ…別にこれくらい俺だって全然余裕なんで…寧ろこん中で一番似合ってるんじゃねーの?俺?…的な?」

 とにかくできる限り虚勢張ってみるが、言いながらなんか穴に潜りたくなる。
 そんな俺をどう思ったかは知らないが、じっとこちらを見定めるように視線を向けた店長は「そうか」と笑みを浮かべた。

「ならば、お前には特別に仕事を与えてやろう」
「し、仕事…?」

 ただならぬ嫌な予感。

「ああ、たまには便所掃除以外もしたいだろうしな。なに、そんな不安そうな顔をするな。
 ――ちょっとした肉体労働だ」

 ◆ ◆ ◆

 確かに、確かに肉体労働とは言ったけど…。
 まじで肉体労働じゃねえか!

 店長に連れて来られた倉庫にて。
 目の前には山のように積み上げられたダンボール。
 これを店内の棚に入れ込め。
 店長はそれだけを言えば他の店員に呼ばれ、そのままどっか行った。
 いやまあ、頭使うよりか体使う方が得意な方だしそれ自体は全然問題ないんだけど。

 俺が気にしてることはもう一つ別にあった。

 というわけで、ダンボールを店内へ持ち込んだ俺は店長に指定されていた空の商品棚の前までやってきた。
 俺の背丈すら余裕で通り越した商品棚の前。用意されたのは一本の脚立。

「……」

 まあ、これ使って上れってことですよね。
 いや無理無理無理。こんな丈の服でそんなもの上ってみろ、たまたま客来たら大惨事じゃねえか。俺が。

 そこまで考えて、ようやく店長の狙いがわかった。
 もしかしなくてもあの睫毛、俺がこうなるのを分かってて謀ったな…!!

 ハメられた。肉体労働とかいうからちょっとあれな想像してたら普通の肉体労働だったから安心していたが、ハメられた。

 くそう…こうなったらやってやる…!
 幸い、辺りに人気はない。誰かが来る前にちゃっちゃと済ませよう。
 スカートの中が見えちゃうから出来ませんなんてそんなこと言うくらいならやってやる!
 そう開き直った俺は、脚立に登る前に念のためドレスの丈を引っ張って伸ばしておく。紳士としての嗜みだ。

「っ、よいしょ……っ」

 脚立の足場、うっかり足を滑らせてしまわないように気をつけながら次々と商品を置いていく。
 このペースでイケば、案外さっさと終わるかもな。なんて、思いながら手に取った一箱を目の前の棚に置く。そして、手持ちがなくなったので休憩ついでに一旦降りようとしたときだった。

 脚立のすぐ傍。
 背後からこちらを眺めるように立っていたそいつに気がついた俺は「あぁっ!」と思わず声を上げてしまう。

「四川お前、いつから……っ!つかいるんなら手伝えよ!」
「たまたま通りかかっただけ。そしたらひっでー格好したのが居たから見てたんだよ」

 油断しきっていただけに、いつの間にそこにいた四川にかなり動揺していると「おい、ちゃんと下見ろ」と叱られる。
 誰のせいだと思ってんだ。
 取り敢えず脚立を降りたとしたとき、なにかが裾を強く引っ張ってきた。

「あ、あれ?」

 どうやら脚立の金具に引っ掛かってしまったようだ。
 動けば動こうとするほど嫌な音がして、下手に動けなくなってしまう。

「おい、なに遊んでんだよ」
「あっ、遊んでねえよ、ただ、なんか引っ掛かって…」
「あんな座り方してっからだろ」

 そう言って笑う四川。
 そこまで見られてたのか。今更になって恥ずかしくなったが、よくよく考えてみれば恥ずかしいのは現在進行形か。

「あーあ、がっつり引っ掛かってんじゃねえか」
「まじで?」
「これ、破ったり汚したりしたら弁償だって言ってたぞ、店長」
「まじで?!」

 それを聞いたら、なんかこのあしらわれた刺繍とかすごく高そうに見えてきた…。
 あの店長のことだ、あれやこれやいちゃもんつけてくるに違いない。
 どうしようどうしようと狼狽えていると、捲くれ上がった裾を抑えていた手を四川に軽く払われた。

「ちょっ、待って、四川」
「動くな。……取ってやるから」

 耳のすぐ傍。掛けられたその言葉に、一瞬俺は凍り付いた。
 あの四川が俺を助けてくれるだって?いやもしかしたら動けない俺を騙して更に絡ませるつもりなんじゃ…!

 頭の中で色々な思考が飛び交うが、腰の近くで動く手の感触とか、なんか正面に立たれているせいで抱き締められてるような錯覚を覚えて、自然と身が竦む。

「し…四川……っ」
「あ?話しかけんじゃねえよ」

 よっぽど絡まっているのか、イライラした口調で答えてくる四川につい俺は口を噤んでしまう。
 というかさっきから近すぎるのだ。
 服が服なだけあって、ここまで密着されるとやばいっていうか、なんというか。
 …黙っていると心臓の音がやつにまで聞こえてしまいそうで、なにか喋らないと。そう咄嗟に頭働かせた俺は適当に口を開いた。

「破くなよ」

 そう、頭に浮かんだ言葉を慌てて口にしたとき。
 どこからかぶちりとなにかが切れたような音がした。
 なんだろうかと顔を上げれば、額に青筋を浮かべた四川と目があった。

 ……取り敢えず、俺の言葉が四川の癪に障ったということだけはよくわかった。

「てめぇ………人がしてやってんのにごちゃごちゃうるせえな! 誰のためにやってやってんだと思ってんだよッ!」
「えっ………………俺のため?」
「……………………」

 え、何その間。

「……ックソ、もう知るか! 勝手に引っ掛かってろ!」

 よほどムカついたらしい。
 ブチ切れた四川は言うなり手錠を取り出し、俺の手首にそれをハメた。

 …………ん?手錠?

「ちょっ、おい、なんだよこれ!」
「うるせえ、喋るな」

 そんな横暴な。
 手錠をどこから取り出したとかもしかして持ち歩いてるのかとか色々突っ込みたいことはあったが、躊躇いもなく片方の輪を棚の枠組みにハメる四川に全て吹っ飛んだ。

「なっ、なにやってんだよ! 馬鹿! そんなところに繋げたら動けねえだろ!」
「動けねえようにしてんだよ」

 だから、なんで。
 そう問い掛けるよりも先に、自分に向けられた四の視線に気付く。そして、今度こそ自由に動けなくなったという順調に悪化している状況にもだ。

「…………お、お前、まさか変なこと考えてないだろうな…」
「変なこと? なんだよ」
「えっ」
「このまま放置してどっか行くとかか?」

 当たり前のように、さらりと口にする四川に、逆にこちらの方が戸惑う。
 放置、確かにそれも嫌だけど、正直てっきりその、ほら、そういうあれなのかと思っていた俺はすっかりと毒されている自分の思考回路に気付き、恥ずかしさのあまりなんだかもう舌を噛み切りたくなる。

「ぁ…いや……その…」

 目を合わせることも辛くて、つい視線が泳いだ。
 なにか言おうとするけど言葉が突っ掛かってしまい、うわ、やばい。まじで俺が変態みたいじゃねーか。
 いやだって四川のことだから、てっきりそういうつもりかのかと…うわぁもうやだ死にたい。

 顔を見られたくなくて、咄嗟に後ずされば背後の脚立にぶつかる。
 躓きそうになって、伸びてきた四川の腕に腰を支えられた。

「それとも、俺があんたをここで犯すとでも思ったのか?」

 抱き抱えられた拍子に顔が近付く。
 そう、笑う四川に真正面から見詰められ、今度こそ言葉に詰まった。

「期待してんじゃねえよ、ド淫乱」
「い、い…………淫乱?! 誰がっ? 俺がか?!」

 しかもド淫乱だって?!
 聞き捨てならない、なんで、なんで俺かどこぞのSM官能小説のような呼称で罵られなければならないんだ!

「他にどこにいるんだよ、脳味噌に精子しか詰まってねーのか?」
「な……っ!」

 ここまで馬鹿にされると、怒りを通り越して悔しくなってきた。
 露骨に馬鹿にされ、顔が熱くなる。
 絶句する俺に四川は更に愉快そうに笑う。

「ハハッ! まじで自覚ねぇのかよ、お前」

 珍しく声を上げて笑う四川に、どういう意味だと睨み付けたとき、伸びてきた指先が胸元に這わされる。
 薄い生地越し。筋をなぞるように動く指にびくりと反応したとき、四川は目を細める。

「さっきから触って欲しくて堪んねえって、お前、全身で言ってんだよ」

「気付いてねえの?」と笑う四川は、薄く浮かび上がっていた突起をぐりっと指で押し潰した。
 瞬間、微弱な電流が流されたかのように全身がビクリと跳ね上がる。

「っ、やめろ」
「嫌だァ? ありがとうございます、お願いしますだろうが。わざわざお前の相手してやってんだからさぁ、感謝しろよ」

 なぜそうなるんだ。ここまで好き勝手言われると流石に寛容寛大な俺も頭にくるものがある。

「っふざけんなよ、誰がそんなこと頼ん……っ!」

 言い掛けた矢先、乳首の輪郭をなぞるように這わされていた四川の指に固くなり始めていたそこを思いっきり抓られた。

「っ、く、ぅ」
「お前、自分の立場分かってんのかよ。あ?糞チャイナ」

 てめえ自分がチャイナじゃなかったらこの態度か。
 ふざけんな元チャイナと言い返そうと口を開いた瞬間衣類越しに摘んでくる指先に力が入り、堪らず短い声を漏らした。
 針で刺したような鋭い痛みに全身が熱くなる。

「っ、この野郎…っ人が動けないからって勝手なこと言うなよ…!」
「はあ? まさかちげーとか言わねえよな。こんなに勃たせて」

 小馬鹿にしたように笑う四川にぐにぐにと押し潰され、ぶるりと腰が震える。

「やめろ、触んなっ! それ以上したら……っ」
「なんだよ、怒るのか?」
「っあ、当たり前だ…ろ…っんんッ」

 言いかけて、両方同時に抓られれば腰から力が抜けそうになる。
 腿の間にやつの膝が入り込んできて、辛うじてその場に座り込むようなことにならずには済んだけど、ちょっと待て。この体勢はちょっと待て。

「っ、おい、退けって、あっち行けよ…っ!」

 傍からみたら抱き合ってるように見えないこともないこの体勢に、というか足の間に挟まれた四川の膝がただでさえ服としての役割を果たしていないスカートの中に入ってきてやばい。絵面的にもメンタル的にも。

「んだよ、怒るのか? ならもっと怒れよ。本気で抵抗してみせろよ。…じゃねえと、まじでここで犯すぞ」

 笑いながら耳朶に唇を寄せてくる四川。
 腰に伸びた手に背筋のラインをなぞられ、「ひょっ」となんとも情けない声が出てしまう。

「っ、正気かよ、ふざけんな、バカっ、誰か来たら…ッ」
「来たら?」
「き、来たら……」

 想像して、ぞくりと背中に寒気が走る。
 悪寒か、それとも別の何かか、俺には判断つかない。
 ただ、目の前のこいつがまじで別に見つかっても構わないとかろくでもないこと考えていることは一目瞭然で。

「ま、どっちにしろ困るのはお前だよな。そんなこっ恥ずかしい格好、普通の神経したら無理だろ」
「おっ、おい! お前だってさっきまでこれだったろ!」
「はあ? 意味わかんねー、俺がそんなの着るわけねえだろ」

 こ、こいつ、自分の女装を記憶から消してやがる!!
 真顔ですっとぼける四川にこの野郎と殴りかかろうとするが、手首の手錠がそれを邪魔した。

「それに比べて原田サンは自主的にこんなもの着て仕事頑張ってんだもんなぁ。さっすが」
「うおおお! まじお前覚えとけよ! これ外れたらぜってー殴る!」

 あまりにもバカにした四川の態度にブチ切れれば、ニヤニヤと笑う四川は「おー怖」と大げさに肩を竦めた。そして、にこりと笑った。
 それはいつも見せてる根性ひん曲がったような邪悪な笑みではなく、どこはかとなく胡散臭さを匂わせる爽やかな笑顔で。

「でもま、俺を殴るなら先にやることがあるだろ」

 そういって、四川はどこからか取り出した小さな手錠の鍵を自分の舌の上に乗せ、はにかんだ。

「なあ?」
「っ、な、なに言って…」

 四川の言葉が理解できなくて、というかしたくなくて、唖然とする俺。
 四川の舌から取れというのだろう、鍵を。それは理解できたけど、腕が使えない今使えるものは限られていて。
 空いている方の腕を伸ばそうとした矢先、奴に掴み上げられた。

「…舌で取れって言ってんだよ。わかるだろ?」
「なんでそんなことしなきゃいけねえんだよ…っ」
「はあ? このまま手錠に繋がれてぇのかよ」

 それもいいけどな、と喉を鳴らして笑った四川。
 全然よくない。どこにいい要素があるんだ。
 だけど、四川のことだ。まじでこのままにしてさっさと帰りそうな気配すらある。

「くそ……っ」

 別にキスをするわけではない。鍵を取るのだ。そう、取るだけなのだ。そこにやましいあれもロマンス的なあれも存在しない。
 自分に言い聞かせるように頭の中で繰り返す。
 よし!と自分に喝を入れ、俺は四川を睨む。そして薄目で唇を寄せようとするが…あれ、届かない。

「って、背伸びしてんじゃねーよ!!」

 そして爆笑してんじゃねえ!
 笑いを堪えて肩を揺らす四川に顔から火が吹きそうになる。
 また誂われたのか!

「馬鹿。そこは普通舌使うだろ」

 そして、一頻り笑った四川の言葉につられ、躊躇いながらも俺は舌を出す。
 やばい、恥ずかしい。なにしてんだ俺は。
 犬かなにかみたいに舌を突き出す格好になったはいいが、やつの視線が苦痛で。諸々から目を逸らすため、ぎゆっと目を瞑ったとき。
 舌先に、ぬるりとしたものが触れた。

「っ、ん」

 一瞬怖気づいて逃げ腰になったとき、後頭部に回された手に引き寄せられ、深く、舌を絡め取られる。
 次の瞬間、足元の方でチャリンとちいさな金属音が響いた。

 ……ん?金属音?…………金属音?!?!
 あれ、もしかして鍵落ちてませんか。舌に全くそれらしき感触がないんですが落ちてませんか…!!
 慌てて中断させようとやつの胸を叩くけど、一向に離れない。
 それどころか、絡み付いてくる舌は咥内の付け根まで触れてくる。

「ちょ、おい…っふ、んん…ッ!」

 慌ててやつから逃げようと身を捩らせるが、顎を掴まれ逃げられない。
 奥深くまで入り込んでくる四川の舌に、全身が緊張する。

 鍵ねーならこんなのただのキスじゃねーか。
 人の努力と純情を全力で踏み躙ってくるやつに怒りを覚えたが、生々しい舌に舌の根っこをなぞられれば頭の中は真っ白になって。

「っ、ふ、ぅ……」

 やばい、やばい、やばいとわかってるのに、咥内を擽られると体から力が抜けそうになって更にやばい。
 周りの音や声が遠くなって、頭の中が目の前の四川でいっぱいになったとき、不意に、商品棚声に人の声が聞こえてきた。

「おっかしーなー、笹山君が四川君こっちの方にいるって言ってたのにー」
「でも笹山君のメイド似合ってたよねー!」
「だよね、髪が長いからいいよねー」
「紀平さんは……」
「…………」
「…………」

 おい紀平さんなんの女装したんだよ、女の子達がお通夜みたいな空気になってんじゃねーか。
 ……じゃなくて!!

「……ッ、……!!」

 近付いてくる声に、心拍数が跳ね上がる。
 商品棚のすぐ向こうに客がいるというのに一向に唇を離す気配を見せるどころか激しく唇を貪ってくる四川に心臓がどうにかなりそうだった。
 手錠のハメられていない方の手でやつの髪を引っ張り、無理矢理引き剥がそうと試みるがそれでもやつは構わず俺の腰に手を回してきて。

「んぅ……ッ!」

 あろうことか人のケツを揉みしだいてくる目の前の男に目を見開いた俺は、つい、そう、つい、驚きのあまり咥内の舌に歯を立ててしまった。
 ガリッと嫌な音とともに口いっぱいに広がる鉄の味。
 顔を歪めた四川は咄嗟に俺から唇を離し、そして手で口を塞いだ。

「てんめェ…」
「お、お前がやめないからだろ! つーか鍵! 落ちてんじゃねーか!!」
「うるせえな、自分からキス強請っておいてごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ」

 すさまじい曲解。あまりにも強引すぎる四川の言葉についカッとなった俺が「強請ってねえから!」とすかさず訂正を入れたとき。
 予想以上に出てしまった自分の声にハッとした。しかし、気付いた時にはとき既に遅しというやつで。

「今、なんか声しなかった?」

 一人の子がそんなことを言い出し、動いていた複数の足音が止まった。
 ぎくりと全身が強張る。
 背筋が凍りつき、青褪める俺に四川はにやりと口元を歪めた。
 そして、伸びてきた指は唇を割って咥内へ入ってきて、奥へと窄まっていた舌を引っ張り出してくる。

「っぅ……ッ!」
「今更恥ずかしがってんじゃねえぞ」

 一瞬、「声、聞かせろよ」と笑う四川が悪魔か魔王かなんかその辺の鬼に見えたのは俺の見間違いではないはずだ。
 絶対に声を出すものか。こんな横暴なやつなんかの、言うことなんか尚更だ。
 そう決意して数分、そんな俺の意思とは裏腹に強制的に開かされた口からはなんか色々だだ漏れていた。

「っ、ふ、ぁ…っ…!」

 口を閉じれないというのは体にとって結構な苦痛で、まずアゴが痛い。そして唾液が止まらない。通常ならば噛み締めていた声も、息もだ。

「それで、我慢してるつもりかよ」
「は、ぁ…っ!」

 薄い生地越しに胸の突起を摘まれ、背筋が震える。
 無意識に声が漏れてしまい、慌てて口を閉じようとするけど自分の舌が邪魔で閉まらない。
 片手でなんとか四川の手を振り払おうとするけど、その分体の防御ががら空きになってしまうわけで。

「っ、…! …ふ、ぅうっ!」

 執拗に乳首を捏ねられ、無駄に肌に優しく出来ている生地の感触が擦れてうわほんとこれちょっと冗談抜きでやばいんだけど。誰だよこんな衣装提案したやつは出てこい。
 気持ちいいなんて死んでも言いたくないが、生地の感触も相俟って体に与えられる柔らかい刺激が余計、腰に来た。

「きったねえ面だな」

 呆れたように、それでいてどこか楽しそうに笑う四川はそういって俺の唇に舌を這わす。
 溢れていた唾液を舐め取られ、顔が熱くなる。
 誰のせいだと思ってるんだと言い返そうとするが、そのまま耳朶、首筋へと舌を這わされ、文句ごと息を飲んだ。

「っ、ぁ…っ…」

 吹き掛かる吐息が、触れた四川の手が、すべてに意識を掻き乱され、集中できない。
 引っ張られ、揉まれ、押し潰され、間接的に加えられる刺激に頭の中がぐちゃぐちゃになって、涎が止まらなくなる。
 こんなんじゃダメだ。すぐそこに客がいるのに。わかってはいるが、わかっているからこそ、余計目の前の四川を意識してしまって、正直、どうにかなりそうだった。
 堪らず、背後の脚立に凭れかかったとき。ガシャンと小さな音が響いた。

「やっぱりそうだよ、こっちからだって」

 すぐ傍から聞こえてきたその声に、どくんと心臓が大きく跳ね上がる。

「でも、そっちってなんか…」
「おーい、四川くーん!」

「――ッ!!」

 近付いてくる足音と女の子の声に全身の筋肉が緊張し、血の気が引く。なのに、下腹部に集める熱は増すばかりで。
 俺の意思とは裏腹に、腹の底から迫り上がってくるなにかが溢れそうになったその時だった。

「お嬢様方、申し訳ございませんがそちらはまだ準備中のため立ち入り禁止となっております」

 不意に、聞こえてきた落ち着いた声。
 一瞬誰かと思ったが、この声は確か営業モードに入った店長だ!

「あ、すみません…」
「四川なら下の階任せてますのでそちらの方ではないでしょうか」
「え? 下っ?」
「ほら、やっぱそうじゃん!」
「ありがとうございますー!」

 ばたばたと離れていく足音。
「なぜあいつがモテるのか謎だ…」という呟きを残し、店長の足音も離れていく。
 助けてくれたのだろうか、と思ったがもしかして店長は四川が持ち場離れてぶらぶらしてることを知らないのかもしれない。
 ほっと安堵した矢先、背後からの舌打ちとともに強く引っ張られる。

「いッ」
「残念だったなぁ? 邪魔が入って」

「お前が醜態晒すまであと少しだったのに」と続ける四川はつまらなさそうで、まさか本気だったのかと青褪める。

「うるせえ、アホ…ッ」
「んだよ、その態度。人がイキそびれた分、責任とってやろうと思ったのに」

 責任という単語にただならぬ嫌な予感を覚え、慌てて距離を取ろうとするが、間に合わない。
 首を掴まれ、そのまま背後の脚立に押し付けられたかと思えば四川の頭が下がる。

「ッ、あ、クソっ、やめ…ろ…ッ!」

 同時に、乳首にぬるりとした感触が絡み付き、腰が大きく震えた。
 散々弄られ、じんじんと痺れるそこを噛み付くように咥えられる。
 音を立て、乳輪ごと吸われれば頭の中が真っ白になって、ガシャンと背後の脚立が大きな音を立てた。

「や、ぁ、ックソ、舌やめろ…ッ! やめろってばっ!」

 布越しだから大丈夫だろう。そう油断していた数分前の自分をぶん殴りたい。
 布越しに感じる這わされる舌の動きがもどかしく、余計胸の奥が疼いた。
 唾液で濡れた布は皮膚に張り付き、浮かび上がる突起はどっからどう見ても勃起してて。

「ハッ、本人と同じで随分と分かりやすいなぁ?」
「うるせぇ…っ」

 隠すことも出来ない俺に残された選択肢は開き直ることくらいだろう。
 愉快そうに笑う四川を睨んだとき、わざとらしく口を開き、それをまるごと口に含んだ。

「おいっ、まじ、やめ…ッ!!」

 生暖かい咥内。限界にまで尖ってそこを舌先で押し潰すように嬲られ、ぞくりと腰が震える。
 逃げようとすれば腰を捕まえられ、深く咥えられたそこを思いっきり吸い上げられた。

「ぅ、ぁ…、や…ぁ…ッ!」

 堪えようと背を仰け反らせるが逆効果だった。
 引っ張られ、敏感になったそこにピリッと刺すような刺激が走る。だけど、それだけで終わるはずがなくて。

「っん、うぅッ!」

 腫れたように尖ったそこに四川が歯を立てたとき、徐々に迫り上がってきていた胸の奥のなにかが弾けた。瞬間、別の生き物みたいに大きく体が跳ね上がり、ビリッと音を立て頭の中が真っ白になる。

 ……………………ビリッ?

 嫌な予感に全身から嫌な汗がぶわっと噴き出した。
 いや、まさかな、そんなはずないよな。だって、ほら、な?
 そう必死に自分を落ち着かせながら、引っ掛かっていた自分の下腹部を振り返った俺は、そのまま凍り付いた。
 そして、

「っあ…ああああッ!!」

 大きく破れたそこに、悲鳴が出てしまう。
 いや、大丈夫だ。落ち着け。裾から腰の辺りにまで走る亀裂は一見したら元からのこう、スリップに見えないことも……見えねえ!無理だ!つーかめっちゃ破れてんじゃねえか!

「あーあ、やっちまったなぁ?どうすんだよ、これ」
「はっ?なっ、だって、お前が…」
「は?人のせいにすんなよ。てめえが我慢できねえからだろ?」

 店の貸し衣装破ったくせに全く悪びれた様子がないどころか全てを俺の責任にしようとするなんて。しかし、お陰で脚立とさよならできる。

「お前、さっきから人が大人しくしてりゃあ好き勝手言いやがって…」

 最悪の形ではあるが、これでもうドレスのことを気にしなくてもいい。
 好き勝手動けるということだ。
 言い返す俺に、片眉を吊り上げた四川は「あ?」と俺を睨んでくる。

「気付いてねえだろうけど、これが破れたってことは俺は好きに動けるって事だからな!そんなちょっと怖い顔したって全然怖くねーから!」
「だったらどうすんだよ」
「こうするんだよ…ッ!」

 そうだ、日ごろの恨みを今こそ晴らすべきなのだ。
 一発殴ってやろうと拳をつくり、腕を大きく動かしたときだ。
 振り下ろそうとした腕は、動かない。

「……?」

 動かそうとすればするほど、金属音と背後から引っ張られるような違和感を覚えた俺は自分の右手に目を向け、そこで、俺は手錠の存在を思い出した。
 あ、そうだ。これがある限り、俺、動けねえんだった。

「ふっ、ククッ、ブハハハハッ!」
「わ、笑うなよ! なに笑ってんだよ!」
「……はぁー、ほんっと、あんたって馬鹿だよな!」

 目に涙を浮かべるくらい爆笑する四川に、顔面がカッと熱くなった。
 こっちが泣きたいくらいだ。
 握り締めた拳はやり場をなくし、なんとかこの鎖を切ることができないだろうか。そう手を動かすがガチャガチャと喧しい音を立てるばかりで。

「クソ…ッ」
「おい、それまで壊すつもりかよ。やめとけ。お前には無理だよ」
「そんなの…」
「それより、もっと賢くなれよ」

 近づいて来た四川の手が、チャイナドレスの裂け目に触れる。
 その無骨な指が繊維が剥き出しになったそれに触れたとき、大きく裾をたくし上げられた。
 強引なその動作に、下腹部からブチブチと嫌な音が聞こえてくる。

「あっ、おい、やめろって!」
「何言ってんだよ、今更。…ここまで破けりゃ、あとはどうなっても一緒だろ」

「なぁ?」と、耳朶に熱く濡れた舌が這わされる。
 吹き掛かる吐息。四川の言葉を理解した瞬間、全身から血の気が引いた。

 こんなことなら、さっきの女の子たちに見つかって中断してもらった方がましだ。
 しかし、四川のことだ。中断するどころかそのまま続行しそうな気もしないでもないだけに笑えない。
 そんな現実逃避も、下腹部の違和感によって強制的に終わらせられる。

「っぁ、や…ッ!」

 ケツの割れ目に押し付けられたそれを、ぬるりと滑るように擦り付けられる。
 その度に粘着質な濡れた音とともに熱く濡れたのが露出したケツの穴を掠め、その度に、びくりと全身の筋肉が硬直した。
 先端から溢れる先走りを擦り付けるかのようにゆっくり腰を動かし始める背後のやつに、頭が、やばい。熱い。つーか顔が。ケツが。

「お、お前、っほんと、信じらんね…ッ!ばっかじゃねーのっ?ばかっ!まじ、有り得ねえから…ッ!」

 そんなところに挟めてなにが楽しいのか全く理解ができない。
 そりゃ一度は夢見ていた尻コキだけど、される側からしたらたまったものではない。
 まるで人のケツの割れ目を性器かなにかのようにブツを捩じ込まれて入るか入らないかの際。
 執拗にそこを摩擦し、擬似挿入を楽しむ四川には恥ずかしさを通り越して呆れしか覚えない。

「…んだよ、人が譲歩してやったってのによ…っ、もっとケツ振って感謝しろッ!」
「っぁ、クソ、やめろッ、動かすな、馬鹿っ」
「ッハ、なにがやめろ〜だよ。こんなところでケツ丸出しにして興奮してんのか? あ?」
「誰がッ、興奮なんか…ッ!」

 あまりにも馬鹿にした物言いに頭に来て、振り返ろうとした瞬間、腰を掴んでいた手が、託しあげられていたチャイナの裾を持ち上げるように露出していたそこを掴んでくる。
 瞬間、やつの掌に包み込まれた先端がぬちゃりと嫌な音を立てた。

「…濡らし過ぎなんだよ」

 下腹部同士が密着する。
 耳朶に吹き掛かる熱っぽい吐息に、硬く膨張したそこからじわりと溢れる熱に、臀部に押し付けられた勃起した他人の性器に、汗が滲み、肌に吸い付くように張り付いてくる破れたチャイナドレスに。
 全身が感じるあらゆる感覚に、散々嬲られ敏感になった神経が疼き出す。

「おっ、お前が…ぁ…ッ!」
「俺がなんだよ」
「……ッ!」

 言葉が、出ない。言いたいことは沢山あるのに、四川の手が、腰が動く度に頭の中がそれでいっぱいになって、なにひとつ言葉に出来ないのだ。
 からかうように反り返った性器の裏筋をつぅっとなぞられた瞬間、甘い疼きに腰が震えた。

「オラ、早く言えよ…ッ」

 押し黙り、俯く俺に痺れを切らしたようだ。
 短く舌打ちをした四川だったが、ふいに密着していた腰が離れたと思った次の瞬間だった。

「あっ、ちょ、待っ、やめろ! やめ…ッんんんぅッ!」

 散々擦られ、硬く窄まっていたそこに押し当てられたその嫌な熱に反応するよりも先に、ぐっと捩じ込まれる先端。瞬間、圧迫感とともに言葉にし難いなにかが押し寄せてくる。

「ぁ、ふッ、く…ッ…ぅうう…ッ!」

 そのままぐぐっと力任せに挿入されるそれは擦り付けられていたとき感じていたよりもずっと熱く、硬くて、裂けるように入り込んでくるものを受け止めるのが精一杯で。
 息が出来ない。全身の毛穴という毛穴からぶわりと嫌な汗が吹き出した。

「ッ、譲歩っ、するっつったじゃねえかよ…ッ!」
「せっかくだし記念に中に出してやるってんだよ」

「好きだろ、中出しされんの」と喉で笑う四川。
 んなわけあるか、どこ情報なんだよ、とか言い返そうとするが、問答無用で腰を進めてくる四川の熱に内部が蕩けるように熱くなって。

「好きなわけ、ッぁ、好き…っ、違ッ! す、き…ッ、好きぃ…っ」

 頼むから人が喋っている最中に動かないでくれ。
 最期まで言葉にすることが出来ず、ただの変態のようなことを口走る自分に顔が熱くなって、否定しようと動こうとするにも背後から無理矢理拡げられたそこに一気に奥を突き上げられれば流れる電流に目の前が白ばむ。

「ハッ…お前にしては上出来じゃねえか…ッ!」
「んっ、や、ちがッ、ぁ…っ!」

 愉しそうに喉を鳴らす四川。
 緊張した内壁を抉るように根本まで咥えられ、腹の中の熱い違和感になんだか泣きそうになったときだった。中のものが引き抜かれ、その内壁を這いずるような感覚に目を見開いた瞬間、一気に奥まで突き上げられる。

「っ、んぁあッ!」

 何度も何度も、乱暴に、力任せに挿入され、息をつく暇も思考を働かせる暇もなくて。
 苦しいとか痛いよりも、繰り返される刺し抜きの度に腹の奥底から押し寄せてくるなにかに飲み込まれそうになるのが恐ろしくて、目の前の商品棚の枠組に必死にしがみつく。

「っ、おい、逃げてんじゃねえよ」
「ぁッ、ひ…」
「……それとも、煽ってんのか?」

 な、なんでそうなるんだよ!

 そう言い返そうとしたとき、体の中の性器がなんか心なしかでかくなってるような気がするんだけれども。めっちゃ脈打ってるんですけれども。
 熱に当てられ、こちらまで逆上せそうになってくる中、身に覚えのある感覚に慌てて逃げようと腰を動かした、その瞬間だった。
 腰を掴んでいた手に、上半身を抱き寄せられる。

「ッ!!」

 密着した体同士。筋肉質な腕に拘束され、文字通り逃げることも動くことすら儘ならない状況で、思いっきり根本まで押し込んできたやつは「往生際の悪いやつ」と耳元で笑った。
 次の瞬間、腹の中で限界まで膨張していた性器は人の中に思いっきりぶち撒けやがった。
 下腹部に広がる甘い熱に、一瞬、ほんの一瞬、確かに俺は意識を手放していたらしい。無理もない、こんなわけわからんチャイナやら女の子の客との遭遇で溜に溜まっていた疲労がこいつの遠慮ない挿入とその他行為で限界突破してしまったんだろう。お疲れ俺、よく頑張った。
 とよくわからないモノローグを流していると、

「っ! 馬鹿、おい…っ!」
「んぁ……?」

 ぐらり、と視界が揺らぐ。いや、違う、凭れかかっていた商品棚が倒れているんだ。
 四川の声にうわやべえと慌てるものの手錠に繋がったままになってる俺はそのまま引っ張られる。
 そのときだ。ものすごい力でスカートを掴まれ、商品棚ごと引っ張り上げられる。

「っぶねえな…」

 すぐ頭上から聞こえてくる四川の声に驚いて顔を上げた時、スチール棚状である商品棚の中に並べられていた商品たちはそのまま奥の方へざらざらと落ちていく。
 並べたばかりのそれらが一気に床に落ちていき、「あ」と真っ青になったとき。

「き、貴様ら…仕事中に何をしている…!」

 ガラ空きになった商品棚の向こう。
 出来上がった商品の山に埋もれた店長に俺は血の気が引いていくのを覚えた。


 ◆ ◆ ◆ 


「お前のせいだ!」
「うるせえな、てめえが悪いんだろ」
「なッ! 元はと言えばお前がちゃんとチャイナ着ねえから…」
「ケツ振って誘ってきたのはあんただろ」
「振ってねえよ!」

「いいから二人とも早く片付けをしろ!」

「「……うぃっす」」



「かなたんのチャイナ、俺も見たかったなぁ」
「あ、紀平さ……っ?!」
「あれ、どうしたの透。そんな驚いた顔して」
「い、いえ、あの、早く着替えてきた方がいいと思いますよ、それ」
「え、なんで? 結構気に入ってんだけどなー」
「お客さんが帰ってしまうので早くいつも通りの服でお願いします…っ!」
「えー? 仕方ないなぁ、わかったから押さないでよ、ちょっと、透?」


 おしまい


 home 
bookmark