アダルトな大人


 交渉成立※


「っ、ぁ、や、司…っ司…っ」

 やめろ、と言いたいのに頭が回らなくて、おまけに呂律も回らないわで立っていることすら出来なくて。
 耳は、耳だけは、駄目なのだ。
 耳朶の窪みから耳の裏までねっとりと舌を這わされれば焼けたように熱くなったそこは最早蕩けそうな気配すらあった。
 イケそうでイケないもどかしい下半身の刺激は、限界まで張り詰めた下腹部にとって毒以外の何者でもない。

「言えよ」

 焦れたような司の声が、吐息とともに鼓膜に染み込む。
 その低い声に、びくりと体が反応した。
 息が乱れる。汗も、止まらない。立っていることすら出来なくて、ガクガクになった足腰では司が居なくなった途端立てなくなるのが目に見えてる。
 このままでは、本当におかしくなる。
 本能がそう叫ぶのだ、仕方ない。だからこれは別に司が怖くてビビったわけではないし敢えて、敢えて流されてやったのだからノーカンだ。

「っ、勃って、んだよ……っ」

 震える喉を使い、振り絞り出した声は酷く掠れていた。
 それでも、司の耳には届いてたようだ。

「なんで?」

 それでこの反応だからこいつの性格は絶対悪い。

「なんで、って、ぇ…」
「なんで勃起してんの?」
「ぁ…っ?!」

 ぐり、と、勃起したそこを円を描くよう揉まれ、腰が揺れる。
 鏡越し、司と目があった。
 咄嗟に目を逸らそうとした鏡の中、司の大きな手が自分の下腹部を弄るのが目につく。
 なんでそんなことまで言わなければならないのか、全くもって理解できない。理解できないが、このままでは司から離れることが出来ない。
 でも、やっぱり、そんなこと。

「っ、それは…」
「それは?…何?」
「お前の、せいだろ…っ」
「例えば?」
「うぅぅ〜〜…ッ!」
「原田さん、引っ掻いても駄目だから」

「ちゃんと聞かせて」と、目を細める鏡の中の司。
 その長い指がジッパーに触れるのを見て、全身が緊張する。
 けれど、金具を摘んたまま司は何もしてこなくて。

「原田さん」

 促すように、名前を呼んでくる司に確信する。
 俺がイキそうなの分かってて、焦らすつもりだ。
 何もしてこないのは万々歳なのだが、この状況でそれはただの嫌がらせだ。

 なんだかもう司に玩ばれているようで情けなくて泣きそうだったが、司と我慢比べは自分の身を滅ぼすだけだと知ってしまった今選択肢はなくて。

「つ、かさの…手が気持ち良かったからだよ…っ」

 もうどうにでもなってしまえ。
「なんか文句あんのかよ!」と若干泣きながらそう吠えれば、一瞬、鏡の中の司が嬉しそうに笑った…ような気がした。
 そして次の瞬間、伸びてきた手に顎を掴まれ、無理矢理唇を塞がれる。もう何度目の野郎とのキスかはわからない。カウントするだけ虚しくなるだけだ。
 ちゅ、ちゅ、と音を立て何度も唇を押し付けられる。
 その度に触れた箇所が痺れるように熱くなり、こそばゆい。

「……原田さん…っ」
「っ、つ、かさ、だめ…っ」
「そんなに俺の手、気持ち良かった?」
「ふ、ぁ」

 唇同士が触れ合うくらいの至近距離。
 囁かれるその声に、腰から力が抜け落ちそうになる。

「原田さん、俺と店長どっちが好き?」

 伸びてきた手に耳を撫でられる。
 その指の感触にビックリして「え」と顔を上げた時、軽く引っ張られた耳朶に舌を這わされる。

「っぁ、やっ、司」
「原田さん」
「う、うぅぅ…っ」

 なぜこうもこいつは白黒付けたがるのだろうか。
 鼓膜に直接問い掛けられ、脳味噌へと直接流れ込んでくるその吐息に頭がどうにかなりそうだった。
 そんなの、答えられるはずがない。普通に。

「原田さん」
「比べ、られるわけ…ないだろ…っ」

 そもそも男相手に好きだとかそういうあれはあれなわけであって、俺からしてみたら恋愛対象外なのだ。…そうだと思う。
 首を横に振れば、どういうことなのだろうか。鏡の中の司の顔が僅かに赤くなっている。

「……嬉しい」

 ……嬉しい?

「えっ、あっ、ちょ!待って!司ッ!…んんっ」

 ひょっとしてこいつな何か勘違いしているのではないのだろうか。慌てて確認しようとするが、問答無用で唇を塞がれ言葉は掻き消される。
 先程の優しく、触れ合うだけのキスとは違う。酸素ごと奪うよう、唇を貪られる。

「ふっ、んぅう…ッ」

 その間にも下半身に這わされた司の手にベルトを緩められ、ズボンも降ろさずに緩んだウエストから下着の中に手を突っ込まれた。
 そして一回射精してしまったそこは案の定大惨事になっているわけだ。

「っんん」
「……すげえ濡れてる」

 やめろその言い方…!!
 精子やら先走りやらでぐちょぐちょに汚れてしまったそんな中、躊躇いもなくまさぐってくる司の指に、凝りもせず勃起した性器を掴み出される。

「っつか、さ…ぁ…ッ!」
「苦しいだろ。…取り敢えず1回出すから」

 取り敢えず?!取り敢えずってなんだ?!
 さも二回目があるかのような司の言葉に戸惑うのも束の間、絡み付いてくる細くしっかりとした指はゆっくりと俺のを扱き出す。

「っ、待っ、ぁ、あっ、んんっ!」

 輪っかを作った司の手に、根本から先端までを締め付けられる度に息が詰まりそうになった。
 鏡に映った自分のものが司の手の中でさらに膨張してるのが視界に入り込み、羞恥で体が熱くなる。

「…すごい、どんどん溢れてくる」
「言、うな…ぁ…っあぁッ!」

 反り返った裏筋、浮かぶ血管を指で擽られた瞬間脳天から爪先へと電流が流れる。堪らず背後の司に凭れ掛かった時、腰に回されたもう片方の手に下半身を固定され。

 矢先、

「っ、ぁ、だめ、ゆっくり、ゆっくりぃ…っ!」

 溢れ出す先走りを全体へと塗り込むようよう、強弱付けて扱き下ろすその手の動きは次第に激しさを増す。
 自分の下半身から発せられる濡れた音は便所内にやけに大きく響き、耳を塞ぎたくなるが司の腕にしがみつくのがやっとだった。

「ふ、あ、ぁああ…っ!」

 止めどなく競り上げてくる快感に耐えられるような図太さは持ち合わせていない。
 絞り出すよう、全体を締め付けられたその瞬間、俺は呆気なく司の手の中に射精してしまう。

「…っん、んんん…っ!」

 溜まりに溜まっていたものを吐き出した瞬間、頭が真っ白になった。
 気持ちいい、とかそういうのよりもようやく息苦しさから解放されたというのが大きかった。
 だからだろう、自分がどこに出したのかそれに気付くのに少々時間が掛かってしまったのだ。
 汚れないよう、掌で精液を受け止めてくれたようだ。どろりと司の手に溜まったものを見て、ようやく俺は自分の仕出かしたことに気付く。

「……」
「っ、あ、わり………」

 というかなぜ俺が謝らなければならないのかわからないが、脊髄反射で謝りかけた矢先だ。
 目の前で掌に舌を這わせ、湯気立てるそれを舐め取る司に思わず「は?!」と声を上げてしまう。

「っ、馬鹿、なにし…」
「美味しかった」
「んなわけ…んんんっ!」

 ねえだろ、と言いかけた矢先、顎を掴まれキスされる。
 今度は丁度開いていた口に舌を捩じ込まれ、瞬間、咥内いっぱいに広がる独特の味。
 司の舌から流し込まれる形容し難いその味に全身から血の気が引く。

「ぅううっ!」

 ばしばしと司を叩けば、やつはすぐに唇を離した。

「…美味しい?」
「ま、ずい…」
「そ?甘くて美味しいよ。…ハチミツみたいで」

 美味しい、と濡れた自分の唇に舌を這わせる司にぞっとする。
 少なくとも俺には青臭さと塩の味しか感じなかったのだが味覚の個人差とは恐ろしいものだと思った。まる。

「まだ出そうだな」
「ぅ、え」
「もう勃起し始めてる」

 口の中の精液を吐き出そうとしている矢先、「ほら」と伸びてきた司に擡げ始めていた性器を軽く持ち上げられる。
 わざと見せつけるようなその動作に、視界に入ったそれから慌てて顔を逸らせば尿道口から溢れる濁った液体を指で拭われた。

「ひっ、ぁ…っ」
「これならローション要らないな」

 耳元で囁かれたその言葉に、まさかと青褪めだ矢先だった。
 下着をずり下げられたかと思った矢先、離れた司の手は腰に回される。

「っ、ぁ、っや、つかさっ、待…んんぅっ!」

 待って、と口を開いた瞬間、言葉も待たずに肛門に指を押し当てられる。
 精液やらなんやらを絡ませ濡れた司の指は窄まった周囲を擽り、ついこそばゆさで力が抜けそうになった瞬間ぬるりと体内へ侵入してきやがった。

「っ、ふ、ぁ、ああ…っ」

 体の中、入り込んでくる指を押し出そうと、せめて侵入を制止しようと力むがそれは司を愉しませるだけのようだ。

「原田さん、俺の指美味しい?」
「っ、わかるわけ、ねえっ、だろ…っ」
「ああ…一本じゃ足りないか」

 違う、そういう意味じゃない。
 そう慌てて訂正しようと振り返ろうとした瞬間、すでに一本の指を飲み込んだそこに数本の指が押し当てられる。

「っ、ちが、待て!おい!」
「違わないだろ」
「っ、ひ、っ、ぅ、んぅう…ッ!!」

 問答無用。捩じ込まれる複数の指に、息が止まりそうになる。
 痛い、のもあるけど、それ以上に苦しくて。
 堪らず目の前の洗面台にしがみつく。
 指先はまだいい、司の指は細く長いが、それでも関節部分の凹凸がハッキリしているため、それがひっ掛かる度に中が擦れて腰が震える。

「っ、や、だ、抜いて…っ司……っ」
「俺の指、嫌?」

 あ、やばいまたなんか地雷踏んでしまった。
 ケツを掴む司の指に力が入って、ぎゅっと握られた瞬間根本まで思いっきり捩じ込まれ全身が飛び上がりそうになった。

「っ、ぁ、や、だめ、だめ…っ!」
「おかしいな。こんなに吸い付いてくるのに」
「っ、ふ、やぁ、あぁっ」

 指を引き抜かれたかと思えば思いっきり捩じ込まれ、その度に奥を抉られる。
 ぐちゃぐちゃと音を立て、激しく中を摩擦されれば痛みなんて吹っ飛びそうになって、痙攣する下半身、逃げようとバタつくが腰を固定した司の手は離れない。

「っやめ、いっ、ぁ、司っ」
「原田さん、動かないで。ちゃんと解さないとダメだ」
「んんんぅっ!」

 中の筋肉を指で刺激される度、下半身から力が抜けそうになる。
 落ち着くどころか激しさを増す指の動きに息吐く暇もなくて、目の前が白ばむ。下腹部が焼けるように熱くなって、這いつくばるように洗面台にしがみつく。
 掻き混ぜられる度に腹の中いっぱいに響く音に目が回りそうになって、止めどなく押しかけてくる刺激に麻痺し始めてきた脳味噌は恐らく3分の2はどろどろに蕩けているのではないだろうか。

「っ、や、あ、苦しっ、や、つか…さぁ…っ!」

 力がまともに入らず、それは呂律も例外ではない。
 それでも必死に司に縋れば、一瞬、体の中の司の指がぴくりと反応した。

「…苦しい?」
「っは、ぁ……っんん」

 こくこくと頷き返す。
 司の動きがと止まり、ようやく呼吸が出来るようになった時、ずるりと指が引き抜かれた。今度こそ肺いっぱいに空気を取り込む。

「…悪い、あんたのこと考えてなかったな」

 どうやら中が切れていたようで、赤くなった自分の指に目を向けた司は僅かに眉尻を下げる。ようやく冷静になってくれたようだ。

「司……」

 これで話が通じる、そう安堵し掛けた時だった。
 ジッパーが下がる音とともに勃起した性器を取り出す司は何事もなかったかのような顔をして反り返るそれにこれまたいつの間にかに取り出した小さなボトルの中のそれを垂らし始める。何事もなかったかのように。やつは。

「これでいい?」

 いや全く良くないです。
 正気か、こいつ。
 そう突っ込みかけた矢先、あてがわれるローション濡れのそれに血の気が引いた。

「ま、待った、司っ、司っ」
「なに?」
「なにって、ぁっ、うそ、待てって、司ぁっ!」

 なんということだろうか。人に聞き返しておきながら構わず性器を捩じ込んできやがる司に息が止まりそうになった。というか間違いなく止まった。

「ん…っ、すごい、暖かい」
「っは、やっ、あっ、あぁ」
「…やっぱり、俺達相性いいな…っ」

 嫌になるくらいスムーズに行われる挿入。
 深く腰を打ち付けられる度に腹の中を抉られ、声が抑えきれなくて。

「っん、っあ、ぁっ」

「原田さん」と呼ばれる度に脊髄反射で下腹部に力が入ってしまう。
 射精後の疲労感やら店長とのあれこれの後ということもあってなんかもう気持ちいいのと腰痛いのと早く寝たいのとかごっちゃになって、鏡の中の自分が何されているのかすらわからなくなるほど俺のあらゆるものがこの時ピークに達していた。
 だからだろう。

「…っ付き合お、原田さん」
「っ、ふ、へ」
「そしたら好きな時いつでも挿れていいから」

「俺の、これ」と、いやらしくケツを撫でてくる手。と、同時にぐりぐりと腰を押し付けられる。
 圧迫された腹の中、勃起した司の性器に内壁全体を撫で回されればぞくぞくぞくと脳汁溢れそうになった。あ、冗談抜きでやばい。なんか、頭痺れすぎて逆に目が覚めてきた。やばい。

「なに、言って、ぇ……っ!」
「ねえ…原田さん、付き合おうよ…っ」
「っ、あ、なに、っえ、うそっ」
「嘘じゃない…本気だよ、俺」

 ずるりと引き抜かれたかと思えば一気に挿入され、それを繰り返される度に中身がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられて、何も考えられなくなる。
 ただ腹の中で膨張する司のものの動きは嫌になるくらい生々しいのだ。

「原田さん…っ」

 閉じる暇もなく開きっぱなしになった口はいつの間にかに馬鹿みたいにヨダレが溢れていて、近付いてきた司にそれを舐め取られたと思えばそのまま唇を触れ合わされる。
 なにかを強請るようなその仕草に、強請られるこちら側としてはなんだかもう恥ずかしさとかそれどころではなく、キスとは裏腹に荒々しくなるピストンに呼吸は浅くなっていく。

「っは、ぁっ、んんぅっ…!」
「原田さん、付き合お…っ」

 呪文かなにかのように耳元で囁かれる。
 司が何を言っているのか最早俺の脳味噌は考えることが出来なくて、それでも司の吐息だけはしっかりと鼓膜に染み込んでいて。
 休む暇もなく襲いかかってくる強い快感は苦痛にすら等しい。
 滲み出る汗、次第に五感が鋭利になっていくのがわかり、このままでは身体が保たない。そう判断した俺は息を飲み込むように口を開いた。

「っ、わかった!」
「…原田さん」
「わかったから、お願い、もっと…もっとゆっくりして…っ!」

 とにかく、司を落ち着かせるため、俺はそう口にした。何も考えずに。何も理解もしないまま。
 そう、今思えばこの時点で既に色々手遅れだったのかもしれない。俺も、司も。

「………っ」

 わずかな間。瞬間、小さく司が息を飲むのが聞こえた。
 それとほぼ同時だ。

「ふっ、ぇ、あっ、うそッ、司っ!」

 人の話を聞いていたのだろうか。腰を掴まれたかと思えば先程よりも性急に腰を動かしてくる司に思わず舌を噛みそうになる。

「あっ、あっ、やっ、ばかっ、やめ、やめろってばあっ!」

 話が違う。ちゃんとお願いしたはずなのになんでさっきよりも悪化してるんだ。
 文句言ってやろうと思うのに、開いた口からは出た声は途切れ、その代わりに溜まった唾液が溢れて顎へ落ちる。
 少しでも気を抜いたら抱き潰されそうで、咄嗟に鏡に手を付く。
 瞬間、アホ面晒す自分の背後、抱き竦めるように背中に伸し掛かってくる司と目が合った。

「…っ、ごめん、俺、馬鹿だから手加減の仕方わからない……」

 だから、と小さく司の唇が動いた瞬間、向けられたその熱の籠もった目に、息が詰まりそうになった。

「っぅ、あっ、あぁっ!司っ!つかさぁっ!」
「原田さん…っ」

 揺さぶられる下半身。突かれる度に声帯が震え、自分のものとは思えない、俄信じたくないくらいの声が漏れてしまう。
 司の手が、触れた箇所が酷く熱い。

「んんっ!」

 伸びてきた司の手が頬に触れたと思えば、再び近付いてきた司に唇を塞がれる。
 今度は離れようともせず、深く貪るように重ね合わせられた唇から舌を挿し込まれた。

「ふっ、う、んっ、うぅ」

 口と腹の中、両方の器官を司に犯され、他のことを考えることが出来なかった。
 そもそもなんでこんなことになっているのか、俺はさっきまで便所掃除に励んでいたのではなかったのか。
 磨きまくった鏡に映る、司とキスする自分を横目にぼんやり考える。
 なんか大切なこと忘れてるような気がする。けれど、それも腹の中を抉られれば意識とともに吹っ飛びそうになった。

「っぅ、ん、む…ッ」

 息が苦しくて、じんじんと痺れる頭の中、息を吹き込んでくる司の舌にしゃぶり付き、もっとと強請る。
 あれ、なんだっけ。もう少しで思い出せそうな気すんだけど。めっちゃ大切なこと。

「…は…ぁ、…っ」

 司に目の奥覗き込まれるように見詰められれば、頭の中まで司でいっぱいになってしまいそうになるから恐ろしい。
 長い舌先に口の中を掻き混ぜられ、流れ込んでくる唾液はそのまま喉の奥まで侵入してきて腹の中、司の熱に喉奥まで侵されてると思ったらぞくりと背筋が震える。
 瞬間、下腹部に溜まりに溜まった熱が一気に外部へと押し出されるのが分かった。

「んんぅッ!」

 何度目かの射精かわからない。
 びゅっと鏡に向かって吐き出される精液の量は少ない。それでも鏡を汚し、垂れるそれを見るだけで恥ずかしさでいっぱいになってしまう。
 射精の疲労感でぐったりしているところ、掴まれた腰を持ち上げられる。
 そうだ、まだ終わっていない。

 司は、まだ。

「…っ、原田さん、好きだよ…原田さん」
「っ、ふ、ぁっやっ、つかさ、ぁ、だめ、も、やめろってばぁ…っ」
「…なんで?…せっかく両思いになったのに」

 ……ん?両思い?
 次第に冷静になっていく頭の中、どこか司との会話が噛み合っていないことに気付く。
 両思いってなんだ、なんのことだ。ちょっと待て。
 一周回って血の気が引いていく頭。
「司」と、取り敢えずやつを止めようと振り返ろうとした矢先、どくんと身体の中で司の脈が打つのがわかった。
 瞬間、身体の中、ぬるぬるとローションと先走りを塗り込むように腰を動かしていた司のものが一際大きくなる。

「っぁ、うそ、なんで…ぇ……っ」
「は…ッ」
「んっ、ぁ、あっ、ああッ!」

 なんで、まだデカくなるんだよ。
 腹部を圧迫するその質量に戸惑う暇もなく、腰を打ち付けられる度にその衝撃に意識が飛びそうになる。
 冷静になりかけていた脳味噌に熱が回り、また、何も考えられなくなった。

「あっ、ひ、いッ」
「…原田さん…っ、名前、呼んで…」

 どうして名前、なんて考える脳味噌はなかった。
 突かれる度に圧し潰されそうになってる喉の奥、搾り出すように俺は「司」と口を開く。

「っ、司、っあ、つかさぁ…ッ」

 無我夢中、とはまさにこのことだろうか。
 もうなにがなんなのかわからなくて、頭の片隅ではわからなくていいと思っている自分がいて、このまま司の熱に当てられてどろどろに溶けてしまえたらどれだけよかっただろうか。そう思えるくらい、俺も大分キていたようだ。

「……ッ」

 腰を掴んでいた司の指先が皮膚にめり込む。
 繋がったそこからやつの鼓動を確かに感じたその時だった。

「んんぅッ」

 中で司のものが反応したかと思った矢先、最奥で吐き出される精液の熱にぶるりと下半身が震える。
 逃げないよう、しっかりと根本まで入った状態で固定してくる司に頭を掴まれ、洗面台に押し付けられた。
 逃げる気力があるように見えるのか、思いながらも注ぎ込まれる粘っこいその熱に腹の中はどんどん満たされていく。

「っ、ぁっ、ふ、ぁあ…っ!」
「…ッは、」

 息を吐く司。
 長かった射精も途切れ、腹の中から受け止め切れなかった精液が溢れるのを感じながらも俺は確かに満腹感を覚えていた。
 ともかく、身体の中の性器が先程よりかも小さくなったのを感じ、ああ、漸く終わったのか、と安堵した矢先だった。

「っ、ちょ、ま、待って、え」

 射精が終わったはずなのに、おかしい。萎んだそこからまた熱が溢れ出している。
 しかも、さっきよりも、量がおかしい。
 どんどんと腹の中注がれるそれがなんなのか、気付いたところでもう遅い。
 上から押さえ付けられた身体はまともに動くことが出来なくて。

「っ、やめ、出てる、うそ、出てる…ッ中に…ッ」
「…原田さん…、全部、受け止めて…っ」

「俺の、全部」と、息を吐く司が確信犯だということに気が付いたところでどうする術もない。
 物理的にかよと突っ込もうとするこの間も注がれるそれが勿論受け止められるわけがないだろうが巫山戯んな常識的に考えろ。

「っぁああああ…っ!!」

 ケツを濡らし腿から垂れていく熱い液体。
 腹の奥並々と注がれるあれこれに、男子便所内にはなんとも情けない俺の声が響き渡る。



「ぁ、有り得ねぇ……っ」
「……原田さん?」
「なんで、お前、俺の…中に…こんな…、こんな……っ!」

 喋る度にその震動で波立てる腹の中のそれは早速流れ出してきてなんだかもう泣きたい。
 しかし、無言でそんな俺を見ていた司に全く悪びれた様子はない。
 それどころか、

「原田さん見てたらシたくなっちゃったから」
「な…ッ」
「嫌だった?」

 嫌に決まってんだろ、と口を開こうとした時司に顔を覗き込まれる。

「……嫌だった?」

 なんでこいつが若干キレ気味なんだよ。キレたいのは俺の方なのに。

「原田さん」

 と、名前を呼ばれ促される。
 拒否すれば何されるかわかったものではない、けれど受け入れても受け入れたとして俺の中のあらゆるものが木っ端微塵になることには違いない。
 返答に迷った、その矢先のことだ。いきなり、便所内の照明が消えた。

「っ!」

 停電か。っていうか、これはいいタイミングではないのだろうか。
 僅かに出来た司の隙を狙って逃げようとしたとき、司に肩を掴まれる。

「原田さん、今動いたら危ないだろ」

 お前の方がアブねーよ!という言葉は寸でのところで飲み込んだ。
 けれど、

「司、離…」

 離せ、と声を上げようとした瞬間だった。頭上から大量の水が落ちてくる。
 そう落ちてきたのだ、降り注いだのではなく。

「っわ、なに……ぅぷ!」

 まるでコント並みの大量の水はすぐに止んだが、やばいめっちゃ掛かった。
 水分を含んだ衣類にバランスを崩しかけた時、すぐ背後でゴォンッと軽快な音が聞こえてくる。そして、次の瞬間先程まで消えていた電気はなんなく点いた。

「……な、なんだったんだ……って、うわっ!司っ!」
「…………………………………………」

 金のタライを頭から被った司は無言で佇んでる。
 あ、なるほど、今の何かがぶつかった音、これか。と納得すると同時に、同様無言でタライを外した司は俺以上にびしょ濡れで。

「…つ、司……?」
「原田さん、ごめん。……ちょっと待ってて、すぐ戻ってくるから」

 あれ、いまちらっと青筋が浮かんでいたような気がしたが恐ろしいので俺は司を引き止めずただ見送ることにした。
 それにしても、なんだったのだろうか。驚いたが、あらゆる汚れも流し落とすことができてわりかし助かった。
 けれど……。

「って、また掃除やり直しじゃねえかよ…!」

 一先ず俺は服を着替えることにする。このままでは拭いたところからまた濡らしかねない。
 は?司の命令?破るのも恐ろしいが待ってたら待ってたでろくなことにならないだろうから聞かなかったことにする。

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