アダルトな大人


 肉食獣の求愛法※

「司ッ、司!待って、待てってばっ!」

 とにかく司から逃げなければ。
 そう思うけど、するりと服の裾から入り込んできた掌に脇腹を撫でられ、その冷たい指の感触に「ひぃ」っと情けない声が漏れてしまう。

「…なんで?そんなに俺としたくないわけ?」
「そっ、じゃなくて……今、バイト…ちゅ…」
「こんなものつけて店内彷徨いてる人に言われたくねえんだけど」

 そう言って、首筋を指されれば何も言い返せなくなってしまうわけだが。

 確かにサボっているし人を注意できるようなほど品行方正というわけでもないが、このままではまずい。綺麗にしたばかりの便所を汚されるわけにはいかない。
 雑用としてのポリシーが傷付いてしまう。

「つ、司っ!」

 ここで退いてはダメだ。
 とにかく少しの辛抱なのだ、司には納得してもらわなければならない。
 だから、今回こそはびしっと言ってやろうと思って大きな声を出してみたが……。

「…何?」

 絶対零度の視線が真正面から突き刺さる。
 あ、やばい、これガチな方だ。

「い、いや…だから、その、こんなことしたって俺は……」
「俺は?何?」
「だっ、だから、俺、俺…っ」
「原田さん、聞こえない」

「もっとハッキリ喋って」と続ける司。
 確かに、要領を得ない俺にも否があるのかもしれないが、だって、服の下を堂々と弄られてシラフでいられる方が希少なのではないか。
 脇腹の筋から徐々に上がってくるその掌の感触。
 虫が這うようなその微かな感触がこそばゆくて、身を捩らせながらもシャツの下で蠢く司の手を止めようとするが、捕まえられない。

「っ、い、いい加減にしろよ…っ」
「何を?」
「手っ!ぬ、抜けよ…っ!」
「どうして?」
「どっ、どうしてって…」

 まるで俺がおかしいかのような態度で聞き返してくる司。
 服の下、もぞもぞと胸元まで這い上がってくる手に全身が緊張する。

「やっ、ちょ、んんっ!」

 乳首の輪郭をなぞるよう両胸の乳輪部分を指で擽られ、ぞくりと腰が疼いた。
 乳首は、まずい。何がまずいのかは考えたくないが、とにかくダメなのだ。
 少し触られただけで全身の血が熱くなって、逃げようと後ずさるのに構わず詰め寄ってくる司と洗面台に挟まれてあっという間に逃げ場はなくなってしまって。

「っ、ぁ、や、も、やめろってばっ」
「なあ、どうしてダメなんだよ」
「ッ、ん、んんんぅ…っ!」

 顔が熱い、顔だけではなく、首も、全身も。
 その股の間に立ち、まじまじとこちらを覗き込んでくる司は言いながらもその手を止めることはなくて。
 こそばゆい、もどかしい感覚に頭の奥がまたふわふわしてきて、それでいて絶対に乳首には触れようとしない司になんだかもうこいつ絶対性格悪い。俺はそう確信した。

「原田さん、俺と付き合って」
「や、なっ、んで、ぇ…っ」
「店長と付き合うんなら俺とでもいいだろ」

 無骨な指先でなぞられるだけで、そのこそばゆさと一々反応してしまうことでの恥ずかしさで頭がどうにかなりそうだった。
 耳元、囁きかけるようなその低い声がやけに甘く響いて、なんだかその熱に当てられてしまいそうで。
 それ以上に、司の言葉を理解することが出来なくて。

「いや、だ…っ怖い、司、怖いってば…」
「…俺が?どうして?」
「んっ、ぁ、やぁ…ッ」
「原田さん」

 直接触られているわけでもないのにすっかり凝った両胸の乳首を同時に指先で押し潰される。
 瞬間、ぞくぞくぞくっと甘い快感が胸の奥いっぱいに広がって、堪らず声が漏れてしまう。

「っ、つかさ、やだ、やだってばぁ…っ」
「嘘つき」
「ちがっ、嘘じゃな、ぁっ」
「こんなに勃ってて何言ってんだよ」

 それは、触られたからであって。
 そう言い訳しようとした矢先、潰されたそこを今度は指で捏ねれられる。
 強弱つけ、指の腹で柔らかく揉まれればそれだけで胸の先っぽが熱くなって、嫌な汗が全身に滲む。
 司の手から逃れようと必死にばたつくけど、動けば動くほど司の指は強く触れてきて。

「ぁ、や…っ、だめ、まじで、も…っ」

 呼吸が浅くなり、胸から全身へと回った熱で酷く体が火照って感じた。
 ただ体の一部を触れられているだけだ、なんてことはない。そう思い込もうとするけど、胸から直接伝わってくる司の指の動きに腰が動いてしまい、四肢から力が抜け落ちそうになる。

「小さいのにこんなに反応してさぁ…本当、可愛い」
「…ッ!」
「原田さん、可愛い」
「やっ、ぁ、やめろ、言うなっ」
「……そうやって照れてるところも可愛い」

 ちゅ、と音を立て唇にキスをされる。
 馬鹿にされているわけではないだろうが、それでも女扱いされているみたいで悔しくて、恥ずかしくて、寄せられる唇から逃げようとふいっと顔を逸らせば司は少しだけ傷付いたような顔をしていて。

「…そんなに、俺は嫌?」

 僅かに、その声のトーンが通常よりも低くなった。
 司の周囲の空気が変わったことに気付き、ハッとしたときだった。
 がばっと服の裾をたくしあげられ、剥き出しになった胸元に嫌な寒気が走る。

「っ、ちょっ、司…っ?!」

 驚いて目の前の司を見上げた時、露わになった胸元に司は顔を埋めてきて。

「……こんなところにも」
「…へ?……って、ぁ、ちょッ?!」

 次の瞬間、熱い舌の感触がぬるりと乳首に絡みついてきて、驚きのあまりなんかすごく色気がない声が出てしまう。
 ビクッてなる俺を無視して、濡れた音を立て乳首を舌先で嬲られる。
 肉厚のそれで擽られるだけで熱くて蕩けそうでどうにかなりそうだというのに、噛み付くように乳輪ごと咥えられれば胸の先端に広がる熱に飲み込まれそうになった。
 瞬間。

「ぁっ、ひ、んんッ!」

 強い力でそこを吸われ、先端を引っ張るその力に腰が震える。
 少しでも油断したら頭がおかしくなりそうなほどの強い刺激に、堪らず俺は司の頭に抱き着いてしまう。
 それがまずかったようで、俺の背中に手を回した司はそのまま逃さないとでもいうかのように胸に顔を押し付けて来た。

「っ、待っ、ぁ、うそ、やだ……」

 どうやら俺が動き過ぎたのがまずかったようだ。ずり落ちそうになる裾の下、流石に放してくれるかと思ったが構わずシャツの下に潜り込んでくる司に余計逃げ場がなくなってしまい俺死亡。

「うそっ、やだ、司、やめろってばっ!」

 慌ててシャツの下の司の頭を押し出そうとするけど、執拗に乳首を吸われればそれどころじゃなくなってしまう。
 無理矢理吸い出され、突起したそこを更に唇と舌で挟むようにして嬲られる。
 時折吹き掛かる司の息遣いが酷く熱くて、それとも俺の体が熱いのか。それすら判断つかない。

「あっ、も、や…っ、司…ッ!」

 周囲の乳輪をなぞるように舌を這わされ、時折掠める程度の舌先の感触に頭の中が蕩けそうになる。
 逃げるように仰け反れば、背筋に回された司の腕に腰を抱き寄せられた。

「っ、はッ、ぁ、あぁ…ッ!」

 司の舌から意識が逸らせない。
 先程強く吸われたせいでジンジンと痺れては熱くなったそこは掠めるだけでも酷く疼いてしまう。
 全身から汗が滲んだ。
 胸の奥、舐められる度に徐々に何かが迫り上がってくるのがわかった。

「…つ、かさ…ぁ…っ」

 力が入らなくて、シャツの下、司の頭部を押さえつけるように掴んでしまえば僅かに司の吐息が吹きかかって。

「…誘ってんの?」

 違う、と否定しようとした矢先、思いっきり乳首に噛み付かれる。
 実際には唇で咥えられた程度なのだろうが、既に出来上がりかけていたため通常時よりも敏感になっていたそこにとってそれだけの刺激も俺にとっては強すぎるもので。
 瞬間、爪先から天辺まで電流が走るように体が震え上がった。

「ッ、は、ぁあ…ッ!!」
「…ん……原田さんの乳首、真っ赤になって、ぷっくり腫れてる…可愛い」
「なっ、なな、ぁっ、馬鹿ッ!馬鹿ぁ…っ!」

 ぐぐもった司のうっとりしたような声になんだかもう居た堪れなさ諸々で顔から火を噴きそうになった時、ちゅっと小さな音を立て、キスをされる。
 そして、ぬるりと舌先で全体を圧し潰された時。

「美味しそう」

 ぱくりと、乳輪ごと咥えられる。
 胸全体に広がる独特の他人の体温にゾッとした次の瞬間、思いっきり口の中のそれを吸い上げられた。

「ぁ、ああッ、や、だめ、やめろッ!司ッ!つかさぁっ!取れちゃうっ!乳首取れちゃうぅっ!」

 突き抜けるような快感に、最早自分が何を口走っているのかすらわからない。
 ただ、ガクガクと震え始める腰にはろくに力も入らない。
 立ってられなくて、目の前の司にしがみつけば余計司の手に力が入るだけで。

「――〜〜ッ!!」

 声にならない悲鳴が喉奥から溢れ出す。
 休む暇すら与えないとでもいうかのような激しい口淫に何も考えられなくなって、次第に咥えられたそこが司の舌と唇の動きだけしか感じなくなっていくのが自分でもわかった。
 開きっぱなしになった口からは犬みたいにヨダレが溢れて、目の前がチカチカ点滅し始める。
 ああ、やばい。やばい。やばいのに、どういうことだろうか。司は全く口を離してくれないし、それどころか。

「ッ、は、ぁああッ!」

 自分でも驚くくらいのその声は衝撃波でも射ち込もうとでもしてるかのようで、恥ずかしい、とかそんなこと呑気に考える暇すら与えられないまま絶え間なく体に叩き込まれる快感に先に耐えられなくなったのは俺だった。
 糸が切れたような感覚とともに、一気に下着の中に熱が広がる。
 乳首を嬲られてなんで股間が反応してるんだよ。
 今だけはこんな余計な仕組みを作ってくれた神様が恨めしくて堪らない。

 下着の中、嫌に熱く絡み付くような感覚に夢精にも似た気持ち悪さを覚え、俺は泣きそうになった。
「うっ、うぅ…………」

 じわりと広がる下腹部の熱がただただ不快で、恥ずかしさのあまりに涙ぐんだ時、ぴくりと司が反応するのがわかった。
 そして突然服から顔を出す司。ようやく止めたかと思えば今度はまじまじと人の面を眺めてくる司になんだかもう余計居た堪れなくなった。

「…痛かった?」
「いてぇよ、いてぇに決まってんだろ馬鹿…っ」

 泣いてるなんてみっともなくて、顔を見られたくなくて顔を逸らそうとすれば司に頬を掴まれる。

「……ごめん」

 それは何に対する謝罪なのか。
 言いながら、目の淵の涙を舐め取る司にビックリしたけど、こんなことされて許せるほど俺は寛容でもない。
 司のせいでシャツも伸びたし、今はただ司の思い通りになりたくなくて、早い話ちょっとした意地を張った俺は「嫌だ」とつい、その謝罪を拒否した。

「つ、司なんて…嫌いだ……っ!大嫌いだっ!」

 口から出たなんとやら。
 気持ちよくなってしまった自分への嫌悪諸共混ざり合い、あまりの快感で少々高ぶっていたのだろう。
 そう口にした瞬間、ぴしりと音を立て司が硬直した。
 目を見開いたまま固まる司。
 つい、翔太との言い合いの癖で嫌いだなんて言ってしまったが、相手が司だということを思い出しハッとしたが時既に遅し。

「あっ、あの、今のは…………」

 悪い、言い過ぎた。
 そう、言い掛けた時だった。

「い゙ッ」

 伸びてきた手に、シャツの裾を思いっきりたくし上げられる。
 顔の傍まで捲くりあげられたシャツの裾。
 露出肌面積ほぼ半裸に等しい状態に陥ってしまった俺は慌てて「司っ」とやつの腕を掴んだ。

「やめ、ろ…っ、この…!」
「…どうやったら原田さんは気に入ってくれる?」
「どう、って…っ、ぁ」

 身動いで、司の腕を引っ張って引き剥がそうとしたところに伸びてきた指にぎゅっと乳首を引っ張られる。
 不意に目に付いた鏡に、赤く腫れ上がった自分の乳首が目に入り、顔が熱くなった。
 慌てて鏡から顔を逸らしたが、司はそれを見逃さなかった。

「……ああ、なるほど」

 ぽつりと、司が何かを呟いた。
 瞬間、肩を掴まれ無理矢理鏡の前へと体を向けさせられる。
 青褪めだ自分の顔がすぐ傍にあって、その背後、伸し掛かるように立つ司と鏡越しに視線がぶつかった。
 その時、確かに鏡の中の司の口元には笑みが浮かんでいて。

「自分がどんだけ感じてんのか見ないとわからないか」

 耳元で囁かれるその一言に、面白いくらい自分の顔が引き攣るのを俺は見た。

「ちょっ、や、だ…っ司……ッ」
「見える?原田さん…これと、これ、ああ…これも、全部、俺がつけたキスマーク」
「んッ、んん…っ!」

 晒された胸元、赤くなった跡をなぞる指先のその艶かしい動きがこそばゆくて、必死に体を捻るが上半身に回された腕に肩を固定されて動けなくなる。
 そんな中、片方だけ不自然に赤くなった乳首を指で捏ねられた。
 瞬間、背筋に震えが走る。

「ここも、赤くなってる。…わかる?こっちだけ腫れてるのが」
「っ、や、ぁ…ッ」
「こっちしか触ってないのに、片方まで勃起するなんて」

 くに、と片方の乳首を柔らかく圧し潰される。
 鏡の中、胸元に這わされた司の手が動くのが余計恥ずかしくなる。
 逃れようと前のめりになろうとすれば、上半身を抱き竦めていた司の腕に押さえ付けられ強引に胸を逸らさせられてしまうハメになった。

「司…ッ」
「可愛い。…もっと触ってって誘ってるみたい」
「ぁ、っ、や、やめろ…ッ」

 鏡に綺麗に映り込む自分の姿が嫌でも目に付いてしまい、必死に首を横に触ろうとするが顎を掴まれ無理矢理前を向かされる。

「目を逸らすな」

 耳元、押し付けられた唇に息が吹き掛けられる。
 鏡越し、司と目があった瞬間体が石のように硬くなった。

「ちゃんと見ろよ、自分の姿」
「いや、だ…っ、嫌だ、つかさ」
「……嫌だ?…………嘘吐き」

 そう、耳元で司の声が聞こえた時だった。
 下半身、射精したばかりだというのに既に硬くなっていたそこを思いっきり鷲掴まれ、「ひい」と声が漏れてしまう。

「ぁ、や、だめっ」
「これ、なに?なんでこんなに膨らんでんの?」
「っ、ひ…ッ」

 生地越しに不自然な膨みをやわやわと揉まれればぴりぴりとした刺激が全身へ走り、面白いくらい全身の筋肉が硬直した。
 反応すればするほど司の手付きが激しさを増し、強弱を付けて全体を指で柔らかく押されればもうなにも考えられない。

「っやだ、つかさ、やめろっ、やめろってばぁ…っ」

 腰から力が抜け、最早立っているというよりも司の腕で無理矢理引き上げられていると言った方が正しいだろう。絡み付く司の指に扱かれ、先程吐き出したばかりである熱が再び下半身に集中するのが自分でもわかった。

「原田さん、前。見て」

 少しでも顔を下げようとすれば無理矢理鏡に向けさせられる。涙で濡れた自分と目があった瞬間、急激に恥ずかしさが込み上げてきて。

「……これ、なに?」

 その言葉と同時にぎゅうっと股間を掴まれ、引っ張られるようなその強い刺激に頭が真っ白になった。

「…俺にもわかるように説明しろよ」

 俺にもわからないというのに、真顔で無茶ぶりしてくる司。
 今日という日ほど男であることを悔やんだ日はないだろう。
 説明と言われても、これはあれだ。どう考えても生理的なあれなわけで男なら仕方ないことで……。

「ひっ、ぅ…ッ!」

 絡み付いてくる指は勃起したその膨らみを揉みくだす。
 逃れようと腰を引けば、背後の司にぶつかってしまった。
 拍子に、ケツの上辺りに嫌な感触が当たる。
 硬い、その感触はどう考えてもあれしかない。

「っ、お、まえ…っ」

 血の気が引き、慌てて司から離れようとするが掴まれた手に無理矢理腰を抱き寄せられ、結果、強制密着。
 もしかしてわざとではないのだろうかと勘繰りたくなるような動きで下腹部のそれを押し付けられ、司の手と下半身に挟まれなんかもう死にそうになる。

「っ、ぅ、や…っ」
「早く」
「うぅぅぅ…」

 俺がもたつけばもたつくほど次第に司の手の動きは大胆になる。
 掌全体を使って柔らかく揉まれる度に腰から力が抜け落ちそうになり、それは俺がやつの言う事を聞くまで止めないつもりなのだろう。たちが悪い。

「……原田さん」

 絶対言ってやるもんか。
 強要されればされるほど俺の反抗心に火が着く。
 けれど、耳朶を舐め上げられたらそんな思考もぶっ飛んでしまった。



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