アダルトな大人


 童貞vs変態

「どうって、どうから見てもちんこじゃ……」
「そんなこと言われなくともわかる。猿でもな。俺はこれをどう思うかを聞いたんだ」
「ど、どうって……言われても………………ご立派ですね……?」

 もごもごと口ごもる俺に、店長は「言い方を変えるか」と目を伏せる。

「そうだな……これを客に勧めるとき原田、お前はなんと言って勧める?」
「え? す、勧めるって、俺、使ったことないし……」
「触れろ、そしてその目で見るんだ。そして自分が使っているところをイメージしろ」

 なるほど……と、納得し掛けて、「ん?!」となる。
 いや待て、自分で使ってるところ……?!
 一瞬ケツの穴にぶっ刺してる図を浮かべてしまうが、普通に考えて女の子相手に、ということなのだろう。危ない危ない。この店長のせいで俺も混乱してるらしい。
 ディルドの先端をぶにぶにと摘みつつ、使っている妄想をしてみる。
 アナルなんて弄ったことのない俺からしてみたらこのディルドがどのくらいのものか想像つかないが、とにかく褒めてみればいいのだろう。
 彼女に……という設定で想像してみるが、だめだ、そもそも彼女いない俺には難易度が高すぎた。
 仕方ないので自分が女になったという設定でこのディルドを突っ込まれる妄想をする。
 太さは平均より少し大きめだがカリは大きく体長もある。そしてリアルなフォルムには造物独特の無数のイボ。触り心地も触れた感じ柔らかいようで、芯は硬い。
 いきなりこれを入れようとしたらカリが引っ掛かって痛そうだが、ある程度慣らしている人間ならそれが気持ちよく感じるかもしれない。
 脳内で自分を押さえ付け、太股を鷲掴んで無理矢理開脚させる。下着を脱がし露出した肛門に先端を宛がうがまともに異物を受け付けたことのない排出器官はそれを受け入れようとせず締まったままで俺はそのまま強引にディルドを捩じ込……ちょっとまじで興奮してきたから自重しておく。これ以上は洒落にならない。男として。
 俺はそっと持っていたディルドを机の上に置く。

「えっと、その、……長いです」
「それから?」

 え? それから?
 一個じゃないのかよ、と今さら恥ずかしくなる俺はもじもじしながら店長から目を逸らした。

「……っと、なんかそのイボイボでグリグリされたら、その、き……気持ちいい……のかも……」
「それでそれで?」

 まだやれというのか。
 じわじわ顔が赤くなる。俯く俺に、店長はニヒルな笑みを浮かべた。
「なんなら舐めてもいいぞ。安心しろ、新品だ」と笑う店長は言いながらディルドの亀頭を俺の頬にぐにぐに押し付けてくる。硬めの、ゴムの感触。しかしゴム独特の臭いはない。
 押し付けられるそれにまじでちんこでつつかれてるみたいでぞわぞわした。
 慌てて店長の手からそれを奪いとれば、「そうがっつくな」と笑う店長。ちげーわ。
 根本から切り落とされたような形のそれを観察してみる。ご丁寧に玉袋まで造られたそれの底には吸盤が付いており、取り外しが出来るようになっていた。
 風呂場とかタイルの壁にくっ付けるためだろう。よく考えてるな、なんて思いながら俺はそのフォルムを指でなぞる。かなり奇異な造形をしたディルドだがそのイボイボは触り心地がいい。むにむにと両手で全体を揉んでると、店長がじーっと見てることに気付き、慌てて机に置いた。

「……あの、壁につけれるので好きな位置に設置し一人でも楽しむことができると思います」

 そしてそう感じたことを素直に答えれば店長は満足そうに頷き、そして薄く笑んだ。

「因みにお前はオナニーでディルドを使ったことあるのか」

 こいつ、開き直ってセクハラしてきやがった……!

「あ、あ、あ、あるわけないじゃないですか!!」
「指でアナル弄ったりもか」
「な……っななな、つか、なんすかほんと……っ! というか面接関係ないじゃないですか、こんな質問……」
「質問に答えろ。イエスか、ノーか。二択で答えれるはずだろう」
「……っ……」

 なんでだろうか。たくさん言いたいことはあったのに、笑みが消えた店長に見据えられると頭の中が真っ白になるのだ。
 恥じらいもクソもない、寧ろ恥じらってる俺がおかしいみたいなあまりにも堂々とした目の前のセクハラ野郎にじわじわと熱が込み上げてくる。

「あ、ぁ……あるわけ……ないじゃないですか……っ」

 緊張で声が震える。耳の先まで熱い。
 なんでこんなこと言わなければならないんだと殴りかかりたいところだが、こんなセクハラ染みた質問でも一応面接の一環かもしれないし落ちるまでは下手な真似をしたくなかった。そう、全ては金だ。金のためだ。そう自分に言い聞かせ、平穏を保つ。
 けれど。

「なるほど、貴様……処女か」
「……っ、な……………………」

 文字通り、言葉を失う。
 この男、サラッと言いやがった。というか。

「ふ、普通です!」

 なんなんだこいつは、日本人男性の八割くらいは処女に決まってんだろうが。
 っていうかなんだよ処女って。女じゃねーっつーの!

「なにを照れている? まるで生娘みたいな反応だな」
「き、きき、きむす……」
「童貞処女のくせに意味はわかるのか。さしずめAVやエロ漫画、もしくは官能小説で知識だけは植え付けられた真性童貞のオナニー野郎といったところか」
「っ、こ、この……」

 全部図星なだけに言い返せない。訴えてやる、と立ち上がろうとした矢先伸びてきた手に手首を掴まれる。
 見た目よりも大きく、がっしりとした男の手の感触にぎょっとした。
 そして、並んでわかる。頭一個分高い位置にある男は態度だけではなく、身長もでかい。

「では答え合わせをするか」

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