アダルトな大人


 悪酔サティスファクション※

 一人嘔吐祭り開催してしまい、別室へと連行された俺は座敷の上に寝かされていた。大丈夫ですと何度も言ったのだが呂律が回らず、結局また気持ち悪くなっても行けないと大人しくしていた俺だったが、少し横になると大分楽になってきた。
 気怠さ、喉の乾き、アルコールに浮かされた脳味噌。コンディションは最悪のはずなのに、一周回って酔いがいい感じになって気持ちよくなっていた。
 そんな中、個室の襖が音も立てずに開かれた。

「……具合はどうですか?」

 襖聞こえてきた声は、笹山のものだった。
 そのまま襖を閉め、音を立てないように静かに歩み寄ってくる笹山に、俺は上半身を起こそうとして……失敗した。正しくは体が思い通りに動かず、起き上がりかけたもののそのまま再び倒れ込んだ。

「……だいじょうぶじゃない」
「そのようですね」

 そっと、俺の傍に膝をついて座り込む笹山は俺の顔に触れる。笹山の指先は冷たくて、ひんやりして気持ちいい。だから、触れられても嫌な気はしなかった。

「なぁ……他の皆は?」
「隣で飲み会続けてますよ」
「俺も……飲む……」

 俺も、戻らなきゃ。部屋、ゲロ臭くしてごめんなさいって言わなきゃ……。つか、酒……まだ飲み足りねえし……せっかくの店長の奢りだから食わねえと……。
 ぐわんぐわんと揺れる頭の中で色々考えは浮かぶもののまるでまとまらない。再度起き上がりチャレンジしてみれば、今度は笹山の方へと倒れ込んでしまう。笹山はそれを察知したのだろう、すぐに俺を受け止めてくれた。……流石笹山だ。つか、なんか笹山からいい匂いする……。

「原田さん、まだ戻っちゃダメですよ」
「……おれ、もう大丈夫だってば」
「そんな呂律で何言ってるんですか。……また飲むつもりでしょう?」
「う……だ、だって、そのための飲み会……だし……」
「原田さんは酒癖が悪いのでこれで我慢してください」
「これ……?」

 酒か?と顔を上げた俺の目の前。翳されたグラスにはお冷が入ってる。酒かと思った俺が馬鹿だった。

「……いらね」
「駄目です。先程あんなに吐いたんです、水分補給しないと」
「……それなら、アルコール成分入ってる水の方がいい」
「原田さん……」

 あ……やべ。笹山の声のトーンがワントーン落ちたのを俺は聞き逃さなかった。
 流石に調子乗りすぎたか、と思った矢先、顎を持ち上げられる。

「さ、ささやま……?」
「あまり我儘言ってますと、無理矢理飲ませますよ」

 普段ニコニコしてる人の真顔ってなんでこんなに怖いんだろうか。耳元、囁かれる低い声に、はずれない視線に、心臓がドクンと跳ね上がる。
 飲み過ぎたからだろうか、なんか、変な感じがして胸の奥がざわざわする。いつもなら俺が適当に流して、それで笹山も「仕方ないですね」って許してくれる流れなのに、上手く頭が働かない。
 なんだ、これ、なんだ。

「……むり、やり……?」
「……ええ、一人で飲めないと仰るのでしたら俺がその手伝いをしますよ」

 するりと頬から顎のラインを撫でられ、体が震えた。
 細められた目は据わってる。その個室の中には濃厚なアルコール酒が広がっていた。
 笹山が酔ってる、というのはよくわかった。そして、多分……それは俺も例外ではない。

「……じゃあ、飲ませろ」

 何を期待してるのか、自分でもわからない。けれど、「わかりました」と微笑むその目に、声に、体が鼓動は加速する。熱が全身へと広がっていくのが自分でもわかった。
 笹山の行動に迷いや躊躇いはなかった。俺を尻目に、お冷の入ったグラスを口にしたやつはそれに口をつける。
 笹山がいつもの笹山ではないとわかっていたしそれは予測できていたことだ。それでも、まさか顎ごと掴まれ、強引に唇を重ねられるとは思ってもいなかった。

「ん、ぅ……っ」

 精々、赤ちゃんよろしく哺乳瓶バブバブプレイかと思いきや、抉じ開けられる唇の中へと流し込まれるぬるくなった水にびっくりして笹山の腕を掴む。
 けれど、片方の腕に上半身を抱き上げられれば思うように動けなくて、口の中、舌から喉へと流れ込んでいくその水を拒むことはできなかった。

「っ、は、ぁ……んん……っ」

 ゴクゴクと喉が鳴る。
 正直、気持ちいい。水がひんやりしてて美味しいというのもあるが、多分、いい感じに酔いが回ってるからこそこの異常事態を異常と思わずにいられるのだ。

「っ、ぅ……あ……」
「原田さん、溢れてますよ」
「待っ……んん……っ!」

 受け止めきれず、唇の端から溢れた水の雫が首筋へと落ち服を濡らす。それを舐められ、体が震えた。

「水分補給なんですから、ちゃんと飲まないとだめですよ」
「……っ、ぁ……もっ、と……」
「もっとですか? ……いいですよ」

 冷たい水が欲しくておずおずと口を開く。これから来るそれを受け入れようとしたとき、笹山は俺の唇に自分の唇を押し付ける。水の感触ではなく、熱い唇に困惑するのも束の間、反論する暇もなく口の中を舌で犯される。

「っ、んん……っふ、ぅ゛……ッ! ぅ、んん……ッ!」

 違う、これじゃあただのキスだ。
 そう思うのに、言いたいのに。
 畳の上、押し付けられるように手を押さえつけられ、執拗に唇を貪られるとそれだけで下半身がじんと熱くなってきて、段々何も考えられなくなってしまう。

「っ、ふ……ッ! ぅ、ん、んぅ……っ!」

 ぬるぬるした舌で上顎撫でられるだけで脳髄の奥の奥が痺れ、頭の中が真っ白になる。
 気持ちいい。つか、なんで俺キスされてんだっけ。わかんねえ。わかんねえけど、すげえ、コイツなんでこんなキス上手いわけ……?

「っ、ふ、ぅ……ん、ぅ……っ」
「っ、原田さん……」
「……っ、んん……っ、待っ……ん……ッ」

 待てという言葉を口に出す暇もない。
 口の中舐められて、舌を絡み取られ、むずむずしてきた下半身。やばいと思うのに、力が入らない。
 唇が離れ、しばしぼんやりと笹山を見上げていた俺はハッとした。

「き……キス、違う……」
「……そうなんですか?」

 優しく聞き返され、頷き返す。「本当に?」と、唇を指で撫でられ、ピクリと腰が揺れた。

「き、すじゃ……なくて……ぇ……」
「じゃあ原田さんは何をしてほしいんですか?」
「な、に……?」

 なんだっけ……。わかんなくなってきた。
 頭の中がふわふわして、笹山のいい匂いがして、暖かくて……もーわけわかんねえ。

「原田さん?」
「……今日の笹山は、意地悪ばっか言う」
「……そう、かもしれませんね」

 耳たぶにキスをされ、優しく抱き締められる。顔が近いとか、長い前髪が当たって擽ったいとかそんなこと言ってる場合ではなかった。

「酔ってる貴方があまりにも可愛いので……つい」
「……酔ってない」
「そういうことにしておきましょうか」

 するりと背中を撫でるように裾の下から入ってくる手の感触に体が震えた。腰から肩甲骨まで、優しく撫でられるだけで酒のせいで熱が回った体はこそばゆさに震える。

「ぁ、待っ……んんぅ」

 当たり前のようにキスをされる。唇から頬、首筋から喉仏、鎖骨へと徐々に降りてくる唇の感触に上半身が震える。熱くて、甘くて、溶けそうだ。リップ音が恥ずかしくて、やめろ、とやんわりと押し返そうとするが力が入らずそのまま畳の上に倒れ込んでしまう。
 そんな俺を押し倒すように、笹山は再度顔を埋めてくるのだ。

「っ、は、ぁ……っ」
「熱いですね、原田さんの体」
「ん……っ、ぉ、まえだって……んん……っ」
「だとしたら、原田さんのせいかもしれないですね」
「っ、ぅ、あ……っ」

 唇を押し付けられ、舐められ、焦らされる。
 もどかしい。これも酒のせいだというのか。こんな、こんな嫌な触り方をするやつとは思わなかった。こんな風に嫌らしく笑う笹山なんて知らない。
 そう思うのに、鼓動は徐々に大きくなっていく。
 着実に競り上がってくる熱に、呼吸すらも乱される。

「……これ、脱いじゃいましょうか」

 濡れた唇を離した笹山は、そう言って俺の襟首に指をひっかけ、にこりと笑ったのだ。汗のせいか、それともさっきぶっかかった乾きかけのビールのせいかわからないがじんわりと肌に張り付いてくる感覚は確かに良いものではなかった。
 けれど、俺はわかっていた。笹山の言葉が、俺をその気持ち悪さから開放させるためだけのものではないと。

「……脱がせろ」
「結構、原田さんって甘えん坊さんなんですね」

 いいですよ、と目を細める笹山。俺自身なんでそんな風に言ってしまったのかわからない、俺も笹山もおかしかった。
 酒の失敗はいくらでもあるが、このことは俺の後世に残るほどの失敗になるだろう。断言しよう。



 何故、こんなことになっているのか。
 そう疑問に思うほどの頭もなかった。一人だけ服を脱がされ、胡座掻いた笹山の膝の上に向かうあうように座らせられる。なぜ、と思うよりも先に胸元に顔を埋めた笹山に胸を舐められ、こそばゆさにたまらず仰け反った。

「っ、ん、ぅ……っさ、さやま……っ」
「……いい匂いがしますね」
「っ、ま、じで……?」
「ええ、ビールの匂い……味が」

 乳輪を掠めた唇にそのまま尖ったそこを甘く啄まれれば、包み込むような熱に堪らず「ひ」と声が漏れる。

「ぁ、や、待っ……そ、こ……っ」
「嫌ですか?」
「ぃ、や……じゃね、けど……」
「……でしょうね」
「っ、ひ、ぅんッ」

 熱い舌で先っぽから根本までねっとりと舐られ、堪らず胸を仰け反らせ笹山から逃げようとする。けれど、背後に回された腕に逆に抱き寄せられてしまう。

「ぁ、ん、ッ、ふ、……ぅ……ッ!」

 逃れようとすればするほど舌に絡め取られ、吸われ、あまく噛まれる。執拗に嬲られ、じぐじぐと胸の奥で燻る熱は徐々に増していくのだ。

「っ、ぅ、……っんぅ……っ!」

 空いていた片方の胸を指先で撫でられ、体が揺れる。同時は、駄目だ。無理だ。そう首を横に振るが、笹山は気づいていないのか、それとも敢えて無視してるのか、ふ、と小さく笑った気配がしたと思えばその指は突起に触れないように乳輪をなぞるのだ。

「っ、ぅ、あ……っ、待っ……や、め……ろ……っ」 

 片方の胸をくすぐられ、もう片方をしゃぶられる。あっちこっちにいく意識に、快感に、頭の中は真っ白になって気付けば両胸に全神経が集中していた。
 嫌なのに、萎えるどころか刺激されればされるほどツンと主張する乳首が恥ずかしくて、笹山はそれを見て「可愛いですね」と散々焦らされた片胸の乳首、その先端を撫でるように触れる。
 ただ、指の皮が掠めただけのフェザータッチ、それなのに、片胸への一方的な愛撫で高められていた感度には十分な刺激だった。

「っ、ぁ、あ、や、めろ……ッ!」
「……前々から思っていたんですが、原田さんって乳首弱そうですよね」
「ぉ、まえが、変な触り方……するから……っ」
「感じない人は感じないんですよ、開発しないと。……けど、原田さんは元々感じやすいみたいですね」
「……っ、そ、んな……」
「……それとも、自分で触ったことあるんですか?」

 くにゅ、と尖った乳首を両方摘まれ、堪らず言葉を飲んだ。全身に汗が滲む。目が回る。硬く凝った先っぽコリコリされるだけで下半身が切ないくらい反応してしまって、何も考えられなかった。
 昔、まだ俺が思春期の頃、AVの見様見真似で自分の乳首触ったことくらいはあったがそれくらい……のはずだ。記憶が正しければ。けれど、それも対して気持ちよくならなかったし、寧ろ自分の乳首を触るというおぞましい光景に逆に萎えてしまうというほろ苦い思い出はあった。

「っ、な、い……」
「本当ですか?」

 勿体無い、とその形のいい唇が動いたとき、同時に乳首を捏ねられる。根本から先っぽ、側面をシコるように揉まれ、堪らず食いしばった歯の隙間から色気もクソもねえうめき声が漏れてしまう。

「んぅ、……ふ……ッ、くぅう……ッ!」
「小ぶりで目立たず、色素も薄く、少し強く触っただけで赤くなりやすい……色も形も感度もいいなんて……そうそういないですよ、こんな開発したくなるような乳首」
「な、っ、に言ってんだ、お前……ッ!」

 いやまじで、何言ってんだ。酒のせいで理解できないわけじゃないだろう、とんでもないことをあの天使のような優しい面で口走る男に咄嗟に突っ込みそうになるが、遅い。
 逃げ出そうとした体を笹山の胡座で抱き止められ、背後から強く抱き竦められる。ふわりと広がるのはあのいい匂いだ。

「……っ、お前、酒飲まない方が絶対いいぞ……」
「……それは、原田さんもでしょう?」

 う、と言葉に詰まる。項を舐められ、甘く噛まれ、吹きかかる吐息に体がぶるりと震える。
 両胸を揉まれ、執拗に乳首を捏ねられ、引っ張られ、引っ掻かれ、それでも萎えないそこを可愛がるように押し潰す。それだけでいつの間にかに下半身は限界に近くて、触ってほしくてたまんなくなる。
 けれど、笹山は触れてくれない。無理矢理開脚され、隠そうとする俺の股の間のテントを見ては「才能ありますよ」と嬉しそうに褒めてくれるのだ。全然嬉しくねえ。

「っい、いい加減に……しろ……っも……」
「もう、……なんですか?」
「そこばっか……触んな……っ」
「嫌ですか?」
「い、ぃ………………イキたい……っ」

 こんなこと言ってしまえるのも酒のせいだ。そうだろう。違いない。ぶるりと震える下腹部、笹山は「本当ですか?」と惚けたように俺の内腿を撫でるのだ。
 ただ手の甲で撫でられただけなのに、それだけで腰に重い快感が走るのだ。ふるりと胸が震え、笹山、と懇願するように名前を呼べば、俺を見ていた笹山は「わかりました」と微笑んだ。……憎たらしいほど、優しい笑顔。
 それも束の間。「けど」と笹山の視線が襖の方へと向いた矢先だった。
 勢いよく個室の襖が開く。

「おい、水持ってきてやっ……」

 たぞ、と言い終わるよりも先に、突然の訪問者――もとい四川阿奈はグラスを乗せたトレーごと落とした。
 バシャリとあたりに四散する水を眺め、俺も四川も、暫く停止する。……せざるを得なかった。

「なっ……なにやってんだ、お前ら……ッ!」

 珍しくワナワナと震え、動揺する四川。そんなやつを一瞥した笹山は、すっと視線を外し、腿を撫でていた手を勃起したそこへと伸ばす。徐に揉まれ、思わず「ぁっ」と声が漏れた。

「ゃ……笹山……っ」
「どうしました? ……原田さん、顔が真っ赤じゃないですか」
「っておいコラ!! 無視してんじゃねえよ酔っぱらいども!!!」

 個室に入るなりトレーを放り投げ、笹山の髪を掴んで引き止める四川に笹山は「ちょっと」と不愉快そうに顔をしかめた。

「邪魔しないでよ」
「てめえ、それが俺に言うことかよ。人にお使い頼んで自分がそいつ介抱するとか言ってたくせに早速盛りついてんじゃねーよ! ケダモノでももっとマシだぞ?!」
「お前に言われたくないんだけど」
「お前もお前だ、原田テメェ……なんなんだよ。簡単にヤられてんじゃねーよ。俺のときはまじで嫌がったくせに……!」
「だ、だって……笹山、いいやつだし……」
「あぁ?!」
「……お前は嫌だけど。年下のくせに生意気だし可愛くねえし……けど、笹山、優しいし……」
「……原田さん……」
「……っ、ぁ、待っ……笹山……ん……っ!」

 四川が見てる前でちゅう、と耳の裏にキスをされ、こそばゆさに思わず身悶える。駄目だ、と思うけど、乳首こちょこちょされたら段々呼吸も浅くなって……。と、そこで、目の前の四川の額にビキビキと青筋が浮かぶのを見た。
 そして、笹山から引き剥がすように前髪を掴まれる。痛え、と睨んだとき、目の前には見覚えのある凶悪な笑顔。無理して笑ってんのだろう、押さえきれぬ怒りに顔が引き攣ってるせいで余計おっかねえ。

「し、しせ……」
「お前……人がせっかく心配してきてやったのによぉ、なぁ?心配して損したぜ、このクソビッチが」
「な、誰が……っ」

 と、怒りで戦慄く人の顔に思いっきり唾吐く四川に凍りつく俺。いつぞや、こいつに唾吐きかけたときが頭を過る。仕返し、のつもりか。

「……そんなに男とヤんのが好きなら俺が相手してやるよ」

「言っとくけど、そいつより俺のが優しいからな」どろりと垂れる唾液を唇に塗り込まれ、背筋が凍りつく。
「よく言うよ」と、背後の笹山の呆れたような声が聞こえてきたが、すぐにそれどころではなくなるのだ。

「っ、離せよ、おい……っ」
「うるせ、んなにコイツがいいのかよ……っ」
「あっ、たりまえ……んんぅ……っ」

 正面の四川に顎を掴まれ、唇に噛み付かれる。笹山とは違う、性急で乱暴なキスに意識ごと持っていかれそうになる。
 舌を吸われ、唾液を流し込まれ、喉の奥舌の付け根から先っぽまでを粘膜ごと愛撫されるのだ。絡み合う唾液の粘着質な音が響く。何度も角度を変え、俺の髪に指を絡め、覗き込むようにこちらを睨むその目が嫌で俺は堪らずぎゅっと目を摘むった。

「っ、ぅ……んん……っ、む……ふッ、ぅ……ッ!」

 オレンジの味だ。オレンジジュースの甘みが広がる。
 離れようとしても、大きな手でがっちりと固定されてしまえばそれは敵わない。代わりに太い舌で俺の舌を性器かなにかみたいにしゃぶり、嬲り、扱くのだ。不快なはずなのに、浮いた腰が勝手に動いてしまう。
 微かに開いた口からぢゅる、ぢゅぽ、と恥ずかしい音が響くだけで頭の中が熱くなって、何も考えられなかった。

「……本当、阿奈大好きだよね、原田さん」
「っ、う、るへ……っん、クソ……酒臭え……吐きそうだ」
「ならキスしなきゃいいのに」
「黙れよ、お前だって……ッ」
「嫉妬してる? 俺が原田さんとキスしたから」
「……あぁ?! っ、誰が……」

「っ、ふ、ぅ……っ、んぅ……ッ」

 四川に指で口を抉じ開けられ、唾液を流し込まれたかと思えば、人を挟んで喧嘩し始める二人にやめろと突っ込まずにはいられない。おまけに飲むまで許さねえとでもいうかのように四川のやつは俺の口を抑えやがる、息苦しくて、仕方なく口の中の四川の唾液をごくりと飲み込めば、こちらを見下ろした四川は口元に嫌な笑みを浮かべた。

「っ、は……流石変態野郎」
「っ、ぉ、まえが……」 
「俺? 俺じゃねえだろ。……笹山まで誘って、そんなに癖になってんのか?」

 鼻先が当たるほどの至近距離で見詰められれば何も考えられなくて。違う、と言いたいのに、背後の笹山に乳首をきゅっと引っ張られたら反論の言葉は途切れる。

「ぁ、っ、待っ、ぁ、や……笹山……っ」
「そのまま、阿奈の相手してやってください」
「っ、ぁ、いて……って……」
「……こういうこと」

 ニヤリと笑った四川は、人の目の前でベルトを外し始める。デジャヴ。というか、なんでもう勃起してるんだ。
 固まる俺の鼻先、下着をずらして中から飛び出した勃起チンポを突き付けられ、思わず下腹部がきゅんと震える。

「っ、ぅ、……や、めろぉ……ぅ」
「何言ってんだ、好きだろ、これ。しゃぶんの」
「好きなわけ……っ」

 あるわけない、そう言いたいのに。胸を揉みしだかれ、尖った乳首を転がされればそれだけで思考が乱される。「好きじゃないんですか?」と耳元で笹山に囁かれれば、それだけで脳髄が蕩けそうになってしまうのだ。

「ぁ、す、き……じゃ……な……っ」

 違う、そう言いたいのに、目が逸らせない。
 ろくな思い出なんてねーのに、下腹部が痛いほど反応してしまうのだ。濃厚な雄の匂い。腹立つほどのデカさ、剥き出しになった肉の色はグロテスクなのに、それなのに口の中に唾液が滲む。
 硬直した体に、逸らすこともできない目に。四川は不愉快になるどころか余計嫌な笑みを深くするのだ。そして、俺の前髪を掻き上げるように無理矢理掴んだ。顔を挙げさせられる。

「……しゃぶれよ、そうしたら気持ちよくしてやる」

 ぺちんと、頬をチンポで叩かれて、すげーこいつ何様だお前俺の年下のくせにAVみたいなセリフ言いやがってとか色々言いたいことあったのに全部吹っ飛んだ。
 真っ白になった頭の中、目の前のチンポで埋め尽くされる。酒だ、これもあれも全部酒のせいだ。
 そうだろう、そうじゃなければ、末期だ。




「ん゛っ、ぐぷ、ぅ……ゥ! んん……ッ!」

 四川のチンポしゃぶって、背後の笹山に乳首いじられて、何やってんだと思ったところで手遅れである。
 それで、痛いくらい勃起しては触ってもらえなくてひもじい思いしてる俺も俺だ。

「まじで、口だけは達者みてえだな……っ!」
「阿奈、オジサン臭い」
「っ、なんだよ、お前しゃぶってもらえてないんだろ? 羨ましがってんのか? 野郎の嫉妬は醜いぞ」
「別に。俺は……されるよりもする方が好きだから」

 ようやく笹山が胸から手を離したと思えば、そこは弄られ過ぎてぽってりと腫れてしまっていた。見たこともない、明らかに最初よりも肥大したように見えるそこに慄くのも束の間、笹山に項を吸われ、息を飲んだ。そして、俺が口を離せないことをいいことに笹山はそのまま人の太腿に手を伸ばす。

「っん、ぅ……ッ」
「……原田さん、濡れすぎじゃないですか?お漏らしみたいになってますよ、ここ」

 ベルトを緩められ、下着を顕にされ、顔に血が集まる。
 下着の中は既に先走りでグチャグチャになっており、表面に滲むシミを見て笹山は笑うのだ。

「っ、ふ、……ぅ、……んぅ……ッ」
「そんなに触ってほしかったんですか? 腰、揺れてますよ」
「ッ、ぅ、ぶ」

 性器を避けるように直接内腿を撫でられ、もどかしさにふるりと腰が震えた。咥えていた四川の亀頭が口からこぼれそうになり、「おい」と不愉快そうに顔をしかめた四川に後頭部を掴まれた。そして再度咥えさせられる。ガラ空きになった下腹部、笹山は俺の腰を突き出させるように抱き抱えるのだ。そして、膝立ちになった笹山は下着越し、無防備な臀部に自らの腰を押し付ける。
 丁度谷間の当たりに硬い感触を感じ、息を飲んだ。

「……っ、原田さん……そんなに我慢してたんですか? 俺に腰擦り付けるなんて、いやらしい人ですね」
「っ、ふ、ぅ……っ!」

 違う、そんなことしてない。そう言いたいのに、無意識の内に腰を高く上げていたことに気づき、血の気が引いた。
 違う、違う、あり得ない。そう思うのに、あたっただけでもわかるほどの大きなそれを意識するとそれだけでお腹の中が甘く疼き、何も考えられなくなってしまうのだ。
、 
「っは、……こいつは男好きだからな、チンポなら何でもいいんだろ?この淫乱野郎」
「っ、ひ、が……っぁ、んんぅ……っ」
「チンポ舐めながらカクカク腰動かしてんじゃねえよ、クソ……っ! 集中しろ!」
「っ、ん、ぅぶ……ッ!!」

 後頭部を抑えられ、口の中を犯される。息苦しい、すげえ匂いと味。ちげえよ、このレイプ野郎って言い返したいのに、喉の奥を亀頭で突かれるだけで何も考えられなくなる。
 笹山の手に下着を脱がされそうになり、思考は更に乱れるのだ。

「可哀想に、俺は気にしませんからね。……寧ろ、積極的な方は嫌いじゃないですし」
「っ、んぅ……っ」
「お尻の穴、ヒクヒクしてますよ。……小さくて、狭そうですね」
「っ、ふ、ぅ゛……ッ!!」

 すぐ背後から笹山の声が聞こえたかと思った矢先、剥き出しになった肛門を押し広げられる。そして、強引に開かれたそこに唾液で濡れた指が入ってきた瞬間、腰が大きく揺れた。

「ん、ぅ゛ッ、ふ、ぅ……ッ!!」
「っ、おい……力みすぎだ馬鹿……っ!」
「ん゛、ぅぶ、ッ、んんぅ……っ!」

 ずぷ、と抉じ開けるように入ってくる笹山の指に、呼吸が浅くなる。紀平さんのせいでついたケツの痛みは店長の薬のお陰かすぐに治ったけれど、それでもこうして挿入されると何も感じないわけではない。それどころか、痒いところに手が届いたみたいに、脳裏に鋭い快感が走るのだ。
 四川の腰に縋り付くような形のまま、笹山にケツの穴を弄られる。ゆっくり奥まで入ってきた指は、そのまま動き出し出し入れされ、そしてその動きは次第に大胆さを増していくのだ。堪らず仰け反った拍子に、俺は性器から口を離した。
 そして、

「っ、く……ぅ、んひ、ぃ……!」

 ぐちゅぐちゅと体内で響く粘った水音。腹の中を太く骨張った笹山の指で掻き回され、その遠慮ない愛撫に腰はガクガクと痙攣する。俺の反応を見て、的確に良いところを付いてくる。そしてそこを執拗に指の先っぽで擦り上げられれば、頭の中が真っ白に塗り潰され、口からは自分のものとは思えないような甘い悲鳴が漏れるのだ。

「っ、は、ぁ……ッ、抜い、ひッ、ぃ、ぐ、……ッ!」
「ここ、好きなんですか? ……汁、どんどん溢れて来てますね」
「流石手マン野郎」
「原田さんの体は薄いし浅いから、性感帯が分かりやすいんだよ」
「っ、ぐ、ひぎ、ゅ、ッ、ぅ、んんぅッ!」
「……それにしても本当に狭いな。よく紀平さんの入りましたね。あの人、本当にとんでもないな」
「ぜってーお前にだけは言われたくねえと思うよ、あの人も」

 下着の中、どろりと垂れる先走りで汚れたそこを見て笹山は「あ、イッたんですね」と笑った。自分がイッたという感覚はなかった。射精感もねえし、爽快感もねえ、ただ、より一層腹の中で燻る熱を吐き出し損ね、放心していた。
 指を引き抜かれ、立ってることもできずにそのまま俺はずるりと四川に倒れ込みそうになり、抱きとめられた。さっきまでしゃぶってた勃起チンポが顔の横にあろうがどうでもよかった。

「っ、ふ、ぅ……っ、は、……ッ」
「おい、こいつ目の焦点が合ってねえし」
「多分それ酔ってるからだって。……ほら、でもまだ勃起してる。お尻の穴も、開いてはヒクヒクしてる。早く挿入してほしそうだ。……ね、原田さん?」
「っ、ふ、へ……」

 四川から引き剥がされるように笹山に抱き抱えられる。痙攣しっぱなしの内腿のせいで立ってられなくて、頭が回らない。けれど、笹山の指が引き抜かれた喪失感に酷く中が疼いたのだけは覚えていた。

「ほら、原田さんもそう言ってる。……準備は万端だって」

 俺の下腹部からどろりと垂れる先走りを見て、四川は笑みを引きつらせる。

「最低野郎だ」
「お前も共犯だ、阿奈」

 夢現、聞こえてきたその会話の意味など俺には理解する脳すらなかった。


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