アダルトな大人


 強姦、流血、処女喪失。※

 先程から調子が可笑しい。そわそわして落ち着かないのだ。
 というかまあ、こんな空間にいて正常で居られる方が難しいのだろうが。
 暗幕が張られたAVコーナー内部。
 新作AVをプレイ別で並べていた俺はなんかもうやばかった。主に股間が。
 衣服を乱れさせた女優の際どいアングルのパッケージに、背表紙までもびっしりと並ぶ卑猥な単語羅列。
 初めてエロ本見付けた思春期並みに興奮している自分が恥ずかしくなり、必死に萎えさせようとするが意識すればするほど股間に血液が集まり下腹部が苦しくなる。
 これは男としての生理現象だ。仕方ない。なんも恥ずかしいことはない。そう思うが、エプロンで誤魔化せるレベルを越えてきたら相当だと思う。
 別に、溜まってないはずなのに。それをいうなら昨日不本意ながらもあんだけ射精したのに。
 何故だ。自分にこれほどまでに性欲があったのかと驚く。

「……」

 ……ちょっとだけなら、怒られないだろうか。
 室内の暖房がやけに暑い。熱に犯されたみたいにじんと逆上せた脳に浮かぶ思考。
 それが正常ではないと頭のどこかで理解していながらもどっかネジが外れたみたいに歯止めが利かなくなっていた。
 渇いた唇を舐める。そしてそのままエプロンの下の下腹部に手を滑り込ませた俺は不自然に盛り上がったそこに指を這わせた。

「……ん……ぅ……っ」

 デニム越し、指の腹で全体を柔らかく揉み、そのもどかしい感触に小さく息を洩れる。その瞬間だった。

「なにやってんの?」

 背後から掛けられたその声に、全身が凍り付いた。
 柔らかい声。けれど、どことなく冷たさを孕んだその声に、心臓が別の意味でドキドキと騒ぎ出す。
 恐る恐る背後を振り返ればそこには、いつからいたのだろうか、人良さそうな笑みを浮かべる紀平さんが立っているではないか。

「きっ、ききき、紀平さ…」

 やばい、これは、まじでやばい。
 エプロンの下から手を抜くが、恐らく、この人は俺が何をしようとしていたのか気付いているはずだ。
 怒られる。バクバクと跳ねる心臓。紀平さんは、俺の手に握られていたAVを手に撮った。
 そして。

「えー、なになに? 新人ガイド姦行バスツアー……へえ、かなたんって制服もの好きなんだ?」

 浮かべるのは爽やかな笑み。
 しかし、状況が状況だからか今はただ真意の読めないその笑顔が恐ろしくて堪らなくて、これはやばいと青ざめた俺は然り気無く勃起した股間を押さえ付けて隠す。

「ごっ、ごめんなさい、つい、魔が差して……っ」
「なんか万引き犯みたいな言い訳だね」

「でも商品で抜いちゃダメでしょ。一応売りもんだからさぁ」笑いながら、俺の背後に立ったまま紀平さんはそのAVを本来補充する予定のそこに並べていく。
 やっぱり、バレていたようだ。
 店内に流れる煩くない程度の音量のBGMがやけに遠く感じるのはここが隔離されているからだろうか。それとも。

「す……すみません」
「いいよ、別に」
「っえ?」
「店長たちには黙っといてあげる。……未遂だし、それに、AVはそのために作られてるものだからね。寧ろ、催すのは健全な証拠だと俺は思うね」
「っ、き、紀平……さん……」

 見た目が怖いからと少し苦手だなと思ってごめんなさい!
 全然話のわかるいい人だと感動しながら、「ありがとうございます」と振り返ろうとしたときだった。
 伸びてきた紀平さんの手に、手のひらごと握り締められる。へ、と思った次の瞬間、そのまま背後で拘束するように腕を捻られた。

「あ、え、あの……っ?」
「その代わり、共犯ってことでどう?」

「ね?」と、鼻がかった甘いその声に全身が震えた。背後から抱き竦められるような体勢、それと同時に下腹部に押し付けられるその感触に、全てを察した。

「ぁ、あの、紀平さ、なに言って……」
「なにって? ……本当にわからない?」
「っ、う、ひ」

 下腹部をまさぐる手に、ぐっと腰を抱き寄せられれば衣類越し、尻の谷間に感じるその異物感は先程以上に明確になっていて。
 勃起してる、どうして、まさか俺と同じってことか……?!それだとしたらその言葉の意味もわかるが、だとしても、だ。

「かなたん、ここ、使ったことある?」
「ぅ、え」
「お尻の穴……アナルセックスくらいわかるよね?今からここに、俺のハメていい?」

 ねっとりとお尻の谷間に押し付けられるそれに、息が詰まる。駄目だ駄目だ、そんなのいいはずがない。
 そう言わなきゃいけないのに、何故だ、項にキスをされ、舌を這わされればそれだけで思考が溶けそうになる。
 ぬるりとした舌が首筋を這う。生暖かい肉厚とその中央に埋め込まれた金属ピアスの感触に、喉が、震えた。這わされた舌は無造作に伸びた後ろ髪を掻き分けるように皮膚を這う。
 それだけで、この体の熱を悪化させるには十分だった。

「やっ、なに……し……っ、やめて下さい……っ」
「じゃあ言っちゃっていいの? かなたんが勤務中、商品のAVでオナってましたって」

「いいの?」と確認するように耳元で囁かれ、その言葉に全身が硬直する。
 ただでさえこの店に来てよくないことばかり起きている現状、なるべく波風立てたくないのが本音だった。わざわざセクハラまでされて受かったバイトだ。
 居づらくなるようなことはしたくなかった。
 だけど、だけど、こんなことってどうなんだ。

「……っ」

 顔が熱い。顔だけではない、全身が得体の知れない熱に侵されるような……。
 言葉を発することが出来ず、代わりにふるふると首を横に振って拒否をすれば、耳元で紀平さんが小さく笑う気配がする。

「……なら、安心しなよ。別に痛いことするわけじゃないんだからさ」
「っ、う、そ」
「本当本当。……ただちょっと、慣れるまでは辛いかもしれないけど」

「大丈夫、アフターケアはちゃんとしてあげるから」なんて軽薄に笑う紀平さん。あ、それなら……と思ったが考え直せ俺、そういう問題ではない。

「っや……っちょ、待ってくださ……んぅっ」

 言い終わる前に、腰を抱き締めていた紀平さんの手が服の裾の中に滑り込んでくる。
 骨張った大きな男の人の手が、エプロンの下、腹部から胸元に掛けて輪郭線を確かめるように撫であげるのだ。
 なんだ、これ。なんだ、やばいぞ、思ったより。
 両手で抱き抱えるように脇の下から両胸へと回される手、その指に、喉が震える。そのやけに手慣れたやらしい手付きが余計生々しくて、撫でられただけで体が反応してしまうのだ。

「ん、ゃ……離し……っ」
「へえ? ……かなたんって、店のど真ん中でオナろうとするくせに触られるのは駄目なんだ?」
「っ、そ、れは」
「大して変わんないだろ」

 そう、紀平さんは服の裾を持ち上げ、直に胸に触れる。エプロンは下ろしたまま、それなのにその下で思いっきり好き勝手体を弄ってくる紀平さんに、逃げ場を失う。

「っ、ん、ぅ……ふ……っ」

 撫でられただけなのに、触れられた場所がじんじんと疼くように熱を持ち始める。骨っぽい指で乳首の先っぽを柔らかく潰されれば、それだけで酷く堪らない気持ちになる。
 だめだ、こんなの、こんな場所で誰かに見つかってしまっては。
 なんとか紀平さんの腕の中から逃げようとするが、それを邪魔するかのように紀平さんは構わず乳首を捏ねるように揉まれればそれだけで頭が真っ白になる。

「ぁ、や、そこ……っ、ぃ、やめ……っ」
「ん? 乳首が好きなんだ。いいよ、かなたんが気持ちよくなるように好きなだけ触ってあげるね」
「っ、ぅ、ひ……ッ!」

 続けざまに指の腹同時で柔らかく押し潰すように揉まれ、引っ張られる。ずぐりと痛いほど尖ったそこを執拗に弄られれば、痛みは次第に甘いものを孕みだすのだ。
 息を飲む。咄嗟に紀平さんの腕を掴み、駄目です、と懇願するが、紀平さんは「嘘」と笑う。

「耳真っ赤」

 かわいいね、とくすくす笑う紀平さんは耳朶に唇を寄せ、そのまま耳朶を舐め上げる。
 服の下で動く紀平さんの指に弄ばれるそこに神経が集まり、さらに乳首が凝るのがわかった。
 その先端をなぞるように指の腹で柔らかく転がされ、耳許で紀平さんは笑う。
 虚勢だとわかっているのだろう。

「う、ぁ……っ」
「っ……本当、かわいいね、その反応。可哀想に、こんなに震えちゃってさ。……本当、堪んないよね」
「っ、あ、待っ、ん、ぅう……ッ!」

 慌てて逃げようとするが、抱き締めるように紀平さんに捕まえられ、そのまま耳朶の輪郭をなぞるように執拗に舐められれば声が、息が、震えた。
 ピチャピチャと湿った音が直接鼓膜に染み込んでくる。
 耳の穴、その周辺を這う濡れそぼった熱い舌。その一挙一動は生々しいほどまでに鮮明に伝わって、ピアスが掠める度にそれだけで酷く感じてしまいそうになる。
 そのときだった。ずるりと、右耳が熱に犯される。

「ぁ、うそ、うそ……っうそうそうそ……っ」

 ずるりと侵入してくる紀平さんの舌の熱に、全身が硬直する。犯される。脳の奥まで、嬲られるように耳の穴から窪みまで隈なく舐められれば至近距離から響く濡れた嫌らしい音に、吐息混じりのそのそれに、頭の中が真っ白に塗り替えられていく。
 まるで頭の中を直接犯されてるような錯覚に陥らずにはいられない。

「っ、や、だ、め……です、これ、だめ……っ」
「っ、……は、そうなの? ごめんね、でもかなたんの耳、俺可愛くて好きだよ。……ぷりぷりしてて、食べちゃいたいくらい」

 吹きかかる吐息、囁きかけられるその低い声は直接鼓膜から流れ込み、鼓膜から脳味噌へとどろどろに蕩かしてくるのだから恐ろしい。
 この人が何を言ってるかなんて理解できないのに、可愛いと言われる度に胸の奥がぎゅっと締め付けられるように反応してしまう。
 なんで、どうして。可愛いって言われても嬉しくないのに、どうしてだ。

「っは、も、これ以上は……っきひ、らさ、ほんと…誰か来たら……っ」

 ぴちゃぴちゃと濡れた音が聴覚を支配する。
 感じたこともないような頭の中を探られるような不快な快感に全身は泡立ち、これ以上はやばいと、胸をまさぐる紀平さんの腕に爪を立て必死の抵抗を試みる。
 それが効果があったのかはわからないが、懇願すれば紀平さんは耳から舌を抜いてくれた。そして、そのままじゅるりと唾液を啜られればそれだけで体がびくっと震えてしまう。
 紀平さんは耳の裏に優しく口付け、小さく笑った。

「それってさあ、誰も来なかったら最後までヤっちゃっていいってこと?」
「ぇっ? あ、ちが……違います…っ、や、やらないで下さい……っ」
「うーん、どうしよっかなぁ。なるべくならかなたんの意思には沿ってあげたいんだけど」
「っぁ…っや……っ」
「まあ、そんな可愛い反応されて無視するわけにはいかないよね。男として」

 無視してください、人間として。
 懇願する俺に構わず、紀平さんは指の腹でくにくにと突起を潰して弄んでくる。
 脳髄から脊髄まで全身へと回る熱にぐずぐずになった体はそれだけでも腰抜けしそうになるのだ。
 逃げるように目の前の陳列棚にしがみつこうとしたときだった、不意に、AVコーナーを囲う暗幕の向こう側から慌ただしい足音が聞こえてくる。
 そして、

『おい、紀平見なかったか』
「……っ!」

 店長だ。すぐ近くで店長の声がした。
 まさか、なんで、店長が。
 状況が状況なだけにかなり焦る俺だがよく考えてみなくても同じ職場なのだからいつどこでやつが現れようがそれはごく当たり前のことで。
 むしろ、当たり前じゃないのは紀平さんの行動だろう。

「紀平さ、店長が……っんんっ」

 そう慌てて紀平さんを止めようとした矢先のことだった。
 伸びてきた大きな手に無理矢理口を塞がれる。

「っん、んん……っ」
「あー…見つかっちゃったら面倒だなぁ」

 そう独り言のように呟く紀平さんは息苦しくなり呻く俺の顔を覗き込めばにこりと笑い、「しー」と人指し指を唇に添えた。騙されてしまいそうになるくらい爽やかな笑顔。
 もちろん、顔だけだ。こんな顔をするくせにこの男、人を犯す気満々でいるのだから恐ろしい。

「……まあ、かなたんが人前で犯される方が好きっていうなら好きなだけ声出していいけど」

 涼しい顔をして脅迫めいたことを口にする紀平さん。
 言いながら助けを求めようと口を開いた俺は自分の格好を思い出し、固まった。その隙がまずかった。
 口元を覆っていたその手は容赦なく唇を抉じ開け、そして侵入してくる。そして二本の指は、奥へ逃げようとしていた舌を捕らえ、そのまま口から引き摺り出すのだ。
 静かにしろという無言の脅し。

「っふ、んぅう……っ」

 他人の指に咥内を荒らされ、あまりの息苦しさに涙を滲む。
 ふるふると首を横に振り、そんなつもりはないと紀平さんに意思表示をすれば、紀平さんは目を細めて笑った。

「そ、いい子だね」

 満足そうに微笑んだ紀平さんは俺の口から指を抜いた。そう、ようやく息苦しさがなくなり安心した矢先のことだ。
 唾液に濡れた紀平さんの手はそのまま俺のエプロンの下へと潜り込み、ベルトのバックルを掴む。

「っぁ、え、待っ…」

 そのままガチャガチャとズボンのウエストを弛めようとしてくる紀平さんに青ざめ、慌てて止めれば不思議そうな顔をした紀平さんは小首傾げながら「なに?」と聞き返してくる。
 女の子がしたら癒される動作がこの人がすると恐ろしくて堪らない。いや、問題はそこではない。

「なんで、脱がし…っ」
「だって脱がさなきゃ挿れれないだろ」
「い……ッ」

 挿れる。挿れるって、その、あれをそれしてああするということですよね……?!
 やっぱり無理だ、と身を捩って腰を引こうとするが、あまりにも分が悪すぎた。
 緩められたウエスト、ずるりと穿いていたパンツを下着もろともずり下ろされる。一気に涼しくなる下腹部にぎょっとしたときにはもう遅い。

「……その反応、もしかしてまだ店長に挿れられてないの?」
「そ、そんなこと……っ」
「阿奈にも?」
「っ、あるわけ……っ!」
「――そう、じゃあ、俺がかなたんの処女貰っちゃうんだね。そっか、ならうんと優しくしてあげないとね」

 そうなんでもないように囁かれ、ぞくりと背筋に悪寒にも似たものが走った。

「そ、んなの……っやっぱ、む、むり……っんんぅ……!」

 背後から裾ごとたくし上げるように撫で上げられ、声が漏れてしまう。逃げようと身動ぎしたところを再度捕えられた俺の耳に唇を寄せた紀平さんは「いいよね?」とねだるような口調で問い掛けるのだ。
 鼓膜から浸透するその低く、しかし威圧感はなくどこか耳障りのよさすら感じるその声。
 ずるい、そんなの、そんな言い方。

「や、ぁ……っ」
「本当、耳弱いよね。かなたん。……よくピアスなんて開けれたね」
「っ、ふ」

 ふ、と耳朶に息と吹き掛けられ、全身がぶるりと震えた。先ほど舌で嬲られたときの感触が鮮明に蘇る。
 紀平さんの舌にピアス穴をくちゅくちゅと舐められるだけで酷く堪らない気持ちになるのだ。

「っ、や、だ、めです……っ、これ以上は……っ!」

 慌てて声をあげ、紀平さんを止める。よく考えなくてもこのままでは俺の貞操が危ない。というか青春が。あと男としてのプライドが。
 外にいるのが客でもあの変態睫毛野郎でもいい、誰でもいいから助けてくれ。……いやでもやっぱ店長に恩を作るのは嫌かもしれない。けどけど、今、ここで相手を選んでる場合ではない。俺のケツの危機なのだから。

「だ、誰か……っ」

 この際もう俺がAV陳列してて勃起した上その場でオナニーしようとしたオナニー野郎でも結構だ。誰でもいい、助けてくれ、なんて口を開けた瞬間口を塞がれる。そして、

「……あーあ、なんか俺が虐めてるみたいで心痛むなあ。……どうしよこれ、イヤイヤしてるかなたん見てるとちんこ勃っちゃった」

 全然痛んでねーじゃねーか。
 押し付けられるブツに目の前が眩んだ。しかも心なしかさっきよりもデカくなってる気がするんですが気のせいですか?
 気のせいじゃないですね、そうですか。


 背後からジーッとジッパーを下ろす音が聞こえ、なんだかもう生きた心地がしなかった。

「やっ、ほんと……っだめです、おれ、さっきのこと、店長たちに言っていいますから……っちゃんと謝るんで…っ!」

 だから、と、そう咄嗟に腕を振り払おうとするがやはり敵わず、それどころか「へえ、偉い偉い」と軽薄に笑う紀平さんには全く気に留めた様子もない。
 それどころか、剥き出しになったケツを指で割り開かれればそれだけで息を飲む。必死に足を閉じようとすれば、背後で紀平さんは笑う。

「あはは、緊張しすぎでしょ。頑張って閉じてるし」
「っ、う、あ、や、見ない……で……っくださ……」
「そう言われてもな、こんなにぷりぷりしたお尻突き出されて見るなという方が無理な話だろ?」

 突き出させてるのは紀平さんな気がしてならないのだろうがそんなこと言い出したらきりがない。
 尻たぶを左右に割るように広げられ、普段自分でも見たことないようなそこを指で広げられればそれだけで死にそうになる。

「ほんと……かなたんは恥ずかしがり屋さんなんだ。真っ赤になってかわいーね」

 そして、息を飲む。
 ずりゅ、と滑るように股の間、玉を下から擦り上げるように捩じ込まれるそれに体が飛び上がりそうになった。

「っ、ぅあ……ッ?!」

 抱き締められるように腰を掴まれ、そのまま奥まで紀平さんに腰を押し付けられれば、エプロンの下、股に挟まった熱く怒張した違和感の塊に汗が噴き出した。
 素股、と単語が過る。
 素股モノのAVで何度もお世話になった俺だがまさかされる側になるなんて思いやしないだろう。
 下腹部を隠すように垂れたエプロンでその下、そのまま先走りで滑った肉棒を腿の隙間を性器に見立てて抜き差しされればそれだけでどうにかなりそうだって。

「や、めっ、ぅ、動かな……ぁひ、でくだ、さ……っ!」
「……っは、すげーすべすべでもちもちで、素股向きじゃんかなたんの足……っ!」
「っ、な、に言って……っ」

 他人の熱に戸惑い、必死に足を開き紀平さんの性器から退こうとするが、逃げられない。
 股の間、潜り込んだそれに玉ごと下腹部を擦り上げられるだけで、まるで本当に挿入されてるかのような感覚に陥る。濡れた粘っこい音が下腹部から響き、わざとだろう、下腹部、アナルを掠めるように性器を擦り付けられればそれだけで呼吸が浅くなって、まともに立ってられなかった。

「……っ、そうそう、もっと腿とお尻締め付けて。じゃないと、いつまで経っても終わらないよ」
「い、ひぅ……っ! 待っ、ぁ……っ」
「……待たない」

 そう熱っぽい声で耳元で囁かれればぞくりと全身が震える。
 身動ぎする俺を捕まえたままその股の間の感触を楽しむかのように挟めた性器を擦り付けた。
 疑似挿入。というのだろう。
 勃起した性器から先走りが溢れ、次第に下腹部からぬちゅぬちゅと嫌な音が響く。
 誠に残念ながら足の長さが違うせいか、相手の性器に股がるようになってしまい必死に退こうとするが腰を掴まれ背中に覆い被さられればもう逃げられない。

「ん、ぅ……っ! ひ、ぅう……っ」

 自分の足を性器に見立てて挿入されるということ自体考えてもなくて、羞恥やら屈辱やら嫌悪感やらくすぐったさやらで頭の中がぐちゃぐちゃになる。
 押し付けられ、擦り上げられ、その都度亀頭の凹凸が下腹部を掠め、声が漏れる。指先から力が抜け、もどかしい刺激といけないことをしてるという緊張感に熱は更に膨れ上がるのだ。
 下肢へのピストンに耐えられず、棚に縋り付く。紀平さんに腰を掴まれたせいでそれにすがるような形になってしまい、結果、相手に尻を突き出すような体勢になったことにまで頭は回らなかった。

「あー、駄目だ、気持ちいいけど……物足りないね。やっぱこういうの向いてないみたいだわ」

 ずるっと引き抜かれる勃起したそれに「へ」と背後を振り返ろうとしたその瞬間だった。
 尻たぶを鷲掴まれ、ケツの穴ごと割れ目を無理矢理広げられたと思った次の瞬間、露出させられたそこに押し当てられるのは先程まで太腿に感じていた硬く、熱い――。

「痛かったらごめんね?」

 なに、言って。
 そう言葉を発するよりも先に、喉先まででかかったその言葉は掻き消される。

「──ッ!」

 すべての音が消える。目の前が真っ白に染まり、息が止まりそうになった。股から頭の天辺に突き抜けるのは指ともディルドとも違う、もっと太く、脈打つその熱の塊だ。

「っ、は……ッ! ぁ、……っ!」

 潰れたカエルのような声が漏れる。紀平さんが腰を進めれば、その亀頭冠に沿って無理矢理押し広げられていく内壁に背筋が凍る。呼吸の仕方も忘れるほど頭が真っ白になって、咄嗟に掴んだ棚の枠組みはもがく俺のせいで揺れ、ガタリといくつかの商品が床に落ちた。
 足元、『童貞チンポ100本斬り!』なんて謳い文句が書かれたAVのパッケージが目に入り、前まで興奮やら性欲をそそられたそれに今は恐怖しか抱けなかった。
 俺は、たった一本だけでも死にそうだというのに百本とか地獄かはたまた拷問か。
 動かないでほしい。微動だにせず、速やかに抜いてほしい。それなのに、懇願の言葉も声にならない、それどころか紀平さんはゆっくりと確実に中を押し開くように進んでくるのだ。先走りで濡れた亀頭だが、いくらディルドで慣らされようともそこは挿入するための器官ではない。
 あくまで意思に反して腰を進められればそりゃ無茶な話ってもので、ひたすら苦痛。苦しい。まじで、冗談抜きで、ケツが割れる。

「っ、は、ぐ……ッ!」
「さっすが……処女はキツイなぁ……っ」
「っ、ぬ、ぃ……って、くださ……ッ」
「んー、それは無理……っ、かな」
「ぅ、くひ……ッ!」

 いいながら、小さく呻く紀平さんは俺の腰を優しく撫で、そのままぐっと腰を進ませた。
 無理だろ、と思うのに、入っていくのだ。受け入れる準備もできてないそこを抉じ開け、強引に入り込んでくる紀平さんのものに、腹の中は焼けるほど熱くなる。痛い、とか、そんな風に冷静に考える頭もなかった。
 他人の物が挿入されてる。女みたいにバックでねじ込まれてる。芯を持った肉棒に粘膜を嬲られ、「んんぅ」と自分のものと思えないような声が漏れる。

「ひっ、んん……っ! ぅ、ひ、ぐ、ぅ……っ、ぁ、待……んんッ!」

 顎を掴まれ、唇に噛みつかれる。
 キス、されてる。今度は口移しじゃない、キスだ。
 くぐもった声ごと飲み込まれるように舌を絡み取られれば、頭の中からどろりとした得体の知れない感情が込み上げる。

「っ、ん、ぅ゛……っ! んん!」

 粘膜同士を擦りあわせるような執拗なキスだった。
 気がそれた瞬間、再度挿入を再開させた紀平さんに一気に腰を押し付けられ、瞼の裏が真っ白に点滅する。
 口と下腹部、感じたことのない熱量と快感にキャパオーバーになり、目が回るようだった。
 先程まで焼けるように熱を持った内壁は、紀平さんのもので何度も執拗に擦られれば次第に溶けるようにぐずぐずになっていくのが自分でもわかった。
 痛くて、苦しいはずなのに、それ以上に一抹の甘いものを感じてしまった自分が理解できなくて。
 裂けるようなケツの痛み。男相手に突っ込まれてるという恐怖。
 そしてなにより、熱に侵され高揚するこの胸が恐ろしくて堪らなかった。

「ん、ぅ……っ! うーーっ、ぅ、……ふ……ッ!」

 泣きそうになりながら、やめてくれと紀平さんの腕を掴んで懇願すれば、唇を離した紀平さんは「ごめんね、かなたん」と嗚咽する俺の頭を優しく撫でる。
 さっきとは違う、どこか申し訳なさそうな優しい声に全身の緊張が僅かに弛んだ。

「き、ひらさ……」
「……すっげー興奮してきちゃった」

 もう本当やだこの人。



「っ、ぁ、あぁ、や、き、ひらさっ、ぁ、……ひぅ……っ!」
「ははっ、すげぇ声……。最高だよ、かなたん…っ」

 激しいピストンの度にエプロンの前掛けは揺れ、下着から飛び出した勃起した性器が擦れ、痛みに似た快感に先端からぬるぬるとした先走りが滲む。エプロンが染みになる、なんて気にしてる場合ではなかった。
 ただ紀平さんの性器を受け入れることで頭がいっぱいになり突かれる度に思考が飛ぶ。
 それでも下腹部に走る痛みは確かに本物で、痛みのお陰でなんとか引き留められた理性を振り絞った俺は涙で歪む視野を足元に向け嘆くように嫌々と首を横に振った。

「っも、む、ひ……、ぬい、…っぬいて…っぇ、しぬ、しぬ……っ、しん、じゃう………っ!」
「へえ……っ、そうなの? じゃあこの場合死因はなんて言うのかな、出血死? 腹上死?」

 そして言い終わると同時になにか思い出したらしい紀平さんは「あ」と声を漏らし、「腹じゃないな。これ」とピストンを続けながら嘯く。
 あまりにも緊張感の欠片もない、というかゆるいというかマイペース過ぎる紀平さんに軽い殺意を覚えたが今はただもうこの状況から脱け出すことが優先だ。
 しかし、紀平さんに何度も腰を打ち付けられ、無理矢理抉じ開けられたそこを執拗に擦り上げられればそれだけで何も考えられなくて。

「ぅ、く……ひィ……ッ」

 強引な挿入にすっかり型を変えたケツの穴はガチガチに勃起した性器による激しい摩擦により腫れ、熱を持ち始めていた。刺激され続けた粘膜は些細な感触すらも電流が走るような衝撃に襲われ、腹の奥、本来なら届くはずのない場所を亀頭で抉られる度意識が飛ぶ。

「ぉ……あ゛ッく、ぅ、ひぐ……ッ!」
「ッ……うん、そうだね、かなたんのためにすぐ終わらせるから。……っほら、あと少しの辛抱だから、もうちょっと頑張って」
「っあ、は……ひぃ…! …っき、ひ、らさ……ぁ……ッ! ぁ、ん!」
「っは、まじでかわいー反応するんだもん……っ、かなたん……それ、わざと?」
「ぅ、はッ、ぁ、ぅあ、待っ、ぁ、あ……ッ!」

 開いた口を閉じるどころかピストンの度に開いた口からは溜まった唾液が待てをされた犬みたいに溢れるのだ。
 それ以上に、だらしない声が溢れ、恥ずかしいのに、声を我慢することができなかった。腰をねっとりとグラインドかけられればそれだけで脳汁も先走りも止まらなくて、獣じみた声が溢れるがそれを堪える脳もなかった。

「はーっ、ぁ、ッ! ぁ、あ、奥、おくぅ……っ、待っ、ぁひっ、動かない……で、ぇ……っ! でちゃ、う、イクっ、おれ、おれぇ……ッ!」
「っ、良いよ――……一緒にイこうか」

 へ、と顔を上げたとき。
 両胸を肩ごと引っ張られ、腰を叩きつけられる。隙間なく根本まで捩じ込まれた下腹部、それでも更に体を引っ張られたとき、直腸を抜け、その奥、突き当りに亀頭を感じた瞬間、頭が真っ白になった。
 ドクドクと腹の奥へと溢れ出る熱に、その電流に似た快感に耐えられずに漏れ出す精液に、自分が出されてるのか出してるのかすらわからなかった。真っ白になった頭の中、「頑張ったね」と頭を撫でる大きな手のひらの感触を確かに感じた。感じたが、放心した俺は暫くどうすることもできず、もしかしたら気絶していたのかもしれない。引き抜かれる性器に、支えを無くした体は床にずるりと落ちた。
 無理矢理抉じ開けられ、開きっぱなしになったそこから溢れる精液を感じながら俺は「ピンク色の精子ってさあ、なんか可愛くない?」という紀平さんの言葉を聞いていた。

「紀平、貴様こんなところにいたのか!」

 そして、意識が途切れるその直前、見覚えのあるスーツの男とやかましいその声を聞きながらぐるりと世界は反転する。キャパオーバー。辛うじて保っていた意識は、助けがきた安堵とともに俺の手から離れたのだった。

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