翔太と原田で痴話喧嘩
SNSで知り合ったやつらとオフ会してその帰り、いつもより遅くなってしまい、もうカナちゃんは眠っているだろうかなんて思いながら恐る恐る帰宅したときのこと。
カナちゃんは起きていた。
ビール瓶を片手に。
「あっ、カナちゃんまたお酒飲んで…!」
「…どこに行ってたんだよ」
「え?」
「こんな遅くまで、どこに行ってたんだよって聞いてんだよ」
据わった目。低い声。あ、怒ってる。と、直感で察した。
というかカナちゃんはわかり易すぎるのだ。
「どこって、別に友達と遊んでただけだって」
「嘘付け!女とイチャイチャ街中歩いてただろうが!」
うわ、しかもバレてる。なるほど、それで怒ってるのか。ヤキモチか、可愛いなぁ、なんて思っているとどうやらそれが顔に出てたようだ。
カナちゃんの目付きが更に鋭くなる。
「人が真剣に話してるのに、なに、にやにやしてんだよ…っ!この裏切り者!眼鏡!」
「眼鏡を悪口みたいに言わないで!…っていうか、カナちゃんなんか勘違いしてるみたいだけど別になにもないからね、ただのオフ会だし」
「嘘付け!オフ会でなにもないわけないだろ!どうせ飲み屋で相手に酒飲ませて途中からエロい空気持っていって最終的にメンバー全員で乱交パーティーするんだろ!翔太の変態!ヲタク野郎!眼鏡!」
「いやいやいやAVの見すぎだから!落ち着いてカナちゃん!自分で言って照れないで!そういうところも可愛いけど!」
「うるせえ!人が童貞だからって馬鹿にすんじゃねえよ!事あるごとに『あ、童貞なカナちゃんにはわかんないかな〜』とか余計なこと付け足しやがって!定型文野郎!」
「ただの冗談じゃん!いつも軽く流してたくせにめっちゃ気にしてんの?!ごめんね!開き直ってんのかと思ってた!ごめんね非童貞で!」
「うおおおお!!うるせえ!筆下ろしの相手ラブドールのくせに!」
「ちょっ、なんで知って……っぐふっ!」
言いかけて、そのまま突進してきたカナちゃんを慌てて抱き止めるが、バランスが取れず尻餅を着いた。
何事かとカナちゃんに目を向ければ、カナちゃんは上半身に抱き着いたままぎゅうっとしがみついてくる。
「あの、……カナちゃん?」
「……っなんで、ほったらかしにするんだよぉ……っ」
涙で掠れた声。
飲んだせいだろうか。いつもに増して感情の起伏が激しいカナちゃんに戸惑わずにはいられない。
それ以上に、珍しく素直なカナちゃんに心臓が騒ぎ出す。
「…ご…ごめんね、カナちゃん寝てたから声掛けずに出掛けちゃって」
手のやり場に迷い、おずおずとカナちゃんの髪を撫でれば僅かにカナちゃんの緊張が緩んだような気がして。
「……許さない」
胸に顔をくっつけたまま、小さく呟くカナちゃんは拗ねた子供のようで、ダメだとわかっていながらもついつい頬が緩んでしまう。
「どうしたら許してくれる?」
「……俺の言うこと、聞いてくれるなら」
「そんなこと、お安い御用だよ」
「それで?どうしたらカナちゃんの機嫌が治るの?」と笑いながら顔を覗き込めば、カナちゃんはゆっくりと顔を上げた。
ちょっぴり泣いたお陰で赤くなった瞳が僕を見上げる。
少しだけ、胸が弾んだ。
「……って」
「ん?」
「……今度、乱パいくときは俺も連れてって」
「だからただのオフ会だってば!」