花葬


 03※

「でも、良かったよ。……あいつの死は無駄じゃなかったんだ。君とこうしてまた会えたんだからね」
「うそ、だ」
「嘘じゃない。……けど、君が俺のことを信じられないって言っても無理はないと思う。ああ、そうだね。君はまだ混乱してる。お兄さんが死んだばかりで戸惑ってるんだ、仕方もない」

 何故、この男はこんなに落ち着いてるのか。
 嘘だとしてもあまりにも悪質で、そしてその理由がなによりも分からない。

「……君は知りたいって言ったよな、侑のこと」

 言葉を失ったままの俺を一瞥し、花戸は俺の胸に唇を寄せた。「やめろ」と制する声すらも震え、逃げ出すこともできずただ身を攀じることしかできない俺の胸に触れるだけのキスをし、撫でる。
 まるで割れ物に触れるかのような優しい手付きに背筋がぞっとした。

「教えてあげるよ、俺と侑がここで何をしてたか」

 乱れた前髪の下、見上げてくるその目に血の気が引いた。
 咄嗟に腕を動かし、ベッドが大きく軋んだとき。大きく口を開いた花戸はそのまま胸にしゃぶりついた。

「っ、や……ッめ、ろ……ッ!」

 振れられるのとは違う。濡れた舌の感触と、直に感じる人の体温があまりにも気持ち悪く咄嗟に飛び起きようとするが逃げることはできない。
 胸元に覆い被さってくる花戸の前髪が、吐息が皮膚に掠めるだけで体が反応してしまうのに躊躇なく乳首を舐められ、あまりの出来事に何も考えられなくなる。

 何をされているのか、この男が何を言ってるのかまるで理解できない。
 理解したくもなかった。

「……っ、ん……侑は好きだったよ、乳首舐められるの。あと、しゃぶられるのも……君はどうだろう。感度はいいみたいだけど」
「っ、だまれ、兄さんの名前出すな……ぁ……ッ!!」

 言い終わるよりも先に唇で甘く突起を吸われ、堪らず息が漏れてしまう。品のない音を立て、そのまま挟まれた乳首を咥内、尖った舌先で飴玉かなにかのように転がすように舐られ全身の毛穴が開きそうになるのだ。

「っぁ、いやだ、やめろッ、へ……変態……っ! 人殺し……ッ!!」
「っ……可愛いね、声、上擦ってる」

 ぢゅる、と音を立てて唇を離した花戸は濡れそぼったそこに息を吹きかける。それだけで頭の中が真っ白になり、堪らず奥歯を噛み締めた。そんな俺を見て、花戸はただ嬉しそうに微笑むのだ。あの優しい笑顔で、じっとこちらを見つめて。

「大丈夫。……ちゃんと全部教えてあげるよ、間人君。君にはちゃんと俺のことを知ってほしいんだ」

 無理矢理開かれた足、その間に割り込むように膝立ちになった花戸は俺の太腿を撫でるのだ。そして開かれた下腹部、そこに押し当てられる感触に全身が冷たくなる。
 なんで、どうして。そんな言葉ばかりが頭を埋め尽くす。
 ――何故、この男は勃起してるのだ。

「……っ、間人君、怖がらないで。俺は君に危害を加えるつもりはない……君とのこの出会いは、関係は大事にしたいと思ってるんだ」
「っ、ど、退け……退いて……ッ」
「あいつも最初はそうだった。最初は死ぬほど嫌がっていたけど……君はあいつとは違う、ちゃんと、気持ちよくしてあげるからね」

 能面のように表情の奥が読めない目の前の男だったが、明らかにその表情に色が浮かんだ。
 浅くなる呼吸。太腿を撫でられ、徐々に足の付け根へと登ってくるその指先に足を開くように掴むのだ。閉じようとしてもあまりにも不利だった。
 信じたくなかった。この男の言葉から兄のことを語られるだけで全身に虫唾が走る。
 それなのに、耳を塞ぐことすらも許されない。
 片手でベルトを緩められ、そのままパンツを下げられる。隠すこともできない下腹部、下着一枚だけになったそこに目を向けた花戸は「ああ」とその口元を緩めるのだ。

「……可哀想に、縮んでるね」
「……ッ、さ、わるな……ッ」
「触らないと気持ちよくなれないだろ」

 まだ、と唇を歪める花戸はそう呟き、躊躇なく下着の中で縮み込んだそこに触れてくるのだ。最初は表面を撫でるように人差し指でそっと撫でられ、堪らず腰が逃げてしまう。それを見て、そのまま花戸は性器の膨らみ、その裏まで指を這わせるのだ。

「っ、や、め……っ、ぇ……」

 嫌だ、嫌だ、兄さん。兄さん。
 口の中、喉元まででかかった声を飲み込んだ。
 下着の両裾を掴まれ、大きく引っ張られれば下着が食い込み、思わず目を開く。尻たぶだけ覗くよう、割れ目に食い込む感覚が不快で「やめろ」と声を上げようとすれば、花戸と目が合った。それからやつは躊躇なく唇を重ねてくるのだ。

「っ、ん、ぅ……ッ」

 甘くキスをされながらも臀部、下着からはみ出た尻肉を撫でられ、そのまま鷲掴むようにして揉みしだかれる。
 執拗に唇を啄まれながらも体を好き勝手弄られて正気でいられるはずかない。やめろ、と必死に腰を浮かせて逃げようとすれば花戸は下着からはみ出た左右の尻肉を掴むのだ。先程よりも強い力に驚いて全身が凍り付くのも束の間、そのまま左右に押し広げるように割られ、堪らず息を飲んだ。

「っ、ふ、ぅ……ッ!!」

 ずらされた下着の奥、窄まりの周辺の皺を撫でられる。腰を引こうとすれば、更に強い力で抱き寄せられるのだ。
 そして、ぐに、と固く閉じた肛門を撫でられ血の気が引いた。萎えた己の下腹部には、押し当てられる勃起した花戸のものの感触。

「っ、や、めろ……」
「……ここに俺の性器を挿入するんだ。セックスだよ、間人君はまだ誰にもここには触れさせて……ないよね?」
「っ、あるわけ……ないだろ……!」
「ああ、そうか。……良かった、それを聞いて安心したよ。君に限ってとは思ったけど、君は魅力的だから……もし、そうだとしたらどうしようかと思ったけど――そうか、良かったよ」

 本当に、と花戸が微笑んだときだった。
 ずるりと下着を引き抜かれる。哀れなほど萎えた性器が顕になってしまうことを恥じる余裕もない、青ざめる俺を前に花戸は自分のウエストを緩めるのだ。
 そして。

「じゃあ、俺が君の初めてになるんだね」

 優しく、甘い声。
 昼下りの明るい部屋の中、兄が首を吊ったという照明の下であの男は笑って自分の勃起した性器を握るのだ。

 なんで。こんなことになってるのか。

「っ、いやだ、やめ……っやめろ、やめ――ッ」

 その先は声にならなかった。
 手のひらで口を塞がれる。目を見開いた次の瞬間、固く閉じたそこに硬く、熱いものが宛がわれる。
 嫌だ、やめろ。嫌だ。
 そう叫ぼうとするが、全て花戸に塞がれる。そしてやつは「ごめんね」とだけ呟いて、そのまま俺の腰を掴んだ。
 文字通りこじ開けられる。体重をかけるように沈む亀頭。逃れようとするが何もかもが無駄だった。

「ぅ゛ッ、ぐ、ぅ」
「ッ、は、……流石に……キツイなあ……っ」

 全身の毛穴が開き、玉のような汗が吹き出した。
 痛みよりも、圧迫感。他人の体温が気持ち悪く、それ以上に首元に吹き掛かる息に、誰にも触れられたことのない場所を侵される感覚に強い恐怖を覚えた。
 あくまでも俺を気遣ってるつもりなのか、焦らすようにゆっくりと慎重に入ってくる感覚がより生々しくて。
「大丈夫?」なんて聞いてくる目の前の男がただ憎かった。

「っ、……痛い、よね、大丈夫、最初は誰だって……ッ、そうだから」
「っぅ、ご、くな……っ」
「ずっとこのままがいい? ……っ、それも、悪くないかもね……」
「っ、ひぎィ」

 瞬間、花戸が呼吸に合わせて動く。
 みちみちと限界まで引っ張られる括約筋に痛みが走り、思わず花戸を蹴るがやつは小さく呼吸を乱すだけでびくともしない。それどころか、花戸は俺に唇を重ねてくる。

「っ、ふ、ッ……ッ、ぅ、う゛……っ」
「……っ、間人君……」

 花戸が何かを囁くが、その声すら遠くなる。
 どこまで入ってきたのか、あとどれほど堪えれば良いのかもわからない。逃れることのできない理不尽な行為に吐き気を堪えるのが精一杯だった。
 締め付けに慣れてきたのか、それとも強引な挿入のお陰で内部の形が変わったのかはわからない。それでも明らかに先程よりもは花戸の動きは大胆になっていき、更に奥へと入ってくる花戸の性器に俺は声を上げることもできなかった。
 滲む視界の中、花戸に涙ごと舐められる。啜られ、飲まれ、慈しむかのように顔中に唇を押し付けられながらも犯される。
 軋むベッドの上、縛り上げられた手首、腕に感覚はもはやない。逃げ出すこともできず、この現実を受け入れることすらもできない。
 何も考えられなかった。ただこの時間が早く終わることだけを祈って、それから……それから。




「っ、ぅ、ふ、……ッ、ぅ……ッ!」

 血の臭いが広がる。自分の下半身がどうなってるのかなんて見たくも知りたくもなかった。
 血液で粘ついた体内、花戸は気にもせずただ夢中になって俺の唇にしゃぶりついていた。
 なぜ、こんなことになってるのか。何度繰り返しても答えは出てこない。
 この行為の何が気持ちいいのかもわからない。花戸の性器はさっきよりも大きくなってる気がしてそれがただ怖くて、それでも逃げることもできない。下から突き上げるように腹の奥を亀頭が押し進んで来る、それだけで鼓動は更におおきくなり、熱が増した。
 痛い、苦しい、怖い。兄さん、助けて。兄さん。
 叫びたいのに、唇を舐められ、舌を絡められればろくに叫ぶこともできない。
 下腹部、腹の奥に濡れた音が響き、気持ち悪くて嫌で嫌で仕方ないのに逃げられなくて、自分の不甲斐なさが悔しくてただなすがままに犯される。
 硬くなった花戸の性器からは先走りが溢れ、それのせいか更に挿入が激しくなる。

「っふ、ぅ、……ッ、う゛……ッ」

 動かないでくれ。腹が、内臓が突破られるような感覚が恐ろしく、首を横に振るが花戸に届くわけがなかった。
「もう少しだよ」なんてワケのわからないことを言って、更に花戸はストロークの感覚を狭めるのだ。奥を突き上げられた瞬間全身がびくんと跳ね上がり、頭の中が真っ白になる。待って、そう言いたいのに言葉を発することもできない。

「ぅ゛ッ、ん゛ぅ、ッ、ぅ、ふ……ッ」
「っ、ああ……間人君、もしかして、ここ、押されるのが好きなのかな?」
「ふ、ッぅ゛ぅ!!」

 根本まで性器を挿入され、『ここ』と突き当りを柔らかく、それでもしっかりと押し上げられただけで全身の毛穴が開くのが分かった。身の毛がよだつ。あまりにも感じたことのない感覚に瞼の裏がチカチカと点滅し、それ以上に恐ろしくなった俺は必死に腰を浮かそうとして逃げようとするが、花戸にがっちりと腰を掴まれ、無理矢理引き戻される。
 ――そして。

「ッ、あ、い、やだ、いやだ、抜い……ぃ゛……ッ、ぎ、……ッ!!」
「っ、ふふ、初めてのくせにここ、ぐりぐりされるの堪らないんだ? ……っ、間人君、君って子は……ッ、本当俺好みだよ……ッ!!」
「ぃ゛、ぅ゛ぐひッ!!」

 指が食い込むほどの力で太腿を掴まれ、そのまま隙間がなくなるくらい腰を押し付けられ、みっちりと詰まった勃起した性器で奥を突き上げられ、執拗に最奥を嬲られる。
 わからない、何がいいのかもわからない。わからないまま、花戸に笑われ、知らない間に勃起した性器から精子が溢れる。それを見てまた花戸は笑い、更に俺を犯したのだ。



 もしかしたらまだ夢の中で、俺はまだ悪い夢を見てるだけなのかもしれない。そう思えたらどれだけましだろうか。
 どれほど犯されていたのかもわからない。気付けば俺は気を失っていたようだ。起き上がろうとして、違和感に気付いた。
 目を開けば知らない部屋の中にいた。兄のマンションではない。そして、部屋に広がった煙草の甘い香りに嫌な記憶が蘇る。
 俺はベッドの上で寝かされていた。慌てて起き上がろうとするが手足が動かない。ベッドの上、体操座りになるように足首と手首を縛られている。それから。

「……ッふ、ぅ……」

 ガムテープかなにかで口を塞がれてるのだろう。声を出そうとしてもくぐもったそれは遮られ、声を発することすらも許されない。それから――体の違和感もあった。下腹部、まだ何かが入ってるような違和感に息が漏れる。四肢の拘束を解こうと身を捩らせれば、体の奥、埋め込まれた異物の凹凸が内壁を刺激してじっとりと全身に汗が滲んだ。
 夢、じゃない。そう嫌でも気付かされたときだった。

「おはよう、間人君」
「……ッ!!」
「随分と眠ってたみたいだね。もう夕方だよ」

 そう、花戸は薄く微笑み、俺の元へと歩いてくる。咄嗟にベッドの上から這いずってでも逃げようとするが、遅かった。体の上、掛けられていたシーツを剥ぎ取られる。そして、自分がなにも身に着けていないことに気付いた。
 剥き出しになった性器に背筋が震える。咄嗟に腰を引くように隠そうとすれば、花戸は躊躇なく俺の脚を掴み、そしてベッドへと乗り上げてきた。

「っ、ふ……ぅ……ッ!!」
「はは、嫌われちゃったかな」
「ふ、ぅ……ッ、ぅ゛……ッ!!」

 ベッドから蹴落としてやりたいのに、ままならない。それどころか、抵抗すらも構わず花戸は俺の脚を開かせてくるのだ。そして、息を飲む。

「約束したよね。君には気持ちよくなってもらいたいって。……だから、君が眠ってる間も俺の挿入しても痛くならないように慣らしてたんだけど……ああ、結構具合よくなってるね」

 この男が何を言ってるのかまるで理解できなかった。
 開かされた下腹部、自分の体がどうなってるのか知りたくもなくて咄嗟に顔を逸したときだ。
 花異物を咥えたそこを撫でられ、背筋がぶるりと震えた。それもつかの間、それを摘み出した花戸はそのままずるりと引きずり出すのだ。
 拍子に無機質な凹凸に内壁を擦られ腰が大きく震えた。逃げる暇などなかった。ぐぽ、と大きな音を立て引き抜かれたそれを手にした花戸は微笑む。男性器を模したシリコン製の玩具を見せ付けられ、血の気が引いた。赤子の腕ぐらいはあるのではないかと思うほどのそれが自分の知らないところでずっとハメられていた事実がただ恐ろしく、理解したくない。そう脳が思考を拒否する。

「……ッ、……まだ温かいね、間人君。ここも、ぷっくり腫れててすごい誘ってるみたいだ」
「っ、ふ、ぅ」

 可愛いね、なんてうっとりした顔をきた目の前の男はつい先程まで異物を飲み込まされていたそこを撫で、そして躊躇なく指を挿入するのだ。ぐぷ、と中を指の腹で撫でるように執拗に刺激される。それだけで恐ろしくなり、逃げようとするが花戸は寧ろ楽しげで、先程よりも激しくなる指の動きに次第に呼吸が浅くなる。

「っ、ふ、っ……ぅ……っ」
「腰、カクカクしてるよ。……またしたくなったんじゃない?」

 そんなわけあるはずない。そんなわけ。そう声を上げたかったが、この状況では声を発することすらできない。
 止まらない指に前立腺を揉まれ、二本目の指を追加されれば逃げることすらもできない。頭をベッドに擦り付け、必死に快感を逃そうと背筋をぴんと伸ばすが敵わない。そのままビクビクと内腿が痙攣し始め、無意識の内に芯を持ち始めていた性器が腰の揺れに合わせて性器が当たる。
 それもつかの間。

「ッ、ぅ゛う……ッ!!」

 がくん、と持ち上がった腰が揺れる。射精はない、それでもイカされたのだと頭で、体で理解し、絶望する。花戸は指を引き抜き、びくびくと震える腿に唇を落とす。「いい子だね」とまるで恋人相手にするかのように、優しく、甘く囁くのだ。

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