誰が女王を殺した?


 ハートのジャック※

「やめろ、出て行けッ! この……ッ!」

 胸倉を掴む腕を引き離そうと爪を立てるが、鋼のように硬く爪が立たない。
 次の瞬間、固めた拳で腹を殴られる。
 ハンマーかなにかでぶん殴られたかのような衝撃に目の前が真っ白になり、押し潰された内臓から胃液が込み上げてきた。

ぉえッ」

 腹に穴でも空いたのではないかと思うほどの痛みに手足から力が抜け落ち、気付けばジャックの足元に蹲っていた。
 胃酸が口の中に広がる。
 咄嗟に逃げようとするが、あまりの痛みに手足に力が入らなくてその場によろめきそうになったところをジャックはまるで球蹴りでもするかのように鉄板仕込みの革靴の爪先を僕の腹にのめり込ませるのだ。
 足だけでもだけでも僕の身長の半分以上はあるのではないかと思うほどのリーチの長さに、逃げ場などなかった。
 いとも容易く吹き飛ぶ体は薄汚れた石の壁にぶつかり、背中に激痛が走る。

「っ、は、ぐ……ッ!」
「ハァ……いい気味じゃねえか、王子様よぉ。お前、泣いてる顔は悪くねえな」
「こ、ろす」

 そう痛みに引き攣る喉から声を振り絞れば、ジャックの表情から笑みが消えた。
 次の瞬間、手にしていた鉄の棒で肩を殴られる。

「ぎ、ぅッ」
「あーアッタマきた。本当はちっとは優しくしてやろうかと思ったが、ババアが死んでも全然変わんねえのな。泣いて命乞いくらいしてみせろよ」
「お前みたいな罪人なんかに命乞いするくらいなら……死んだ方がマシだ……ッ!」

 今の一発で肩の骨が折れたかもしれない。
 殴られた箇所が痺れるように痛み、その箇所から指先までの感覚がない。
 それでも、こんな叛逆者相手に媚び諂うつもりは毛頭なかった。
 ――母は、取り押さえられても最後まで何も言わなかった。
 ただ憎悪で煮え滾るその目でアリスを睨み、群衆を呪っていた。
 最後まで屈しなかったその姿を見て、相手の下手に出て生き延びろうと思えるはずがない。
 氷のようなジャックの目が僕を捉える。
 軽薄な印象を与えるにやついた笑みが消えれば、そこには人を殺すことに躊躇ない軍人の顔があった。

「死んだ方がマシか……そりゃねえぜ、王子様」

 鉄の棒で骨を砕き、殴り殺すつもりか。
 それとも腰に帯剣した得物で母のように首を切り落とすつもりか。
 逃げ場を探すが、目の前を立ち塞ぐジャックのせいで経路は封鎖されてる。
 ジャックは腰の剣に手を掛ける。
 ――ああ、ここまでか。
 ゆっくりと引き抜かれる剣に、映る自分の疲れ切った顔が映ったと思った瞬間。
 上半身に突き付けられた剣は、胸元を大きく切り裂いた。
 襲い掛かる痛みと死を受け入れようと唇を噛んだとき、一向に痛みが来ないことに気付いた。
 それどころか。

「っな、何をしてる……?!」

 切り目の走った服をそのまま破られ、ぎょっとした。
 生まれた時から他人に肌を晒したことのない僕にとって、殴られるよりもそれは耐え難いことだった。
 ジャックの太い指に胸元を撫でられ、あまりの気持ち悪さと恐怖に慄く。

「死んだ方がマシだ、っつったよなぁ? お前。
 ――だったら、もっと死んだ方がましだって思うようにしてやるよ」
「は」

 何を言ってるのだ、この男は。
 まるで意味がわからなかった。
 真っ白になる頭の中、ただ途轍もなく嫌な予感がして、とにかく目の前の男から逃れようと後ずさる。
 が、伸びてきた手に首を掴まれ、そのまま壁に押し付けられてしまえばびくともしなかった。

「や、めろ、離せッ」
「叫べよ、どうせ誰も来ねえよ。お前は、ここで俺に犯されるんだよ。女みたいに腹這いになってな」

 何を言ってるのだ、この気狂いは。
 品性の欠片もないその台詞に顔に熱が集まる。
「巫山戯るな」とジャックを突き飛ばそうと伸ばした腕を掴まれ、引き寄せられる。
 鼻先に近付くジャックの顔に、至近距離で見詰めてくるその目に耐えられず顔を逸らそうとし、強引に上を向かされた。
 それでも尚目を瞑って視線から逃れようとした瞬間、唇に熱く、濡れた肉の感触が触れる。

「っう、んんッ?!」

 舐められてる、そう気付いた瞬間血の気が引いた。
 目を見開けば今度こそやつに唇を重ねられ、厚く、長い舌で唇ごとこじ開けられる。
 歯列をなぞり、咥内いっぱいに咥えさせられるその舌はこちらの意思も無視して喉奥まで侵入してくるのだ。
 吐き出したいのに、自由が効かない。
 破れた服の下、剥き出しになった胸を分厚い掌で乱暴に揉まれ、全身が粟立つ。

「ふ、ぅ、んんッ」

 手足を動かそうとするが、筋肉の壁みたいな男に抱き締められれば鍛えていない僕の体など太刀打ちできるはずがなかった。
 憎い相手に口吸いをされてる、それも、こんな形で。
 口の中を舌で隈なく舐られ、逃げようとしていた舌ごと根元から絡め取られてはそのまま性器かなにかのように乱暴に愛撫される。

「ぅ゛、んん゛……ッ!」

 乳頭を乳輪ごと扱かれ、引っ張られれば細い針が突き刺さるような刺激が走った。
 口の中溢れ出す唾液すらも舌ごとジャックに吸われ、一方的に掻き回される。
 舌に歯を突き立ててやりたいのに、口いっぱいに頬張らされる舌のおかげで閉じることすらできない。
 ぐちゃぐちゃと舌を挿入したまま、唾液を流しこもうとしてくるジャックに震えた。
 引き離そうとするが、力が入らない。
 吐き出したいのに強制的に開かされた口と喉はそれを受け入れることしかできず、流し込まれる大量のジャックの唾液に嫌悪感のあまり吐き気が込み上げる。
 そこでようやく舌が引き抜かれ、えづいて吐き出そうとするが、既に器官を通り肚の中へと落ちたそれは戻って来ない。
 口をゴシゴシと擦る僕を見て、ジャックは下品な笑みを浮かべた。

「っは、小せえ口。チンポすら入んねえようなお上品な口だな」
「っき、さま……ッ」
「けど、悪くねえな。親子揃ってクソ野郎だったが、面だけはいいときたもんだ。母親似でよかったな、お前。……こりゃ、泣かせ甲斐がありそうだ」

 舌舐めずりをする男に、怒りのあまり言葉を失う。
 自分だけならまだしも、母――女王まで侮辱するとは。
 殺してやる、絶対に。
 咄嗟に剣を奪おうとするが、やつはすぐにこちらの行動に気付いた。

「油断も隙もねえな」
「っ、はなせッ」

 腕を掴まれ、そのままジャックはどこからか取り出した拘束具で、頭上へと捻り上げられた両手首を締め上げようとする。
 慣れた手つきだった。
 罪人のように腕を上げさせられ、無防備になる胴体に無意識に腰が引けてしまう。
 それを見て「いい格好だな、王子様」とジャックは厭らしく笑うのだ。

「どうした? 腰が引けてるぞ。王子なら王子らしく胸を張ったらどうだ? ……この小せえ胸をな」

 剥き出しになった乳首を指で挟まれ、その先端を指先で揉まれる。
 皮膚が引っ張られるような痛みに堪らず上半身が仰け反った。

「っ、や、めろ……っ!」
「おお、硬くなってきた。見てみろよ、小せえくせに頑張って勃起してんぞ、お前の乳首」
「こ、の……ッんんぅ……!」

 コリコリと執拗に指で転がされ、胸の先端と腹部がじんじんと痺れるように疼き出す。
 不愉快なのに、痛いだけなのに、この男に好き勝手体を触られてるという事実にどうにかなりそうだった。

「っはな、せ……ぇ……」
「あれ? 声に覇気がなくなってきたな、さっきまでの威勢はどうした?」
「……ッぅ、ひ……ッ!」

 きゅっと乳首を抓られた瞬間、自分のものとは思いたくないような情けない声が漏れる。
 血の気が引いた。
 −−どうして、あれほど堪えようとしたのに。
 蒼褪め、咄嗟に口を覆おうとするが、両腕は拘束されたままだ。
 顔を逸らそうとすれば、更に執拗に両胸の突起を捏ねられる。
 痛みで散々敏感にさせられたそこは軽く先っぽを掠めるだけでも痛みが走るほどだった。
 上半身を捩り、ジャックの手から逃れようとするがジャックは俺を離さない。
 それどころか。

「……なんだぁ? 今の可愛い声。なあ、もっと聞かせろよ」
「い、やだ、やめ……っ、ろ……」
「そうじゃねえだろ」
「っ、んぅ、ふ……っ、んん……ッ!」

 必死に声を殺そうと唇を噛むが、呼吸まで我慢することはできなかった。
 両乳首を柔らかく潰され、そこを円を描くように捏ねられればそれだけで頭の奥がジンジンと痺れ始める。
 ――なんだ、なんだこれ。
 痛いだけだったはずなのに、先っぽを柔らかく揉まれるだけで胸の奥から何か溢れ出すみたいに熱くなって、次第に呼吸が乱れ出す。
 下腹部がもぞもぞしてきて、腹の底から多数の虫が這い上がってくるような違和感に耐えられなかった。
 堪らず前のめりになれば、僕の体を抱き留めたジャックはそのままオモチャで遊ぶように両胸を執拗に揉みしごいた。

「ん、く、っふ……ぅ……っ!」
「どうしたぁ? 王子様。……腰、揺れてるぞ」
「ち、が……ぁ……」
「何が違うんだ? ああ、可哀想に。真っ赤に腫れてんじゃねえか」

 ――お前のせいではないか。
 そう言い返そうとしたとき、ジャックはあろうことか僕の体を抱き、そのまま片方の胸に唇を寄せたのだ。

「な」

 なにを、と目を見開いたと同時だった、やつは躊躇いなく人の乳首を咥えた。
 大きな口に乳輪ごと噛み付く勢いで咥えられ、包み込むような熱にギョッとするのも束の間。
 硬くなった先っぽを吸われ、そのまま口の中で先端部を舌で舐め回される。
 ジュルルル!と食われる勢いで乱暴に愛撫され、腰が、胸が、大きく震えた。

「ぁ、んっ、ひ、ッいやだ、やめろ、やめろぉ……っ!」

 いいはずなんてないのに、気持ち悪いだけなのに、下半身に集まる熱に、全身を巡る血液に、感じたことのない快感に、呑まれそうになる。
 足でジャックの腹を蹴ろうとするが、片方の手で腿を撫でられれば息が止まりそうになった。

「っ、ん、は……そうだよ、そうやって可愛い声……もっと聞かせろよ」

 ちゅ、と先っぽにキスをされ、吹きかかる吐息と掠める前髪にすら体が反応してしまう。
 濡れそぼったそこは執拗な愛撫により見てわかるほど赤く腫れあがっていた。
 淫蕩な熱を滲ませたジャックは、言うなり乳首に甘く歯を立てた。

「ひ、ィッ」

 神経が集まったそこを刺激され、体が跳ね上がる。
 痛いはずなのに、熱が引くことはなかった。
 そのまま執拗に舌先で乳首を転がされれば、腹の中を這い上がっていた虫のような感覚が下腹部へと集まっていく。

「ん、ぅ……っ、ぁ、や、め……っ!」

 もどかしい感覚に、自分が焦れていると気づいた瞬間絶望する。それでも、既に自制が掛からないところまできていた。
 腰が震える。
 下着の中、ぬるぬるとした感触を覚え、血の気が引いた。
 こんな男に胸を嬲られただけで快感を覚えてるなんて思いたくもなかった、認めたくもなかった。
 けれど、こちらの意思なんておかまいなしに体はジャックの動き一つ一つを全神経で追ってしまう。
 乱暴にされればされるほど、強い刺激に頭の中からなにかが溢れ出すようだった。
 迫り上がる熱は最早歯止めが効かないところまできていた。
 ジャックの頭に胸を押しつけるように徐々に前屈みになった体。
 それを立て直す暇もなく、呆気なく下着の中、熱が広がった。
 声すら上げることができなかった。

「はっ、ぁ……っ!」

 下腹部、じんわりと広がる嫌な熱に、ジャックはようやく僕から口を離した。
 膝から力が抜け落ち、そのままずるずると地面に座り込む僕を掴み上げ、ジャックは笑った。

「っ、ハハ、マジかよ。お前、王子よりも娼婦の方が向いてんじゃねえのか? 乳首だけでイクなんて、素質あるぞお前」

 笑うジャックの言葉など頭に入ってこなかった。
 ジャックの前で痴態を晒してしまったことによる激しい自己嫌悪と、この暴漢への殺意でどうにかなりそうだった。

「そうしてるアンタは悪くねえな」
「っ、下衆が……ッ」
「乳首でイッた淫乱王子様が何言ってんだ?」
「やめ、ろ……ッ! 触るなッ!」

 徐に下腹部を鷲掴みにされ、驚きのあまりに腰が震える。
 必死に腰を引いてその不躾な手から逃れようもするが、血液と全神経が集中していたそこはジャックの指でやわやわと揉まれるだけでビリビリと甘く痺れ出した。

「っや、め……ろぉ……」
「なあ、なんでココ、こんなに大きくなってんだ? そんなに乳首シコられんの良かったのかよ」
「違、ァ……違う、そんな、わけッ……んくひィ……ッ!」
「じゃあなんだよこれ。見下してたやつにチンポ揉まれて気持ちよくなってんのか?」

 どちらにせよとんでもねえ淫乱だな、と耳元で囁かれ、焼けるように顔が熱くなる。
 違う、そんなはずがない。
 そう言いたいのに、ジャックの手に強弱つけて厭らしく揉まれるだけで頭の中が真っ白になり、自分のものとは思えないような鼻がかった声が漏れてしまう。
 血の気が引いた。
 厭なのに、逃げる腰を掴まえられ、腿の付け根の隙間、その下に挿し込まれた指に股の奥を引っ掻かれると飛び上がりそうになる。

「や、めろ……っ、貴様……ッ」
「腰が揺れてるぞ。……っは、ひでぇ顔。直接触ってほしくて堪んねえって面だな」
「てき、とうなことを……言うな……ぁ……っ」
「邪魔なもん取っ払って直接触ってほしいだろ? 乳首だけで射精するようなエロガキだ、こん中、腹ん中直接擦りまくったら気持ちよすぎてトんじまうかもな」
「っ……そ、んなの……い、らな……ぁ……ッ」
「おいおい、ケツの穴ヒクつかせて何言ってんだ? 今更何言っても無駄なんだよ、諦めろ」
「っぁ、や、やめろっ、嫌だ……っ! 触るな……っ!」

 履いていたものを下着ごと剥ぎ取られ、剥き出しになった下腹部。
 下着の中で射精したせいで赤くなった性器は濡れ、射精したばかりにも関わらず頭を擡げ始めているそこを見てジャックは鼻で笑う。

「流石王子様、ご立派じゃねえの」

 顔が焼けるように熱くなる。
 顔だけではない、体までも。
 一番見られたくないところを、見られたくないやつに見られること以上に屈辱なことがあるだろうか。
 自分の一物が周りよりも小さいことは、薄々気付いていた。
 けれど、それは自分がまだ子供で、周りが大人ばかりだったということもあるから仕方ないことだと思っていたのに、こうして直接ジャックに笑われ、目の前が赤く染まる。
 怒りと屈辱のあまり、声すら出なかった。
 隠したいのに、隠せない。破れた衣類の裾、腰を引こうとしてもどうしても頭がぷっくりと飛び出し、ジャックは「しゃんと立てよ」と背中を壁に押し付けてくる。

「でもよかったじゃねえか、将来のお后に笑われることなもうなくなった。それに、もうこれは必要ねえんだしな」

 ジャックの言葉の意味がわからなかった。
 濡れた亀頭を指で弾かれた瞬間、腰が震える。

「いっそのこと、お前がオンナになるのはアリだな」
「っ殺、す」
「ハ、まだんな口利ける元気があんのか。なら、優しくする必要なんてねえな」

 言うなり、ベルトを引き抜き始める目の前の男に目を疑った。
 なにを、と言うよりも先に性器を取り出すジャックに凍り付いた。
 自分のものとは比にならないほどのグロテスクな肉棒は下手したら子供の腕ほどあるのではないかと思えるほど太く、そして今にも暴発しそうなほど膨れている。

「な、ァ」
「……見ろよ、なあ、アンタのせいでこんなになっちまった」
「っ、その汚いものを仕舞え、この痴れ者がッ!」
「確かに、使い道がねえような新品の王子様と比べると汚えかもな。街の女は大抵これをハメれば白目向いて気絶するか泣き喚いて使い物になんねえんだが――あんたはどうなんだろうな、王子様」

 バキバキに反り返った裏筋に浮かぶ無数の太い血管すら生々しく、見たくもないはずなのに。
 ずり、と性器同士擦り合わせるように押し付けられれば、流れ込んでくる熱や鼓動に口の中が乾いていく。
 目が離せなくて、エラ張ったカリで中を乱暴に押し広げられる感覚を想像してじわりと汗が滲んだ。
 この男がなにをしようとしているのか、嫌でも理解してしまった。
 自分がこの男の目にはどういうふうに映っているのかすら、だ。
 だからこそ余計恐ろしくなって、「離せ」と突き飛ばそうとするが、ただの身じろぎで終わってしまう。
 それどころか。

「っ、ん、んんっ」

 顎を捕らえられ、深く唇を重ねられた。
 ぐちゅぐちゅと太い舌に唇の裏側から顎の裏側まで舌で粘膜ごと擦られれば、頭の中から大量の脳汁が溢れ出す。

「っ、ふ、ぅ……うぅーっ!」

 舌を口の中へ指し抜きされる都度、じゅるっ、じゅぽっと耳を塞ぎたくなるような下品な水音が口の中いっぱいに広がる。
 キスに気を取られてる間にジャックの膝頭が股の間に割って入ってくる。
 強制的に開かされた脚、そのまま腰を抱き抱えられたと思った瞬間、股の奥に熱く、ぬるりとした太い肉の感触が掠め、息を飲んだ。

「んん゛ッ! んッ! んん゛ん゛ぅう゛ッ!」

 やめろ、それだけはやめてくれ!
 叫ぶが、言葉ごと全部ジャックに食われる。
 逃げる腰を強く抱き締められ、亀頭から溢れ出す先走りを肛門の周囲に塗り付けるように押し付けられ、ゾクゾクと体が震えた。
 少しでも手が滑ればそのまま入ってしまいそうなほどの距離。
 拘束された腕でやつを押し退けようとするが、敵わなかった。
 石の壁に上半身を押し付けられ、腰を固定されたと同時に、股が避けるような痛みが走る。
 悲鳴すらでなかった。
 ただ、挿入するためにできていないそこを無理矢理押し広げ、入ってくる巨根性器に頭が真っ白になる。
 そして、次に聞こえてきたのは自分の体のどっかがブチブチと切れるような音に、血の気が引いた。
 恐る恐る自分の下腹部に目を向ければ、そこには、ジャックの性器、その先っぽを咥えようと必死に拡がった自分の下半身があった。

 ジャックという男は、部下の面倒見がよく誰にでも気さくな男だった。
 酒とギャンブルと女が好きで、警備を交代したあとは決まって夜街に降りていくようなどうしようもない男だったが剣の腕は確かで、なによりも、主君である父に対しての忠誠心は誰よりも強かった。
 それも、半年までの話だ。
 いつの日からかこの男は人が変わったように振る舞うようになった。
 酒に溺れ、売春婦を買っては毎晩のように享楽に耽る。
 この調子では町娘を無理矢理手籠めにしていたこともあるのだろう。
 それでも、父に対しての態度だけは変わらなかった。
 ジャックの悪癖が顕著になったのも、全部あの男――アリスが来てからだ。
 それまではまだ少しは尊敬していたこともあった。
 幼い頃は、忙しいところを我儘言って剣の稽古につけてもらうこともあった。
 けれど、いつの日か本格的に父の近衛兵になってからは疎遠になり、そしてここ最近城の中ですれ違う度ちょっかいをかけられるようになる。
 『相変わらず小さいな。もっとたくさん食わねえと俺みてえになれねえぞ、王子様』
 『本ばっか読んでねえで少しは外で遊ばねえと倒れるぞ』
 そんな日常会話ならまだいいが、次第に体に触れることも多くなり、向けられる視線に明らかに不愉快なものが孕んでることには気付いていた。

「っ、は……ぁ゛……っ、すげえ、まじ、チンポ千切れそうだなこれ……っ」
「っ、抜け、ぬ、けぇ……っ! んひっ!」
「腰振って人のチンポきゅうきゅう締め付けながら何言ってんだ、なあっ、王子様……そんなにうめえか……っ?」
「っ、ぎ、ひィッ! ぁ゛ぐ、ふッ、ぎ!」

 本来ならば他人に触れられるはずのない場所を無理矢理暴かれ、押し開かれ、凶器にすら等しい性器で貫かれる。
 腹の奥、誰にも触れられたことのないそこを亀頭でごりごりと潰されるだけで頭の中は真っ白になった。
 痛みに混ざって、ジンジンと痺れるような甘い熱が腹の中側から込み上げてくるのだ。

「ぐ、ぅ、ひ……ッ!」
「っ、ひでえ顔だな、あのババアに見せてやりたかったぜ。テメェが白目いて鼻垂らして絶叫してる面」
「っ、ぉ゛……ご……ッ」
「……おい、勝手にトンでんじゃねえぞ」

 瞬間、頬に焼けるような痛みが走る。
 覚醒するのも間もなく、両腿を抱えられ、そのまま中に突き刺さった性器をずるりと半分以上抜かれたかと思えば、今度は一気に突き上げられた。

「ぐ、ひィ――ッ!!」
「……っ、あ?なんだ、王子様は奥を潰されんのが好きか?」
「ぃ、ひ、ッぎ、ィッ! ぬひ、抜ッ、ぃ、ぐ!」
「……っそーかそーか、ならたくさん腹ん中突いてやるからな」
「っ、やめ、ろッ、やめ、やめろぉおっ! んぎ、ひィ! やめ、っろ、や゛め、や、ぁあ゛ッ!」

 文字通り抱き潰される。
 腰を捕らえられ、獣じみたピストンで下から何度も突き上げられるだけで目の前が真っ白になって。
 開きっぱなしの口からは自分のものとは思えない声と唾液が溢れ、ジャックはそれを舐め、より一層腰の動きは激しさを増す。

「ぎゅ、っ、ふ、ぎッ! ィ、ひ、ぁ、あ」
「はぁ……っ、くく、なあ、王子様。俺たちの体の相性は抜群らしいな、お前のケツマンコの方がよっぽど素直で最高だぜ」
「っ、ひ、が、ちが、ぁッ! ぁ、ふ……ッ!」
「違わねえだろっ、オラ、口開けろ!」
「ん、っふ、んん……ッ!」

 食われる。捕食される。
 性器の凹凸がわからなくなるほど内壁を擦られ、口の中も腹の中もジャックのものでいっぱいになってなにも考えられなくなる。
 気持ちいい、はずなんてない。
 死ぬほど気持ち悪いし、最悪で、不毛で、殺してやりたいくらい憎いのに。
 まるで性具でも扱ってるかのように本能のままに腰を打ち付けられるだけで頭の中が痺れ、休む隙もないほどの快感に覚えるのだ。

「っ、ふ、ぅううッ!!」

 自分が射精しているのかすらもわからない、麻痺する下腹部は腹の中を出入りするジャックのモノの感覚しか残っていなかった。

「ッ、ぐ……ッ」

 根本まで深く腰を落とされたと思った次の瞬間、ジャックは低く呻いた。
 瞬間、腹の奥に広がる熱が、隙間無く塞がれた腹の奥になみなみと注がれる。
 知りたくもなかった、他人の精液がこんなにも熱いなどと。
 隙間無く挿入されたそこから吐き出すこともできず、ぼっこりと膨れた腹の中、やつの子種が逃げ場なく自分の中に残ってると思うだけで絶望した。
 その上。

「う、ひッ」
「っは、やべぇ……全然萎えねえわ……」
「な、や、め、抜ィ……動くなァ……っ! んんぅっ!」
「テメェが悪いんだろうが、お前が……っ!」
「っ、は、ひ、ちが、しらな、ぁッ、んんぅっ!」
「こんなんで終わると思うなよっ、なぁ、ずっと我慢してたんだからなぁこっちは!」
「ぁ、ひ、いや、め、ッんんぅっ!」

 抜かずに再び腰をゆるゆると動かし始めるジャックに目の前が真っ暗になる。
 挿入する度に隙間から溢れ出す精液が溢れ、下腹部を汚そうがお構いなしだった。
 体の中で粟立つ精液。
 粘着質な音を立て、それを塗り込むように散々嬲られ麻痺し始めていた内壁を舐るようにねっとりと腰を動かされれば先程までの挿入とはまた違う、骨の髄から解かされるような熱に脳髄までもが熱くなる。

「ぅ、うご、くなぁ……っ」
「あぁ? 自分から腰擦り付けておいて何言ってんだ?」
「ち、がぁ、ん、ひっ! ィ、や、やめ、そんな、動き方ぉ……ッ!」

 まだ、わけわからなくなるほど乱暴にされた方がよっぽどましだった。
 熱を帯び、疼く臍の裏側を亀頭の出っ張りでこすられるだけで頭の中は真っ白になり、耳を塞ぎたくなるような情けない声が漏れる。
 痛いだけなのに、苦しいだけなのに、そう思いたいのに、痛みに慣れてきた体に、別の感覚が込み上げてくるのだ。

「ぁ、っ、は、ぁ、んんっ…!」
「チッ、……なに可愛い顔してんだ? 立場分かってんのかマゾ野郎……ッ!」
「んひ、ィ! や、め、ちが、ぁ、そんな、わけ……っ!」
「王子とあろう方が自分の部下にレイプされてんのに汁たらして喜ぶようなド淫乱じゃそりゃこの国も終わるわな……ッ!」
「よろこんで、なんか、ァっ、ひ」
「じゃあなんだよこれはっ、人のもん咥えて飾りみてえなチンポ勃起させてんじゃねえか」
「っひ、く、ぅううんっ! や、そこ、触っちゃ、ぁ、だめ、擦るなぁ……っ!」

 ジャックの大きな手で握り込まれれば、少しでも力加減間違えば握り潰されそうで怖いのに。
 皮を剥かれ、絶妙な力加減で全体に先走り絡めながら擦られればそれだけで強烈だった。
 なけなしの理性の欠片すら奪われるほどの快感に溶かされる。
 性器からは呆気なく熱が放出され、ジャックの手を汚した。
 開放されるかと思いきや、ジャックはイッたばかりのそこを躊躇なく再度扱きながら腰を捩じ込んでくるのだ。

「っ、や、待ッ! ひっ、ィ、まだ、だめ、また、来る……ッ!」
「あぁ、イケよ、死ぬほどイカせてやるよ、俺のチンポじゃねえと駄目なようにしてやる……ッ!」
「っぉ、あっ、ひぃ、んんっ! ぅ、ぎ、ひっ!」

 もう、わけもわからなかった。
 痙攣する腰を抱き込まれ、躊躇なくえぐられる内壁に目の前が真っ白になる。
 すぐに何度目かの絶頂を迎え、そして、その際の締付けに反応したジャックのものも人の腹の奥にそのまま射精した。


 地獄のような時間だった。
 どれほどこの男と交わっていたのかすら、途中からもう何も覚えていなかった。
 気づけば自分のものかやつのものかわからない体液に塗れ、地面の上で横たわっていた。
 そこにはもう、ジャックの姿はなかった。

 ――あの男。
 ジャックへの殺意は元より、不可抗力とはいえあの男に少しでも感じてしまった自分に吐き気を覚えて仕方なかった。
 長時間の挿入に、もう何も入ってないはずなのにまだ股の間にジャックのものが入ってる気がしてしまう。
 おまけにあの男、出すだけ出して放置だ。
 クズとは知っていたしあの男にそんなものを期待してるつもりはないが、腕も縛られたままでは掻き出すこともできない。

「っ、クソ……ッ! クソ……!!」

 なんとかして腕の拘束具を外そうとするが、びくともしない。
 おまけに動こうとすれば腰に鈍痛が走り、具合が悪くなる。
 けれど、このままでいてもしも白ウサギや他の人間に見られたらと思うと気が気ではなかった。
 歯で噛み、食いちぎれないかと試みたが顎が痛くなるだけで効果はない。
 その時だ、上階から、地下へと繋がる階段の扉が開く音が聞こえた。
 ――誰か来る。こんな姿を見られるわけにはいかない。
 そう思うが、こんな狭い牢では隠れる場所も見当たらなかった。――最悪だ。
 身を隠すこともできず、せめてこの情事の後だけは隠したくて近くに散らばっていた衣類で下腹部を隠す。
 隠しきれないことはわかっていたが、最後の足掻きだ。
 あとは、どうか、気が向いてそのまま引き返してくれることを願うが、そんな期待も淡く足音の主は駆け下りる勢いで階段を降りてくるのだ。
 そして、薄暗い室内に赤い兵装に包まれた影が現れる。
 まさかジャックか、と思い身構えたが、違った。

「っ、王子……っ!」

 現れたのは、よく知る相手だった。
 混じり気のない黒髪を短く切り揃え、ジャックとは正反対にきっちりとその制服を着込んだその男は牢の中の僕を見つけると悲痛な声を漏らす。
 エース――女王の近衛兵であり、兵の中では最も信頼している男だった。

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