人類サンプルと虐殺学園


 37

「ぅ、おあっ!」

「伊波様っ!」


いきなり吐き出されたかと思いきや、黒羽に抱えられたお陰で無様に落下することはなかった。

学園から離れた森の側。雨が降ってるかと思いきやそれが割れた地面から湧き上がり噴水のように吹き上がる大量の水だと気付いた。

本当に地上へと帰ってきたのか。
久しぶりに吸った新鮮な空気に、開放感のある空に全身から力抜けそうになる。


「っ、は……ジェットコースターみたいだ……」

「伊波様、お怪我は……」

「ん、大丈夫……それよりも……」


テミッドは巳亦の口からリューグを引きずり出し、地面へと捨てる。
そして地面の上、ぐったりとしていた巳亦の姿がみるみるうちに小さくなる。巨大な穴の側。そこにはいつもの人の姿をした巳亦が力なく座り込んでいた。
地下から地上の距離を考えても相当の距離だったに違いない。
巳亦の口の中は真っ暗なジェットコースターのようだった。けれど、俺たちを気遣いながらも地上まで運んでいた巳亦の負担を考えると文句も言えない。
それどころか、感謝しかなかった。


「……ありがとう、巳亦」


そう、青白い巳亦の頬に触れる。ひんやりとした肌。いつもよりも疲れた顔をしていた巳亦は、俺の手を握りしめ、掌に頬を寄せる。鱗とは違う、滑るような肌の感触にどきりとしたとき。


「情けないなぁ」

「え?」

「これくらい、昔は平気だったのに。身体が大分鈍ってしまったみたいだ」


自虐的な笑み。それでも、少し嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
つられて頬が緩む。きっと、巳亦の言う昔っていうのは俺からしたら考えられないくらい昔なんだろうな。そんなことを思いながら。


「……また、慣らしていけばいいよ。俺も、付き合うから」


そう、頬を撫でれば少しだけ目を丸くしていた巳亦は気持ち良さそうに目を伏せた。
「そりゃ、心強いな」そう、喜んでるとも寂しそうにも取れるような表情で。


「っ、う……ピラニアやめろ……ぐ……おお……っ」


そんな中、聞こえてきた奇妙なうわ言に俺と巳亦は振り返る。すると、黒羽とテミッドが気絶してるリューグを突いてるところだった。


「このガキはいつまで寝てるんだ」

「……放って、おいていいと思い……ます」

「同意見だ」


というかどんな夢を見てるのだろうか。
何故リューグがこんなことになってるのかとか色々聞きたいことはあったが、それも無理そうだ。


「おいっ!一体なんの騒ぎだ!この地震は……!」


ぞろぞろと駆け付けてくるモンスターは教師たちだろう。見たことのないものも多いが、皆が皆俺達を見るなりぎょっとした。
無理もない。俺達の格好は酷いし俺とリューグ、巳亦に至っては死体の海を泳いでたわけだしな。
おまけに地形は歪んで噴水もできている。ここを突き破ったときも相当な揺れが生じたに違いない。
「巳亦」と、黒羽は巳亦を横目に睨んだ。


「はいはい、わかってますよ。今回は俺のせいだからね」


そして、ゆっくりと立ち上がった巳亦は教員たちの前に立った。

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