人類サンプルと虐殺学園


 31※

「……ほお、急に大人しくなったな。貴様もあれがそんなに大切なのか」


巳亦を指して笑う獄長に何を返す気力もなかった。
何も答えない、無反応を決め込む俺に獄長は不満に思ったらしい。胸を強く掴まれ、傷口から赤い血が溢れ出す。その痛みに堪らず喘いだ。


「ひ、く……っ」

「クク……何を泣いている、そんなに痛いか?それとも、あいつのために胸でも痛めてるのか」

「う、るさい……っ」

「貴様、誰に向かってそんな口を利いている」

「っ、い……ッ」


ぎゅっ、と胸の先端部を摘まれ、針を指すような鋭い痛みが走る。堪らず声を漏らせば、獄長はその指先に更に力を加えるのだ。潰され、そして引っ張られる。傷口が広がり、焼けるような熱と痛みに堪らず喘いだ。


「曜……ッ!」


片目を潰された巳亦は、真っ赤な声で俺を呼ぶ。
心配させてはいけない、そう思って咄嗟に唇を噛めば、獄長は楽しげに喉を鳴らして笑った。


「涙ぐましいな」

「ぅ、ぐ……んぅ……ッ!」

「けれど貴様の体はその口よりもずっと正直者のようだ。……痛みすら快感になるとは、人間の体の順応性というのは恐ろしいな」

「何、言って……っ」


言い終わるよりも先に、ぐっと肩を掴まれ、胸を無理矢理逸らされる。破けた皮膚、血で濡れた自分の胸が視界に入り、思わず目を反らしそうになった。


「見ろ。……貴様の粗末な生殖器官だけではなくこの胸もまるで女のように尖っている。俺を求めてな」

「バッカじゃねーの……っ、そんなわけ……」


ないだろ、と声を上げるよりも先に乳首を転がされ、思わず息を飲む。死ぬほど痛いし、油断したら涙だって出そうなのに、散々弄り回されたそこを捏ねられたら変な感じが腹の中からぞぞっと這い上がってくるのだ。
気持ちよくなんかない、寧ろこの男に体を好き勝手されるってだけで気持ち悪いのに、なんだこれ。


「は、なせ……っ、やめろ……ッ!」

「どうした、声が甘くなっているな。……俺のこと殺してやると息巻いていたのはどこのどいつだ?」

「……ッ、く……ぅ……ッ」


うるさい、うるさいうるさい。
耳元で囁かれるだけで頭の中が不安と焦りでグチャグチャになってもうわけわかんなくなる。
言い返してやりたいのに、口を開ければ変な声が出てしまいそうで嫌だった。
気持ちいいはずないだろ、こんな。
手袋越しに揉まれて、こんなちっこい場所イジられたって俺は男だ。気持ちいいはずなんかあるわけない。


「……っ、も……良いだろ……」

「……どうした?平気なんだろう、ならば堂々と胸を張っていろ」


「あの男も心配してるぞ」と、耳元で囁かれ、カッと顔が熱くなる。巳亦から見たら俺は男相手に胸なんて揉まれてさぞ滑稽なことになってるだろう。もしかしたら呆れられてるかもしれない。愛想だって尽かされてるかもしれない。……それだけは嫌だ。


「ッ……」

「くく……ッ、今度はだんまりか。少しは学習できたか?……最初からそうやって大人しくしてればいいものを」


この野郎、調子に乗りやがって。
殴ってやりたいけど、この男に圧倒的に負けてる。それに、巳亦をこれ以上傷付けられるのも耐えられない。
ぐっと唇を噛み、応える代わりに顔を反らした。


「……どこまで保つのやら」


項に吹き掛かる息に心臓が停まりそうになる。
好き勝手されるのは癪だけど、これはチャンスを伺うためだ。そう言い聞かせ、俺は目を閉じ、胸を這うその指を無視しようと試みた。息を殺す。潰して押し出し、穿り返され、まるで玩具かなにかのように揉み扱かれ、転がされる。死ぬほどではない、我慢しようと思えばできる。徐々に迫り上がる体温、滲む汗、息を吐いて呼吸の乱れを誤魔化そうとした。


「……っ、ふ……」

「どうした、背筋が丸くなってるぞ。胸を逸らすな、と言ったはずだが?」

「ぅ、く……っ!」

「しかし少し弄っただけでさっきまで粒のようなものがここまで大きくなるとはな。……そんなに俺の指は良かったのか?」

「……っ」


獄長の言葉に、顔が焼けるように熱くなる。
嫌でも目に入った自分の胸に、血の気が引いた。
赤く汚れたそこは俺の目からわかるくらいツンと主張し、赤く腫れている。勃起したそこの側面から撫でるように柔らかく揉まれれば、得体の知れない感覚が腹の奥から込み上がってくる。


「ぅ……ふ……っ!」

「どうした、もじもじして。……また小便でも垂れ流すつもりか?」


巫山戯るな、という言葉を飲み、無意識に弓ぞりになる。下腹部が変だ、下腹部だけじゃない、触られてる胸もなんにもないはずなのに……むずむずしてくる。
股間の奥が熱く無数の虫が這いずるような気持ち悪さに身悶えた。かゆい、違う、なんだこれ。変だ。
また何か妙なことしたのか、この男は。


「っ……ぅ……く……ふ……っ」

「腰が揺れているぞ、曜。男のくせに胸を揉まれて悦んでいるのか、一丁前に」

「ふ……ッく、ぅ……ん……ッ!」

「巳亦、見ているか?貴様の愛しい人の子は胸をイジられただけで勃起するような淫乱小僧だぞ。……いや、だからこそ貴様も誑かされたのか?――子作りしか能のない淫乱同士お似合いだな」

「っ、おま、え……ッ」


俺のことはまだいい、けれど巳亦のことまで人聞きの悪いこという獄長にムカついて咄嗟に身を捩らせ、殴ってやろうかとしたとき。


「……お前、じゃないだろう、曜」


背筋が凍るようなその声に、体が縛り付けられたかのように動けなくなる。
ツンと尖った胸を指で弾かれ、腰が震えた。息が乱れる。目の前が熱い。怒りと熱に飲まれそうになる思考の中、不思議と獄長の声だけが頭の中に冷たく確かに届くのだ。


「……『獄長様、触ってください』だろう」


黒羽さんでもテミッドでもこの際リューグでもいい、なんでもいいからこの男をぶっ殺してくれ。

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