人類サンプルと虐殺学園


 08※

何故、何故こんな目に遭わなければならないのか。
ここは安全なはずではなかったのか。


「ふ、ぅ……ッ」


口の中、伸びてきた白くキグルミのような肉厚な指に咥内を掻き混ぜられる。食べたばかりにも関わらず、喉の奥を指でぐにぐにと刺激されればそれだけで器官が大きく収縮し、吐き気を覚えた。
えずきたいが、口の中の指そのものが邪魔をする。
呻く俺を無視して、無数のハンドはそれぞれ意思を盛ったように体を弄るのだ。
一本は右胸、もう一本は左胸の乳首。足、腿、それから開かれた下半身。スラックス越しに大きな手のひらに股間を揉まれ、血の気が引いた。


「っ、う、ぅーーっ!!」


やめろ、変なところ触るな!と、渾身の力でバタつこうとするがただ体力が浪費されるだけだ。ハンドは焦らしてるつもりなのか、最初は優しく撫でるように股間の膨らみに触れた。
それから掌全体でやわらかく包み込むように布越しに性器を揉まれ、胸の奥からちりちりとした熱が込み上げてくる。


「っ、ん、ぅ……っ」


筋肉の凹凸すらない平らな胸を揉まれ、あわや片方の手は人の乳首を玩具かなにかのように引っ張ったり埋め込んだりと好き勝手される。
なんてことはない。ただ触れられてるだけだ。なるべく反応しないように堪え、そうひたすら自分に言い聞かせる。
そう目を瞑って精神統一でもしようとしていたときだ、一本の手が爪先へと伸びた。そして靴を脱がされ、そのまま靴下を引っ張るように脱がされ、息を飲む。剥き出しになった足の裏に指が触れた瞬間、目が覚めるような感覚が脳天に落ちた。


「っ、ふ、く」


あまりのこそばゆさに思わず足を動かし、手から逃げようとする。が、すぐに捕まった。そのまま足の裏、土踏まずの辺りをつうっと縦一文字になぞられた瞬間びくんと全身が大きく跳ねる。
駄目なのだ。そこだけは。


「っ、や、へ……っ、ふ、ぅ……ッ!」


やめろ、やめてくれ。そう渾身の力で足を動かす。脊髄反射に等しい。あまりのこそばゆさに咥内の指に噛みつき、声をあげようとすれば涎が溢れた。
そんな俺の反応を読んだように更に複数の手が現れ、片方の足の靴も脱がされる。血の気が引いた。
まさか。


「っ、や……やめ、んっ、ふ、ぅ……!っう、ぁ、はは、……っやへ……っ、ぅ、はははっ!」


予感的中。思いっきり足の裏を擽られ、全身を巡る血液が一気に沸騰する。
痛めつけられているわけではない、ハンドたちからの敵意は感じない。それなのに、息ができなくなるほど弱いところを執拗に擽られる。逃げたいのに逃げることができず、その感覚を逃すことも出来ない。喉がひりつくほど悲鳴にも似た笑い声が溢れた。腹がびくびくと痙攣し、あまりにも強い刺激に全身が熱くなった。
最中も他の手は勝手に全身を愛撫するのだ。体温のない手に全身を撫でられ、より過敏になっていく感覚に恐怖が膨れ上がる。
こんなの、拷問だ。いや拷問の方がまだ耐えられた。


「っ、ふ、ぅ゛ッ、ぅ、ううッ!!」


びんと伸ばした爪先が震え、内股が痙攣する。腰がガクガクと震え、股間を撫でていたハンドの動きに合わせて下着の下から濡れた音が混ざるのが分かった。涎を拭うこともできない。ひいひいと悶絶するが、休む暇は与えられない。更に先程よりも増えた手に脇腹を擽られ、頭の中が電気ショックを浴びたように真っ白になった。


「っ、ふ、ぅ゛……っ、」


無理だ、これ以上は死ぬ。本当に。笑い死ぬなんて嫌だ。
首を横に振り、必死に伝わるかもわからないハンド相手に嘆願する。が、やはり無機質なハンドに情はないらしい。
留まるどころか更に激しさを増す擽りに声にならない悲鳴が漏れた。絶頂にも似た感覚が継続的に脳に走る。息をする暇もなく、あまりの息苦しさに喘ぐ口からは自分のものとは思えない声が漏れた。

どれほどハンドたちに捕まっていたのだろうか。
意識が途切れ、視界が点滅する。死ぬ、と直感した矢先だった。


「っ、おい、大丈夫か!!」


聞き覚えのある偉そうな声に意識を取り戻しかけたときだった。全身を這いずり回っていたハンドが瞬時に動きを止めた。
何が起きたのか分からなかった。
次の瞬間、岩のように砕け散ったハンドにより拘束を失った俺の体は落ちそうになり、抱き止められた。


「っ、伊波様!」

「っ、てみ……ど……」


ようやく開放されたところをテミッドに受け止められたようだ。まともに空気を吸った。叫びすぎたあまりガラガラになった喉に痛みが走った。


「……どういうことだ、これは。ハウスメイドが勝手な真似をするなど聞いたこともない」


テミッドがソファーへと下ろしてくれたときだった。ぶつくさ言いながらも砕け散ったハンドの欠片を手にしたニグレド。
そうだ、テミッドに呼んできてもらったのだった。
ということは、今のは……。


「っ、ニグレド……ありがとう、助かった」


とっつきにくいやつだと思っていたが、こうして助けてくれたことは素直に嬉しかった。そう素直に告げれば、眼鏡のレンズ越し、ニグレドの鋭い視線がこちらを向いた。


「……俺は言ったはずだ、余計な真似はするなと」


「……う゛、それは……」

「言いたいことは山ほどあるが、それより先にそのみっともない格好をどうにかしろ」


そうニグレドに指摘され、自分の姿に気付いた。
中途半端に脱がされた衣類を慌てて着直そうとしたとき、ばさりと視界がなにかに覆い被される。


「っわ……これ」

「…………………羽織っておけ」


そう、こちらへと背中を向けるニグレド。
放られたそれはニグレドの着ていた上着だ。
……やっぱりなんだかんだいいやつじゃないか。そう思ったが、口に出したらまた怒られそうだ。俺はいそいそと上着に袖を通した。

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