場所は変わってイルミネーション前。
行き交う人の中、阿賀松が一緒だからだろう。ちらちらとこちらを見てくる通行人たちの視線にようやく慣れてきた俺はそれに構わず目の前の派手な電飾に「おぉ」と感嘆の声を漏らす。
テレビなどのイルミネーション特集で散々電飾は見てきたのだが、やはりこう目の前にすると迫力が違う。
大きな枠組みで作られた電飾ツリーを中心に付近の街路樹にも同様の電飾が飾り付けられており、辺り一体がイルミネーションになっているようだ。
ビル街に出来た広範囲に渡る膨大なイルミネーションを見に来た人間は俺たちだけではなく、携帯片手に写メを撮る人間の姿もよく見掛けた。
流れるゆったりとしたBGM。
これは雰囲気に流されてしまうのも無理がない。


「阿賀松先輩、すごいですね」


なんて思いながら雰囲気に流されてしまった俺はそのまま隣にいたはずの阿賀松を振り返るがいかがなものだろうか。携帯を弄っていてイルミネーションに見向きもしない。
まあそんなことだろうとは思ったがこの展開はよろしくない。
今までの印象が良くなかったのでプレゼント作戦で頑張りたい俺はなんとしても阿賀松にイルミネーションに興味を抱いてもらう必要があった。


「先輩、イルミネーションです。イルミネーション」

「ああ?……なんだ、お前電球好きなのか?」

「ち、違います」


なんとかしてイルミネーションを褒めたかったが生憎俺は説明が苦手だ。
芸術だとかなんだとか言っても阿賀松に鼻で笑われてしまうのが目に見えていたので俺は違う方面から阿賀松の興味関心を牽くことにする。


「その、カップルとかに人気らしいですよ。ここ」

「のわりには人いねえのな」


まあ、確かに人は多くない。
時間が時間だし、この時間帯は皆歩き疲れ室内に入ってゆっくりしてる人間の方が多いだろう。


「……きっと、皆さん忙しいんではないでしょうか」


そう答えれば、やはり大して興味なさそうな阿賀松は「へぇ」とだけ呟いた。
返事してくれるだけましだと思いたい。


「んで、ここまでがユウキ君精一杯のエスコートか」


あまりにも反応が悪い阿賀松にどうやってプレゼントのことを切り出そうかと悩んだときだった。
そう阿賀松の方から吹っ掛けてきたのに驚きつつ、慌てて鞄の中のプレゼントに手を伸ばす。


「いえ、あの……最後に、これを」


そして、いいながらそれを取り出した俺は阿賀松にプレゼントを手渡した。
大きめの黒い袋に真っ赤なリボンが施されたプレゼントを受け取った阿賀松はそちらに興味が向いたようだ。


「へえ、気の利いたことも出来んのな」


言いながらその場でリボンを解く阿賀松はにやにやしながら袋の中を覗く。
まさかこの場で開封されるとは思ってはおらず、内心ドキドキする俺。
そして、中身を覗いた阿賀松の顔が凍り付いた。

コンドームバラエティーパック(お買い得)。
それが俺が用意したプレゼントだった。


「先輩、そういうのあまり買わないみたいだったのでその……俺からのプレゼントです」

「……」

「一応先輩が気に入るのがあるよう色々入ってるのを選んでみたんですが……あの、よかったら今度から使ってください」


なんだか改めて恥ずかしくなりながらもじもじと身動ぎさせた俺は恐る恐る阿賀松を見上げ、微笑む。
瞬間、ビキビキと阿賀松の額に浮かび上がる青筋に「ひっ」と息を飲んだ。
笑っているのに笑っていないという恐ろしい顔をした阿賀松に思わず後ずさる俺だったが、逃がすまいと伸びてきた阿賀松の手に巻いていたマフラーを引っ張られる。
ちょ、首絞まる。


「……お前の気持ちはよーくわかった」


苦しい苦しいともがく俺に構わずどこぞの凶悪犯みたいな顔をした阿賀松はそう低く唸る。
その言葉の意味がわからず「へ?」と目を丸くしたときだった。
ぐいっと強い力でマフラーを引っ張られ、「うぐぇっ!」と変な声が出る。構わず歩き出す阿賀松にぐいぐい引っ張られる俺は首が締まらないよう慌てて阿賀松についていく。
阿賀松に連れてこられたのはきらびやかなイルミネーションとは対照的に薄暗く湿った空気が充満した路地裏だった。


「……ちょ、あの、先輩……っ」


喧騒から離れたそこに引っ張り出され内心緊張で死にそうになる俺はそう恐る恐る阿賀松を呼ぶ。
表通りから溢れてくるイルミネーションの明かりに照らされ、陰をつくった阿賀松と目が合った。
そして、阿賀松は笑う。


「せっかくのユウキ君からのプレゼントだからなぁ、全部使いきってやらねえと悪いだろ?」


「っえ、ちょ……んんっ」


壁に追い詰められ、嫌な予感がした矢先だった。
マフラーから阿賀松の手が離れ、逃げようとしたその先に伸びてきた阿賀松の腕に逃げ場を失ったとき、気付いたら目の前には阿賀松の目元が映り込み、そのまま強引に唇を塞がれる。
寒さで悴み、感覚がなかった唇に触れる柔らかい他人の唇の感触に気付いたときはもう既に遅し。
喧騒が更に遠くなり、いきなりの阿賀松の行動に頭が真っ白になる。


「ふ、ぅ……ッ、ん、んん……っ」


体温を奪うかのように唇を貪られ、逃げようとすれば手首を掴まれそのまま背後の壁に押し付けられる。
覆い被さってくる阿賀松に唇を舐められ、その熱い肉の感触に身がすくんだ。


「ッ、せんぱ……っや、駄目です……っ」


追い詰められ、それでも尚逃げるように背中を壁に擦り付けた俺は慌てて阿賀松から顔を逸らす。
が、そんな動作なんの抵抗にもならないことを俺は知っていた。


「駄目?自分から誘っておいてなに言ってんだよ」

「誘っ……!あ、あれはそういう意味じゃないですっ!……せめて、その、場所を……っ」

「場所ぉ?充分いい場所じゃねえか、こりゃカップルが来んのも無理ねえな」


どの口がものを言うのだろうか。
先ほどまで全く興味なさそうだったくせにそんなことを言い出す阿賀松は言いながら人の服の裾に手を滑り込ませる。


「っ、んん……っ、でも、誰かに見られたら……ッ」

「さあ?どうなるんだろうなぁ。試してみるか?お前の声うっせぇからすぐ誰か気付いてくれるかもよ」


服の中をまさぐる大きな手から逃げるよう身動ぎをするがもちろん逃げられるはずがなく。
阿賀松のしようとしていることがわかってしまった俺は唇をきゅっと唇を締めた。
そして服の下を這う手を掴み、首をぶんぶんと振れば阿賀松は満足げに笑う。


「本当、お前は物分かりがいいな」


俺の反応を肯定ととったようだ。


「ユウキ君にはプレゼント貰ったからなあ、俺もお返ししてやらねえとな」


そういやらしい笑みを浮かべる阿賀松に俺は腹を空かせた蛇に睨まれる蛙になったような気分だった。寧ろ蛙でいいからこの状態を回避したい。

とはいわれたものの、それを回避出来るような勇気も術も持ち合わせていない俺は結局されるがままになるわけで。


「ふ、ぁ……ッあ、んん……っ」

場所は変わらず薄暗い路地裏にて。
問答無用で尻を揉みくだされそのまま肛門に挿入された指から逃げるように俺は目の前の阿賀松にすがる。
いつどこで誰が覗くかも分からない路地裏でこんな醜態を晒す自分が情けなくて堪らないと同時に時折通りに足音が近付く度に全身の筋肉は緊張し、体内をまさぐるよ二本の指をより一層意識してしまう。


「おい、舌出せよ」

「……ん」


阿賀松に命令されるがまま口を開きおずおずと舌を突き出せば、そのまま腰を抱き寄せられ阿賀松の長い舌に絡み取られる。
舌と舌が触れ合う度に阿賀松の舌に開けられたピアスが掠り、その固くひんやりとした金属の感触に腰が逃げるが指を深く挿入するように腰を支えられ、咥内と体内両方を荒らされ体の奥がじんと熱くなった。


「んく……っぅ、ふ……っんんッ」


唾液を流し込まされ、たっぷりと汁っ気含んだ長い阿賀松の舌で掻き回される咥内。
舌で咥内をまさぐられる度にくちゅくちゅと湿った音が響き、顔が熱くなった。
捩じ込まれた舌のお陰でまともに閉じることが出来ずにだらしなく開いた唇は溢れた唾液で濡れ、それを拭う暇すらなく俺はただ上下からの責めに崩れ落ちないよう必死に阿賀松の服を掴む。


「っ、ん……ぅ、んん……っ」


頭がぼんやりして、目尻が熱くなる。
ただでさえ寒い屋外だろうか。
こんなことして誰かに見つかったらと思ったらまるで生きた心地がしなかったが今はただ阿賀松の熱が気持ち良くて、口付けをしながら解すように指の腹で内壁を押し広げてくる阿賀松の指にぞくりと腰が震えた。
背後に回され、そのまま肛門を弄ってくる阿賀松の指から逃げようとするが目の前には阿賀松がいるわけで。端から見れば相手の胸にしがみついているようにしか見栄ないだろう。
すると、緊張し引き締まったそこをやわやわと揉みほぐしていた阿賀松の指先に力が込もり、ぐりっと内壁を刺激され呻いた。
矢先、阿賀松の唇が離れる。
痛みを堪えるため咄嗟にぎゅっと服を掴んだ俺は何事かと恐る恐る阿賀松を見上げれば、目が合った。
そして、そのままずぷりと体内に埋め込まれた二本の指を引き抜かれる。
その些細な動きにまで敏感に感じてしまう自分の浅ましい体が憎たらしくて堪らない。


「無駄に暖けえな、ユウキ君は」


引き抜いた二本の指を舐め、にこりと人良さそうな笑みを浮かべる阿賀松は「んじゃ今度は俺のも暖めてもらおうか」と続け、そしていつの間にかに取り出したのかコンドームが入った小袋を噛み、そのまま器用に片手で破いた。
その瞬間、離れた場所から聞こえる喧騒に混ざってジーッとファスナーが下りる音が聞こえ、ギクリと硬直した俺は恐る恐る阿賀松のもう片方の手に目を向ける。
そして、俺は目を見張った。
自らのウエストを緩め、下着から取り出した勃起した性器にゴムを嵌める阿賀松は目が合えば口角を持ち上げ、邪悪な笑みを浮かべる。
ああ、サイズが丁度よくてよかった。とかそういう問題ではない。なんでここで着けるんだ。誰かに見られたらどうするんだ。公然猥褻で逮捕だぞ。
そう突っ込みたかったが突っ込まれそうになっている今言葉が出ない。
血の気が引き、慌てて阿賀松から逃げようとするがもちろんそんなに上手く行くはずがなく、簡単に捕まえられてしまったのは言うまでもない。

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