それから、俺は栫井に呼び出される度に性欲処理の相手をさせられることになる。
期限は栫井の傷が無くなるまで。
この行為が本当に栫井の体のためになるなんてわからなかったが俺は言われる通りにすることしか出来なかった。

生徒会室付属仮眠室。
相変わらずふかふかのベッドにうもった俺の上から覆い被さるように膝立ちになった栫井は俺のスラックスを脱がし、そして目を丸くする。
スラックスの下になにも穿いていなかった俺の下半身は身につけるものがなくなり涼しくなった。



「準備良すぎ。期待してんの?……恥ずかしいやつ」

「だって、どうせ脱ぐからって……ッんんっ!」


言いかけて、股を大きく開かされる。
部屋の明かりに照らされ丸見えになった下腹部を栫井に見られていると思ったら露出させられた性器に熱が集まった。
勃ちかけの性器を見下ろし、指で弾いた栫井は「変態」と嘲笑する。
その冷たい声にゾクゾクと全身が粟立った。


「あ、っや、ちが……っぁ、んんぅ……っ」

「嘘吐くなよ、変態は変態だろ。適当な理由つけられて男に犯されて抵抗もしないでそのくせ喜んで自分から犯されに来てるなんて頭おかしいんじゃねーの?」


頭上から降り注ぐ罵詈雑言に泣きそうになったとき、割られた股に肉質のあるそれを宛がわれる。
顔を上げれば、寛がせたスラックスから性器を取り出した栫井と目があった。
肛門に先端を擦り付けてくる勃起したそれに更に顔が熱くなる。

準備がいいのはお互い様じゃないか。


「あ、ぁあ……ッ!」


ずぷりと埋め込まれる性器の先端。その感触にぶるりと背筋を震わせた俺は中を押し広げるように挿入してくる質量あるそれの圧迫感に喘ぐ。
苦しい。
それ以上に、中を這いずるような熱いその硬質なそれが恋しくて堪らなかった。


「もっと嫌がれよ、つまんねえ……っ」


ミチミチと内壁を裂くように入り込んでくる栫井の性器。
その痛みを堪えるように自分の太股を掴み、開く俺は指先に力を込める。
息を吐き出し、痛みを和らげようと必死に受け止めようとするがどうやらそれが栫井の癪に障ったようだ。
舌打ちをした栫井は先端全てが埋まったところで俺の腰を掴み上げ、そのまま一気に根本まで挿入される。
その脳天突き上げるような衝撃に一瞬目が眩み、ほんの数秒間だが確かに自分が飛んだんだとわかった。
気が付いたら腰を掴んだ栫井に乱暴に腰を打ち付けられ、その度に抉られる内壁に裂けるような激痛が走り、喉奥から悲鳴に似た喘ぎ声が漏れる。


「ぁ、ひぃッ!ちょ、待って、栫井、やっ、もっとゆっくりぃッ!」

「うっせえな、ぶってんじゃねえっ!乱暴にされて勃起してるやつが白々しいんだよ!」

「は、あ゙っ、あぁッ、ごッごめんなさいっ!ごめんなさい!」


激しいピストンの度に腰が痙攣し、目の前が白ばんだ。
息をつく暇もなく、だらしなく開きっぱなしになった口からは謝罪と咥内に溜まった涎が溢れる。
ローションなしの性器の挿入で傷つけられた内壁は痛みを通り越し鋭い刺激として全身の筋肉を震わせ、麻痺した痛覚がそれを快感と感じるようになるまで然程時間はかからなかった。

栫井とのセックスは初めはただの苦痛でしかない。
しかし、痛みを通り越したその先の快感は猛毒のように全身を侵し、たまらなく気持ちがいい。
性器を捩じ込まれた結合部から溢れる血はピストンの度に四散し、それが自分の肌を汚していくのを見るのが好きだった。


「っひ、ぁ、やだ、そこ、やだっ、ぁ、栫井、栫井……ッ!」

「涎垂らして喜んで『嫌だ』かよ、ばっかじゃねえのっ?」

「あ、ぁあッ、栫井ッ、痛っ、栫井、栫井……ッ!」

「は……っ、みっともないアホ面晒してんじゃねえよ……っ」

「ひ、んぅ……んん、ぅッ」


覆い被さり、獣のような激しいピストンを繰り返してくる栫井に下半身は別の生き物のように痙攣を起こす。
それでも限界まで壊され苦痛を苦痛と感じることが出来なくなったこの体にとって栫井が与えてくれる痛みは下手な麻薬よりも依存性が高く、気持ちがいい。
ああ、末期だな。なんて思いながら俺は栫井の背中に手を回す。
細いが、確りした骨組みの広い背中。
その背中を両手で抱き締めるようしがみついた俺は、そのまま相手の腰に足を回した。
驚いたような栫井の目。
それを無視して、俺は栫井の首筋に唇を寄せる。
そしてそのまま小さく唇を開き、浮かぶ血管に歯を立てた。
瞬間、ぶつりと皮膚が切れるような音とともに咥内に甘く生暖かい濃密な鉄の味が広がる。


「つぅ……ッ」


栫井の動きが一瞬止まり、低く呻いた栫井は怨めしそうな目でこちらを睨み、そして俺の顔を手で押さえ付け、無理矢理自分から引き剥がした。

痛いのだろう。
いや、そりゃ当たり前か。
だって思いっきり噛んだのだから。
今度はすぐに痕が消えないような傷をつくるくらい、思いっきり。

ベッドに押し付けてくる栫井の手のひらに浮かんだ薄い一文字の傷跡を見詰めながら、俺は唇についた血を舐める。
その口許には無意識に笑みが浮かんだ。


おしまい

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