頬を伝うどろりとした感触に恐る恐る目を開けば、前髪にまで粘り気のある液体がかかっているではないか!


「ああっ!髪にっ!」


青褪め、固まってくっつかなかと慌てて拭おうとしたときだった。
床の上にへたり込んでいた俺の股ぐらに、櫻田の足が伸びる。


「髪の心配してる場合かよ」


瞬間、ぎゅむっと股間を潰すように踏みつけられ、一瞬思考が飛んだ。
真っ白になった視界はすぐに色を取り戻したが、股間から外れるどころか膨らんだそこを靴の裏でやわやわと踏み続けられれば、今度は衝撃とは違うむずむずとした感触が込み上げてくる。


「や、ぁ……ちょ……っさくらだ、く……っ」

「人のシャブって勃起とかどーなの、お前」

「……っ、こ、これは、その……っ」


やばい、やばい、やばい。
この情況が自分にとってどれだけ危険なものかは理解できたが、いつ本気で潰されるかわからないスリルと性器へ加えられる丁度良い重みからの甘い刺激に全身の血液が一斉に股間に集まり、櫻田の靴の裏で遊ばれる自分のそこが益々大きくなっているのがわかり、なんだからもう自己嫌悪のあまり舌を噛み切りたくなった。
だけど、櫻田はそれを許さない。
「ああ?」と、不快そうに眉を吊り上げ、自分の靴の裏に目を向けると明らかに勃起しているそれに「なんだよ、これ」と皮肉気な笑みを浮かべる。
顔が熱くなり、死にそうなくらいの羞恥を紛らすように俺は無理矢理笑みを浮かべた。


「さ、櫻田君が女の子の格好してるから……なんか、ほら、つい」

「お前馬鹿だろ?女にこれついてねーから!」


そんなの、わかってる。わかってるからこそ、興奮して勃起なんかしている自分を殺したくて堪らない。
ぎっと、一気につま先に体重を掛けられれば、その衝撃に腰が大きく跳ね上がり、目の前が眩む。
全身から力が抜け、逃げるように壁に凭れる俺に構わず櫻田はぐりぐりと性器への攻撃を続ける。


「ホント、恥ずかしいやつだな、あんたって。お前みたいなムッツリ野郎が会長に付き纏ってると思ったら反吐が出る」

「っ、ぁっ、や、ダメ、ダメだって、櫻田君……っ!」

「いいながら勃起させてんじゃねーよ!変態!気持ち悪ぃ声出すんじゃねえ!虫唾が走る!」


浴びせられる罵倒。
潰されるという恐怖と性器へ加えられる快感に頭の中がぐちゃぐちゃになって、衣類越しのもどかしい刺激では射精まではもの足りず、いっそのこと直接踏んでほしいという血迷った考えが脳裏を過る。
こんなの、駄目だ。
わかっているのに、やはり、痛みであろうと苦痛であろうと性感帯へと刺激を加えられれば自動的に快感へと変換されてしまう。


「っあ、はっ、や……っだめ、も……っ!」


ぞくぞくと背筋が震え、イキそうでイケないというもどかしさに息が苦しくなる。
もっと、もっと、強く。
行き場のない快感が体内で渦を巻き、切羽詰まって短いスカートから伸びる櫻田の足に縋り付こうと手を伸ばしたときだった。
冷ややかな目でこちらを見下ろしていた櫻田は、ふと無表情になり、下腹部から足を退ける。
そこにはテントを張り、染みを滲ませたものだけが残り、まさかここで止められるとは思わなくて俺は咄嗟に櫻田を見上げた。
この時の俺の顔はきっと見事なアホ面になっていたことだろう。
櫻田は挑発的な笑みを浮かべる。


「なぁ、しゃぶってくれたお礼にこれ、舐めてやろうか」


そして、薄い唇から飛び出たその言葉に、俺は文字通り硬直する。

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