見えなくなると見たくなるのが人間の性らしい。
寒気がして、は背後の櫻田を振り返った時、こちらを見下ろしていた櫻田と目が合う。
そして、やつはにやぁっと嫌な笑みを浮かべた。
違う意味で、寒気がした。

やばいぞ、これは。
危険を察知し、壁に這い蹲るように逃げ出そうとした時、長い腕が上半身を抱きすくめるように伸びてきた。
そして、濡れて肌に張り付くシャツを徐に脱がそうとしてくる。
ちょっと待った、いや、わりとまじでちょっと待った。


「えっ、あの、なに」

「なにって、このまま濡れたのじゃ風邪引いちゃうだろ」

「いいって、いいってば!ちょ、やだ、櫻田く……っんん」


言い終わる前に、開いたシャツの中にするりと手が侵入してきて、慣れない他人の体温にぶるりと背筋が震える。
背後で櫻田が笑う気配がして、顔が熱くなる。
慌てて櫻田の腕を引き抜こうとするが、胸を撫でられぎゅっと乳首を抓られれば、痛みで全身が硬直した。


「てめぇ、嫌とか言ってんじゃねえよ。アリガトーゴザイマスだろうが、ほら、アリガトーゴザイマス!」

「そんな、無茶苦茶な、ぁ……っほんと、駄目だってばぁ……っやめてよ、櫻田君……っ」

「じゃあ俺の言うこと聞け」

「……っな、なに、その極論……」


無茶苦茶だ。身勝手にも程がある。
こういうとき、自分にもっと力があればとか秘められた力を解き放つ時がやってこないかとか思うが現実はそんなに甘くないらしくて。
後輩の手を振り払うことすらできず、こりこりと寒さで凝り始める突起を指で弄ばれれば、甘く疼く胸の奥になんだかもう吐き気がして泣きそうになる。
逃げようとすればするほど強く揉み下され、四肢から力が抜けそうになって、俺は扉に縋り付いた。
そして、泣き言を漏らす。


「わっ、わかった!わかった、いくらでも聞くから、も……触らないで……っ!」

「ばぁーか!最初からそう言えばいいんだよ」


おっせえんだよ、と笑う櫻田。
引き抜かれる手に内心ほっと安堵するが、肩を掴む手は離れないままで。


「そーだな。じゃあ……ヤラせろ」


挙句の果て突拍子かつ不可解なことを言い出す櫻田に堪らず「なんで?!」っと突っ込んでしまう。
いや、下ネタとかではなく。


「嘘、意味わかんないよっ櫻田君!」

「うるせーうるせー!あんたが変な声出すから勃っちゃったんだろうが!」


しかも俺のせい?!
変な声出してないし、出たとしてもその原因はお宅にあるのではないのだろうか。
そう、言い返したかったのに、背後の櫻田と目があってしまえば浮かんだ言葉が吹き飛んだ。


「……責任、取れよ」


恨めしそうな目、紅潮した頬、背筋を這う低い声。
不自然に盛り上がったスカートの裾を掴み、乾いた唇を舐める櫻田に俺はその場から動けなくなってしまう。

←前 次→
top