ああ、今朝はどうなることかと思った。
会長とのことを思い出すと同時に顔が熱くなったが、それ以上に般若のような櫻田の顔が離れない。これが呪怨というやつだろうか。恐ろしい。


「齋藤、次の授業科学室だってよ」

「あ、うん、」


場所は教室。
物思いに更けていたおかげでなにもしていなかった俺は慌てて準備をしながら、待たせるのもあれだったので志摩に「先に行ってて」と告げる。
渋々教室を後にする志摩。
教材を手にし、遅れて教室を飛び出した俺は科学室へと向かおうとした。

便所前廊下。
休み時間が終わり、皆教室入りしたのだろう。
やけに静かな廊下を、同じく遅れた阿佐美とともにパタパタと小走りで進んでいた時だった。
通り掛かった便所から人影が飛び出したと思えば、いきなり水をぶっ掛けれた。
そう、水だ。


「あっ、ごっめーん!手が滑っちゃったー!」


訳がわからず、思わず足を止めた俺は聞き覚えのあるその声の主に目を向ける。
そこには満面の笑みを浮かべ、空になったバケツを手にした櫻田がいた。


「さ、櫻田君……」


またそんな昼ドラの悪役ヒロインみたいな嫌がらせを……。
幸い、後ろからついてきていた阿佐美にはかからなかったようだ。
ぽたぽたと滴る雫。
狙われたのは頭で、下手に持っていた教材にあまり掛からなかったのが不幸中の幸いだろう。


「ゆ、ゆうき君、水が」

「あー……うん、大丈夫、大丈夫だから。詩織は先行ってなよ。俺、ちょっと着替えてくるから」


そう言って、阿佐美に笑い返した俺はそのまま逃げるように教室へと引き返した。
「ゆうき君」とおたおたと狼狽える阿佐美だがついてくる気配はない。

ほんと、ついてない。
今に始まったことでは無いが、ついてない。
ただ、なんとなく予測は出来ていたので然程ショックはないのだけれど。

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