「っごめんなさい、ごめんなさいっ」

「なんでそんなに謝んだよ」

「だって、こんな……っこんなこと……っ」

「いつもやってんだろ?今更照れんなよ」


それとこれとは状況がまるで違うじゃないか。
阿賀松に引きずり倒されたソファーの上。
ふかふかの上質なクッションの寝心地なんて確かめる余裕なんてなくて、目の前、腿を撫でてくるその無骨な手の感触に短い悲鳴が漏れる。


「いいなぁ、伊織はいつでも齋藤君とヤれるんだからさ。ずるいよね」


「俺だって齋藤君と色んなことしたいのに」と、拗ねたように呟く縁の声は背後からした。
抱え込まれるように密着した背後の縁の手が胸元に回る。
衣類越し、両手で胸板を鷲掴みにされれば嫌でも全身の筋肉がびくりと反応した。


「こんな風にさ」

「ぃっ、んんっ」


衣類ごとぎゅっと突起を摘まれ、そのまま引っ張られれば突き抜けるような鋭い痛みに胸が反る。
縁の指から逃げるように体を捻るが、手足を縛られた今まともに身動き取ることができない。


「やっ、やめてください……っ、縁先輩……っ!」

「そんな冷たい事言うなよ。ちゃんと気持ちよくしてあげるから」


そういう問題じゃないし、だからといっていいなんて言えるわけもないし。
阿賀松の顔を見るのが怖くて、ぎゅっと目を瞑り耐えようとしたとき。
耳にべろりと舌を這わされ、濡れた感触に堪らず「あっ」と震え上がった。


「やっ、も、だめ、だめです……っほんと……っ!」


耳の穴へと入り込んでくる縁の舌が、くちゅくちゅとわざと音を立てるようにして鼓膜を脳髄を犯してくる。
必死に堪えようとするが、脳味噌に直接繋がっているそこは見ないことにするにはあまりにも刺激が強すぎて、胸の奥、心臓がバクバクと騒ぎ始めた。


「伊織がいるからってそんな嫌がったフリしなくていいって」

「ちっ、ちが……っ」

「よかったなぁ、ユウキ君。たーっぷり可愛がってもらえよ」


掛けられる声に思わず目を見開けば、「今のうちにな」と笑う阿賀松と視線が絡み合う。
助けてくれる気配はない。
耳と胸、両方を弄ばれ、震える俺は目の前が暗くなっていくのを感じた。


「っそんな、先輩……っ」


元より阿賀松が助けてくれるなんて微塵も期待していないのだが、やはり、このままは、辛い。
あまりの羞恥に涙が込み上げ、視界が揺らいだ。
我慢できず涙ぐむ俺に、阿賀松は狼狽えるどころかどこか嬉しそうに「泣くほど嫌か」と笑う。


「ま、どうせ後から俺が一番だってわかるだろうけど」

「どうかなー?もしかしたら『やっぱり縁先輩のがいいっ!』ってなるかもしんねえし?」


摘まれ、じんじんと痺れ、疼くそれを指の腹で柔らかく潰されれば、先ほどと違う電流が背筋を走った。
ぶるりと仰け反った時、「ああ?」と阿賀松の眉間に深い皺が寄せられる。


「っぁ、やっ、ゆび、やめてくださっ、ぁ」

「んなわけねーだろ、つまんねー冗談言うなら潰すぞ」

「さあ?冗談だと思う?齋藤君、伊織のこと好きじゃないみたいだしさぁ?あながち外れでもないと思うけど」


「ねえ、齋藤君?」と問い掛けてくる縁。
正直なにがなんだかわからなくて、取り敢えず阿賀松が不機嫌になっていくけど二人の会話が全く耳に入って来ない俺がそんな問いかけに答えられるわけがなくて。
返答を促すように指先で凝り始める先端を押されれば、びくんと腰が揺れる。


「っ、すみません、ほんと、やめてくださっぁ、んん……っ!」


言い終わる前に、履いていたズボンのウエストを緩められ、そのままその中に阿賀松の手が捩じ込まれた。


「ちょっ、どっ、どこに……っやめてください、駄目ですっ、そこは……っ!」


あろうことか縁に乳首嬲られただけで既に俺のものは熱を持ち始めていたのだ。
硬くなったそこを阿賀松に知られたくなくて、必死に腰を引くが勿論意味なんてなくて。


「あ?なんだって、聞こえねえよ」

「んぅっ」

下腹部をまさぐる手とは別の手で、俺の口に指をねじ込んだ阿賀松は強引に黙らせるように口端を拡げる。
ぐっぐっと裂けさせるように引っ張られ、閉じることのできない口からは声と舌がだらしなく漏れた。


「ちゃんと言わねえと舌引っこ抜くぞ」


下腹部、下着の膨らみを指先ですっとなぞられればもどかしいその感触に腰がずくんと疼いた。
やり場をなくし、蠢く舌を親指で擽られ、体中を巡る血液が沸騰するみたいに熱くなるのが分かった。


「っぅ、えっ、ほんは、ふひへふぅ……ッ」


唾液が止まらない。
ぽたぽたと溢れる唾液は阿賀松の指を濡らし、それでも構わず俺の口をこじ開けた阿賀松。


「聞こえねえ」


そう言うなり、顔を寄せた阿賀松はそのまま外に放られた舌にしゃぶりつく。
緊張で尖った舌を唇で啄まれ、唾液ごと先端を吸い上げられればぞくりと体が震えた。
勿論、それくらいで阿賀松がやめるわけがなくて。


「っん、うぅっ、ふっ、ぅ……ッ!」


阿賀松の赤い舌に、舌ごと絡め取られるとそのまま深く口を重ねてきた。
キスなんて生易しいものではなく、重なった唇から強引に捩じ込まれる濡れた肉にぐちゃぐちゃに咥内を掻き回されるその感触は犯されているとでも形容した方が納得できる、そんな一方的な愛撫で。


「っふ、ぅ……っ」


残った酸素を奪われ、頭がぼうっとしてきた。
体が、脳が、喉が、皮膚が、蕩けたみたいに熱くなり、まるで夢でも見ているような錯覚さえ覚える。
これが夢だったらどれほどいいのだろうか。

短い間の夢現は、ズボンの下で蠢く阿賀松の手によって覚醒した。


「っ、ぅんんっ!」


乱暴にズボンをずり下げられ、必死に隠していた(つもり)のテント張った下半身が二人の眼下に晒され、青褪める。
唇さえ塞がれていなければ今頃声を上げていたかもしれない。


「齋藤君ってば、結構感じやすいんだ」


耳に吹き掛けられる生暖かい吐息と嘲笑に、かあっと顔が熱くなる。
ああもう、舌を噛み切りたい。噛み切って息絶えたい。そう思うのに、肝心の舌まで嬲られていてなんだかもうどうかなりそうだった。
まだどうにもなっていない時点で、それはそれで異常なのかもしれないが。

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