「……へえ?」
凍りついた空気の中。
ピクリ、と阿賀松のコメカミがひくつく。
心なしか、阿賀松の纏う空気が冷たくなった。
まずい。
「つまり、俺の言うことを聞けないと」
「えっ!そ、そういうわけじゃ」
「もうすこし物分りいい奴と思ってたけど、どうやら俺の見当違いらしいな」
「ユウキ君には一からよーく教えないといけないようだな、誰がてめぇの飼い主なのか」そう不気味に歪む阿賀松の口元。
今から人一人殺してくるような凶悪なその目に、防衛本能がやばいと叫ぶ。
だが、足が竦んで動けない。
そのときだ。
ポン、と頭の上に手が伸び、くしゃりと髪を撫でられた。
「酷いよねぇ、伊織ってば。齋藤君は飼い犬じゃないんだからさ」
「縁せんぱ……」
そうだ、今日はこの人がいる。
ちょっとあれだけど確かに阿賀松よりかは物分りの良い縁ならば、きっと阿賀松をなんとか説得して……。
「皆のものだよねぇ?」
前言撤回。
俺を見下ろす縁は阿賀松と同じ目をして俺に微笑みかけてきた。
逃げ場は、今のところない。
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