「えっ、志摩?」


なんでここに。
居場所を告げていないにも関わらずやってきた志摩に驚く俺。
それは縁も同じだった。


「へえ、随分早かったな」

「……音楽が聞こえたから。朝、スピーカーから音楽が流れるのは一階だけなんで」


指摘され、俺はラウンジに響くコーラスの入っていないクラシックに耳を傾けた。
今はもう慣れてしまっていただけに意識していなかった俺は、志摩の観察力に素直に驚く。


「それで、まだ齋藤に付き纏ってるんですか?相手にもされないくせにいい加減懲りたらどうです」

「なんだよそれ、まるで俺が齋藤君に嫌がられてるみたいじゃん」

「そう言ってるんですよ」


刺々しい志摩の言葉はいつも以上に遠慮がない。
むっすりとした顔で即答する志摩に、ニヤニヤと笑う縁は「へえぇえ?」と意味有りげに声を上げる。
バカにされているというのがわかったのだろう。
ピクリと、志摩のコメカミが反応した。


「なんですか、その言い方」

「亮太、お前なんか誤解してるようだけどさ、俺が齋藤君とここにいるのは齋藤君に誘われたからだよ?」

「で?」

「齋藤君は俺のこと、満更でもないってさ」


そう含めた縁の言葉に、今度は俺か反応する番だった。

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