早朝。
学生寮一階、ショッピングモールにある本屋の前。

学生たちの生活リズムに連動して開いているその店は、当たり前だが閉まっていた。

……まあ、想定内だ。
そんな気はしていたので凹みはしないが、これで少しは時間潰すことはできただろう。そう思うことにする。

さて、これからどうしようか。
目的をなくし、仕方なく自室へ戻ろうと踵を返したとき。

ふと背後から伸びてきた手に、視界を覆われた。



「っ、うわ!」


驚きの余り、慌てて後退って転びそうになったとき、背後に立っていたその人物にぶつかる。
目を隠していた手が離れ、咄嗟に抱き留められた俺は後ろを振り返り、更にびっくりした。


「縁先輩……!」

「あらら、ごめんごめん。驚かせちゃった?」


悪びれた様子もなくヘラヘラと笑う縁に、俺は「驚きました」と頷く。
まさか、自分以外にもこの時間帯ここに来ている人間がいるなんて思いもしなかった。


「どうしたんですか、こんな朝早くにこんなところで」

「俺はね、ちょっと伊織の付き合い」


そういって、縁はそう遠くはない位置にあるゲームセンターを指で指した。
しっかりと閉め切り、防音が施されたそこは音こそは聞こえないが、確かに営業しているようだ。


「じゃあ、阿賀松先輩も?」

「いるよ。会いたい?」


問い掛けられ、俺は全力で首を横に振る。
せっかくいい朝を迎えられたというのに、こんな朝から阿賀松の顔を拝みたくない。


「ま、正しい判断だよね。せっかくの休みにあいつの顔見たくねえもん」


笑う縁。
いつも阿賀松と一緒にいるくせしてたまにこうやってサラッととんでもないことを口にする縁の勇気諸々には脱帽する。見習いたくもないしヘタしたら俺までとばっちりを食らうのでなるべく控えて貰いたいのもあるが。


「それで?齋藤君はどうしたの?そんなにおめかししちゃって」


「もしかしてデート?」とにやにやと笑う縁に、赤くなった俺は「違います」と慌てて否定する。


「今日、志摩と外出する予定で」

「亮太と?亮太とデート?」


いい加減デートから離れてほしいが、突っ込むも面倒になった俺はもう好きにさせることにした。

そして、そこで俺はあることを思い付く。
縁は結構外出しているようだし、もしかしたらこの辺のことに詳しいかもしれない。
縁からなにか志摩の喜びそうな場所を聞き出せないだろうか。


「あの、先輩、ちょっと聞きたいことがあるんですが……」


そうと決まれば、即質問。
時間はあまりない。

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