朝目を覚ますと、ベッドの中に自分以外の人間がいることに気付いた。
向かい合うように腕の中に収まったその人物はすーすーと寝息を立て、むにゃむにゃとなにか言いながら胸元に擦り寄ってくる。
指先まで緊張するのがわかった。
なんだ、どういうことだ。
確かベッドに入ったときは一人だけだったはずだ。
いや、落ち着け。
寝惚けた十勝がという可能性もある。
いやでも十勝の髪はこんなに短くなかったはずだ。
それに、茶髪でもない。
昨日の内にイメチェンでもしたのだろうか。
だとしても一分一秒早く離れていただきたい。
思いながら混乱する自分の思考を整理させる俺は小さく息を吐き、そのまま人の胸の中で眠るそいつの髪を掴み無理矢理引き剥がした。
「……っ?!」
そして、息を飲む。
人のベッドに潜り込んでいたのはアホな同室者ではなく、よく見知った人間だった。
「さっ……齋籐?」
声が震える。
髪を掴まれ、気持ち良さそうに眠っていたそいつもといクラスメートは顔をしかめ、小さく呻いた。
慌てて手を離せば、反応するように薄く目が開く。
「………志摩、おはよ」
寝起きだからだろうか。
半目状態の齋籐は、驚愕する俺の姿を見付けるなり気恥ずかしそうに微笑む。
「え、ああ、おはよ」
ダメだ、やばい、頭がこんがらがってきた。
挨拶され、慌てて笑みを浮かべるもののなんで齋籐が俺のベッドにいるかという疑問は解消されない。
「……どうしたの、齋籐。こんなところで」
「……どうしたのって、なにが?」
「いや、だってここ俺のベッドだよ。迷子にしちゃあはっちゃけすぎじゃない?」
「え、あれ、……ダメだった?」
「いや、いやいやいや全然いいよ寧ろ大歓迎だけど」
可笑しい。
なにかが可笑しい。
不安そうな顔で尋ねられ、ついそうフォローしてしまう俺に齋籐は「ならよかった」と安心したように微笑んだ。
その久しぶりに見た引きつったような笑みではない純粋な笑みについ流されそうになるが、色々可笑しい。
密着した体同士に手のやり場に困った俺は、ふと布団の中で手をまさぐり齋籐の体に触れた。
そこには布の感触はない。
てっきり半袖を着ていて露出した腕の部分かどっかに触れているのだろうと思ったが、どうやらそうではないようだ。
手を動かせば、布団の中の齋籐が僅かに反応する。
「ちょっと待って。……齋籐、服は?」
布の感触を探すように齋籐の肌を撫で回せば、ようやく薄い布に触れた。
恥ずかしそうに目を丸くした齋籐は俺を見上げ、そしてすぐに俯く。
「パンツ、だけだけど……」
微かに頬を紅潮させ、しどろもどろと口にする齋籐に一瞬頭の中が真っ白になった。
これは、まじでどういうことだ。
昨日最後に会ったときは目も合わそうともせず、相槌打つのも愛想笑いを浮かべるのもだるそうだったあの齋籐がパンイチで俺のベッドに潜り込んでいる。
あれか、これはドッキリか。
それとも気付かない内に俺が齋籐を引っ張り込み、その上服を脱がせたということか。
いや、この場合齋籐が夜這いと考えた方があれじゃないか。合理的というか。
混乱で硬直する体に反して、頭の中は恐ろしい早さで回転する。
この場合、俺はどうしたらいいのだろうか。
そう自問したとき、既に体は動いていた。
「わっ……ちょ、志摩……っ」
抱き着いてくる齋籐の腰を捉えるように手を伸ばし、そのまま下着越しに尻たぶを鷲掴む。
尻を揉まれ、目を丸くした齋籐は焦ったように俺の胸元を押してきた。
が、腰に回した腕のお陰で齋籐の抵抗は身動ぎで終わる。
人を誘うような真似をしておいてなんで今さら慌てるのだろうか。純情振りやがって。
「ダメじゃん、ちゃんと服着なきゃ。風邪引いたらどうすんの?」
「や、ちょっ揉むなってば」
「揉んでないよ。俺は齋籐が風邪引かないように暖めてあげてるんだよ」
「ほら、早速暖かくなってきた」逃げる齋籐の体を抱き寄せるように下着に手を這わせ乱暴に尻たぶを割るように揉み扱けば、押し付けられる齋籐の下腹部が反応する。
早速昂ってきたのか、下着の前を膨らませ固くしてきた齋籐に俺は自然と頬が緩むのを感じた。
寝起きだというのに恐ろしいくらい頭が冴えている。
恐らく齋籐のお陰なのだろう。
恐るべし齋籐目覚まし時計。
「志摩っ、ダメだって……っ」
「なにがダメなの?下着の上から尻揉むのがダメなの?」
ぐにぐにと皮膚に指を食い込ませ内側に円を描くように全体を揉み回せば、腕の中の齋籐は恥ずかしそうに目を細め、数回頷いてみせた。
その無言の答えに俺は「へぇ」と笑い返す。
揉みながら、肌に貼り付いた下着の裾に指を滑り出し込ませた。
齋籐の目が丸くなり、不安そうな顔でこちらを見上げる。
捲るように裾をずらし、そのまま尻たぶを露出させるように割れ目に食い込ませれば、齋籐が「志摩」と声を上げた。
「どうしたの?そんな顔して」
言いながらも、もう片方の下着の裾をずらす。
Tバックを作るようにそれを引っ張れば、割れ目に食い込む下着に齋籐はビクリと肩を震わせた。
「……ッやめろって、それ」
「食い込むの嫌い?」
「気持ち悪い……っ」
ちょっと傷付いた。
顔を赤くする齋籐は、引っ張れば引っ張るほど泣きそうな顔をして首を横に振る。
キツい感触に慣れないようだ。
布団の中で足をもぞつかせる齋籐は、下着を引っ張る俺の腕を離そうとしてくる。
顔を真っ赤にして嫌がる齋籐が可愛くて、俺は空いた手を使って下着の下に手を潜り込ませた。
そのまま親指と人差し指で尻たぶを押さえ、拡げた肛門に唾液でたっぷりと濡らした指を捩じ込めば、齋籐が唇を噛む。
「や……ッ志摩、やだ……っ」
「齋籐は慣れてないところに無理矢理捩じ込まれて肛門裂けるぐらいガツガツやられた方が好きなの?」
「ちが、う……けど……ッ」
けど、なんだ。
その先は言葉にならず、声を圧し殺したようなくぐもった呻き声が齋籐の口から漏れる。
指に絡めた唾液を内壁に塗り付けるように指の付け根まで深く捩じ込み、そのまま内側を刺激するように指を動かし挿し抜きを繰り返せば手首を掴んでくる齋籐の指先に力が込もった。
「ふ、ぁ……ッ」
息苦しそうに顔をしかめた齋籐は空気を求めるように唇を開く。
指の動きに合わせて締め付けてくる齋籐の喉奥から息をするような微かな喘ぎ声が漏れた。
それだけで背筋が震え、じわりと胸が熱くなってる。
だらしなく口を開いた齋籐がキスを求めているようにしか見えないのはきっと俺の思い上がりではないはずだ。
下腹部に押し付けられたそれが硬くなるのを感じながら、自らの唇を舐めた俺はそのまま齋籐の唇にそれを重ねる。
「ッん、むぅ……ッ」
一瞬、驚いたように目を丸くした齋籐は布団の中で足をバタつかせた。
しかし室内にスーツの擦れるような音が響くだけで、俺はそれを無視して唇をなぞるように舌を深くまで挿入すれば、腕の中の齋籐が小さく身動ぎをさせる。
苦しがる齋籐が可愛くて、指を止めずにそのまま引っ込む齋籐の舌を絡み取れば、唾液と唾液が絡み合い咥内に濡れた音が響いた。
付け根をなぞるように舌を動かせば、やがて大人しくなった齋籐の方からおずおずと舌を絡めてきて若干テンションが上がる。
嘘だろ、あの恥ずかしがり屋な齋籐が自分からベロチューしてくるなんて。
珍しく積極的な齋籐に内心驚きつつ、求められるがまま俺は齋籐の唇を貪る。
緊張した舌を絡め、嬲るように咥内を舌で犯す感覚は気持ちが良い。
長いキスの間にお互いの唾液が混ざり、開きっぱなしになった唇の端から咥内に溜まった唾液が溢れる。
しがみつくようにこちらの背中に腕を回してくる齋籐の勃起した性器が下着越しに当たり、痛そうなくらい張り詰めているそれに俺は齋籐から口を離した。
唇がふやけるくらい長い間キスをしたというのに、それでも齋籐はどこか名残惜しそうな顔をして俺を見詰めてくる。
どちらのものかわからない唾液で濡れた唇。
軽い酸欠に陥ったのか潤んだ瞳に仄かに赤く染まった頬。
「……もっと、キス……」
消え入るような掠れた声で不安げな表情のまませがんでくる齋籐。
背中に回された手に力が入り、顔が近付く。
男相手に表情仕草だけで興奮する日が来るとは思わなかった。
甘えるようにせがまれ心臓が跳ねるのを感じながら、俺は「ちょっと待って」と声をあげる。
「……もしかして、やだった?」
水を差され、不安そうな顔をして身を引く齋籐に俺は「違うよ」と慌てて否定した。
「いつまでもキスばっかじゃ物足りないんじゃないの?だから、取り敢えずさ」
言いながら俺は一旦指を引き抜き、勃起した齋籐の性器を下着の上からなぞる。
ピクリと腰が揺れ、困惑したような顔をしてこちらを見上げてくる齋籐と至近距離で目が合った。
「上、乗ってよ」
唾液で濡れた唇を舌で舐めとり、笑みを浮かべた俺はそう齋籐を促した。
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「齋籐っ、激しいよ!そんなに腰振ったら抜けちゃう!ああっ!齋籐!」
「…………」
「あれ、佑樹来てたんだ」
「……うん、志摩に用事があったんだけど……やっぱいいや」
「あははっあれな、今朝からずっとやってんだよ。起こしてこようか」
「いや、いいよ。眠ってるところ邪魔しちゃ悪いし」
「ふーん、わかった。ところで用事って?」
「大したことじゃないよ」
「あ、そうなんだ。じゃあさーせっかくだし俺に付き合わない?これから外遊びに行こうかと思ってんだけど」
「いいの?」
「もちろん!やっぱいきなりは無理?」
「……うーん、やっぱりやめとくよ。黙って行っちゃったら志摩に悪いし」
「そっか、わかった!んじゃまた今度一緒に遊ぼうな」
「うん。十勝君も気を付けて」
「おー!」
昨夜、一緒に出掛けようと志摩亮太に誘われてやってきたわけだが、今現在誘ってきた張本人はベッドの上で気持ち良さそうに眠っている。
同室者である十勝直秀と入れ替わるように黒いカーテンで仕切られた室内に足を踏み入れた俺は、そのままベッドの上で馬鹿でかい寝言を漏らす志摩に近付いた。
一体どんな夢を見ているのだろうか。
あ、やっぱ知りたくない。
苦しそうに齋籐齋籐と名前を連呼され、まるで悪夢にでも魘されてるんじゃないかと心配になったがその後口から「全体を締め付けてそのまま上下にスクワットする感じで」とか言い出す志摩に軽蔑を通りすぎて脱力すら覚えた。
本当に、なんつー夢を見てるんだ。
寝言とは思えない志摩の口から飛び出す下ネタの数々に顔が熱くなるのを感じ、バケツに水を汲んで無理矢理目を覚まさせたかったがあまりにも志摩の寝顔が気持ち良さそうでこのまま起こすのも可哀想に思えてしまう。
寝返りを打ち、捲れる布団を肩まで掛け直してやる。
この様子だと、もう暫くは目を覚まさないはずだ。
今日は休日で時間にも余裕はあるし、わざわざ急ぐような用でもない。
早起きしてきたせいだろう、布団にくるまって幸せそうな顔をしている志摩を見てるとなんだかこっちまで眠くなってきた。
アクビを噛み殺した俺は軽く伸びをし、志摩で膨らんだベッドの上で腕を組む。
そこへもたれ掛かるように俯せになった俺はそのまま窓から朝日を浴びながら目を閉じた。
まあ、たまにはこうしてゆっくりするのも悪くないだろう。
思いながら、俺はそのまま意識を手放す。
そして次に目を覚ましたとき俺は、「正夢だった」とか言う志摩に服を脱がされそうになっていた。
おしまい
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