▼齋籐side


志摩があまり教室に顔を出さなくなった。
ここ最近サボり癖がついて保健室に遊びに行くようになる前まではいつも教室に行く度顔を合わせたのに、今は教室に行っても志摩が座っていた場所は大体空席になっていて。
このままじゃいけないと俺が真面目に授業を出ようとした結果がこれだ。
今までの行いの悪さが裏目に出たのだろうか、唯一話せるクラスメートがいないというのはなかなか寂しいものだった。

んで、授業が退屈になった俺は再び保健室に逃げるようになるわけだ。


「あ、齋籐くーん!またサボり?いけないなあ、サボりなんてするいけない子にはお仕置きが必要だね」

「縁先輩……今日も元気ですね」

「そりゃーもう齋籐君の顔見たら元気出てくっからな。下半身の方も」

「……」

「そんな目で見ないで……!」


保健室にて。
いつものようにサボりに来ていた縁と顔合わせし、いつものようにだらだらとたまにセクハラを受けそれをかわしながら俺は時間を過ごす。


「そう言えば、縁先輩と志摩って仲良かったですよね」

「え?ああ、亮太。んー別に仲良しってわけじゃないけど、長い付き合いだな」

「最近志摩見ましたか?」

「亮太を?」


縁と志摩の接点を思い出した俺は、なんとなく気になったので尋ねてみることにした。
まさか志摩の話題を出されるとは思っていなかったようだ。
目を丸くした縁は、なにか思い出したように「あー」と微妙な顔をする。


「なに、齋籐君見てないの?」

「ここ最近はサッパリ。……俺のタイミングが悪いだけかもしれませんけど」

「まあ、見たっちゃ見たけど……」

「見たんですか?」

「まあね。でも、まあ、見ない方がいいと思うよ。俺は」


見ない方がって……視覚的に問題があるとでも言うのだろうか。
苦笑を浮かべる縁の言葉になんだかいい予感がしなかったが、俺の中で不安感よりも好奇心の方が勝った。


「あの、どういう……」

「気になるんなら、会ってみる?」

「え?今からですか?」

「うん。多分この時間ならあそこにいるだろうし」


あそこってどこだろうか。
志摩がいそうなところと言われて全く思い付かなかったが、どうやら縁には心当たりがあるようだ。


「じゃあ、お願いします」


特に深く考えるわけでもなく、そう俺は縁の好意に甘えることにする。


場所は変わって学園内理事長室前。
縁についてこいと言われ、のこのことその後をついていった俺はまさかの理事長室に目を丸くする。


「あの……ここって……」

「理事長室だな」

「ですよね。……って良いんですか、勝手に入って」

「亮太に会いたいっていったじゃん」

「確かにそう言いましたけど……」


本当にこんなところにいるのだろうか。
理事長室といったら阿賀松が私物化している場所だ。
志摩と理事長室が結びつかず、まさか縁に騙されてるんじゃないかと疑心暗鬼になってくる。

理事長室にある扉にて。
ずかずかと奥までやってきた縁は、そんな俺のことなんか知らず扉の前で足を止める。

どうやら、ここに志摩がいるとでも言うようだ。

扉を数回叩いた縁は、返事が返ってくるのを待つわけでもなく数歩扉から後退った。


「齋籐君」

「え?」

「会いたいんだろ?ほら」


どうやら、自分で扉を開けと言っているようだ。
縁が開けばいいのに、わざわざまどろっこしい要求をしてくる縁に違和感を覚えながら俺は言われた通り扉の前にまで行く。

目の前の重厚な扉に思わず俺は固唾を飲んだ。
ここに志摩がいるのか。
なんだか今更緊張来てくる。
勝手に入っていいのだろうか。
ダメだとしても、縁が促してきたんだからこれは仕方ないよな。一応俺ちゃんと止めたし。
頭の中で理事長室に勝手に入ったことがバレ、咎められたときの言い訳を考えながら俺はドアノブを掴み、そのまま扉を開いた。


……一瞬、思考が止まる。


開いた扉の奥。
薄暗いその部屋を見渡した俺は、目を見開いた。


「志摩…………?」


恐る恐るそこにいた人間の名前を呼ぶ。
全身が強張り、顔面から血の気が引いていくのがわかった。
どういうことかと縁の方を振り返れば、やりきれないような顔をして小さく溜め息をつく。

なにがなんだかわからなかった。
頭を殴られたようなショックに、足から力が抜け落ちそうになる。


薄暗いその部屋の中、そこにはクラスメートだったものがいた。

おしまい

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