※若干痛いです
※志摩いじめです

日が増すにつれ、齋籐が教室に顔を出す回数が減っていった。
朝にはちゃんと教室入りしているのだが休み時間になる度に姿を消し、酷いときにはそのまま教室に戻ってこないなんてこともある。
大体、齋籐が姿を消す理由はわかっていた。
間違いなく、阿賀松か芳川の仕業だ。
教師が齋籐の席が空いていることに気付いても見て見ぬフリをしているというのを考えれば、中でも阿賀松絡みというのがわかった。
いくら生徒会長という立場である芳川でも、一人の生徒の欠席を黙認させるほどの権力はないはずだ。知らないけど。

別に齋籐がいないと寂しくて死んでしまいそうというほど脆い精神をしていないが、今現在こうして俺が真面目に授業を聞いている間も齋籐が阿賀松たちと一緒にいると思うと非常に不愉快だった。
持っていたシャーペンを裏返し、机に押し当てカチカチカチと連打しながら俺は内心舌打ちをする。
ダメだ、やっぱり集中できない。
いつも隣の席にいた齋籐にちょっかいかけるのが日課となっていた俺にとって齋籐がいない授業は退屈で退屈で退屈で退屈で退屈で、とにかくなんかもう暇で仕方がなかった。

だから、俺は齋籐を取り返しにいくことにする。
別に寂しいからではない。





授業を抜け、そのまま教室を出た俺が向かった先は校舎上階にある理事長室だった。
前に阿賀松たちと行動していたとき、よく授業サボって理事長室で遊んでいたことを思い出したのだ。
結果から言えば、予想通り阿賀松は理事長室にいた。

理事長室、仮眠室。
無人の理事長室に入った俺は、そこから行ける仮眠室に入る。
大きなベッドの上。
暢気に爆睡している赤髪の男の背中を見つけた俺は、なんだか出鼻を挫かれたような気分になった。
寝るなら自室で寝ろよと呆れながら、俺はベッドに近付く。
なにかを抱き締めるように眠る阿賀松に『まさか』と思ってこちらを向かせれば、阿賀松の腕には丸めた布団が抱き枕の代わりにされていた。
紛らわしいことしやがってと舌打ちをしたとき、阿賀松がゆっくり目を開く。


「……なにやってんだ、お前」


ベッドに手をつき顔を覗き込む俺に気付いた阿賀松は、そう低く唸るように呟いた。
低血圧なのだろう。
あまり心地好い目覚めではなさそうだ。
まあ、俺だって目覚めて一発見たくもないやつがいてそいつに起こされたらキレるだろう。
それとこれとは別だが。


「ねえ、齋籐どこにいるの?」

「…………はぁ?」

「知ってるんでしょ、早く言ってよ」

「……知らねぇよ。なんだよいきなり、人のプライベートルームに入ってくんなっての」

「鍵開いてたけど」

「鍵開いてたらどこにでも入んのか、お前は」


「出ていけ、休憩中だ」そう眉間に皺を寄せたまま再び俺に背中を向ける阿賀松。
俺がいるにも関わらず二度寝をしようとする阿賀松に、「ねえ」と声かけかけながら腕を掴み無理矢理こちらを向かせた。


「寝るんなら居場所言ってから寝てよ」

「……知らねぇよ。そこら辺ほっつき歩いてんじゃねえの」

「そこら辺がどこなのかを聞いてるんだけど」

「あーどこだっけなあ、忘れた。死んでねえから安心しろ。おやすみ」


面倒臭そうに答えながら、阿賀松は俺の手を振り払う。
死んではないが、元気でもないとでも言うような阿賀松の言葉に「どういう意味」と顔を引きつらせた。


「……お前もきゃんきゃんきゃんきゃんうっせーなあ。少しは黙れないのかよ。耳障りなんだよ、お前の声」

「黙って欲しいんならさっさと齋籐の居場所教えてよ。どうせ、あんたが引っ張り回してんでしょ」

「よくねえなあ、そういうの。お前のその被害妄想まじやめろよ。それに俺が引っ張り回してるんじゃなくてユウキ君が自分から来てるんだよ」


俺の相手をしない限り寝れないと判断したようだ。
アクビをしながら上半身を起こす阿賀松は「人を暴君みてーに言うんじゃねえ」とため息混じりに続ける。


「齋籐があんたの相手をしてるのは強要されて仕方なくでしょ?自分からって……」

「あーはいはい、わかったから吠えんな。うっせえから。で、なに?ユウキ君の居場所?だっけ?」


軽くあしらうような阿賀松の態度が鼻についたが、齋籐の居場所がわかればそれでいい。
腹の底から込み上げてくる不快感を抑えながら、俺は小さく頷いた。


「知ってるけど、ぜってーお前には教えてやんねぇ」


そう嫌味ったらしい顔をして吐き捨てる阿賀松に、どっかの血管が切れそうになる。
「意味がわからないんだけど」浮かべた笑みが怒りで引きつり、あまりの不快感に愛想笑いすら儘ならない。


「なんだ。ほいほい教えてもらえるとでも思ったのか?俺、立場弁えねえ馬鹿と可愛げがない馬鹿が大嫌いなんだよ」


「これ、お前のことな。亮太」薄ら笑いを浮かべながら小馬鹿にしたように続ける阿賀松に、腸が煮え繰り返りそうになった。
腹が立って一発殴ってやろうかとベッドの側にある棚の上に置いてあったランプを手に取ろうとしたとき、既のところで伸びてきた阿賀松に手首を掴まれる。


「手が早いのも変わってねえな。もっと成長しろよ」

「あんたに言われたくない」

「あっそ。んじゃ言われないよう気を付けろよ」


そう言って、阿賀松は俺の腕を引っ張ってきた。
ベッドの上に引っ張り込まれそうになって、慌ててベッドのフチを掴み阿賀松の腕を振り払おうとするが、離れない。


「ちょっと、離してくれない?痛い」

「痛くしてんのがわかんねえの?流石馬鹿だな」

「馬鹿馬鹿煩いんだけど……っ」


低レベルな暴言を口にする阿賀松に言い返そうとしたとき、阿賀松が片足をベッドから降ろした。
やばいと思って離れようとしたが、腕を掴まれたお陰で動けない。
思いっきり足を横に払われバランスを崩し、無防備になったその隙を狙った阿賀松はそのままベッドに引っ張り上げる。


「馬鹿だな」


背後から抱きすくめるように膝の上に座らされ、耳元から聞こえてくるその声に背筋が凍るのがわかった。
慌ててベッドから降りようとするが、腕を後ろ手に掴まれたお陰で上手く動けない。


「離してよ」

「なんで俺がお前の言うこと聞かねえといけねーんだよ」

「ヤりたいなら他のやつ呼べばいいじゃん。触んないでよ、気持ち悪い」

「ほんっと、口弁慶だな。正しい口の聞き方一から教え込んでやろうか?あ?」


俺の言葉が気に入らなかったのか、阿賀松は言いながら顔を近付けてきた。
至近距離で息がかかり、それが嫌で慌てて腰を浮かせて立ち上がろうとするが腰を抱えてくる阿賀松の腕が邪魔して立ち上がれない。

最悪だ。
見境ないやつとは思っていたが、ここまでとは。


「なんだよ、そんなに体固くして。今更怖じ気付いてんのか?」

「そんなわけ……」

「あるだろ。そんなにユウキ君のこと好きならあいつにしたことと同じことしてやろうか?馬鹿なお前でもあいつと共感することぐらいはできるかもよ」


有無を言わせない強引な阿賀松の言葉に全身の血の気が引いていくのがわかった。
齋籐が阿賀松からなにをされているかわかっていただけに、尚更だ。

阿賀松の腕を掴み無理矢理外そうとした瞬間、耳朶に生暖かいそれが触れる。
唾液で濡れた肉の生々しい感触。
舌だ。
耳の穴に入ってくる阿賀松の舌に、背筋がぞくりと震える。


「やめ、ろ……ッ」


舌についた金属の玉が濡れた皮膚に掠れる度、変な感じになった。
すぐ側から聞こえてくるピチャピチャという濡れた水音に、耳が熱くなるのがわかる。
性感帯でもない場所を丹念に舌で愛撫され、全身の神経が右耳へ集中し出した。


「ふ……っ」


長い阿賀松の舌でねぶられ、擽ったいようなもどかしい感覚が全身を襲う。
逸早くこの状況から抜け出したいのに、阿賀松が余計なことをするせいでまともに指先に力が入らない。

じゅぽじゅぽと舌を入れられる度に内壁を濡らす熱を持った唾液が奥に流れ、自分の体の中に阿賀松が入ってきていると思うだけで嫌悪と不快感で頭が爆発しそうになる。
振り払いたいのに、体が動かない。

耳の穴を嬲られあまりのもどかしさに可笑しくなりそうになったとき、ぬるりと阿賀松の舌が抜かれた。
舌のピアスが内壁を掠り、その冷たい感触に体が強張る。
ようやくすぐ側から聞こえてくる水音がなくなったと思ったとき、体の下にあった阿賀松の太股が股下に潜り込んできた。
そのまま無理矢理両足を開かせるように起こされる阿賀松の足に、ぐりっと下腹部を押さえられる。


「へえ、お前耳舐められただけで感じんの。だらしねーな」

「ッ……誰も感じてなんか……」

「感じてねーならなんだよ、これは。こんだけ勃たせといて強がってんじゃねえよ」


股座に潜り込んだ太股にぐりぐりとそこを押され、刺激を少なくそうとした俺は咄嗟に腰を浮かせようとする。
が、阿賀松に腰を抱かれた状態で体重をかけないようにすることは難しく、そんな俺の抵抗を楽しんだ阿賀松は逆に掴んだ腰を無理矢理落としてきた。


「は……っ」

「どーした、さっきまでの威勢は。随分大人しくなってっけどもしかしてまじで感じちゃってるんですかあ?」


背後で阿賀松のバカにするような笑い声が聞こえ、屈辱感と怒りで顔面に熱が集まるのがわかる。
否定したかったが少しでも喋ろうとしたら声が出てしまいそうで、俺は顔を強張らせたまま押し黙った。


「本当バカだよなぁ、お前。頭隠して尻隠さずっていうか、声我慢したって勃起したこれは丸見えなんだけど」

「ッ、しね……っ」


背後の阿賀松のにやけ面が安易に思い浮かび、我慢できなかった俺はそう喉奥から絞り出すように吐き捨てる。
その一言が気に入らなかったようだ。
背後から舌打ちが聞こえてくると同時に、腰から離れた手が胸元まで這い上がってくる。
嫌な予感がして、慌てて前のめりになり阿賀松の手を避けようとしたが逃げられるはずがなかった。


「ふ、ぅ……ッ!」


薄手のシャツの上から胸の突起を摘ままれ、あまりのこそばゆさに俺は身を捩らせる。
ぐりっと指の腹と腹の間で押さえられ、シャツに皺を作った。
それだけならまだよかった。
いや全然全くもってよくないが、まだましだった。


「ちょ、やめ……っ指、ゆび……っ」


徐々に指先に力が入り、摘ままれたそこを引っ張るように潰され胸元がピリピリと痛み出す。
シャツ越しに阿賀松の爪が食い込み、走る痛みに俺は顔を寄せた。
「痛くしてんのがわかんねえの?」耳元で阿賀松が笑う。
耳朶を噛まれ、自然に肩が跳ねた。
徐々に増す痛みに、全身から嫌な汗が滲む。
痛みに占領される思考。
このまま引きちぎられるんじゃないかという不安感に俺は慌てて阿賀松の手を引き剥がそうとした。


「亮太君の乳首がどこまで伸びるか試してみようか。元に戻んなくなったりしてなあ。ああ、そうなったらプールの授業とか大変だな。一人だけ乳首でけーやついんの、まじ爆笑すんだけど」

「嫌だ……っ、やめ」

「やめ?なんだよ。まさかやめろとか言わねえよなぁ、俺に向かって。言葉遣いには気を付けろよ亮太」


「じゃねえと、二度と口利けねえようにしてやるから」耳元で囁かれる脅迫の言葉に、全身から血の気が失せていくのがわかった。
冗談か本気かわからない。
だからこそ、俺の思考回路は惑わされる。


「……や、めてくださ……っお願いします……ッ」


自分の喉奥から出てくる情けない声が、まるで他人のもののように感じた。
なんで自分が阿賀松に敬語使わなければいけないのかわからない。
それでも、このままでは確実にやばいことだけはよくわかる。
ふと背後で阿賀松が笑う気配を感じた。


「本当仕方ないやつだな、お前は。最初からそう素直になればいいんだよ」


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