「っ、ぅ、ッく、ん……ぅ……っ」


皮膚に滲む汗を舐めとるように、胸部へと舌を這わせる志摩。その感触はいいものではない。
逃げるように腰を引いたところで、すぐに抱き寄せられてしまう。濡れて肌に張り付く体操着の上から舌を這わせる志摩はじっとこちらを見ていて。
目が合えば鼻で笑い、見せ付けるように衣類越し、微かに浮き上がる乳首を舌で嬲る。


「っ、ゃ……、め…………ッ!」

「しー……でしょ、齋藤。聞こえちゃうよ?」

「……っ、ふッ、ぅ……」


「良い子だね」と、志摩が笑ったような気がした。

布越しに擦れるその感触はもどかしい以外の何物でもない。
唾液をたっぷりと含ませた舌で一点集中で弄られる。気持ちよくなんてなれるほどの刺激もない。それなのに、傍目に見ても分かるほど勃起した突起が浮かび上がり、自分の体を直視することができなかった。


「っ、はッ…………」


声を殺す。けれど、乱れる呼吸までは整えることはできなかった。志摩の肩を掴み、引き離そうとする。けれど、浮かび上がったそこを甘く噛まれた瞬間、電流が走ったかのような衝撃とともに体が跳ね上がる。
寸でのところで口を塞ぎ、間抜けな声をあげるそうになるのを耐えたが、更に強く歯を立てられ、息を飲む。涙が滲む。唇を噛んで、声を、痛みを堪えるが、それ以上にこちらを覗き込んでくる志摩の目に、顔が熱くなった。
堪えないと。
そう、志摩の肩を掴み、押し返そうとしたとき。もう片方の胸を揉みしだかれる。


「……っぅ、く……ッ」

「本当に我慢してるんだ。……健気だね」

「っ、ぅ、あ」

「……ッ、齋藤、可愛いよ」

「く……ッ、んんぅ……ッ!」


喋らないでくれ、これ以上。
吹き掛かる吐息に、耳までもが焼け落ちそうなくらい熱くなる。厭らしく服の上からそこを弄る指先、唇に、逃れられることを考えるよりもそのもどかしさに焦れったくなっている己が嫌になってくる。
熱いのは、触れられてる箇所だけではない。焼けるように疼く下腹部、下着の中で自身がぬるぬると擦れる感触に恥ずかしくて、居た堪れなくなる。けれどそれは、俺だけではない。


「……齋藤……っ」


そう、何度もうわ言のように俺の名前を呼ぶ志摩。強く抱き締められ、先程から下腹部に押し当てられるその固い感触が気のせいではないことが分かった。
ジャージの下、どこからどう見てもテント張ったそこに血の気が引く。ゴリゴリと股に押し付けられ、身が竦む。
挿入はしない、と、言っていたのに。
やんわりと逃げようとするが、強い力で抱き締められる。
それに抗うこともできずに抱き寄せられたとき、志摩は胸に顔を埋めてきた。


「……っ、ちょ、待っ……」

「無理……やだ、待たない」

「……ッ!」


ジャージごと下着をずり降ろされる。くぐもった志摩の声。驚いて堪らず声をあげてしまい、血の気が引く。幸い、外の人間には聞こえなかったようだ。けれど。


「……ッ、大丈夫、挿れないから」

「う、そ……」

「本当だよ」


代わりに、と下着の中から張り詰めたそれを取り出した志摩は、逃げる俺の両脚を捕まえた。
そして、無理やり足を閉じさせるなり、その足の隙間に勃起したそれを押し付けてくるのだ。
ぬるりとした感触、焼けるような熱、擦れる違和感にぎょっとする。何を、と目を見張った瞬間、腰を動かしてくる志摩に合わせて股の間に挿し込まれる性器に、息を飲む。


「ぅ、や、何……っ、これ、志摩……ッ」

「齋藤……声、我慢しないと……ッ」


あ、と思い、慌てて口を抑えたときだ。
まるで体内に挿入するかのように腰を動かし、ピストンを始める志摩。その度に腿の間から覗く亀頭がグロテスクで、滑稽で、それ以上の挿入紛いの行為・視覚的暴力に、全身の熱が一気に上昇する。声を押し殺すのが精一杯だった。
にゅるにゅるとした感触。逃げようとするものの、がっしりと固定された両足は開くこともできず、志摩に好き勝手性器のように扱かれるしかなかった。


「……ッっ、ぅ、んんッ、ぅ、ふ……ッ!」

「……っ、すごい、擦れる度カウパーどんどん溢れてくるね、これ、齋藤好き?」

「……ッ!…………ッ!!」


首を横に振る。それでも、志摩は楽しそうに腰を動かすばかりで。閉じた足の隙間、陰嚢に、性器に、志摩のそれが擦れる度に甘く腰が震えた。挿入されてるわけではない。あの挿入特有の圧迫感も、苦しさもない、その分擦れる感触がより鮮明に、猛烈に、襲い掛かってきては頭が羞恥と刺激でどうにかなりそうだった。


「ぁ、っは、ぁ……ッ」


口を閉じたいのに、力が抜ける。掌に力が篭り、だらしなく開いた口からは浅い呼吸が溢れた。
腰が、揺れる。汗の匂い。夏の暑さ。体育館倉庫のカビ臭さ。嫌悪すべきどれもが、興奮剤になってしまう。
酔っていたのかもしれない、この空気に、匂いに、或いは熱に。

肌と肌が擦れる度にどちらのものかもわからない体液で濡れる。張り付いて鬱陶しかった汗も、今では気にならないほどだ。
激しく擦られれば擦られるほど腰が揺れ、下腹部に集まっていた熱が今度は喉元まで迫り上がってくる。


「……っ、は、齋藤……今自分がどんな顔してるかわかる?」


濡れる音。円を描くように厭らしく腰を動かし、志摩はわざと俺の性器に自身を擦りつけてくる。粘った音が響き、ずぐりと腰の奥が熱くなる。
「すごいエッチな顔してる」と、耳元で囁かれ、その熱は一気に全身へと回る。

噎せ返りそうな暑さの中、平常を保つ方が難しいのかもしれない。否定すればいい。逃げればいい。頭では分かってても、腰が、体が動かないのだ。動こうとしないのだ。


「ねえ……齋藤……」


形の整った唇が近づく。志摩が何かを口にしようとした、その時だった。

足音が、近付いてきた。声も、足音も、複数。
心臓が跳ね上がる。体が石のように固くなり、頭が真っ白になった。やばい。爆発しそうな程脈打つ心臓。

やがて、大きくなったその足音は扉の前で停止する。

終わった、と目を瞑ったときだった。
体を引っ張り起こされ、ぎゅっと抱き寄せられた。

そう遠くない場所で、蝶番の扉が開く音が聞こえた。
薄暗い倉庫内に光が射し込む。


「ほらここにあった、古いのが余ってるって言っただろ」


足音が、近付く。

寸でのところで志摩に引っ張られ近くの用具入れの陰に隠れたものの、状況は変わらない。
バクバクと跳ね上がる心臓の音に、すぐ背後に密着した志摩のことを恥じる余裕もなかった。
こんな姿を見られたらと思うと、気が気でない。上がっていた熱が、一気に引いていくのを感じた。
足音は3つ、聞き覚えのあるクラスメートたちの声が聞こえてくる。


「まじか。全部持ってきたと思ってたんだけどな」

「さっき齋藤が取りに行ってなかったっけ?」

「知らね。つかあいついなくね?またどっかでサボってんじゃねーの。最近授業まともに出てねーし」

「つか志摩もいつの間にかにいなくね?」


会話に自分たちの名前が出てきて、凍り付く。息を殺す。絶対に見つかってはいけない。そう思い、俺は身を縮めるようにして背後の志摩に体を寄せた。その時だった。ぬるりとした感触が、下腹部に触れる。
中途半端になってしまっていた志摩の性器は萎えるどころか先程よりも固く、反り返っていた。どうして、と、背後の志摩を見上げたときだ。腰を抱き上げられ、股の間、先走りでドロドロに濡れたそれを再び押し当てられる。


「……ッ!!」


「あの二人はいつものことだろ。本当、やる気なさすぎだろ。まじムカつくわ」

「でもまあ居ないほうがやりやすいだろ、空気変になるし。つか、逆にやりやすいよなあの二人いないと」

「あー分かるわそれ」


何を考えてるんだ、こいつは。背後の志摩を睨む。けれど、薄ら笑いを浮かべた志摩は自分の先走りを指に絡め、俺の窄みにそれを塗りたくる。躊躇いもなく濡れた指先を挿入してくる志摩に、俺は、唇を噛む。信じられない、信じられない、信じられない。正気か。この男。
体内でぐちゅぐちゅと淫猥な音が響く。クラスメートたちまで届くのではないかと思うほどのその音に、汗が、止まらない。


「っ、ふ……ッ、ぅ……」


喉を締め、息を止める。震える腰。躊躇いもなく、寧ろ楽しむかのように更に指を増やしてくる志摩に目を見開いた。


「……ッ!!」


「あーあ、俺もサボりてー」

「よく言うよ、普通の授業よりも体育のがいいとか言ってたくせに」

「まあな、他に比べたらな」


どうでもいい会話をする暇あるならさっさとどこかへ消えてくれ。そう叫びたくなるほどだった。
体内で乱雑に動かされる指は体中を刺激し、その度に声が漏れそうになるのを堪えるので必死だった。唇に鉄の味が滲む。それでも構わなかった。腰が揺れる。内壁を指の腹で探られるだけでじわりと熱くなった体は自分のものではないみたいに浮く。


「っ、ッ、ぅ、ッ、ふ…… 」


早く、どこかへ行ってくれ。いっそのこと、神様にでも縋りつきたい。そんな俺を知ってか知らずか、志摩は、的確に俺の弱い場所を狙って刺激してくるのだ。大きく曲がった指。そこをやわやわと指の腹で揉まれた瞬間、全身に力が入り思わず、伸びた爪先が器材にぶつかった。
瞬間、ガタリと大きな音が響き、クラスメートたちの雑談が止まる。

終わった。

頭の中が真っ白になった時だった。


『おい、全員集合しろ!』


館内の方から聞こえてきた体育教師の声。
停止していたクラスメートたちは、「はーい!」と返事をし、慌てて倉庫を飛び出した。
バンッと音を立て乱暴に閉められる体育倉庫。
安堵をする暇もなかった。


「ッ、ん、く……ひッ、ぅ……ッ!!」


先程以上に執拗に、その凝りを愛撫される。痙攣するみたいに腰が震え、透明の汁で濡れたそこが天を向いたとき、志摩は指を引き抜いた。そして、開いたそこに先端部を宛てがった。


「……よく声我慢したね、齋藤。ご褒美だよ」


そして、悪魔のような笑顔を浮かべ、志摩は、俺の返事を聞くよりも先に腰を動かした。あくまでゆっくりと、労るかのような挿入だが俺にとってはそんなことはどうでも良かった。
挿れないって、言ったのに。話が違う。嫌だ、と必死に身を捩ろうとすればするほど、志摩は俺を強く抱き締め、自身を深く沈めてくる。掛けられる体重。膨張したそれは最早凶器に等しい。声を出してはいけないと頭で理解していても、体に埋め込まれる肉の感触に喉が開き、口からは「ぁ、あ」とだらしない声が漏れる。ゆっくりと、肺を潰される。閉じていた内部を強引に拓かされる。侵入してくる熱に、拒まないといけないと分かっていても、俺の意思に反して先程までの行為でズブズブになった体は受け入れる体勢に入ってしまっていて。
その深さに、呼吸が困難になる。浅く繰り返す口からは唾液が溢れ、志摩は、それを舐めるように唇を重ねてきた。
挿し込まれる舌。舌を絡み取られ、一瞬、下腹部から気がそれる。その瞬間だ。ズッと一気に根本奥深くまで挿入され、声にならない悲鳴をあげそうになる。それは、志摩に唇を塞がれたお陰でぐぐもったものに変わった。


「ん゛ッ、ふ、ぅ、むッ……ぅう……ッ!」


内臓を直接摩擦されるような挿入感。汗が混ざり合い、濡れた肌すらも気にならなくなった。緊張感から開放された安堵感に、ヤケになっていたのかもしれない。覆い被さってくる志摩に押し潰されそうになる。口も、体内も、同時に掻き混ぜられ、犯され、何も考えられない。良かった、見つからなくてよかった。その気持ちだけが、脳味噌を支配した。


「……っ、ふ、齋藤、気持ちいい?ね、ドキドキしてるね、心臓……ッ!そんなに怖かったの……ッ?可愛い……ッ」 
「っ、ぅ、あッ、や、……ッ」

「ごめん、怖かったね、大丈夫、もう大丈夫だから、ね、泣かないで齋藤……ッふふ……ッ!」

「ぅ、うう……ッ、ぅ、あ……ッ」


混ざり合う、熱も、何もかも。
腰を打ち付けられ、何度も奥を擦られる。腰がそれに合わせて揺れる。股の間ではない。今度は間違いなく、中に入ってる。その異物感、挿入感は、生々しくて。
涙なのか汗なのか分からない。けれど、抱き締められ、頭を撫でられると緊張の糸が切れ、どこかの箍が外れる音がした。

怖い、誰かに見られたりでもしたらそれで俺の人生が終わる。それほどの緊張感と背中合わせにもかかわらず、否、だからこそ、全身の神経はより過敏になる。皮肉なものだと思った。この死ぬほどの恐怖心すらも、媚薬と同じ効果を齎すのだ。
それは志摩も同じなのかもしれない。


「っ、ふ、ぅ……ッ!」


強く抱きしめられた体内、ドクドクと放出される熱を感じながら俺は自分の精液が掛かるのを見ていた。通常の行為よりも遥かにその射精感は強く、腹部を満たす志摩の精液に、息を吐いた。


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後日。


「齋藤って本当、順応速いっていうかさ……悪い癖付けちゃったかな」


「人に見られそうにならないと、イケなくなっちゃうなんて」そう、他人事のように笑いながら志摩は俺の下着に手を入れて、直接下半身を弄っていた。
食堂内。
テーブルの下。ソファーの隣に座る志摩は、あくまで容赦ない。そう離れていない席には食事を取る生徒もいる。
それに紛れてドリンクを口にしながら、俺は、志摩の性器に目を向ける。俺の手の中で尚も膨張を続けるそこはすでにカウパーが滲んでる。手を上下すれば、志摩は心地よさそうに息を吐いた。「上手だね」と、皮肉を口にする。

順応速いのは、お互い様ではないのかと思う。


「はー……早く挿れたい、ね、ここで挿れちゃだめ?死角になるしバレないんじゃないかな?」

「……っ、志摩、何言って……」

「齋藤だって早くここに突っ込まれたくて堪らないんじゃないの?……ほら、締め付けてしてる」

「……ッ、ぅ、……ぁ、待っ……」

「……齋藤、ちゃんとジュース飲まないと、怪しまれちゃうよ」

「ん……ッ、は、ぁ……ッ、分かって……る……ッ!」


言いながらも志摩の指は止まらない。ぐちゃぐちゃに掻き乱され、腰が浮く。テーブルまで揺らしてしまいそうになるのを堪え、俺は、必死にストローに唇を押し付け、中の炭酸を流し込む。味なんかしやしない。
咥内でぱちぱちと弾ける炭酸に、目の前が霞む。やばい、と思った時、志摩は俺から指を引き抜いた。


「……っ」

「フフ、その顔すごい良いね。……イキ損ねて嫌だった?」

「し、ま……」

「齋藤、俺の舐めてよ」


「そうしたらお望み通りイかせてあげるよ」これでね、と自身の性器を差す志摩に、顔が熱くなる。人の足元を見てる。ふざけるな、と以前の俺は声を荒げていたのかもしれない。断ってもいいはずだ。それがいい。分かっていたが、それ以上に俺は、目の前の性器から目を離せなかった。

膝を着き、テーブルの下に潜る。
そんな俺を、志摩はコーヒーを飲みながら眺めていた。愉しそうに、憐れむように、歪に口元を歪め、膝を着く俺を眺めていた。


END

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