最近阿賀松がぼんやりしてることが多い。
ベッドの上、正午過ぎにようやく動き始めたかと思えば服も着ずにベッドの上でぼけーっと天井を見ていた阿賀松は流石に見ていられなくて。
「あの、先輩……」
恐る恐る、声を掛ける。
そこでようやく俺の姿を認識したようだ。
睨むような鋭い目をこちらに向け、気だるそうに息を吐く。
「あぁ……ユウキ君か、なんだよ」
「何ってわけじゃないんですけど……」
「……あっそ」
言うなり、サイドボードの上に置きっぱなしになっていた煙草の箱を手に取った阿賀松はその中から一本取り出し、ジッポライターで火を付ける。
前まで、俺の目の前で煙草を吸うことはなかった。
けれど最近はよく、この匂いを嗅ぐ。
「んな隅っこにいねーで、こっち来いよ」
「は、はい……」
カチリと音を立てジッポの蓋を閉じた阿賀松。
部屋中に広がる紫煙。
煙たさに咽そうになりながらも、俺は、阿賀松に従って隣へと移動する。
唇から煙草を離した阿賀松はそれを指に挟めたまま、唇を重ねた。薄皮を噛まれ、そのまま、音を立て唇を吸われる。
「っ、ん……」
薄暗い部屋の中、煙草の火がやけに赤く映った。
口いっぱいに阿賀松に染み付いたヤニと同じ匂いが広がる。
苦しいけど、それでも、慣れつつある自分に気付いていた。
阿賀松はどうして俺を置いておくのだろうか。
もう、俺は必要ないはずなのに。
芳川会長にも見限られた俺をこうして部屋にあげて戯れに触れてくる理由。
阿賀松の気紛れに意味があるとは思えないが、もしあるとしたら。
……知りたくないな。
何かが変わるくらいなら、何物でもないこのあやふやな関係なままでいい。
いつ終わっても何も残らないよう、そんな関係でいい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウキ君が何を考えてるのか分からなくなる。
別に何を考えたところで興味はないけど、それでも、隣ですやすやと無防備に寝顔晒してるユウキ君を見てると疑問を抱かずにはいられない。
どうしてこいつは俺の言うことを聞くんだ。
どうしてこいつは俺と一緒にいるのだろうか。
別にここにいろとも言ってないし、出ていきたけりゃ出ていけとも思ってる。
無理に引き止めてるわけでもねーし、俺にしては譲歩してやってるってのにそれでもこいつは俺が何も言わなければずっと俺の傍にくっついて回るのだ。
「……間抜け面」
薄く開いた口から垂れてる涎を拭えば、ぴくりと体全体が小さく反応した。
けれど、間もなく規則正しい寝息が聞こえてくる。
……ま、いいか。
こいつが考えてることなんてどうせ大したことじゃねえし、俺には関係ない。
ただ、俺が無理矢理引き止めてるみたいに思われるのは癪だがそれでもまあ、確かに、抱き枕くらいの役には立つ。
大きく捲れてるシーツを掛け直してやり、俺はベッドから離れた。
END
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