「……っだから、だめ、だって、言って……っ」

「悪かった……」


慰めるように頬に唇を落とす仁科。
悪いなんて思っていない。その証拠に、その口元は確かに緩んでいて。
息を整える。俺は、仁科の下腹部に手を伸ばす。


「お……俺も、先輩にします……」

「するって……齋藤、お前……」


具体的に何をすればいいのかなんて思いつかない。けれど、仁科に触れたいという気持ちは変わらない。
見様見真似で仁科に顔を寄せる。至近距離で視線が絡み合い、心臓が破裂しそうだ。
ここから、どうすれば……。


「っ、齋藤……」


半ばヤケクソになりながら、俺は、仁科の頬に擦り寄る。皮膚越しに感じる熱は確かに熱く、ちゅ、と小さく音を立て、頬から顎へとキスを落とす。


「先輩……っ」

「っ、齋藤……」

「っ、ん……ぅ……ッ」


舌を突き出し、顎先から首筋へとそれを這わせた。汗の味がして、それに混ざって、いい香りがする。頭がくらくらする。自分が大胆なことをしてると分かっていても、止まらなかった。強張る仁科の身体を、聞こえてくる心音を、全部、感じたかった。

下腹部、スラックスの下、傍目に見ても分かるくらい主張するそこに恐る恐る手を伸ばす。すり、と指の腹でなぞれば、仁科の腰が引く。


「……っおい……齋藤……ッ」

「っ、嫌、ですか……?……俺が、触るの……」

「い、や……じゃないけど……その……っ」


ごにょごにょと口籠る仁科。嫌がられていない。それだけが分かり、安堵する。
仁科に少しでも気持ちよくなってもらいたい。その気持ちが、仁科の迷惑でないのなら。


「……ん、ぅ……っ」


ベルトを緩め、下着の中に指を滑り込ませる。瞬間、ぬるりとした感触が指先に触れた。
そっと自分の指先に目を向ければ、透明の液体が指先に絡んでいた。先走りで濡れた下着の中、その匂いに、熱に、頭の芯がぼうっとしてくる。
息を飲む。再度、下着に手を掛け、そのままゆっくりと降ろしていく。


「さ、いと……っ」


下着の中から飛び出した性器から、目が逸らせなかった。
充血し、ガチガチに勃起したそれは先走りで厭らしく濡れていて、それ以上に、喉が酷く焼けるように渇く。
仁科の、と思うとそれだけで顔が、全身が熱くなった。
ドキドキと煩い心音を無視しながら、指先で亀頭部分を撫でる。濡れた音が響き、仁科が息を吐いた。


「先輩の……すごい、熱いです……」

「……そうだな」


「お前と一緒だ」と、腰を撫でられる。抱き締められ、身体が密着する。どちらともなく唇を重ねた。


「っ、は……ふ……ッ」


仁科の手が、再び芯を持ち始めていた俺の性器を掴んだ。お互いに向かい合った体勢で性器を弄ばれ、恥ずかしいのに、それ以上に興奮して、何も考えられなかった。
舌を絡める。時折仁科の表情が歪むのが楽しくて、俺は、手を動かした。稚拙で、上手くもない手コキだ。それでも手の中の仁科のものは反応してくれる。


「……っ、齋藤……」


熱が溢れる。粘着質な音はどんどん大きくなっていき、手の中、先走りを手のひら全体で性器に塗り込むように上下する。息が、浅くなった。
呼吸に合わせるように、仁科の手の動きが早くなっていく。汗が滲む。再び腹の奥から迫り上がってくる熱に、腰が揺れる。どちらのものかも分からない。擦れ合う性器に、堪らず腰を引いたとき、腰ごと抱き締められる。
そして、仁科はそのまま臀部を鷲掴み、解されたそこに指を這わせる。


「っ、せ、んぱい……ッ!待っ、ぁ……ッ、や、待って……下さい……ッ!」

「……これ以上は、お前だって無理だろ」


「俺も、無理だし……」耳朶を甘く噛まれ、胸の奥が熱くなる。
濡れた仁科の性器に目を向ければ、下腹部に力が篭もる。緊張してる場合ではない。 
仁科の手が、指が、谷間を割るように肛門を押し開く。押し開かれたそこに充てがわれる先端部に、汗が、唾液が、どっと溢れる。


「っ、ぁ、あ……ぁ……ッ」

「……齋藤、力抜け」

「……っ、」


仁科の肩に腕を回す。力の抜き方すら分からない程、頭は仁科でいっぱいになっていた。
ぬるりと滑るそれは、そのまま、ゆっくりと窄みに押し当てられ、仁科は俺の腿を掴み上げた。
瞬間、


「ひィ――ッ」


身体が沈む。仁科の性器が柔らかくなった内壁を押し拡げるようにして侵入してきた。息苦しさは否めない。それでも、それ以上に、入り込んでくる熱に、何も考えられなくなる。
魚のように浅く呼吸を繰り返す。ゆっくりと、俺の身体を支えながらも腰を落とさせてくる仁科に、言葉にならない声が漏れた。


「ッ、はッ……ぁ、あ……ッ」

「……ッ齋藤、大丈夫か……?」


優しく、宥めるように頭を撫でてくる仁科。
仁科だって、きっと、平気ではないだろうに、それでも俺のことを優先して心配してくれる。その優しさが暖かくて、気付けば痛みも息苦しさも薄れていた。
残ったのは愛しさだけだ。


「先輩……っ、一緒に……」

「……ッ、齋藤……?……」


頭を撫でていた手を取り、ぎゅっと握りしめる。指を絡め、俺は大丈夫です、と口にした。
ちゃんとその言葉が届いたのか分からないが、仁科は確かに俺を見ていた。赤い。中で、仁科のものが大きくなるのを感じた。ドクドクと、流れてくる脈も速い。


「っ、ぅ……ッ、あ、ッ、あぁ……!」


瞬間、壁に押し付けられる。驚く間もなく、片足を大きく持ち上げられ、腿を腹へと押し付けられる。
片足開脚され、下からぐっと突き上げられれば、意識が飛びそうになる。
散々慣らされたそこは先走りの助けもあってか奥まで滑り込んできた。痛みよりも、腹部いっぱいに感じる仁科の熱でいっぱいいっぱいで。


「せんっ、ぱ、ぁ、アッ、ひ……っ、ぅ、あ……ッ!」


恥ずかしい格好とか、そんなことを気にする暇もなかった。仁科の腕にしがみつくのが精一杯で、壁からずり落ちてしまわないよう爪を立てる。けれど、仁科が腰を進める度に全身の骨がふにゃふにゃに溶けてしまうみたいに力が抜けていって、ずるずると落ちていく。


「……っ、齋藤、齋藤……ッ、」

「せんぱ……ッ、ふ、ぅ、む……ッ」


抱き上げられたかと思えば、そのまま唇を重ねられた。腰が動く度に頭が真っ白になる。
勃起したそれで何度も内壁を摩擦されれば、火傷みたいに熱くなって、無意識に仁科に合わせて腰が動いた。


「っ、好きだ……齋藤……ッ」

「せ……っ、せんぱいッ、おれ、も、……っ、ぁ、んんっ、すき、……っすきぃ……ッ」


うわ言のように繰り返す。仁科から離れないように、なけなしの力を振り絞って仁科にしがみついた。
最奥を何度も突かれる度に声は上擦り、息すら儘ならなかった。


「あっ、ふ、あッ、せんぱ、い、せんぱいッ、すき、……っ、すき……ッせんぱい……ッ」

「……ッ、く、ぅ……」

「きす、もっと、せんぱいッ、ぎゅって……して……ッ」

「っ、齋藤……」

「……ん、ぅんん……っ」


触れたい。もっと、感じたい。
強請れば、仁科は答えてくれる。俺の顎を固定し、深く唇を重ねた。もっと、と、舌を突き出せば仁科はそれをしゃぶり、音を立てて吸い上げる。


「っ、ふ、んんっ、ぅ……っ」


何も考えられない。
どんな痴態を晒そうが、恥ずかしさはなかった。仁科しかいないとわかってるからこそ、曝け出すことが出来た。
角度を変え、舌を絡められる。唾液でドロドロになろうがお構いなく、それでも腰を止めない仁科に、何も考えることも出来なかった。勃起した性器からは呆気なく精液が溢れる。それが汚れても構わず、仁科は俺を抱き締めてくれた。


「おれ、俺、すごい……幸せです……今、っ、せんぱいでいっぱいになれて……俺……っ」

「……ッ、俺もだ、齋藤」


「……お前だけじゃない、俺も同じだ」熱が篭った声に、目に、涙が溢れそうになる。


「……好きだ、齋藤」


視界がぐにゃりと歪む。目頭が熱くなって、どうしようもないほどの多福感に頭が混乱して、気付けば射精したばかりの性器は既に頭をもたげていた。


「齋藤、っ、齋藤……可愛い、俺も、お前のことが好きだ、齋藤……ッ」

「せん、ぱ……ッ」

「……奎吾。……名前」


呼んでくれ、と目で強請られ、胸がきゅっと苦しくなる。
見たことがない、仁科のこんな顔。
甘えるようなその甘い言葉に中枢神経は最早ドロドロの形無しになっているようだ。俺は、奎吾さん、奎吾さん、とただ繰り返した。仁科は、浅く息を吐いて、それから俺の身体を強く抱き締めた。


「……佑樹……ッ」


そう、名前を呼ばれたと同時だった。
壁に押し付けられ、身動きが取れなくなった下腹部に、大量の熱が吐き出される。
受け止めきれずに溢れ、床に落ちる白濁を眺めながら、俺は、肩口に顔を埋めてくる仁科の頭を抱き締めた。


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