「栫井、あの……今って、時間ある?」
生徒会室前通路。現れたそいつを恐る恐る呼び止めれば、親の仇でも見るかのような冷めた目をこちらに向けてくる。
そして、
「……は?暇そうに見えんのかよ」
「う……」
取り付く島もないとはまさにこのことだろう。
どう見ても部屋に帰るようにしか見えないのに、なんでこんなに威圧的なんだ。早速挫けそうになってると、意外なことに栫井の方が折れてきた。
「……で、何んだよ。用があるならさっさと言え」
苛ついたような口調だが、話を聞こうとしてくれてるだけでも充分な進歩だ。栫井の気が変わらない内に、俺は用件を切り出すことにする。
鞄の中に仕舞っていた袋を取り出し、栫井にそれを差し出せば、栫井は目を丸くした。
「あの、これ……栫井に渡してほしいって渡されたんだけど……」
慌てて付け足せば、一瞬にして栫井の表情は先程以上に不機嫌なものになる。
「誰に」
「し、知らない……ごめん、名前聞いてないや」
「捨てろ。……他人から食べ物貰う趣味ねー」
「捨てるって」
「……つーか、お前もホイホイ引き受けてんじゃねえよ」
「ご、ごめん……」
なんだろう、いつもよりも栫井が苛ついてる。無視されるよりかはましなのだろうけど、険しい表情の栫井はそう見られない。……というよりも、なんか拗ねてるみたいな……。
と、俺が袋のやり場に困っていたときだ。栫井は踵を返し、さっさと歩き出した。
「あ、栫井……これは……」
「いらねえって言っただろ。……お前にやる」
「好きにしろ」と、栫井。
そんなことを言われても、せっかくどこかの誰かが栫井のために用意したものをなんで俺が。
というか、捨てるに捨てられないし、けど栫井に渡しても本当に捨てられてしまいそうなので結局俺が持ち帰ったけれど。
「どうしろと……」
テーブルの上で眠るチョコトリュフは手作りのようだ。ココアパウダーがまぶされたそれを一口に放り込めば、頬が蕩け落ちそうな甘味が口いっぱいに広がった。
それと同時に、罪悪感と息苦しさを覚える。
栫井のためを思われて作られたチョコはとても美味しかった。
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