二月十四日。
 男子校にも関わらず、一階の売店ではバレンタインデーを意識したバレンタインデー特設コーナーが設けられていた。
 どうせまた阿賀松の気紛れなのだろうが、阿佐美の好きそうなガトーショコラを見かけて、思わず俺はワンホール丸々買ってきた。
 そして。

「詩織、これ、バレンタインデーのチョコ……あげるよ」
「えっ?俺?……いいの?」
「うん」

「詩織いっぱい食べるから大きい方がいいかなと思ってホールで買ってきたんだ」そう、箱を開ければ阿佐美は「わー!」と目をキラキラ輝かせた。……ように思えた。厳密には目元は確認できないが、頬の緩み方からして喜んでることには相違ないだろう。

「ゆうき君……嬉しいけど、流石にこれは俺でも一人で食べるのは胃もたれしそうだよ」
「え、ええと……じゃあ、分けて残りはまた後からとか……」
「あの……よかったらさ、ゆうき君も一緒に食べようよ」

 そう阿佐美は何かを期待するかのような目を俺の方に向けた。
 まさかそんな風に誘ってもらえるとは思ってもいなかった。「いいの?」と聞き返せば、阿佐美は「うん」と大きく頷いた。

「それなら、ゆうき君と一緒に居られるし……あっ、あの、でも何か用あるんなら……」
「ううん、ないよ。……それに、俺も、詩織といたいし……」
「ゆ、ゆうき君……」
「……」

 なんか、言ってからとても恥ずかしいことを言ってしまったと後悔する。阿佐美の視線から逃げるよう、俺は慌てて立ち上がった。

「……それじゃあ、皿とフォーク用意してくるね」
「あっ、俺も手伝うよ、ゆうき君!」
「それじゃあ、詩織は飲み物よろしくね」
「うん!」

 二人きりだが、だからか、机を囲んで食べるガトーショコラは暖かくて、中のチョコレートは一層甘く感じた。
 パーティーと呼ぶには細やかだが、それでも充分だ。

阿佐美が用意してくれたホットミルクは、甘くて一層心もお腹も満たしてくれた。


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