放課後。
そろそろ帰るか、と下校の用意を済ませ教室を出たとき。
「齋藤君」と呼び止められる。
顔を上げれば、そこには灘がいた。
「灘君。どうかしたの?」
今日は生徒会があるから迎えに来ない日ではなかったのか。
驚いたが、灘が神出鬼没なのはいつものことでもある。
尋ねれば、灘はガサゴソと鞄から何かを取り出した。
そして。
「これ、貴方にあげます」
「え」
「昼食にと買ったんですが食べれなかったので」
手渡されたそれは、正方形の小箱に入っていた。
「ありがとう……でも、いいの?」
はい、と頷き返す灘。
灘がいいと言うのなら断るのもあれだ。
けれど、これって……。
小箱にChocolatって文字が見えた気がする。
今日がバレンタインデーということを思い出し、しばし考え込む。が、相手は灘だ。灘がバレンタインチョコだなんて、まさかそんな。……自意識過剰にも程がある。
「ありがとう灘君。……それじゃあ、いただくね」
「どうぞ。……味は保証します」
それでは、と逃げるようにその場を後にした灘。
取り残された俺は、小箱を見つめていた。
それにしても、昼食用にチョコ買うのかな、灘は。
抹茶パウダーでコーティングされたガナッシュは、普通のチョコレートよりもまろやかで、口にした瞬間鼻に突き抜けるその淡い風味に思わず頬が緩んだ。
「……美味しい」
灘が味を保証しただけはある。
俺は、灘がどんな顔をしてこのチョコを買ったのかを考えながら二つ目を口に入れた。
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