「あの、会長……これ……よかったら、どうぞ」
「なんだ、これは」
「あ、あの、深い意味とかないんですけど、その!いつもお世話になってるので、そのお礼というか……あの……」

 ガサガサと目の前で包装紙を開けられる。中から現れた落ち着いた色合いの小箱に、察したようだ。
 会長は微かに目を丸くして、それから、小さく笑う。

「……ありがとう、君だと思って大切に食べよう」
「は、はい……」
「しかし、君から貰うとはな。……同じことを考えてるなんて、やはり俺達は気が合うらしい」

 そして、会長は鞄から何かを取り出した。それはシックな包装が施された小箱だ。それを差し出してくる会長に、まさかと、息を飲む。

「え、あの……これ」
「……行きつけのチョコレートショップで買ってきた。冷蔵庫で少し冷ましておくと美味しくなるぞ」
「あ、ありがとうございます……」

 まさか、会長も俺のために用意してくれてるなんて思ってもいなかっただけに、頬が、熱くなる。嬉しい。嬉しい……。けれど、その反面、俺がもらってもいいのだろうかという気持ちもあった。
 けれど。

「それはこちらの台詞だ。……ありがとう、齋藤君」

 その会長の笑顔に、俺は、何も言えなくなる。
 バレンタインデーなんて自分には関係ない行事だと思っていたが、毎年女の子たちが楽しみにしてる気持ちが分かったかもしれない。
 ……感謝を伝えるのも、伝えられるのも、勇気がいるがそれ以上に満たされるものがいた。俺は、「はい」と声を振り絞り、会長からのチョコを隠すようにして持ち帰った。

ほんのりビターな生チョコレートは、口に入れた瞬間甘さを残して蕩けた。

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