あれからどれくらい経っただろうか。
気が付いたら俺は眠ってしまっていたようで、栫井のことを思い出しハッと起き上がった時。
言葉にしがたい酷い頭痛に襲われる。


「……うっ」

「自業自得だな」

「……か、栫井……」


気付けば俺はベッドに寝かされているようで。
目だけを動かして声のする方を見れば、以前と変わらない、けれども幾らか回復した顔色の栫井がこちらを見下ろしていて。


「伝染つされても構わないんだろ?」


確かに、そうはいったものの。
これは辛い。
指一本動かすのも億劫なほどの頭痛と熱に唸った時、ベッド横のサイドテーブルにグラスが置かれる。
氷がたっぷり入ったそれは冷水のようで。

もしかして、俺のために。
なんて、栫井の行動に感動した時。


「……あんたには世話になったからな」

「栫井……」

「だから、借りは借りだ。……返してやるよ」


まさか、本当に俺のために。
感極まって涙腺が滲みかけたとき、グラスに手を伸ばした栫井はあろうことかそれを自分で飲み始めるではないか。


「え?……あれ?」


てっきり飲ませてくれるかと思いきや、普通に飲む栫井に戸惑っていると。
ひんやりとしたその指先が伸びてきて、顎を持ち上げられる。
「ん?」と思った矢先、濡れた唇を押し付けられた。


「ッ、ふ、ぅぐッ」


凍るようなその冷たい水がいきなり流れ込んできて、びっくりして硬直する。
慌てて栫井を離そうと肩を掴むが、思うように力が入らなくて。


「ん、ぅう〜……ッ」


開いた器官へと無理やり流し込まれる冷水に全身の筋肉が強張る。
いきなりだったので驚いたが、とにかく冷ましたいくらい熱い体にとってその凶器のような冷たさには一抹の心地よさを覚えないわけでもなく。


「……っは……ぁ……」


栫井の唇が離れたとき、それを名残惜しく考えてしまった自分にハッとする。
そんな俺に気付いたのだろう。
こちらを見下ろしていた栫井が口角を持ち上げ、冷ややかに笑う。


「次は……そうだな、脱げよ」


「体、拭いてやるから」そう冷笑を浮かべる栫井の目は以前に比べ活き活きしていたが、どうやっても嫌な予感しかしなくて。
そうだ、こういうやつだった。
弱りきっていた栫井ばかり見ていたお陰で本来の性格を思い出した俺は、熱に侵された体では逃げ出すことも出来ず、結局、暇を見て見舞いにやってきた会長と十勝に助け出されるまで栫井の世話になるハメになったのだ。


おしまい

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