俺が騒がせたせいだろう。見事熱が上がった栫井は見るからにしんどそうで。
一応熱冷ましシートを額に貼ってはいるがすぐに熱くなってしまい、こまめに栫井の体温を確認しては張り替えるという作業のため、結果栫井に付きっきりになってしまうわけで。


「……お前、そろそろ帰れよ」


ベッドの上。目元だけ出した状態の栫井のくぐもった声がする。
丁度飲水を持ってきたばかりだった俺はその一言に固まった。


「で、でも……」

「あとは勝手にするから」


だから、帰れ。
栫井のことは心配だったが、それ以上に半ば本人の意思を押し切って居残ってる俺にとって必要以上の滞在で栫井の体調を返って悪化させることが怖かった。
だから、何も言えなくて。
確かに、ご飯も食べさせることもできたしある程度の熱冷ましの道具も揃ってる。
これ以上は俺のわがままになる。


「……うん、そうだね。わかった」


だから、俺は栫井の言葉に従うことにしたのだけれど。

せめてゴミだけは持って帰ろうと纏めていた時。
ベッドで栫井が動く気配がして。
もしかして布団が暑かったのだろうかと振り返ろうとした時だ。

首に熱い感触が触れる。
それが栫井の手だと気付くのにさほど時間は掛からなかった。


「かこ……」


栫井。
そう、振り返ろうとした時。
すぐ背後に立ったいた栫井とぶつかりそうになって。


「ッ」

「なんて、ただで帰してやると思ってんのかよ」


唇と唇がぶつかりそうになり、ぎょっとして後ずさったがすぐに服を掴まれる。


「……お望み通り伝染つしてやる」


なんて、唇に噛み付かれそうになって身構えた時だった。
栫井の体が不自然に後退し、ふらつくやつにまさかと思ったその矢先。

倒れそうになる栫井の手を慌てて掴み、寸でのところで引き上げる。


「…………」

「あの、栫井、やっぱり寝てた方がいいって」

「…………うるせぇ」


どうやら思い通りにならない自分の体が歯がゆくて仕方ないようだ。
項垂れる栫井の髪から覗く耳が赤いのは、恐らく高熱のせいではないだろう。

まさか熱があるのに無茶しようとする栫井には驚いたが、でも、一つだけわかったことがあった。


「……俺なら、伝染つされてもいいから」


「まだここにいてもいいかな」と、ベッドの上、ぐったりとする栫井に苦笑混じりに尋ねれば、栫井はそっぽ向いた。


「……うるせえんだよ」


肯定でもなければ否定でもないその素っ気ない返答を、俺は肯定として受け取ることにした。

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