普通に考えたらわかることだった。
だけど、だって、実際にするとしたらこんなにも恥ずかしいと思ってもなくて。


「……」

「おい、まだかよ」

「あ、ご……ごめん」


慌てて俺はコンビニ弁当を開ける。
そして、そのまま箸でおかずを挟むけど。


「うぅ……っ」


口を開いて待機する栫井に、俺は動けなくなる。
よくよく考えなくても、これって「あーん」ってやつだよな。
そう意識するほど顔が熱くなって、結果、待たされる栫井がブチ切れるわけで。


「お前、食べさせる気あんのかよ」

「ごめん、ちょっと待って、心の準備が……」

「はあ?」

「わかった、わかったから、怒らないで……っ」


再度おかずを持ち上げた俺はそのまま栫井の口へと持っていくけど、なんか手が震えて思うように運べない。
しっかりしろ、俺!と喝を入れ、腰を持ち上げた時だ。

焦れに焦れた栫井が俺の手を掴む。
そして、


「あっ」


ぱくりと、自分の口元へと俺の手を引っ張った栫井はおかずを食べた。

掌を包み込む栫井の手の熱にびっくりしてつい箸から手を離してしまう。


「何やってんだよ」

「ご、ごめん……びっくりして」


慌てて拾おうとするけど、俺の手を掴む栫井の手は離れなくて。


「あ、あの……栫井?」


もしかして、本当に怒ったのだろうか。
不安になって、恐る恐る栫井の顔を覗き込んだとき。

熱っぽいその目と視線がぶつかって、全身が緊張した。
流れ込んでくる栫井の体温に、触れられた箇所が溶けるみたいに熱くなって。


「……」

「か……栫井……」


これは、これはあまりよろしくない流れではないだろうか。
この手を振り払えばいいのに、目を逸らしたらいいのに、動くことも出来なくて。

軽く腕を引っ張られ、顔を寄せられる。

やばい、と思って、慌ててぎゅっと目を瞑る俺。
けれど、予想していたなにかはどれくらい待っても一向にやってくることはなくて。


「……?」


不審に思いながら恐る恐る目を開いた時、ぽすりと、栫井の上半身がうつ伏せに倒れた。


「えっ?あれ、栫井?栫井っ?」

「……吐きそう」

「嘘、ちょっと待って、今なにか持ってくるから!」


先ほどの緊張は嘘みたいになくなり、その代わり、別の戦慄を覚えることになった。

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