一階ショッピングモール。
薬局、コンビニへと回って買い物を済ませた俺は、両腕に買い物袋をぶら下げたままエレベーターに乗り込む。
そして向かうは3階。
エレベーターが着き、足早に降りた俺はそのままの足取りで再び栫井の部屋へ向かった。

扉は相変わらず開いたままで、不用心だなと思いつつも呼び出す手間が省け、ほっとしながら「お邪魔します」と一言。靴を脱ぎ、部屋へ向かったとき。


「って、おい……ッ!」


どうやら着替え中だったようで、戻ってきた俺に半裸の栫井は驚く。
それは俺も同じで。


「ご、ごめん!」


まだシャツを脱いでいる途中だったが、いつまでも眺めてるわけにはいかない。
扉を閉めるが、すぐ、開かれる。


「うわッ」

「……うわってなんだよ、あんたが勝手に覗いたんだろうが」


無理やり部屋に引きずり込まれそうになって、それでも相手の体を見ないように必死に顔を逸す。
相手は同じ男だとわかっていたが、やはり、不意打ちの出来事なだけに目のやり場に困ってしまう。


「い、いや、覗くつもりとかじゃなくて、その……こ、これをっ」


なにやら人を覗き魔と誤解している栫井に、慌てて買い物袋を突きつける俺。
それを一瞥した栫井は、怪訝そうに眉を寄せた。


「……なにこれ」

「ご飯、とその……熱冷ましに……って思ったんだけど……」

「いらねえ」


即答だった。


「え、どうして……」

「誰がしろっつったよ。うぜぇんだよ」

「確かに、勝手にしたのは悪かったけど……食べるだけでいいから、後から捨ててもいいから」


俺の目があるから素直に受け取らないのだろうか。
そう思って慌てて言い出すが相変わらず栫井の態度は依然としたままで。


「人の部屋にゴミを置いて帰る気かよ」


その言葉は酷く鋭く、下手な暴言よりも俺の胸に突き刺さる。
だけど、それでも。


「でも、何か食べないと……体壊すよ……っ」


栫井の全身から滲み出る拒絶に折れそうになるが、それでも、目の前で弱ってる人間を放っておくことが出来なくて。
ここまで来たらただのお節介だと分かっていたが、それでもやっぱり大人しく引き下がれなくて。


「……」


無言でこちらを睨む栫井だったが、やがて、俺に背中を向け部屋へ引っ込んだ。


「あの、栫井……」

「食べさせろよ」


ぽつりと、その口から出た言葉に「え?」と目が丸くなる。


「だから、食べさせろって言ってんだよ。……ダルいんだよ、体動かすの」


あくまでも非積極的な言葉だったが、それでも俺の言葉を飲み込んでくれたのが嬉しくて。


「う……うん、わかった!」


そう、何も考えずに頷いた俺は買い物袋を引っ提げたままいそいそと栫井の部屋へ入った。

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